〈8〉鎌鼬(かまいたち)3兄妹『後編』
sister & brothers〈2〉
鎌鼬3兄妹の妹さんの気に入る花を育てる、それが今回僕に与えられた使命(?)だった。
「菊も菖蒲も杜若も、大振りで立派な花なのに何が気にくわないんだろう」
大きな花好きな僕としては、さっぱりわからなかった。
「ベタにバラとかが良いのかな、ユリ…胡蝶蘭…案外チューリップとか?」
「朝顔もダメでした」
「牡丹もお気に召さず」
お兄さん達も途方に暮れている。
しかし和風イケメンは途方に暮れて入れも格好良かった。
『ん?和風?』
僕は先ほど2人が言っていた言葉が引っかかった。
「妹さん、雑誌を見て変わったって言ってましたね
どんな雑誌か分かりますか?」
「西洋の家具や着物の写真が多い物だったかな」
「兄さん、食事の写真もありましたよ
尻が有るとか無いとか」
「ほう、西洋の尻小玉か」
河童の新緑が言葉を挟んできたため話がややこしくなりそうだったが、僕は何となく分かってきた。
『何か、後輩のお婆ちゃんに似てるかも』
運の良いことに僕は後輩からのお裾分けを持っている。
「新緑、これ植え替えたら大量に増やせるかな」
僕が差し出したクローバーの鉢植えを受け取り
「出来るが…ウサギのエサか?」
新緑は不思議そうに首を捻っていた。
新緑のおかげで、植えたクローバーは直ぐに広がっていった。
「これ摘んで、冠や首飾り作ると良いよ」
僕の指導の元、鎌鼬の兄弟がクローバーを編んでいく。
「雑草で作った装飾…こんな物を渡したら、家を出ていってしまうのでは」
不安顔の2人に
「大丈夫なはずだよ、きっと気に入ってくれるって
この葉っぱって、本当は三つ葉なんだ
これは品種改良されてるから四つ葉が多いんだよ
四つ葉って縁起が良いし、鎌鼬3兄妹と人間の僕の友情の証みたいじゃない?」
僕はもっともらしく言ってみる。
「キューリ殿!」
2匹の妖怪は中学生の臭い台詞に感極まっていた。
翌日、放課後の花壇に現れた新緑は
「鎌鼬の妹君は、あれを喜んだそうだ
兄弟は大層キューリに感謝していたぞ」
そう言ってニヤニヤ笑いを浮かべていた。
「後輩のお婆さんが好きな『カントリー』ってやつにハマってるんじゃないかって思ったんだ
そーゆー人って、素朴な西洋の花を喜ぶんだよね
あ、後輩もお婆さんのためにクローバーを育ててたのかも」
それに気が付いて、僕は誰かのために咲かせたのなら小さな野花も悪くないな、と思うのだった。