〈24〉不思議な屋敷・3
MAYOHIGA 〈3〉
キュウリ畑に行く途中で迷い込んだ不思議な家のことを、僕は深緑に話して聞かせた。
「この山には何度も来たけど、あんな場所見たこと無かったよ
あの家の人とは親交あるの?」
僕の言葉に
「ふむ…久しぶりに出たのか」
深緑は顎に手を当てて考え込んでいた。
「出た?」
僕はその一言に、また恐怖がよみがえってきた。
「まさか、幽霊屋敷だったの?あの外国の船みたいに?
いや、あの船は幽霊船じゃなく実在してて、乗組員だけが消えてて…」
頭がパニックになった僕を落ち着けるよう
「迷い家と言うのを、聞いたことはないか
人間の書物にも書き残されていると思うが」
深緑は静かな声で問いかけてきた。
「あ…」
つい、海外のことに当てはめてしまったけど、そう言われるとそんな話を読んだ記憶がある。
萌葱の為に持ってきた昔話の本を確認してみると、後ろに他の本の紹介が載っていて
「これだ」
深緑の言った迷い家の話が簡略的に書かれていた。
「キューリはこの山に随分気に入られたとみえる
さすがにあれは、私が起こせる現象の範囲を越えているよ」
深緑に優しく頭を撫でられて、僕は照れくさくも嬉しい気持ちでいっぱいになった。
「あの家から何も持ってこなかったのだろう?
慣例に法れば、キューリを追って川から何か流れてくるはずだ
どれ、取りにいくとするか」
深緑に促され、僕たちは川を目指して歩き出した。
川に着いたが、上流を見ても何も流れては来なかった。
「もし、瑞々しく新鮮なキュウリが流れてきたら、私にくれないか?
一生キュウリに困らない身分になれる」
深緑は真面目な顔で話しかけてくる。
僕はそんな身分には全く興味がなかったので素直に頷いた。
暫く待っていると、上流に黄緑色の物がポツンと見えた。
「え?まさか、本当にキュウリ?」
黄緑色はどんどん流されてきて、視認できる距離まで来る。
それはデジャヴを感じさせる光景で…
「って、萌葱?」
僕は慌てて小河童を川から引き上げてやった。
「キュ、キュー…」
萌葱は弱々しく、一輪の花を差し出してきた。
それはあの庭に咲いていた花だった。
「これ持ってたから、上手く泳げなかったのか
ありがとう、萌葱」
僕が抱きしめると、小河童は胸にすり寄ってきた。
「おお、これでキューリは一生河童には困らない身分になったな」
感心したような深緑の声に
「うん、こんなオチだと思った」
僕は乾いた声で答えるのだった。