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夢の代償

 フィリアが参戦した事で、リリアとリーパーの間に緩和剤が出来たと喜んでいたら、リーパーの隠れた才能が爆発して大変な事になります。今話は、私自身でも悲しくなるほどの話になってしまいました。こうなってしまった以上、バットエンドになるかもしれません。ですが、光と闇の両方を持つリリアなら、もしかしたら笑って終わらせてくれるかもしれません。

 ドオオーというまるで洪水のような轟音の中に雑踏。そんな環境でもけたたましいほど響き渡る効果音。煙草の煙があちらこちらに立ち昇る店内は煌びやかに賑わい、眼前にはエンターテインメントが俺の為だけに繰り広げられていた。しかしこれだけ人がいるにも関わらず、鉄火場の様相を呈する両隣に座る人とは会話も無い。

 突然のアクセス数の増大に、スマホの着信音でさえ恐怖となっていた俺は、逃げる様にパチンコ屋に来ていた。

 投稿を止め三日が経ち、ログインすらしていないなろうを忘れ、以前のような気ままな生活に戻ろうとしていた俺だが、全く勝負に集中出来ない。というか、まったく楽しくない。

 原因は自分でも分かっている。それでももう自分ではどうにも出来ない。今の自分に出来るのは、ただこうやって時間を費やし、みんなが俺に呆れ、離れていくのを待つしかなかった。

 ブックマークに登録してくれた人たちに、勝手に恩を返すと約束しておきながら、いざとなったら自分可愛さに無責任に逃走。

 リリア達にもここ三日、LINEではどうしたのかと聞かれたが、忙しいとだけ返して後は無視。そして、膨れ上がった読者が、これは不愉快だ! とか、これは著作権に触れている! などと報告してこないかという不安が、俺から気力を奪っていた。

「チッ! チェリー取りこぼした……」

 いつもなら子役を取りこぼしても、独り言で愚痴など言わないのだが、いつ襲ってくるか分からない怒りという感情に、冷静ではいられなかった。

 そんな気持ちでパチンコに来ていた俺は、三日連続で負け、またいつものようにゲームセンターへ梯子する。しかしそれも一時間としないで耐えられなくなり、今日も八時前には帰宅する事になった。

 

 風呂には入ったが、夕食を口にしないで出歩いたため、帰りにコンビニで弁当を買い、ため息が出るほど憂鬱になりながら自宅に向かう。

 外にいても気は紛れず、家に帰ってもパソコンすら開く事は出来ない。電気を消してただ眠たくなるまでテレビを見て、隠れる様に時間を潰すだけだ。

 今では夕暮れ時になるだけで、仕事が終わる事すら憂鬱に感じる。家に帰るのが怖い。

 そんな気持ちを抱えたまま自宅前の通りに入ると、暗い家の前に、へッドライトも点けない車が止まっているのが見えた。

 まさか連載を辞めたことで、誰かが怒って俺の家まで来た!

 それはあり得ない事だとは分かっている俺だったが、今の俺は、鼓動が高鳴るほどあり得ない事があり得ると思えるほどだった。

 もしかしたら殺されるかもしれない……

 そう思うとすぐにでも引き返したいが、自宅前の狭い道路ではUターンも出来ない。恐る恐る他人のフリをして通り過ぎるしかない。

 出来るだけ速度を落とさず通過することを決意すると、ある程度まで近づいたとき、止まっている車がフィリアの物だと分かった。

 良かった~。それに、誰かが俺の家を調べて来るなんて、あり得ないもんな。

 フィリアが何故家に来たのかなど考えるより先に、俺は安堵した。しかし車を駐車して、それに気付いたフィリアが車を降りて来たのを見て、連載の話ではないのか? と不安になった。

