〈18〉甘い関係
SHOKI SHOKI
僕と荒井さんと深緑、人間と妖怪で始めた『小豆育成プロジェクト』
ホームセンターでこの地域での栽培に適した種類の小豆を購入し、キュウリ畑の一角に蒔いてみることにした。
さすがに最初から上手くはいかなかったが、深緑の時短が使えるのはとても強かった。
最初に3回ほど失敗したものの直ぐに改良点に気付けるので、4回目には荒井さんを満足させられる小豆が実ってくれた。
「凄い!まさに赤いダイヤだ、キューリが手伝ってくれたおかげだよ、ありがとう」
荒井さんは僕に頭を下げた。
「新しいことにチャレンジするの楽しかったです
良い小豆が実って嬉しいし、感動しました」
照れくさいけど、それは僕の本心だ。
「お礼を忘れるなよ」
深緑はしっかりと荒井さんに釘を刺していた。
「自分で使う分、って言ってましたけどやっぱり洗うんですか?」
僕は今更の疑問に気が付いた。
「え?ほら、あれだよ、せっかくの小豆だし、美味しく食べるよ、うん」
荒井さんは何故かしどろもどろになっている。
「自分で料理する訳じゃないだろうが」
ニヤニヤ笑いの深緑を無視し
「そうだキューリ、お礼に甘いものでも奢ろうか
良い店を知っているんだ」
荒井さんはそう言って僕の手を取り歩き出した。
山奥にでも連れていかれるのかと思ったが、彼は山を下りて町に向かって行く。
着いた先にあった店は、僕も知っている場所だった。
『甘味所 ヨネ』
お婆ちゃんに連れられて何度かお汁粉を食べに言ったことがある店だ。
近所のお婆ちゃん達の憩いの場でもあった。
定休日の札が下がっていたが荒井さんはガラリと戸を開け
「お米さん、今日は私が作った小豆を持ってきました」
そう声をかけた。
店の奥から見知ったお婆さんが出てくる。
「まあ、やっと荒井さんのお眼鏡に叶う小豆が作れたのね」
嬉しそうに微笑む品の良い老女は僕に気が付くと
「あら、山田さんのお孫さん?久利君だっけ?」
不思議そうに首を傾げる。
「彼の緑の指のおかげで、良い小豆が出来たんだ
我々妖怪の味方だよ」
荒井さんの物言いには引っかかるものがあった。
「我々?」
僕の疑問に答えるように
「彼女は妖怪『米研ぎ婆』だよ
荒井の奴、年甲斐もなくあの若い彼女に夢中なのさ」
深緑は笑いを堪えて僕に耳打ちしてきた。
色々と突っ込み所は満載だったが小豆作りで疲れていた僕は、美味しいお汁粉をご馳走になった後、そのまま家に帰るのであった。