〈3〉贈り物
present
放課後、花壇で花の世話に勤しむ僕に
「キューリ」
深緑(河童)が声をかけてきた。
青みがかった緑色の着物を着たおかっぱ頭のイケメンに化けているので、他の部員は妖怪だと気付いていない。
「隣の隣の町から、農家の勧誘
ちょっと話聞いてくる」
この町では違和感のない簡単な説明を残し、僕は深緑と共に学校の裏山へ続く道を上っていった。
「畑、様になってきたね」
僕は深緑のキュウリ畑を見回した。
「キューリの指導のおかげだよ
流石、緑の指を持つだけのことはあるな」
そう言われると満更でもない気分になってくる。
畑には小さな河童が3匹いて、柄杓で水を撒いていた。
その中の1匹が僕に気が付いて走り寄ってくる。
「キュー!」
それは僕が先日助けた黄緑色の小河童だった。
「この子、名前何て言うの?」
僕の足にすり寄ってくる小河童を撫でながら深緑に聞くと
「チビ」
まんまな返事が返ってくる。
「え?じゃあ、あっちの子達は?」
「チビとチビ」
河童の微妙な発音の違いは、人間の僕にはさっぱりわからなかった。
「私が長く留守にしていたので、この子たちは成長が遅くてな
まだ人間に化けられなかったのだが、チビは出来るようになったのだ
助けてくれたキューリの真似をしたいのだろう」
小河童は少し得意そうな顔になると、その場でクルッと回って見せた。
するとそこには背が低くあどけない顔をしているが、僕と同じ制服を着た少年が立っていた。
小学生くらいにしか見えないけど
『僕の真似したかったのか』
そう思うと何だかいじらしい。
チビはズボンのポケットから布を取り出して、怖ず怖ずと僕に手渡してきた。
「キューリにお礼がしたいと、チビが探したんだ
貰ってやってくれ」
受け取った布の中身を見てみたら
「すげー、これ冬虫夏草だ!」
それは漢方薬として珍重される草だった。
植物の知識が豊富な僕でも、実物は初めて見た。
「珍しいものありがとう、チビ、って発音あってるのかな
よくわからないから『萌葱』って呼んで良い?
君の体みたいな黄緑色のことなんだ」
僕が言うとチビはポカンと口を開け、真っ赤になって抱きついてきた。
「良かったなチビ、人間に名前を貰えるなんて凄いことだ」
深緑がうんうんと頷いている。
「キューリ、好き!」
『人間に化けると、ちゃんと話せるのか
小河童の姿で言って欲しかった…』
後輩(男)に抱きつかれて告白されているような違和感を感じ、僕はぼんやりとそんなことを考えるのだった。