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新たな壁とチキンラン

 今さらながら気づいたのですが、前書きってあらすじを書くところではないかと思いました。そうなると、今までご迷惑をお掛けしていた事になり、大変申し訳なく思います。ですが、私としては良く分からないので、ヒーと相談してみます。ですので、もうしばらくご迷惑をお掛けします。

 ヒー達のアドバイスを貰い、遂に連載を始める日が来た。というか、その日のうちに序章を作り、すぐに投稿した。

 タイトルに小説家になろう。と入れ、警告等が来るまでは様子見だったが、初日からいきなりPVアクセスが十六を超え、舞い上がってしまった俺はヒーとの約束を無視し、翌日の夜には次話を投稿する勢いだった。 

 ヒーは最初、二日は様子を見ろと言っていたが、やはり慎重を期した方が良いと、最低一週間は下手に触れない方が良いと言っていた。しかし、この破竹の勢いとも言えるアクセス数を目にしてしまった俺は、もし警告が来ても、ごめんなさいと謝れば問題無いと勝手にタカを括り投稿を続けていた。

 リリアも、もしもの事があっては駄目だと、一応運営に問い合わせるべきだと言っていたが、「それをするなら、先ず利用規約、マニュアル、ガイダンス等を熟読し、こちら側もそれなりに情報を集める努力をしなければ、忙しい運営に余計に迷惑が掛かります」というヒーの言葉で、問い合わせる事も無く、勝手に自己判断で大丈夫だろうという事になった。その読みは当たっているのかは分からないが、二日、三日と経っても運営側からは何のお咎めも無く、ヒーの言っていた”黙認“という言葉を信じて、連載は継続する事になった。

 リリア達とは、掲載を始め、仕事終わりに毎日次話を作るという作業に追われた為、日曜日以外はLINEでのみのやり取りとなった。

 順調。まさにそう言えるほど俺は充実していた。確かに毎日仕事をこなし、夕食と風呂を済ませれば、寝るまで小説を作るという忙しさはあったが、毎日増えるPVアクセスを見るたび、その作業は苦ではなかった。そして、ユニークアクセスは二日遅れという紋々を知り、それが表示されるとさらに心は昂った。

 四日目を過ぎるとPVアクセスは五十を超え、毎日二日遅れで更新されるユニークアクセスは、三十八を示していた。

 毎日二十人ずつ増えてる。このままいけば、五日で百人が俺の作品を読んでくれる! そう思うと、すでにPVアクセスゼロを示す ”汝は我を何と呼ぶ?“ の事などすっかり忘れ、今書いている連載の目的さえ見失い、あわよくばこの作品でプロの小説家になれるのでは? という気さえ起き始めていた。

 そんな五日目、あるトラブルが俺を襲う。それは、何とその日はまさかの残業である。ただでさえ定時に上がっても睡眠時間を削っているのに、そこに残業? 会社には確かに、俺が小説家になろうで人気作家になりつつあるとは言っていないが、それでも残業? くそ! これも夢の障壁なのか! 

 その日はたった三十分ほどの残業であったが、それからというもの、俺の中で何かが狂い始めた。

 連載当初は、仕事が始まるまでの時間でさえ小説の事を考え、朝の雑談さえ耳に入らなくなるくらいのものだったが、今では、仕事中もそれを考え、早く帰る事ばかり考える様になっていた。


 時間が足りない! 


 連載は毎日更新していた。そのため自分でもかなりキツイと思っていた。しかし、投稿日を一日でも開けてしまうと、折角ついた読者が離れてしまうかもしれない。出来るだけ、出来るだけ多くの読者を! そんな日々が続き、やっと日曜日を迎える事となった。


「リーパー。サイト側からは何も無いんですか?」

 約束を破り、二日目から次話を載せた俺に、ヒーは怒鳴る事なくいつものトーンで言う。だが、少し苛立ちにも似た感情を秘めているような気もする。

「あ、あぁ。ごめんな、約束破って」

 ヒーは怒らせると怖い。ヒーは愛情が深いため、それが憎しみに変わると物凄い。淡々と相手を殺す作業をする。文字通り、本当に命を奪うのでは? と思うほどの行動をする。そうなるとリリアが止めに入るが、かなり面倒な事になる。俺のように、ヒーの中である程度のカテゴリーに入っていればそこまでの行動はしないが、そこに入っていない人物は、一線を少しでも超えると排除対象になってしまう。

「何で貴方はいつもそうなんですか! このエゴイスト!」

「悪かったって」

 リリアは怒らせてもそうでもない。ただ、リリアの中でもそれなりに、相手に対しての格付けがあるようで、その第一の基準は”信頼“だと思われる。それが少なくなればなるほどリリアは相手に対して無関心になり、最後には視界にすら写らなくなるようだ。今回の俺の行動は、リリアの中では当然のようで、怒ってはいるが、どちらかと言えば呆れた、に近いようだ。

