表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/32

〈22〉不思議な屋敷・1

MAYOHIGA 〈1〉

今日も僕は通い慣れた山道を登り、深緑しんりょくのキュウリ畑に向かっていた。

本を読めるようになってきた萌葱もえぎのために、絵本よりは字の多い昔話を持ってきたのだ。

有名な花咲か爺さん、かぐや姫、舌切り雀、浦島太郎なんかを選んでみた。

鬼退治的な話は妖怪には刺激が強いかと思って避けたけど、鬼がいないと人間が悪者になっているので、河童の萌葱が人間のことをどう思うか一抹の不安はあった。



取り留めのないことを考えながら歩いていたせいだろうか、一向に畑にたどり着かないことにやっと気が付いた。

改めて辺りを見回すと、鬱蒼うっそうとした森の中だった。

「え?こんな場所、裏山にあったっけ?」

整地はされていなくても、畑に続く道はもっと分かり易かった気がする。

今や僕は獣道のようなところを歩いていた。

『人間に対して人払いの目眩めくらましをかけている、って前に深緑が言ってたけど、僕に対してやることないじゃん

 僕がいなくても畑は順調ってことか…』

妖怪と仲良くなっている、と感じていただけに悲しくなってしまった。

帰ろうかと思うものの、振り返っても道がわからない。

僕は学校の裏山という身近な場所で、遭難してしまったようだった。



仕方ないのでトボトボと歩き続ける。

暫く行くと大きくて立派な黒い門が見えてきた。

『え?こんなとこに住んでる人、いたっけ?』

訝しく思うが背に腹は代えられない。

僕は恥を忍んで門の中に入り

「すいません、この山の下にある中学校に通ってる者ですけど、迷っちゃったんです

 山を下りる道を教えていただけませんか」

そう大きな声で呼びかけてみる。

古い時代に建てられたであろうドッシリとした造りの平屋から、返事はなかった。


「あのー、誰か居ませんか?」

庭から裏に回ると今時珍しい牛小屋や馬舎があり、鶏が放し飼いされていた。

『農家じゃなくて、小規模牧場なのかな

 臭いがあるから牛とか飼うの近所が嫌がるんで、山奥じゃないと経営できないのかも』

そう思うと不思議な家にも納得できる。

僕は玄関の引き戸を開け再び声をかけたが、返事はなかった。

思い切って上がらせてもらい部屋をのぞいたら、食卓にはお椀が並べてあり台所からは煮物やご飯が炊けている匂いがしていた。


不思議なことに、ついさっきまで人がいた様子があるのに、家の中のどこをのぞいても人の姿は無いのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