 正直今は、フィリアですらその話はしたくない。多分違う話だろう。そう自分に言い聞かせフィリアに近づいた。

「どうしたフィリア? 何かあったのか?」

 俺は平然を装い、いつものように、こんな時間にどうした? という空気を出して言った。

「リーパー、話があります。ちょっと家へ上がらせてもらっていいですか?」

「え? あ、あぁ……別にいいけど……」

 フィリアは「いえ、大したことはないんですが」といつものように、リリア絡みの面倒事の相談に来たように明るく答えると思っていたが、真剣な声音と表情に、俺が連載を急に止めた事を叱りに来たのだと悟った。

 フィリアは家へ招き入れても笑顔一つ見せず、神妙な空気を醸したまま、お茶を出す俺を止め、座らせた。

「リーパー。一つ聞きたい事があります」

 長年一緒にいれば、フィリアが完全に怒っているのがすぐに分かった。フィリアは多分、俺が無責任に連載を投げ出した事を怒っているのだろう。

「な、何だ?」

 それでもまだフィリアの口からはそれを聞けていない以上、俺は知らないふりを続けるしかない。

「ここ三日連載が止まっているのですが、何故なんですか?」

 どうかしましたか? ではなく、何故? と訊くフィリアに、相当怒っているのが分かった。

 俺たちの間では、他人に迷惑を掛ける事を一番咎める。特にリリアとヒーが下にいる以上、年上の俺達はそれを厳守してリリア達の見本とならなければならい。そのお陰で、特にヒーは、他人を蔑むような事を思う事でさえいけない事だと言うほど純粋に育った。

 その見本とならなければならない俺が、今現在他人に迷惑を掛けている。フィリアが怒るのも当然だ。

「え? あ、あぁそれか。最近仕事が忙しくて、小説書く前に寝ちゃってたんだよ。確かに連載も大事だけど、寝坊して、世話になった社長に迷惑かけるのはマズいだろ?」

 嘘だ。全部嘘というわけではないが、すでに二度ズル休みをしてしまった俺には、この言葉を使う資格はない。それでも、フィリアたちに見損なわれるのが一番辛い。

「そうなんですか? それでも二日連続はマズいでしょう? それに、今はどこに行ってたんですか? まさか遊びに行っていたわけじゃないですよね?」

 フィリアに本当の事は言えない。俺が膨れ上がった読者の数にビビり、逃げていたなんて知れば、ビンタ一発で終わるはずがない。下手をすれば、俺はもうあの四人の中には入れなくなる。それは嫌だ!

「あ、あれだよ。皮手が無くなったから買いに行ってたんだよ。小説ばっかり書いてたから、仕事の道具買うの忘れてて……そろそろ髪も切んなきゃな?」

 嘘の上塗り。確かに仕事の道具を買いに行く時間は勿体ないくらいだった。しかしストックはまだある。

 必死に時間が無かったからと、視界を奪いだした前髪を摘み、フィリアにアピールした。

「そうですか。それなら良かったです。私はてっきり、もう小説を書くのに飽きて、ほっぽり出したのかと思いました。リリアも、特にヒーちゃんが心配してて、リーパーは風邪でも引いたのかと心配してたんですよ?」

「そ、それはないよ。ダイジョブだ」

 LINEで忙しいからと返すと、ヒーは分かりました。頑張ってください。リリアにも邪魔しないよう言っておきます。と帰して来ただけで、それっきり何も連絡を寄こさなかった。その優しさには気付いていた俺だが、今の俺にはそれすらプレッシャーになっていた。

「そうですか。じゃあ、今日は投稿するんですよね?」

「え? い、いや……」

 フィリアは俺達の中では最も勘が良い。それを知っている俺は、フィリアがまだ疑い、探りを入れている様に感じた。しかし人間とは窮地になればなるほど頭が冴えるらしい。俺は咄嗟に上手い嘘を思いついた。

「何故です? 今日も投稿しないと、流石に読者の人も怒りますよ?」

「い、いや、それなんだけど。これからこの話、どうやって面白くするか考えてんだよ。それもあって、下手に今投稿したら、折角良い話になりそうなのに、勿体ないじゃん」

 勿体ない。これはフィリアには良く訊く。お金と勿体ないはフィリアの弱点だ。

「そうなんですか! 一体どんな話にしようとしてるんですか!」

 食いつき過ぎだ。フィリアは一気に雰囲気が明るくなった。この辺はチョロい。しかしそんなものは全く考えていない俺には、切り返す言葉が無い。だが俺は、追い込まれれば追い込まれるほど力を発揮するタイプのようで、ここでもフィリアを上手く説得する嘘が浮かんだ。

