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妹が怖い

 これはあくまでフィクションです。

 リーパーが貰うアドバイスは、全て私個人の意見です。

 約五分。リリア達が俺の書いた小説を読む僅かな時間、リリアの部屋の中には、リリアの笑い声と「リーパーって馬鹿だ!」という声だけが響いた。

 リリアはそれなりに楽しんでいるようで、俺としては恥ずかしい気持ちはあったが、リリアのお陰で気持ちが和らいだ。それに比べてヒーは、空気を揺らすことも無く黙読し、表情一つ変えない。怖い。

 対照的なリアクションを見せた二人は黙読を終えると、ほとんど同じタイミングでスマホを置いた。

「リーパー。病院に行きますか?」

 あれだけ楽しそうに読んでいたリリアの評価は、何故かコレだった。

「何でだよ! オメーは何を見てたんだよ!」

「いやだって、これ、完全に病んでる人が作ったやつですよ?」

 確かに。自分で書いておいてなんだが、この短編を読み返したとき、当時の自分は完全にイッてると思った。何よりこの短編は、小学校低学年を読者対象にした賞へ応募しようと思って書いた作品で、テーマは成長だったのだが、小学生向けに簡単な言葉を使い作っていくうち、今の小学生の知力を馬鹿にしてはならないと、敢えて難しい言葉を多用する事に心掛けた。その結果、最初は読みやすく後は難しくは上手くいったが、その途中、どこかで俺のスイッチが入り、最後には神だとか、有は無になり無は有になるとか、完全に恐ろしい世界に入って行っている。はっきり言って、その時の自分が怖い。

「い、いや! そんなはずないだろ! これはギャグだから……」

 正直、これを書いているときは完全に真面目モードだった。人生で培ってきた俺の全ての集大成が、これだ……俺は病んではいない!

「ある意味天才ですね。ただ、私としては関わりたくない人種ですけど」

「う、うるせーよ!」

 書き溜めというか、ただ応募する機を逃し、小説家になろうを始めるにあたり、これは丁度いいと思い投稿した作品だったのだが、自分ではそれなりにキチンと書けていると思っていた為、改めて指摘されると辛いものがある。

「私の意見を聞いてもらってもいいですか?」

 俺の心中を察してくれたのか、ヒーが良いタイミングで空気を換えてくれた。

「あ、あぁ。いいよ。遠慮しないでドンドン言って」

「分かりました」

 ヒーの返事を聞いて、ヒーに遠慮は要らないは禁句だった事を思い出した。

 ヒーは言葉の意味をそのまま解釈する。そのため、遠慮は要らないだとか、手加減はするなと言うと、本当に加減をしない。真面目というか、礼節が行き届いているというか、ある意味これはヒーの短所でもある。

「では、先ず文法についてですが、私はプロでも専門知識があるわけではないので、私個人としては特に問題は無いように思われます。ですが、しかし、だが、などの副詞を多く使い過ぎているような気がします。そのため、主人公がネガティブ思考なのではと感じました。リーパーが敢えて多用していたのなら私の偏見ですが、自覚がなければ、その辺りを工夫すると作品が明るくなり、後半の神秘性がより増すような気がします」

 ヒーが怖い。普段はリリアの後ろに隠れてほとんど喋らないのに、今はリリア以上に喋る。それもグサグサ刺さる。

「他にも……」

 あぁ、やっぱりあるんだ。遠慮をしないヒーは、俺を殺す気なのかもしれない。

「主人公が成長を遂げ、過程を話した後、間髪入れずにその力を試す機が訪れますよね? 私としては、もう少し間を開け、自然な流れからトイレへ向かうのが良いと思いました。これでは突飛過ぎて、読者を置き去りにしている感があります」

 それは俺も気になっていた。だが、あ、また副詞を使ってしまった……それでも、というか、正直面倒臭いから、まぁいいや、という考えで訂正しなかった。ヒーはそれを見透かしたように指摘した。本当に遠慮無い。

「そして……」

 くそっ! ヒーにはブレーキは無いのか! リリアもアホ面下げてボケ~っとしてないで、止めてくれ!

