〈17〉赤いダイヤ
HITO TOTTE KUOKA
川の辺で知り合ったダンディーなイケオジは、妖怪『小豆研ぎ』だった。
「どうも、小豆研ぎの『荒井』です」
微笑みながら名乗る彼に
「あの、キューリです」
僕はお決まりのマヌケな返事を返す。
「人の財産をいただくって言ってたけど、僕、お金持ってません」
財布には千円札が1枚入っていたが、それを取られたら新しい花の苗が買えなくなってしまう。
荒井さんは僕の言葉を聞くと、はははっと笑い出した。
「それは言葉の綾みたいなものかな
実は私は相場師でね、小豆相場で利益を得ているのさ
私が儲けた分、誰かが損をしている
小豆相場は難しいんだ、小豆は赤いダイヤなんて呼ばれてるんだよ」
悪戯っぽい笑みを浮かべる荒井さんに
「小豆のことならお手の物だろう
しかし、小豆以外の事はどうかな」
深緑がニヤニヤしながら言葉をかけた。
「まあ、ボチボチかな」
荒井さんはサラッとその言葉を流している。
『こーゆーの、海千山千って言うのかな』
僕は2人に挟まれて、居心地の悪さを感じていた。
「このところ天候不順で良質の小豆の値が上がっていてね
自分で使う分くらいは自分で作ってみようかと思っているのだが、どうにも上手く出来なくて困っていたんだ
そんな時、植物を育てるのが上手い緑の指を持った人間の子供が、妖怪に力を貸してくれると聞き及んで是非会ってみたかったのだよ
キューリ、力を貸してはくれないだろうか」
荒井さんは真剣な顔で頭を下げてきた。
『小豆…難易度高いかも
うちの町に小豆農家はいないから、アドバイスもらえないし
一応、育て方は知ってるけどさ
土作りから始めて品種選びだろ、鳥の被害や害虫に気を付けて、確か収穫はその莢ごとの成熟具合を確かめるんだよな
もう一度、ちゃんと調べ直さなきゃ』
僕はこの状況を楽しみだしている自分に気が付いた。
自分で調べて実践する、それにチャレンジしてみたくなったのだ。
「荒井さん、上手くいくかどうかわからないけど、一緒に頑張ってみよう
深緑の時短があれば鳥や虫の被害を考えなくて良いし、すぐ収穫できるから改良点に気付けるよ」
「え?私も協力するの?」
深緑が見せた不満顔は
「良い小豆が作れたら、キュウリの苗をお礼に差し上げよう」
荒井さんのナイスフォローで笑顔に変わった。
こうして僕は、妖怪達と一緒に小豆育成プロジェクトを立ち上げたのであった。