「そ、それは教えられないよ。一応三つ考えたけど、どれを使うか分かんないし」

「え~、少しくらい良いじゃないですか? リリア達にも言いませんから」

「駄目だよ。これでも俺、一応小説家志望なんだから。読者には先知られたくないんだよ。一応フィリアも読者だし」

「え~。……まあ、仕方ないですよね。それを言われたら、私もそれ以上聞けませんから」

 流石社会人としては先輩だけあって、嘘と言えど実を混ぜて話せば、フィリアは深追いしてこない。

「でも、それはいつ頃完成するんですか? あまり待たせるのも良くないですよ? せめて短かくてもいいから、何かしらのメッセージを書き込んだ方が良いんじゃないですか?」

 今の俺にはそれすら怖い作業だ。もしページを開いて誰かから感想が届いていたら、それだけでもうネット全ての契約を解約したいくらいだ。

「それは分かってんだけど、でもそれって、宣伝と同じだと思うんだよね。だからこの期間っていうのも、作品の演出の一つかな~って、俺は思ってんだよね」

 よくこんなにも嘘が出るものだ。俺はペテン師になれる才能があるようだ。

「なるほど。流石リーパーですね! リアルタイムだからこそ、時間という要素を活用するんですね! リーパーは本当に凄いですね!」

 俺は最低だ。一番守りたいものを守ろうと必死になるあまり、大切なものを失っている。俺はもうあの場所で五人で笑えそうにない。

「そ、そうか? ハハハ……」

 俺は生まれて初めて夢というものが、必要ないものだと思った。夢を叶えるには犠牲は付き物だと云われるが、これだけの物を失うのなら、夢を追いかけろなんて絶対に誰にも言わない。

「まぁでも、リーパーがそれで投稿を止めているのが分かったので、私は安心しました。ヒーちゃん達にも、しばらくはリーパーの邪魔はしちゃダメだって言っておきます。特にリリアには」

 今ならまだ止められる! フィリアはこんな時間に来た事を気に病み、もう帰ろうとしている。もしここでフィリアがこのまま帰れば、俺には逃げ場が無くなる! そう心の奥では叫んでいた。しかし、

「それは頼むよ。もしかしたら物凄い事になるかもしれない話だからさ、今リリアに邪魔されたらショックだもん」

 今の俺には止められない。

「分かりました。では、夜分遅くにすみませんでした。疲れているのに、私が変な気を起こしたから迷惑を掛けて。今日はもう帰ります」

 誰か止めてくれ! 

「あぁ。俺も言っておけばよかった。なんかすまんな」

 俺は一人にはなりたくない!

「いえ。私こそすみません。でも、どれくらい掛かりそうですか? 一応リリアには言っておかないと、色々面倒な事になりますからね」

 フィリアだって、本当は気付いてるんじゃないの! 

「まぁ、遅くても三日くらいかな?」

 なろうになんて登録しなければよかった!

「そうですか。あ! でも、リーパーが時間も演出だって言ってたの、それは言ってもいいですか?」

「あぁいいよ」

 もう……俺は……

「ありがとうございます。では、私は帰ります。ゆっくり休んで英気を養って下さい」

「あぁ」

「御休みなさ」

「おやすみ」

 俺は最低だ……


  

  

 


 



 

  

 

 

 リーパー以上に、私が助けてほしいくらいです。リーパーは臆病なところはありましたが、ここまで落ちたのは初めてです。何より、今後四人との関係がどうなるかさえ私には分かりません。私としては、リーパーはいつまでも凡人のままでリリア達と一緒にいてもらいたいです。やっぱり笑っていないと駄目です。

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