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〈26〉ワクワク

OSAKI〈3〉

()き物である『オサキ狐』のオザキさんに頼まれた大豆は、小豆より簡単に手に入った。

知り合いの枝豆農家の人が、良い大豆を分けてくれたのだ。

今回は僕の『緑の指』よりも『田舎の濃厚な人脈』が役に立った。


「販売はしてないけど、家で煮物とかに使う分を作ってるんだって

 キーマカレーに入れても美味しいらしいよ

 これで作った豆腐に蒼太そうたさん、だっけ?飼い主の人が納得してくれたら特別に栽培して卸してもらえないか頼んでみるね

 自分たちで作るより、プロに作ってもらった方が良い物が出来ると思うからさ

 足りない分とかは、深緑しんりょくの裏技使って何とかしてみるよ」

僕が差し出した大豆入りビニール袋を、オザキさんは大事そうに受け取ってくれた。


「別に蒼太に飼われてる訳じゃねーし

 俺があいつを助けてやってるんだ

 ほんと、あいつは頼りなくて俺が居ないとダメなんだから参るぜ

 納得いく豆腐が作れれば、自信をもって告白できるだろう」

彼の言葉に

「告白?」

僕は首を傾げた。

「蒼太には好きな女がいるんだよ、相手だって蒼太のこと好きなのに2人してモジモジモジモジ、話が進みやしねー

 ほっといたら2人とも、爺さん婆さんになっちまうぜ

 2人が結婚して子供が出来たら、俺がまた守ってやんなきゃな

 あいつら頼りないからよ」

その人たちよりオザキさんの方が頼りになるかはビミョーだと思ったけど、そこは突っ込まないでおくのが物の怪と付き合う上では大事なことだった。


「以前に取り引きしてた大豆農家が廃業したんで他の大豆を使ったら、豆腐の味が変わったって売り上げ落ちちまったんだ

 売れない豆腐屋に嫁に来て欲しいなんて言えないって、蒼太の奴ショゲるばっかでよ

 この大豆、以前の物と匂いが似てるから上手くいきそうな気がする」

頬を紅潮させ瞳を輝かせるオザキさんは、ヤンキー風だけどイケメンオーラが溢れていた。

人間のことをこんな風に案じてくれる物の怪がいることに、僕は嬉しくなってしまう。


「きっと上手くいくよ、ここの枝豆、味が濃厚で美味しいんだ

 自分家用だけど大豆も手を抜かず作ってると思う」

僕が1歩前に出てオザキさんに近付こうとしたら

「ヒッ!きゅ、急に近寄るんじゃねーよ」

彼は付き添ってきたコンタの丸い身体の後ろに隠れてしまった。


彼が僕に慣れてくれるまでどれくらい時間がかかるか考えると、あまりの果てしなさに頭がクラクラしてくるのであった。

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