馬鹿二人
色々な人に迷惑を掛けそうな話になってきました。もし不快を感じた方がいましたら、すぐさまご連絡下さい。また、運営者様にはご迷惑をお掛けして誠にすみません。いつでも削除する所存ではありますが、訴訟だけは何とぞ御勘弁頂きたく申し上げます。
金色の長い髪。紅い右目に蒼い左目。肌は白く、人形のような面立ち。百八十センチを超える長身は細身で、引き締まった括れがより形の良い美乳を引き立たせる。頭脳明晰、文武両道、おまけに誰からでも好かれる性格。そして、実は陰で暗躍するヒーロー。
これがリリアの考えた主人公だ。ちなみに、モデルは自分らしい。……この子は小説家には向かないようだ。
「では、主人公は決まったので、次はストーリーを考えましょう!」
「はい」
マジで? 主人公これで行くの? これ俺が書くんだよね?
「あ、でも。ストーリーを考える前に、ほかのキャラクターも作っておいた方が良いんじゃないですか? ライバルとか?」
「そうですね。では、リリアはあと数名のキャラクターを考えて下さい。私とリーパーは、どういうストーリーにするか考えてみます」
「分かりました。出来れば、私はファンタジーものにしたいので、そういうイメージで話を進めて下さい」
「分かりました」
リリアがやる気を出し、紙と鉛筆を各自に渡すと、お姉ちゃん大好きっ子のヒーも張り切りだし、俺を完全に無視して手が付けられなくなり始めた。しかしそこはヒー。きちんとリリアを制御し、キャラクター作成に張り付けにしてくれた。
「ではリーパー。私たちはストーリーを考えましょう」
「ちょっといい?」
「はい。何でしょう?」
「これって俺が書くんだよね?」
「はい、そうです。私たちは小説など書いた事がありません。ですので、私たちはあくまで案を出すのであって、それをどう扱うかはリーパー次第です」
案を出すって、もう流れは完全に強制の域に達しているような気がする。何でこうなったの?
「そ、そう……」
ヤバイよヤバイよ。こんな途中で投げ出しそうな話載せて、後で「後はリーパーが完結させて下さい!」となったら、俺、なろう止めなきゃなんなくなる。ここは上手く話を反らせるしかない!
「あ、あのさ? ヒーの言う連載っていう作戦は良いと思うんだけど、やっぱり先ずは短編増やして、そこそこ名前覚えられたら連載した方がいいと思うんだよね?」
「そうですか? 確かに連載の場合、全く人気が出ない作品になってしまうと、下手をすれば誰にも読まれない、という重荷を背負う事になりますからね。それに、もしそうなってしまうと、誰も読まないからここで止める、という事が出来なくなりますかね」
「そうなの? 別に誰も読んでないなら、勝手に終わっても問題ないんじゃないの?」
「そういうわけにはいきません。もしそれをしてしまうと、あの作者は途中で投げ出す、という悪いイメージが付き、今後それを知る読者は、絶対に読んでくれなくなります。もっと言えば、悪い意味で拡散され、直接関わっていない人間まで近づかなくなる可能性があります」
「そんなの、書いたやつ削除すればいいじゃん。誰も読んでないなら、削除すれば誰も分からないだろ?」
「それは連載開始から一度も読まれていない、という条件が絶対になります。一度でも読者が付いたら、その読者は何かしらのイメージを作者に持つので、出来るだけ良いイメージを与えなくてはなりません。それに、ちょっと読んで、連載が終わってから一気読みしようと考えている読者もいるかもしれませんから、誰かの目に触れた以上、途中で投げ出すのは禁物です」
ヒーは頭が良いのか、俺以上に臆病なのか、とにかく物凄く火の粉というものに敏感だ。よくもまあこんなにも怖い想像が出来るもんだ。
「それだったら、連載は俺一人で考えるよ。もしヒーの言う重荷背負う事になったら、それこそ俺が気が引けるもん」
「それは気にしなくても結構ですよ。これは私たちが自分から言い出した事ですから、例えそうなっても、私たちは最後までその荷を背負いますよ」
ヒーはニッコリ笑い、最後まで一緒に責任を取ると言ってくれたが、これで余計に断り辛くなった。これは困った。しかし諦めるわけにはいかない。何としてでもリリアに「や~めた!」と言わさなければ。そこで閃いた。もっと自然に共同作品を断る理由を。
「いや、あのさ~。ヒー達の気持ちは良く分かったけど、俺としては、やっぱりこういうのは俺一人の力でやらなければなんないと思うんだ。だってこれだと、俺の作品に対してのアドバイスを貰う、っていう目的と違う気がするんだよね?」
我ながら良い言い訳を思いついた。それに、俺の言っている事は正論だ。俺は小説家になりたくてなろうに登録してアドバイスを貰おうとしたのだから、共同作品ではその意図が変わってくる。真面目なヒーなら、これには逆らえないだろう。そう思っていると、黙々とキャラクターを作っていたリリアが口を開いた。
「だったら、今考えている連載で、今あるリーパーの作品を宣伝すればいいじゃないですか?」
またリリアがおかしな事を言っている。連載で宣伝?