「でも、そのお陰で、アクセス数凄いんだぞ」

 そう言うと、リリアは目を輝かせた。

「本当ですか! 見せて下さい!」

 これがリリア。俺への信頼は、簡単に揺るがないようだ。まぁ、妹だもんな。

 俺は早速スマホを開き、アクセス解析を見せた。

「これ見て。昨日はPV五十一だよ。見た人も、もう百人超えてんだぜ」

「おぉ。流石はヒーの力。まさかここまでとは。もしかしたら、企業から出版しませんか? と来るかもしれませんよ? そしたら、印税が入って、優雅な生活が出来ますね! もし企業から要請があったら、すぐに私たちに知らせるんですよ!」

 リリアも大いに喜び、それを見て、この一週間頑張った甲斐があったと、増えた読者に対する喜びを上回る喜びを感じた。

 もし俺が小説家になったら、リリア達にも良い仕事を紹介してもらって、三人で優雅な生活でもしよう。そんな事を思っていたら、ほとんど表情を変える事のないヒーが、珍しく怒ったような顔を見せた。

「リーパー。この作品のテーマを覚えていますか?」

「あ、あぁ。あれだろ? 恩返し」

「そうです。そして、私が出した条件も覚えていますか?」

 条件? 確か宣伝はしないと、誹謗中傷や誰かが不快に思う事は書かない。だった気がする。

「宣伝しないと、誰かを不快にさせないだろ? それが何で?」

 ヒーは全く肩を揺らさなかったが、鼻から聞こえた音で、呆れたようにため息をついたのが分かった。

「一つは合っています。しかし、もう一つは間違っています」

「え? そうだったっけ……ごめん」

 完全に怒っている。リリアがすでに下唇を噛み、目線を俺から反らしているのが、何よりの証拠だ。パワーバランスはリリアの方が強いはずなのに、ヒーが怒るとリリアは身を隠すように息を潜める。

「見返りは一切求めない。それが私が出した条件の一つです」

 あ、ヤバ。完全に忘れてた。どうしよう……

「例えどんなに人気作品になろうとも、決して”もの”という形で何かを求めては駄目です。確かに評価してくれる読者への、感謝としての喜びは認めます。しかし、それにかこつけて、何かを得ようとする事は駄目です」

 ヒーが言う”もの”というのは、お金や名声という、心とは別のものの事だ。ヒーは、俺の当初の目的の、アドバイスを貰い、それを活かし公募で賞を取る、という目的以外でこの作品を扱おうとしている事を怒っている。

「そうだったな。すまん。俺も調子に乗ってた」

「いえ。これだけ沢山の方に読んでもらえれば、舞い上がるのは当然です。ですが、それ以上のものを求めるのは、リーパーの目指す小説家とは違うはずです。とくにこの作品に関しては、なろうやアドバイスをくれた人に泥を塗るようなものですから、それだけは忘れないで下さい」

「あぁ。分かった」

 ヒーが俺に迫った二択は、俺を真っすぐ歩かせるために用意したものだった。ヒーは最初からこれを見越して、楔を打ち込んでいた。俺は良い妹を持った。

「全く。リーパーはすぐそうやって調子に乗るんですから。お金が欲しければ、地道に働く事ですね」

 くそ! 何で双子なのにこんなにも違うんだ! お前だって「企業からスカウトがあるかもしれませんね!」って喜んでたろ!

「分かってるよ、うんな事」

「分かってもらえればいいんです。では、早速今後について打ち合わせしましょう」

「あぁ」

 ヒーは熱くなるのは遅いが、冷めるときは早い。切り替えが早いというのか無駄を嫌うというのか、リリアとは真逆だ。

「それで、作品を連載するにあたり、何か問題でもありましたか?」

 本当に切り替えが早い、というか、プロの担当さんじゃないよね?

「え? あぁ。それがさ、毎日連載してんだけど、正直キツイんだよね。特に残業とかあると、もう大変」

「そんなの、毎日書かなきゃ良いじゃないですか? というか、何で日刊なんですか? リーパーは新聞記者ですか?」

 そんなの俺でも分かってる! あ、新聞記者の方じゃないから。リリアも分かってるよね?

「うるせーな! そんな事は分かってんだよ!」

「そうですよね。リーパーは土木作業員ですもんね?」

「……」

 あ、この子分かってなかった。普通分かるよね? それともわざと?

「確かにそうかもしれません。ですが、毎日投稿するというのはアリだと思います」

 え? ヒーは時間が足りないって聞いてたよね? 俺キツイって言ってたよね?

