双子の姉妹
ここから登場する双子の姉妹が、うちの二大エースです。キャラクターを作る上で、被りキャラは最大の禁忌だと聞いたことがありますが、この二人には通用しそうにありません。特に姉であるリリアは上手く制御しないといつまででも喋り続けてしまいます。それを止めるためのブレーキ役が妹のヒーです。今回はリリアがポンコツ振りを見せますが、リリアの土俵は頭脳戦ではないので、今後の展開ではその力を発揮してくれると思います。
「それはそうですよ。インスタもTwitterも、だからみんなあの手この手で拡散してるんですよ」
なろうで読者数の少なさを痛感した俺は、幼馴染の理利愛と妃美子という双子の姉妹に助言をもらうための、ほぼ愚痴を零した。すると当然のように先の叱咤をリリアから受けた。
二人は俺の四つ下で、現在はピチピチの高校一年生だが、小説に関しては素人同然だ。それでも俺が頼るのは、スマホに強い女子高生という事と、兄妹とも言えるほどの繋がりがあるからだ。
「そうなのか? ネットって書き込めば、すぐに誰か見てくれるもんだと思ってた」
スマホは持っているが、やる事といえば、ゲームをしたり動画を見たりするくらいだった俺には、ネットは怖いものであり、下手な事を載せればあっという間に炎上という名の神輿に担がれるものだと思っていた。やはりリリア達に相談して正解だった。
「でもさ、俺がやってるサイトは小説好きの集まりだぞ? 投稿すれば勝手に新着のところに載るし、少し探せばいくらでも見つかるはずだぞ? それなのにほとんど読まれないってどうゆう事?」
リリアの言っていることは正論だと分かっている。それでもサイトに登録までしているのに、閲覧者が少ない事には納得がいかない。そんな俺に妃美子が訊く。
「リーパーの登録しているサイトでは、登録にお金が掛かるんですか?」
俺たちの間ではお互いを渾名で呼び合う。リリアは変わらずリリアだが、妃美子はヒー、俺はリーパーと呼ばれている。これはリリアが幼い頃に始めたことで、妃美子は短縮してヒーになったが、俺に関しては由来が違う。後々知ったのだが、リーパーは死神という意味だと思っていた俺の意図とは違い、イギリス英語のrubberから来ているらしい。ちなみに意味はケシゴムだ。どういう事?
「いや。何で?」
「でしたら、リーパーが言うほとんど読まれないは、私からしたら我がままにしか聞こえません」
ヒーはリリアと違い、俺に対してもそうだが、誰に対しても辛らつな言葉を発する事はほとんどない。そのヒーが珍しく俺を諭すように言った言葉に、少し驚いた。
「そうか?」
「そのサイトが有料であるのであれば、確かにリーパーの言う文句は筋が通るかもしれません。しかしリーパーはお金も払わず自身の小説を載せる場を与えられ、あわよくば他者からの評価まで貰える。それだけでも十分運営者は善良なのに、そこからさらに宣伝すれなど、あまりに傲慢過ぎると思いませんか?」
ヒーは、普段歩く時でも蟻を踏まないよう気を遣う優しい性格をしている。だからこそ俺を想い、道を踏み外さないよう正してくれる。
「そ、そうだな……確かにちょっと自分本位で考え過ぎてた……」
ヒーの言葉に、自分の醜さを露わにされた気分だった。
「まぁ良いじゃないですか。所詮リーパーですからね。このまま煮詰まって、変な小説書いて爆発するのもありなんじゃないですか?」
何が良いのか、リリアはヒーとは対照的で、どちらかと言えば俺が失敗するのを楽しんでいる節がある。
リリアとヒーは確かに一卵性の双子で、髪型以外は顔も声もちゃんこい背丈もそっくりだ。しかし性格は全く違う。
リリアは天真爛漫で活発なのに対して、ヒーは感情を表に出さず寡黙。双子でも性格までは同じとはいかないようだ。
「煮詰まるくらいならやめるわ! っていうか、煮詰まる前に滅入るわ!」
「意外と賢明ですね」
「喧しいわ!」
この調子だと、リリアに相談しても時間ばかり浪費しそうだ。やはりここは冷静沈着なヒーを頼るしかない。
「なぁヒー?」
「はい」
名前を呼べば礼儀正しく必ず返事をする。少し引っ込み思案なところはあるけど、妹としてはリリアより断然ヒーの方が可愛い。おそらく学校ではヒーの方がモテるだろう。
「じゃあさ、宣伝は自分でするとして、どうやったら読んでくれる人、増やせると思う?」
「そうですね……」
ヒーは頭を傾げ、天井を見つめる様に天を仰ぐ。それに対しリリアも、ボケら~っと天を仰いだ。こいつは絶対何も考えていない。
頭の回転の速いヒーは僅かな少考で口を開いた。
「私だったら、一度に色々なジャンルの短編を掲載します。おそらく閲覧者が少ないのは、読み手より書き手の方が多いからだと思います。そう考えると、自信のある作品の一点突破ではなく、弾数を増やし、作品ではなく作者の名を広める事に専念すると思います」
