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FILE000:神か悪魔か?零華の戦姫

 価値観や倫理観、情報、すべてが多様化した現代社会。一見すれば平和に見えても、この世には悪意が蔓延っている。例えばの話、夜になって辺り一面が闇に閉ざされたのならば、その悪意は形となって現れるだろう。


「い、嫌……嫌ーっ!!」


 夜遅く、とある街のベイサイドにて一人の女性が暴漢に襲われた。むごいようだが、こういうことはよくある話――などではない、決して。


「ぐはははははは! 死ね~!!」


 急に襲われたショックで転倒させられ、地べたに伏した一般女性に手を挙げていたそれは、毛むくじゃらで背中からはびっしりと逆立った針を、両手の指先からは湾曲した鋭い爪を生やし、二本の足でしっかりと立って歩いており、まさにそう、ヤマアラシのような姿をしていたのだ。言うなれば異形の怪人。それも肉体のところどころが機械化したような、この世ならざる不気味なクリーチャーである。夜中に大暴れして街を破壊し、人々を殺戮していたところを見られてしまったこのヤマアラシのクリーチャーは、女性をいたぶるだけいたぶって苦しめた直後で、今まさにこの世から消そうとしていた――。もっとも、そのゲスな欲求が満たされることは無かったが。


「ぶぐおおおおおおおおおおおおお~~~~っ」


 とどめを刺そうとした瞬間、突然閃光がひた走り、クリーチャーを一閃して迎撃。その場でひるませて女性から引き離したのだ。間一髪で助かった女性が安堵の表情をして顔を上げると、そこに立っていたのは――長い金髪の女性だ。肌は白くてきめ細やか、瞳は青色。身にまとうのは清涼感と一種の神聖さを漂わせる青と白の戦闘服。その佇まいからは落ち着きと勇ましさを感じさせる。おまけに、美しかった。


「ありがとう、……ございます」


「ケガはない? さあ、早く逃げて」


 金髪美女は自身が救った女性に呼びかけてその場から避難させると、先ほど迎撃されて、おびえや驚きから身も心も凍ったように立ちすくんでいたヤマアラシ型クリーチャーに、その双眸を向ける。静かに燃える『悪』への怒りがその奥にあった。


「だ、誰だお前は!?」


 自分が何者で、何のために現れたのか? 目の前の邪悪から問われた瞬間、彼女は既に突撃して敵を追い詰めていた。武器や防具の類を使うまでも無く、素手でだ。しかも相手の首根っこをつかんで、離さない。


「ここからは機械的に、人間的に行くわよ!」


 強気の表情と強い語気で敵からの問いに答えた矢先、敵を地面に叩きつけたかと思えば、そこから蹴り上げて、更にパンチの乱打で追撃する。そして、最後の〆は必殺パンチだ。右手の拳が光って白熱。弾け飛ぶ冷気と氷の粒。――絶対零度だ!


「うぎゃああああああああああああああああああ!」


 その破壊力に耐えきれず、クリーチャーは爆発四散。内部に螺旋状の何かが透けて見える球体がその場に転がり、砕け散った。爆炎の残り火が燃えている中でひどく負傷した男性が倒れている。これがクリーチャーの正体だ。長い髪をなびかせながら、『彼女』は、辺り一面に転がる先ほどまで球体だったものの破片を回収し、『変身』していた男を締め上げる。


「ひイイイイイイ!? こ、こっち来んなぁ!」


「この『スフィア』、それにあのおぞましい姿。もしかして、あなたは『ヘリックス』という組織の者かしら? だから罪なき人々を襲って殺し、街を破壊してまで私をおびき出した」


「し、知らん。おれは『組織』のバイヤーから売られたスフィアを買って、そのまま好き放題してただけだ……!」


 彼女からの質問に男は何も答えられない。組織とやらの詳細は、その組織に属するバイヤーからは一切知らされていなかったからだ。しかし、アデリーンがこの者が知らされていないことを知っている。わからないのは、誰がなぜ、こいつにスフィアなるアイテムを売りつけたのか。


「救いようのない男……。死んで楽にはさせないわ。その罪、生きて償いなさい」



 ◆



 ――翌日早朝。瓦礫や死体が散乱していたベイエリアにて、傷だらけになった男が放置されているのを警察が発見した。そこにあった書置きには、こう記されていたという。


【この者、極悪殺人犯!】


 その男が昨日深夜の騒ぎを起こしていた張本人だと即座に理解し判断した警察によって、間もなく男は逮捕された。――……という旨のニュースを、彼女はスマートフォン片手に見ていた。人が行き交う街中のベンチに座って。そして、こうつぶやく。



「朝も夜も問わず怪人に暴れられたんじゃ、人々はみんな不安よな。アデリーン、動きます」


 ――『アデリーン』。それが彼女の名だ。

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