「情景描写、人物描写が無い事が気になりました」

 それも分かっていた。だけど短編ギャグだよ~。元はシリアスだったかもしれないけど、もうギャグ以外のジャンル無いよ~。

「小学生、トイレ、僕、というワードから、それなりに読者は世界観をイメージすることは出来るかもしれません。ですが、それでもやはり私にはその描写が足りない様な気がしました。学校のトイレと言われても、各学校の造りは違いますし、主人公の容姿、同級生との繋がりの深さ、人間関係、そういうものは現実世界でも、バックボーンとして必要になってきます。何より、情景描写というのは、文字でのみ伝えるだけでもかなり困難だと思いますが、色々な小説などを読んでみても、それが上手く描けないとなかなか評価されない風潮がある様に感じられます」

 あ、何か俺、小説家になれる気がしなくなってきた。やっぱりこういう選ばれた職業は、才能が必要みたいだ。俺でなく、ヒーが小説家になればいいのに。

「ただ……」

 ただ!? まだあんの?

「ただ、作品自体を丁寧に仕上げようと心掛けたのは伝わりました。それに、話の展開を大仰に描き、誰しもが感じたであろうテーマで善悪を問い、そこからさらに何かを問う、というのは、文学に通ずるものを感じました。私の率直な感想は、面白かったと、リーパーの次の作品も読んでみたいです」

 最後の最後に褒められたが、撃ち込まれたボディーブローのせいで、ほとんど染み渡らない。ヒーは飴と鞭の比率がおかしい。

「そ、そう。ありがとう……」

 ヒーに相談しないで、黙ってそのうち来るであろうサイトの感想を、待っていた方が良かった気がする。普通の人は、もっと気を遣うと思うけど…… 

「じゃあ、次は私です!」

 本当に全く人の気も知らないリリアは、聞いて! 聞いて! と言わんばかりに手を挙げた。

「……うん。頼む……」

 もう、リリアの感想などどうでもいい。しかしこちらから頼んだ以上、聞いてあげなければ可哀想だ。本当に可哀想なのは俺だけど……

「私は下品な作品だと思いました!」

 ヒーの後だと、本当にどうでもいい感想だ。それなのに、リリアは何で? と聞いて欲しそうに俺を見ている。

「……何で?」

 そう聞くと、リリアは目を輝かせ、嬉しそうに語り始めた。くそっ!

「だって、あらすじからすでにウンコが散らかってるじゃないですか?」

 ウンコが散らかってる?

「今の時代、虫ですら気持ち悪いと言う人がいるくらいですよ。それなのに、ウンコって堂々と書いてるじゃないですか。やっぱりこういう言葉は隠さないと駄目ですよ。ねぇ、ヒー?」

 ウンコを隠す? 

「そうですね……確かにオブラートに包んだ方が良いかもしれませんね」

 そこなの? 一番の問題はそこなの?

「ですよね。せめてウ〇コとかにした方が良いですよ。ねぇ?」

「そうですね。人によっては、文字だけで嫌悪感を抱く人もいますからね。そう考えると、便、という字も隠した方が良いかもしれませんね」

 ヒーはリリアに甘くね? いくらお姉ちゃん大好きっ子だからって、それは甘くね?

「あ、でも、下手に隠しても分かる人には分かると思うんで、お尻から出るムニュムニュしたやつにした方が良いかもしれませんよ?」

「う~ん……もうちょっと知的な言葉にした方が良いかもしれません。例えば、産業廃棄物とか?」

 え? ウンコって産業廃棄物なの?

「それだと、人間が工場みたいじゃないですか。言うなら自然廃棄物ですよ」

 いや、そういう事じゃないから。というか、もうそれが一番の欠点なの?

「自然廃棄物……う~ん。廃棄……廃棄……」

 ヒーは何で悩んでんの?