流石はヒー。恐ろしいほどキレのあるアドバイスだ。あまりにレベルが違い過ぎて、何と返していいか分からない。口を開けてヒーの顔を見ているリリアが間抜けに見える。そんな俺達を他所にヒーは続ける。
「その他にも、Twitterなどにリンク出来る機能があれば、当然サイトの枠を超えて宣伝します。ですが、リーパーの場合それは難しそうなので、これは気にしないで下さい」
きちんと俺の力量も考慮してくれる。良くできた妹だ。
そんなヒーに触発されたのか、ここでリリアが動く。
「私の考えも聞いてくださいよ。私ならネットカフェとか携帯ショップに行って、そこで勝手にアクセスして自分で閲覧回数を増やします。他にも、友達とかにお願いしたり、あっ、チラシを作ってポスティングするっていうのはどうですか?」
頭の出来も双子では違うようだ。こいつの場合は何かがズレている。
「リリアの考え方は、リーパーの望むところでは無いのではないですか?」
「え? そうなんですか?」
リリアとヒーは良い躾を受けてきた為か、姉妹どうしでも敬語で会話する。今ふっと思った。
「そうですよ。リーパーは純粋な意見が欲しくて閲覧者を増やしたいんですよ。リリアの考え方では、ただの売名行為ではないんですか?」
「でも閲覧者は増えますよ? 誰にも読まれない小説を書き続けるより、こっちの方が手っ取り早くて良いじゃないですか?」
手っ取り早くて良い? 今リリアはとんでもない事を口走った気がする。なんかとても失礼な気がした。
「確かに手軽かもしれませんが、それをしてしまうと、おそらく作家としての質は落ちると思いますよ? リーパーは小説家になりたくて登録したわけでは無く、そのサイトで自分の欠点を知るために登録したんですよ。そうですよね?」
「あぁ。俺はどちらかと言えば、出来るだけ周りに知られたくないから、小説家になってもプロフィールは一切出したくないんだよ。だから賞とか貰えば、その我がまま通用するかな~って思って公募にしてた」
ネット作家になり名が売れると、ハッカーなどに攻撃を受け個人情報が盗まれ、下手をするとそれをネタにユスリを受けるかもしれない。インターネットは恐ろしい。
「もう先生気取りですか? そんな人はこっちから願い下げです! リーパーは一生自分の書いた小説を読んで、『俺って天才だな』とか言っていればいいんです!」
確かに自分で言っていて我がままだと思うが、何故にリリアにここまで言われんならんのか。
「オメーのネズミ講よりマシだ!」
「読まれもしない小説家よりマシです! どうせ可愛い女の子が自分に惚れて、パンツとかちらつかせながらイチャイチャする話ばかり書いてるんでしょう?」
「そんなの書いてたら相談に来ねーよ!」
というか、恋愛経験のほとんどない俺には、そんな話を一切書ける自信がない。
「そういえばリーパー。リーパーはどんな話を書いたんですか? もしかしたら閲覧者が少ないのは、作品の方に問題があるのかもしれませんよ?」
いつでも冷静、それがヒー。俺とリリアの口論など意に介せず、平然と訊く。それに対してリリアは、
「そうですよ。相談に来るなら、先ずはリーパー先生の書いた作品を提出して下さいよ」
一言多い。
「そうだな。俺も最初に見せればよかった。その方がヒーも考え易かったのに、すまんな」
「いえ。聞かなかった私も悪いですから」
ヒーは本当にいい子だ。
「はい先生。さっさとページを開いてスマホを見せて下さい」
リリアは本当に悪い子だ。
「読むのは無料だから、自分のでアクセスすれよ! 何で俺の貸さなきゃならん!」
「そんなことすれば、どうでもいい作品の閲覧数が上がるじゃないですか! 私は悪行に手を貸すのは嫌ですよ?」
「トーンを落とすな! 分かったよ、今開くから待ってれ」
本当に世話の掛かる妹だ。ヒーはすでに自分のスマホを準備して、黙って待機しているというのに。
「冗談ですよ。さっさとサイト名と、リーパーの書いた小説のタイトルを教えて下さい」
これがリリア。血は繋がってはいないが、俺の可愛い妹分である。
「小説家になろうってサイトだ。で、汝は我を何と呼ぶ? っていうのが俺が書いたやつ」
二人は鮮やかな手さばきでスマホを操作し、俺の作品を読み始めた。
私が作る作品には、必要に迫られる以外で新たにキャラクターを作ることはありません。ですので、今後新たに投稿する作品には、リリア、ヒー、リーパーがそのまま登場することもあります。私の中では、リリア達はすでに一人格の一人で、世界と目的を与えるだけで作品が出来上がっていきます。そのため、私自身現在の話の展開がほとんど見えていません。ですが、完結までは彼女達の尻を叩いてでも持っていくので、これからもよろしくお願いします。そして、出来る事なら作者の私ではなく、リリア達を応援して頂けると幸いです。




