〈30〉続々(ぞくぞく)
OSAKI 2〈3〉
学校からの帰り道を歩く僕の前に、若い女の人が姿を現した。
「ちょっと面貸しな」
彼女にそう言われ『こーゆーの、デジャヴって言うんだっけ』僕は首を傾げてしまった。
一つに結わえられた黒髪、清楚なワンピース、美人だけどつり上がった目、印象が柔らかくなっているけど
「サキさん?」
それは先日知り合ったオサキ狐のサキさんだった。
「この格好、やっぱ変か?」
少し赤くなってオドオドと聞いてくるので
「ううん、似合ってるよ」
僕は首を振った。
事実、ヤンキーの格好だった時より町の風景に溶け込んでいた。
彼女に案内されたのは、以前と同じように定休日の『甘味処ヨネ』だった。
引き戸を開けると
「サキちゃんお帰り」
三角巾にエプロンを付けた作務衣姿の若いイケメンが出迎えてくれる。
彼は双子らしき赤ちゃんを抱いていた。
「え?オザキさん?」
ヤンキー姿より今の方が似合っている。
「お前も昼間に町中出歩く努力をしろよ」
不満顔のサキさんに
「この子達置いていけないし…」
ビクビクと言葉を返す姿は、いつものオザキさんだった。
「あー」
「うー」
双子がサキさんに手を伸ばしてくる。
「よしよし」
サキさんは2人を受け取ってあやし始めた。
「この子達って…
オザキさんとサキさんの?早くない?デキ婚だったの?」
驚く僕に
「オサキ狐は繁殖力が高いんだよ」
いつのまにか店に姿を現していた荒井さんが教えてくれた。
「今日はヨネの新作メニュー試食会だ
人間の意見が聞きたいから、キューリも食べていってくれ」
テーブルの上にはいなり寿司、豆腐の雷汁、ガンモドキと根菜の煮物、豆乳甘酒が並んでいる。
「美味しそう!いただきます」
僕は早速箸を取った。
「赤ちゃん達には、これをどうぞ」
米さんが小豆ご飯で作ったお粥を持ってきた。
「ありがとうございます」
サキさんは丁寧に頭を下げ、木のスプーンですくったお粥に息を吹きかけて冷ましてから食べさせていた。
「まーまー」
美味しいのか赤ちゃん達は機嫌良くスプーンを口に含んでいる。
「キューリにお礼をしてなかったから、どちらか1人、憑けてあげようと思うんだ
君を守ってくれるよ」
オザキさんの提案を
「いえ、お気持ちだけで結構です」
僕は即座に断った。
『オサキ狐は繁殖力が強い』
荒井さんの言葉が頭の中をグルグル回っていたからだ。
「美味しい豆腐料理いただけたから十分です」
少しションボリしていたオザキさんはその言葉で
「だろ?蒼太の豆腐は最高なんだ」
瞳を輝かせるのであった。