「なるほど。流石はリリアです。それでしたら私たちの手助けも邪魔にはならないはずです」
どういう事? ヒーが賢いから分かったの? それとも双子だから分かったの?
「でしょう? それに、そうすれば話は簡単に作れるんじゃないですか?」
「え? 何? 俺には全然意味が分からないんだけど?」
全く理解できない俺がそう言うと、二人は、え~、何でこれだけ言って分からないの? という顔をした。この辺りはやっぱり双子だ。
「全くリーパーは。いいですか、良く聞いて下さい! 今私達がしているこの話を、そのまま連載小説にするんですよ!」
「今、私達がしている話を小説にする? どういう事?」
「つまり! リーパーがなろうで投稿したけど、全く誰も感想をくれないって話を小説にするんです!」
「はぁ!? そんな事したら、色々問題になるんじゃないのか!?」
ただでさえなろうに投稿し、そこで誰かに著作権の侵害だ! とか誹謗中傷だ! と言われ、訴えられるかもしれないとビクついているのに、自分の事を書くなど、絶対にあり得ない!
「全ての事実を書かなれば、問題は無いと思いますよ? あくまでフィクションとして描き、リーパーが学んだ知識を教える、というテーマにすれば、これからなろうを初めようと考えている人や、リーパーのような悩みを抱える人にも、有益な情報源となれる可能性はありますよ?」
「そうですよ! それになろうの宣伝にもなるし、自分のアレも宣伝出来るじゃないですか! まさにウィンウィンですよ」
俺の作品をとうとうアレ呼ばわりしておいて、何がウィンウィンだ! すでに俺が負けている感が半端ないだろ!
「でも、そんな事して、誰かに訴えられたらどうすんだよ!」
「訴えられる? 誰にですか? ウンコが散らかった作品を読まされた読者にですか?」
アレの次は、ウンコが散らかった作品! リリアは俺を馬鹿にし過ぎじゃないのか?
「違うわ! 一つの作品の中で、本当にある作品書くんだべ? そんな事したら、著作権侵害で訴えられるぞ!」
「うっ! ……それは困りますね……」
さすがにリリアも、これには言葉を詰まらせた。そんな危険な橋を渡ってまで、俺の作品を紹介する作品など、作れるわけがない。何より、可愛い妹たちをそんな目に合わせるわけにはいかない。だが、賢いはずのヒーが、そんな俺に反論した。
「それは大丈夫ですよ。確かになろうの名前を勝手に使い、運営側から警告を受け、削除される可能性はありますが、登録無料、宣伝リンク、アクセス解析、その上、読むだけなら登録要らずの優良サイトですよ? サイトを著しく妨害するような事を書かなければ、ペナルティーは受けないと思いますよ? 第一、宣伝する作品はリーパー自身の物ですよ? 著作権侵害で告訴される事自体あり得ませんよ?」
なろうから訴えられる可能性が少ない事は分かったが、何故著作権侵害で訴えられないのかがいまいち分からない。それはリリアも同じで、妹を危険な目に合わせたくないリリアが反論する。
「絶対とは言い切れませんよ? もしかしたら、それを読んだ誰かが、あれは著作権侵害じゃないのか! と私達を訴えるかもしれませんよ。そうなったら、私たちは裁判を受け、賠償金を払わなければならなくなります! そうなったらどうするんですか!」
さすがはお姉ちゃん。妹が世の中を甘く考えている事に危機感を抱いたようだ。ここは俺も加勢して、ヒーを諭さなくてはならない。
「そうだぞ。裁判になったら、お金も掛かるし、時間までそれに取られるんだぞ。それにもし負けたら、何千万もの賠償金払わないといけないんだぞ?」
「そうですよ! もし私たちの作品が訴えられ、何千万もの請求が来たらどうするんですか!」
俺たちは裁判をした経験があるわけじゃない。それでもテレビなどで情報を得て、それなりに裁判の恐ろしさを知っている。ヒーは勉強もでき賢いが、それはあくまで学校の中の話で、社会の中ではやはり社会のルールがある。それでもヒーは、ここまで諭しても分からないようだ。
「それは無いと思いますよ? 仮にそうなっても、その賠償金は必ず払えますよ?」
まさかヒーは、そこまでなる作品なら、すでに書籍化され、その印税があるから大丈夫だと言いたいのか? いくら何でも、ヒーは夢を見過ぎだ!
