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〈25〉ビクビク

OSAKI〈1〉

僕の部屋の机の上には、1輪の花が飾られていた。

以前迷い込んだ不思議な屋敷の庭に咲いていた花だ。

スマホで調べても何の花か分らなかったが、分からなくても良いと思っている。

萌葱もえぎが届けてくれたその花は、一輪挿しの花瓶でいつまでも(みずみず)々しく爽やかな香りを放っていた。

深緑しんりょくに『せっかくの迷いから、一生保つ芳香剤を貰うとは』と呆れられたけど、僕にはこの花が不思議な存在との『絆』のように感じられるのだ。

妖怪達と一緒にいると驚いたり呆れたりもするが、楽しくて今まで知らなかった事を知る事が出来た。

それは、人間だけの付き合いの中では得られない貴重な体験だった。



コン


窓に何か当たる音で、花に見とれていた僕は我に返った。

カーテンを開けて外を見ると、庭木の下に微かな明かりがある。

庭は暗かったが、その明かりに照らされて丸い人影が見えた。

人影は頭を下げて、僕を手招きする。

その丸いフォルムに覚えがあった僕は

「ちょっと、コンビニ行ってくる」

適当な理由を付けて玄関から表に出て行った。

コンビニで友達と会ったことにすれば、多少帰りが遅くなっても不自然ではないだろう。


「こんな夜にごめんな、キューリ」

丸い人影は思った通り、狐のコンタだった。

「キューリの力が借りたくて、会いたいって人が居るんだ

 あの人ビビりだから、昼間はオッカナくて出歩きたくないみたいでさ」

コンタは肩をすくめてみせると、僕を人気のない雑木林に案内した。


雑木林には怪しい炎がユラユラと揺れている。

「あれ、延焼しない狐火きつねびだから安全だよ」

そう言うコンタの足下にも、小さな炎が燃えて道を照らしていた。

「オザキさん、連れてきました

 こちらが緑の指のキューリです」

コンタが声をかけると

「ほう、お前がそうか

 本当に頼りになるんだろうな?」

ガングロ金髪、つり目のイケメンが睨みつけてきた。

ヤンキー風だが線が細いうえ、身体が小刻みに震えている。


「今夜ってそんなに寒くないけど、大丈夫ですか?」

僕が話しかけたら、彼の身体がビクッと跳ねた。

「さ、寒いわけねーだろ

 こちとら、大妖狐九尾の狐の尾から生まれたオサキ狐様よ

 人間風情が、あんま近寄んじゃねー」

彼はジリジリと後退していく。

「オザキさん、キューリは良い人間だから怖くないですよ」

「なっ、ビビってとかねーし」


またしても僕は不思議な存在と縁を結ぶことになったようだった。

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