〈5〉お礼はモフモフ
fat fox
立派な柿の木の側に広がるキュウリ畑。
そこでは小河童とポッチャリ(狐)&ほっそり(狸)少年が畑の世話に精を出していた。
黄緑色の小河童が僕が来たことに気が付き、テテテと走ってくる。
クルリと一回転して僕と同じ制服を着た小学生男児に化けた。
「キューリ、これ見つけた、あげる」
彼は畑の隅に置いてあった小振りな切り株を持ってきた。
「猿の腰掛け付き!萌黄に貰った物は漢方屋で重宝がられるよ
町の皆の薬になるんだ、ありがとう」
僕が頭を撫でると
「萌黄、良い妖怪だもん
助けて貰った恩返しするの」
萌黄は得意げな顔で胸を反らした。
そんな様子を見ていた狐のコンタが
「そっか、助けてもらったからには、お礼をしないとな」
腕を組んでウンウンと頷いている。
「よし、キューリ、俺のこと触って良いぞ」
何を思ったか、コンタは腹を仰向けて倒れ込んだ。
マンガだったら『どうんっ』と擬音が付きそうな倒れ込み方で、腹の肉がボヨンと揺れた。
「ほらほら遠慮はいらないぜ
思う存分触れ」
腹肉を揺らめかせながらクネクネ動いているコンタに
『これ何の罰ゲーム?お礼とか言ってなかったっけ?』
僕は張り付いたような笑顔を向けるしかなかった。
「おっと、これじゃなかった
観光客に受けが良いのはこっちだな」
コンタの言葉が終わるか終わらないかのうちに、その姿がボヤケていく。
よく見ようと瞬きをした一瞬の後、そこには1匹の狐の姿があった。
コロコロと丸いフォルムで、ハムのような体から脚が4本突き出ている。
腹毛も尻尾もモッフモフのふわっふわ、そんな狐が腹を上に向けクネクネ動いている姿は…
「かんわいいい」
僕はコンタの腹毛に手を突っ込み、思いっきり撫で回していた。
見た目通りにふわふわで、手触りは最高だ。
尻尾なんかゴージャスな襟巻きみたいだった。
家で飼っている猫は8kgある。
僕は動物に関してはデブ専なのだった。
「俺、ポテチが食べたいな」
そんなセリフと共にクネッと首を傾げる仕草が、また最高に可愛らしい。
「今度来るとき、持ってくるよ」
ついデレデレした顔で答えてしまった。
いつの間にか僕たちの様子を側で見ていた河童の親分の深緑が
「狐の餌付け、ダメ!絶対!」
ニヤニヤしながら口にする。
「うっ、確かにお菓子は体に悪いよね
じゃあ、マックでポテト買ってきあげる」
「わーい、俺、それも好き」
そんな俺達に
「狐の餌付け、ダメ!絶対!」
狸のジーナも小さな声でキッパリと言い放つのであった。