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〈6〉お手伝い

Arbeit

僕は近所のお爺さんに狙われている。

そう言うと語弊ごへいがあるが、それは命や怪しい意味での事ではなくて後継者としてであった。

お爺さんはブドウ農園を営んでいたが、その息子が米農家に婿養子に行ってしまったのだ。

もう一人の息子は隣町でトウモロコシを作っている。

どちらも農業に携わってはいるが、作っているものが違っていた。

久利ひさとし君、植物好きだろ?

 最近人気のシャインマスカットを植えてみたんだが、世話をしてみたくないかい』

普段は寡黙なお爺ちゃんに真剣な顔で頼まれると断り難い。

『僕、花を育てたいんです』

それでも、僕は夢を諦められなかった。

『そうか…』

そんな会話が何度も繰り返されていた。


しかし、今度の頼みごとは違っていた。

『直販売所の手伝いをしてくれないか』

お爺ちゃんの作るシャインマスカットの人気が高まって、近隣の町や観光客などが押し掛けているらしい。

これまで近所の人や農協の人としか接してこなかったお爺ちゃんにとって、見知らぬ者相手の接客は苦痛のようであった。

「僕も部活や新緑しんりょくの畑の世話があるからなー」

悩んだ僕は、お爺ちゃんの頼みを丸投げすることにした。



「えっと、隣の隣の町の親戚の子の知り合いが、売り子をしてくれます

 コンタ君とジーナ君です

 お金は払わなくて良いから、ブドウが欲しいんだって」

僕が2人を紹介すると

「コンタでーす!」

狐にあるまじき太鼓腹を揺らして、人間に化けているコンタが明るく挨拶する。

この愛想の良さは接客向きだと踏んだのだ。

「………」

ジーナは初めて見る人間が怖いのか、コンタの後ろでモジモジしていた。

接客には向いてないが、コンタがいればどうにかなるだろう。

狸だけど美少年と言っても良い化けっぷりなので、集客には役立つはずだった。



僕の読みは当たり、新しい売り子が入った直販売所のブドウはバカ売れした。

2人はブドウ畑の世話まで手伝っているらしい。

お爺ちゃんには良い人を紹介してくれた、と大層感謝された。


「キューリ、ありがとな

 緑のブドウって熟れてないと思ってたけど、超美味い!」

「美味しい…」

狐と狸にも感謝された。

「作物目当てで人間の手伝いしてる妖怪が多いのも頷けるぜ」

「…え?」

「化けられる妖怪、あちこちで見かけるよ」


どうやら農業主体のこの町が過疎の波の瀬戸際で頑張っていられるのは、妖怪達のおかげでもあるらしい事に僕はようやく気が付いたのだった。

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