〈23〉不思議な屋敷・2
MAYOHIGA 〈2〉
学校の裏山、深緑のキュウリ畑に行く途中で道に迷ってしまった僕は、不思議な家にたどり着いた。
道を聞こうと上がらせてもらったものの、家の中に人がいる様子がないのだ。
けれども、ついさっきまで人がいた痕跡は残されている。
『こんな話、読んだことあるぞ
食べかけの朝食が残った状態で、無人で発見された外国の船があったって
救命ボートが残ってるのに、航海中の船から乗組員だけが消えていたんだ』
僕はそれを思い出して、自分の置かれている状況が怖くなってきた。
慌てて家を出た僕の耳に
「ンモ~ウ」
のどかで平和な牛の鳴き声が聞こえてきた。
『あ、そっか、牛や馬って放牧したりするんだ
放牧中の牛か馬が逃げ出して、連れ戻しに行ったのかも』
そう気が付くと、怖がっていた自分がバカみたいに思えてきた。
放牧場が見つかれば誰かに会えるかもしれないと考えて、僕は牛小屋のわき道を目指して歩き出した。
庭を歩くと植えてある大振りの花が目に付いた。
『すっごいキレイ!見たこと無いけど、何の花だろう?
是非、この家の人に会って品種を教えて欲しい
自分のとこで改良したのかな、もしかして生花農家もやってるとか
色々アドバイスしてもらえないかな』
さっきまでの恐怖は完全に消え、僕はウキウキしながら歩き出した。
歩いていると違和感に気が付いた。
先ほど歩いていた鬱蒼とした森の獣道が、どこにも見あたらない。
僕はいつものキュウリ畑に続く道を歩いていて、無事に畑に着くことが出来た。
「遅かったなキューリ
今日はもう来ないんじゃないかと、萌葱がヤキモキしていてな
近くまで来てるかもと、探しに行ってしまったよ」
畑には涼やかな顔をした深緑が居て、僕は拍子抜けしてしまった。
「あれ、畑の道に人払いしてたんじゃ?」
訳が分からない僕に
「キューリを払うようにはしてないよ
手伝い人が減ったら困る」
シレッと答える姿は、確かにいつもの深緑だった。
『まだ僕のこと必要としてくれてる』
そのことに、僕はくすぐったいような嬉しさを感じた。
「何だ?河童の畑の手伝いには飽きてきたか?」
深緑の問いに、僕は慌てて首を振る。
「ううん、ここの畑や妖怪の手伝い出来るの嬉しいって、改めて思ったんだ
そうだ、深緑ってこの山のことなら何でも知ってるよね
教えて欲しいことがあるんだけど」
勢い込む僕を、深緑は首を傾げて深い瞳で見つめてくるのだった。