「ちょっと待って。もうウンコが悪い事で決まりなの?」

「え? それは気になったうちの一つですよ?」

「じゃあ次教えて?」

「いいですよ」

 もうウンコはどうでもいい! それが欠点なら、直す以前にもう削除以外方法は無い。

「…………じゃあ……」

 こいつは絶対ウンコ以外目に入っていない。

「主人公の名前がないのは何故です?」

 この子にはビックリしちゃう。そこを直して何かが変われば、俺はすでに小説家になどなろうとは思わない。

「あ、あのさ~。俺の悪いところは分かったから、どうやったら読んでくれる人増えるか、そこを教えてくれない?」

「え~? こっちを直さないと、いつまででもこのままですよ?」

 このままでもいいよ! あの作品が悪いのなら、いくらでも削除してやる!

「い、いや。良く考えたら、そういう意見は沢山の人からもらった方が良いかな~って、思って……」

「そうかもしれませんね。今の感想はあくまで私たちの独断ですから、中にはこの作品を高く評価してくれる人もいるかもしれません。ですから、下手にそれに縛られると、リーパーの持ち味が無くなるかもしれませんね?」

「う~ん……それもそうですね!」

「では、話を閲覧者の数を増やす方法に戻しましょう」

 ヒーは本当に良い子だ。危うくトイレ掃除で話がまとまるところを、上手く切り抜けてくれた。

「その前に、一つリーパーに確認したい事があります?」

 確認? 先ほどのヒーの感想を聞いた後では、この確認も怖い。

「何?」

「リーパーがこのサイトを始めたのは、いつからですか?」

「二日前」

「はぁ!?」

 驚きの声を上げたのは、まさかのリリアだった。

「何? 俺何か変な事言った?」

「何? じゃないですよ! 私たちはてっきり、一週間以上経ってると思ってたんですよ!」

「あれ? 言ってなかったっけ?」

「言ってませんよ! リーパーは何しに来たんですか!」

 何故リリアはこんなにも怒るのだろう?

「何って、何か問題あった?」

「大アリですよ! たった二日しかやってないのに、読んでくれる人が少ないのは当たり前じゃないですか!」

「そうなの?」

 そうは言ってもインターネット。ボタン一つで世界と繋がり、毎日数えきれないほどの人間がそれを利用している。そんな世界で、いくら無名と言えど、俺が発信した小説は日本中に配布されたようなものだ。そこで二日。二日も掲載すれば、嫌でも閲覧者は増える……はず。そう考えると、二日で十二人は少な過ぎる。

「そうなの? じゃない! リーパーは戦後の人ですか? 戦時中の人でも少し考えれば分かる事ですよ! ヒー! 今日はもう帰りますよ!」

「リリア。ここは私たちの家です」

 俺が悪いの? それともインターネット?

「とにかく! リーパー! 今日はもうお菓子だけ置いて帰って下さい! 一週間もすれば勝手に閲覧者は増えますから、もう帰って!」

 何で? 何でなの?

「リーパー。いくらネットと言えど、そこら中に落ちている石など、誰も拾いませんよ。今は焦らず、新しい作品でも作り、気長に待ってみて下さい。それでも増えなければ、その時はもう一度相談に来て下さい」

 俺は石なの? ヒーはさり気なく酷い事を言った気がする。

「え? まぁ、そうするわ。相談乗ってくれてありがとうな。お菓子は置いてくから、食べて良いぞ」

「当然です! リーパーは少し勉強しなさい!」

 リリアは何をあんなに怒っているのか……とにかく、ヒーに貰ったアドバイスという貴重なお土産をぶら下げ、俺は焦らず待つ事にした。

  

 

 

 

  



 

   

 リリアとヒーは、生まれたときは対立していました。しかし、それでは可哀想だと思い姉妹にしたのが失敗でした。ヒーは素直に作者の気持ちを読み取り行動しますが、リリアは自分勝手にやりたい放題します。そんなリリアの妹にしたため、ヒーはいつの間にか姉よりになり、最近では結託して作者を振り回すようになってきました。それでも三人は分身という事もあり、本当にお互いを想い合っています。そんな彼女たちがこの先、どんな風に完結に持っていくのか、私としても楽しみです。

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