「連載をする以上、出来るだけ間を開けず、畳みかける様に投稿すれば、読者の方も『この作者はやる気がある』と思い、それなりに注目する可能性があります。それに、リーパーの場合、一度に四千文字を超える文を掲載しています。これは作者の力量のバロメーターの一つとなり、速さ、という面ではアピールできます」

 お世辞を得意としないヒーが、素直に速いと認めてくれた事はとても嬉しい。しかし、読む側って文字数分からないはずだよね? 数えたの? まさか数えたの?

「そうですね。確かにリーパーの小説は、一回で沢山書いてますもんね? 誤字脱字も多いけど」

「そうなの!? 俺三回は確認してるぞ?」

 音声で読み上げる驚愕の機能を発見し、それを使って脱字を確認し、さらに自分で読み返して誤字を確認。最後にもう一度確認して投稿しているのに、それでもまだあるとは……暗黒魔剣士ロビンソンは何をやっているんだ!

「えぇ確かにあります。ですが、素人としては合格点かもしれません。しかし、プロを目指す以上、それは不合格です。連日僅かな時間であれだけの文字数を稼ぎ、一人で確認して投稿するのは確かに並じゃありません。ですが、それでもプロとは程遠いと思います」

 厳しい。厳しすぎるぜヒー。だって俺まだ素人だもん!

「まぁ、確かにそうかもしれませんね。数千、数万という屍を築き、その上で胡坐を掻くには甘いかもしれませんね」

 小説家ってそんな世界なの!? 俺それだったら小説家止めるわ。もっと安全な世界目指すわ。

「リーパー。確かに時間がないのは分かります。ですが、余裕を持って工程を組み立てなくては駄目ですよ? 自分の作業スピードを把握するというのは、どこの世界でも同じ事ですよ?」

「あ、すみません……」

 ヒーってまだ高校生だよね? うちの会社の上司じゃないよね?

「書き溜めとかしていないんですか? あれだけ書けるなら、一日くらい寝ないで三話くらい作れるんじゃないですか?」

 リリアが上司なら、俺はとうに過労死しているだろう。

「それが出来れば相談しないよ!」

「じゃあ、それはリーパーが考えなしにバンバン投稿するのが悪いんじゃないですか!」

「だからそう言ってんだよ! あ~俺が悪~ございました」

「あらら……あらら」

 何で二回言ったの?

 リリアとヒーはお互い顔を合わせ、困った人ですね? と言葉以外で絶対会話した。

「では、投稿間隔を一日開けましょう。もしくは、休日を利用して一気に書き溜めしましょう。どうしますか?」

 一日開ければ読者が離れるかもしれない。かと言って休日を潰せばパチンコに行けなくなる。困った。

 苦渋の二択に俺が悩むのを見て、ヒーは困ったような顔を見せた。それを見たリリアは、恐ろしい提案をして来た。

「では、仕事を辞めるというのはどうですか?」

「えぇ? それだと、俺が食っていけなくなるわ!」

 そんな選択ある? いやない。 どう考えても仕事は第一優先だろう。

「今、貯金はいくらあります?」

「え? 三十万くらい」

「なら、その三十万が尽きるのが先か、この作品でスカウトが来るのか先かのチキンランをすればいいじゃないですか? 土俵際一杯で、のこった! のこった!」

 チキンラン!? それ、ほとんど壁に激突決まりじゃね?

「おい! 何がのこっただ! お前舐めてるだろ!」

「のこった! のこった!」 

 こいつは駄目だ。

「リーパー、どうしますか?」

 いまだのこったのこった言っているリリアに比べ冷静なヒーを見て、この二人は双子じゃない気がして来た。

「……今から帰って、書き溜めするよ。やっぱり間隔開けると、続き気になる人がいたら悪い気がするから」

 そう言うと、ヒーは笑顔を見せた。リリアに関しては、のこったは言わなくなったが、小さく両手を前後させ張り手をしている。もう相撲はいいよ!

「でしたら、今から私達もリーパーの家へ行きます」

「え? 何で?」

「まだ打合せは終わっていないので、リーパーは作業を続けながらでいいので、そこで話の続きをしましょう? いいですか?」

 別にリリア達が家へ来ることは構わない。だが、小説を書きながら打ち合わせをするというのは些か不安だ。

「まぁ、別にいいけど……」

 こうして打合せは俺の部屋へと移り、続けられる事となった。    

 




 


  


 前書きがあらすじを書くところなら、後書きは次回予告を書くところなのかもしれません。予定としては、次回はアクセス解析について描きたいのですが、それは約束出来ません。なので、続きを楽しみにして頂いてる方がおられれば大変申し訳ありませんが、ご勘弁願います。下手をすれば、次話でダークネスブレイカーが発動する可能性もありますので、よろしくお願いします。

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