「ヒー! 何を言っているんですか! 一千万ですよ! 一千万! 確かに年収三百万稼げれば、それは可能かもしれません。ですが! それを支払うために、どれだけ辛い生活をしないといけないと思っているんですか!」
「いえ。だって訴えられるとしたら、訴えた人物はリーパーという事になるんですよ? それは分かっていますか?」
「分かっていますよそんな事! 著作権侵害なら、著作権を持つものが訴える! 当たり前じゃないですか!」
どうやらヒーは、にわか仕込みの知識で何とかなると思っているようだ。例え著作権を俺が持っているとしても、訴えられ、裁判になってしまえばそんな事は関係なくなる。
「いいかヒー、良く聞け。例え俺が著作権を持っていても、裁判になったら関係なくなるんだぞ? 結局著作権を侵害したのは俺たちになるんだから、賠償金を払う羽目になるのは俺達なんだぞ? 分かるか?」
賢いヒーなら、俺たちが言っている事は必ず理解できる。リリアもそう信じているからこそ、強い口調になってしまう。それでもヒーは、まだ認めようとはしない。
「それは分かります。ですが、もし仮に敗訴したとして、その場合、リーパーは自分に賠償金を払う事になるんですよ? それがどういう事か分かりますよね?」
くそ! ヒーは確かに頑固なところがある。それでも、今は素直に俺たちの言葉に従うべきだ! 俺たちの言っていることは正しいのに、何故理解してくれないんだ!
「なるほど。そういう事ですか……」
リリアは頑なに自分の考えを曲げようとしないヒーに、何か気付いたようだ。
「つまりヒーは、もし裁判になっても、勝ってしまえば問題無いと言いたいんですね?」
「え? いえ……私はそういう意味で言っているわけではないです……」
そういう事か。ヒーはこのやり方で訴えられても、勝てる要素は十分にあると言いたいわけだ。あれだけ次々策を練れるヒーなら、著作権を持つアドバンテージを活かし、逆転勝訴を勝ち取れる自信があるようだ。「ヒー。確かに勝てる可能性が十分あっても、それでもやっぱり裁判になれば色々と大変なんだぞ? だから、やっぱり連載で宣伝するのは止めておこう?」
あと少し、あと少しでヒーを説得出来る。そう思っていた俺とリリアは、お互いに目を合わせ、頷いた。だが、まさかのヒーの反撃で、雲行きが怪しくなる。
「ちょっと待って下さい! もう一度確認しますよ? 私たちは今、連載を始めて、そこで今あるリーパーの作品を宣伝しようとしているんですよね?」
「うん」
「はい」
「しかしそれをしてしまうと、勝手にリーパーの作品を扱ったとして、リーパー自身がリーパーを訴えるんですよね?」
「ちょっと違いますね? 正確には、リーパーの作品を勝手に使ったと思った読者です」
「しかし、結局は著作権を持つリーパーが訴えないといけないわけですよね?」
「まぁ、そうなるな」
「でしたら、結局リーパーは自分で自分を訴え、勝っても負けても自分に賠償金を払う事になるわけですよね?」
ん? なんで俺が俺に賠償金を支払わなければならなくなるんだ?
「そうなると、リーパーは毎月銀行に行き、自分の通帳からお金を下ろし、再び自分の通帳にお金を振り込む作業をしなくなくてはならなくなりますよね? それは結果的に誰も得をしませんよね? ただリーパーの損にしかならないんじゃないんですか?」
くそ! ヒーめ! 難しいとんちのような事を言って、話を誤魔化す気でいる。
「ヒー。話が難しすぎて、私では理解できません。もっと分かり易く言ってください」
リリアですら理解出来ないようだ。頭が良すぎるというのも考え物だ。
「つまり、リーパーが訴えられた場合、被告人席に自分が座り自分の弁明をし、それが終わると、今度は検察側の席に座り自分の刑罰を求めなくてはならないわけです。裁判所で、一人の人間が自分であいつが悪いと言って攻め、それが終わると、今度は自分は悪くないと弁明している人を想像出来ますか?」
「あ、ごめん。裁判で例えないで、もっと分かり易いものに例えて?」
何となくだが、ヒーの言っている事が分かった。だが、いまいちピンとこない。
「分かりました。こちらの右手が訴えた側のリーパーだとします。そしてこちら側の左手が、訴えられたリーパーです」
ヒーは自分の両拳で、人形劇のように説明を始めた。
「今リーパー達が言っているのがこの状態です。そして、この二人が裁判をするという事は……」
そう言うとヒーは、両拳をドンとぶつけた。
「こうなります。リーパー達の話だと、裁判は確かに辛いものだという事は理解しているようですが、今に限っては、ただ自分で自分をひっぱ叩いているだけに過ぎませんよ?」
え? そういう事なの? まさか? と慌ててリリアに確認を取ろうと顔を見ると、リリアも同じような事を考えている表情をしていた。
「あの……まだこの話を続けますか?」
「……いえ」
しばらく俺とリリアは俯いていた。
あの二人には本当に困りました。今回は共同作品を作り、そこで色々な戦略を混ぜるという話になるはずだったのですが、リリアだけでなく、まさかのリーパー暴走で無駄な時間を費やしてしまいました。もともとあの二人は相性が良いようで、下手に噛み合うといつもこうなります。今日は早く仕上げて眠りたかったのですが、本当に勘弁して欲しいです。