〈15〉生(む)すまで
friend of human
妖怪『塗り壁』に花を咲かせる、それは僕が思っていたより大変なことだった。
「いっそ、絵でも描いてもらえば派手に見えるんじゃない?
都会の方だと壁にファンキーな落書きするのが流行ってて、アート扱いされたりするらしいよ」
悩むあまり、思わずそんな言葉が口をついてしまった。
「都会に住んでいる親戚が、散歩に疲れてうたた寝してたら描かれたことあるって言ってました
暫くは体の雰囲気が変わって楽しかったけど、後から落とすのが大変だったんですって」
都会にも妖怪って居るんだ、僕は少し驚いてしまった。
「ヌリは絵よりも生きた植物の方が良いの?」
「そうですね植物の力強い存在感には憧れます、僕は漠然と存在しているだけだから
それで1人の散歩だと寂しいときがあって、誰かに気付いて欲しくて人間の前に姿を現したりしてるんです
そういう妖怪、多いかもしれません
人間に認識してもらえて初めて、『現象』に過ぎない僕たちが『妖怪』として存在できるというか
すいません、僕、何言ってんだろう」
ヌリは照れたように笑っていたが、気のせいかヌリを見つめる新緑の瞳には寂しそうな影が差していた。
華やかに花を咲かせることばかり考えていた僕は、ヌリの言葉を聞いて新しい可能性に思い至った。
「苔!苔なら壁に直に生やせるんじゃない?
花をつけないで胞子で増える隠花植物だけど、苔の胞子体って花に見えないこともないし
僕の家のお向かいに住んでるお爺ちゃん、苔玉造りが趣味なんだ
紹介するから色々教えてもらいなよ
自分の体に生やす前に、苔玉造って手入れの仕方とか覚えた方が後が楽そうだもんね」
その提案に
「僕が人間に、何かを教わる」
ヌリは興味津々といった顔になった。
「キューリも妖怪のことが色々分かってきたな」
新緑は誉めるように僕の頭を撫でてくれた。
数日後。
夜になるとお向かいのお爺ちゃんの家には時々、背の高いイケメンが現れるようになった。
お爺ちゃんに貰ったのか、スーパーのビニール袋を下げている。
中には造りかけの苔玉が入っているようだった。
親しい人間の知り合いが出来たヌリは存在感が増して、花なんて生やさなくても今までよりもっと華やかに見えた。
苔玉友達が出来て、お爺ちゃんも生き生きしてきた。
『妖怪って地域活性化にも役立つんじゃないかな』
今回の依頼は考えさせられることが多く、僕はしみじみとした気持ちになるのであった。