〈2〉河童の川流れ
boy meets MONONOKE again
3日ほど続いた土砂降りの雨が止み、久しぶりに青空がのぞいた日。
花壇のことが心配で、学校への道を歩く僕の足は速まっていた。
近道するため川の側に出ると濁流が流れている。
ふと上流を見たら、茶色い水の中に黄緑色のものが見えた。
それは川の中の石に暫く張り付いていたが、水の流れに乗って次の石に張り付いた。
また、次の石に流れていく。
ゴミやボールにしては動きが変だった。
近づいてくる黄緑色をよくよく見ると
『河童…』
それは猫くらいの大きさの河童であった。
最近河童の知り合いが出来た僕には、珍しくも何ともない光景だ。
河童はキューキュー鳴きながら、どんどん僕の方に流れてきて道のすぐ側の石に張り付いた。
「深緑、その遊びって楽しいの?本体って随分小さいんだね」
「キュー!」
気のせいか、河童の目は涙目になっている。
岩に張り付いている水掻きのある小さな手はブルブル震えていた。
水の勢いに負けたように手が岩から離れ、また流されていく。
「河童の川流れ…
って、まさか本当に流されてる?」
僕は急いで下流に向かって駆けだした。
河童はまた岩に張り付いているが、小さな体は水の流れに揉まれ今にも手が離れてしまいそうだった。
「ほら深緑、僕の手を掴んで
人間の体になれば届くだろ」
僕は橋のように川にかかっている倒木の上から手を伸ばす。
かなり危ない足場だけど、水掻きのある河童の手より人間の手の方が物を掴みやすいだろう。
何故か河童は僕を見て慌てだし、その弾みで手が岩から離れてしまった。
間一髪。
流れてきた黄緑色の小さな体を腕に引っかけ、道に引っ張り上げることに成功した。
そんな時、川の向こう岸を歩いている着物姿のおかっぱ頭に気が付いた。
それは今助けたばかりの深緑で…
「え?深緑?」
僕は間抜けな声を上げてしまう。
僕の声に気が付いた深緑はヒョイヒョイと岩を飛んで渡ってくる。
「チビ、こんなとこにいたのか、探したぞ」
僕の側でブルブル震えていた河童が深緑に飛びついた。
深緑はキューキュー鳴いている小河童を優しく撫で
「キューリにはまた世話になったようだね、ありがとう
何かお礼をしなければな」
そう言って頭を下げた。
「お礼というか、今からだと遅刻確定なんで時間を戻すとか出来る?」
以前のことを思い出し聞いてみたら
「私は時間を進めることしか出来ぬ」
深緑はイケメン全開で微笑んだ。
「そ、なんだ…」
妖怪の能力は便利なようでいて使えないものであった。