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14/24

狭間

 少しずつではありますが、ストーリーは進んでいます。私が描いたシナリオとはかなりかけ離れて行きますが、今回は三人の生のやり取りがあります。これ以上話を拗らすのは止めてほしいです。

 今日、また新たにブックマーク登録者が増えた。

 何だこの勢いは! そんなにこの連載には魅力があるのか!? 

 自分では文法もストーリーも、とても評価されるほどではないと思っていた。しかし、二人目が現れて、数日もしないうちにまた増えた。これほど嬉しい事は無い。

 まさかこのまま本当にプロになれるのではないのか! その思いはさらに強くなった。

 ヒーの言っていた通り、一度低迷したアクセス数は二日ほどで終わり、以前のように再び五十を超え始めた。それがさらに俺の期待を膨らませた。だが、それに伴い、俺の中で喜びに比例してある感情も膨れていた。それは、何かが違う。

 俺は小説家になりたくて公募を続けていたが、いくら応募しても何の返答も無く落選し、自分には何が足りないのかを知りたくて、小説家になろうに登録した。それなのに、今は増え続ける読者に当初の目的を忘れ、なろうでプロになれるのでは? と思う自分に、戸惑いを感じ始めていた。それに、この連載自体、俺一人の実力で成り立っているわけではない。なろうの名を使い、作中でブックマーク登録者を煽り、アドバイスと称して偉そうに誰かに物を教えようとしている。何より、この連載で読者が増え続けているのは、ヒーの助言があるからだ。

 それをそのまま借用し、あたかも作者である俺が考えたように見せている。この作品の大半はヒーの力のお陰だ! ……リリアは関係無いかな?

 このまま連載を続けるべきでは無いという事は分かっている。それでも、この作品を面白いと思ってくれている読者の為に、勝手に終わらせるべきでは無いという葛藤が、徐々に俺の中で膨らみ始めていた。



「親スラ、コーゴヘイ。親スラ、コーゴヘイ」

(あに)、挟まれるよ?」

 仕事で玉掛け作業中、無線で合図を送る俺に、ジョニーの渾名を持つ、リリア達と同じ幼馴染の次郎が言った。

「え? あぁ、わりぃ」

 ジョニーは俺の一つ上で、フィリアと呼ばれる俺たちの保護者的存在の弟だ。俺達は幼い頃から常に五人で行動し、未だに深い繋がりがある兄妹ようなものだ。

 ジョニーは幼い頃からよくリリア達に弄られ、それを俺が助けていた為、歳は上でも俺の事を(あに)や兄さんと呼ぶ。ジョニーはクレーンオペレーターとして働き、たまに仕事で一緒になる。ちなみに渾名の由来は、アメリカなどでよく使われる、”男“から来ている。リリアは適当過ぎだ! それでも、俺のケシゴムよりは位は上だろう。……何で?

「俺が見えてるときは良いけど、見えない時は気を付けてくれよ?」

「分かってるよンな事! 見えてるんならここに降ろせ!」

 正直今のはジョニーに助けられた。ジョニーが見えていなければ、俺は一トンを超す吊り荷に挟まれていた。

 増え続ける読者と、終わりの見えないストーリー。そして、このまま続けて行くべきかという思いが、寝不足と併せて俺の集中力を削いでいた。

「兄。最近ネットで小説書いてるんだって?」

 ジョニーは注意した事で、俺が不機嫌になったとでも思ったのか、余計な雑談を始めた。

「え! 誰に聞いたそんな話!」

「姉さんだよ。姉さんはリリアに聞いたって言ってたけど」

 あのクソガキ! ヒーが俺には、知り合いにも言っては駄目だと言っていたその場にいたのに、あいつは何でそういうところに気が回らないんだろう。

「……あぁ……そうだよ……」

 リリアの名を出された以上、否定しても無駄だ。俺たちの関係上、隠し事をしていても直ぐバレる。

「何ていうタイトルだい? 俺も宣伝に協力するよ?」

 幼馴染だからこそ知られたくなかった。まぁ、いずれはバレるけど。

「余計な事しなくていいから! 次これ吊るから、早くフック降ろせ!」

「はいはい」

 


 ジョニーにまで小説を書いている事が知られた俺は、その日の夜にリリアの家を訪れた。もちろんリリアをとっちめる為だ。

「おい! お前フィリアとジョニーに言っただろ!」

 部屋へ通された直後、ヒーが飲み物を出すより早くリリアを問い詰めた。

「え? そうですけど、何か問題でもありましたか?」

 え? 罪の意識は全くないの?

「当たり前だろ! お前ヒーが俺に言ってた事聞いてただろ!」

「え? ……あぁ……あ! パチンコばかりしていても、お金は貯まりませんよ。ですか?」

 わざわざそんな昔の言葉を探してまでボケたいのかこいつは!

「ちげーよ! 宣伝しては駄目だって言ってたろ!」

「それは私にではなく、リーパーに言っていた言葉ですよ? 別に私は関係ないじゃないですか?」

 この子凄いわ~。屁理屈言わせたら誰も勝てないわ~。

「どうしました? 一応夜なので、あまり大きな声では騒がないで下さいね?」

 ジュースを持って来たヒーは、俺達がまたじゃれ合っていると思っているようで、笑顔を見せて言った。

「ヒー。お前リリアが小説の事、フィリアとジョニーに言ったの知ってるか?」

「はい。リーパーが第一話を投稿したその日に、リリアはフィリアにLINEを送っていましたよ?」

 あれ? 知ってたの? あれ? あれれ? マジかこいつら。

「だってヒー。お前は宣伝しちゃダメだって言ってたろ? それはおかしくない?」

「何故です? 私はリーパーには駄目だと言っただけですよ? リリアには駄目だとは言っていませんよ?」

 どういう事? ヒーはリリアに甘すぎない?

「そうですよ。だから言いましたよね? 私には関係ないって」

 クソ! この双子はタッグを組むと面倒だ!

 俺はこの二人には勝てないと諦め、大きくため息をついて座った。

「ちゃんと説明してヒー。何でリリアは良いけど、俺は駄目なのか」

「はい」

 ヒーは丁寧にコップを置き、ジュースを入れ始めた。それに続いて、リリアもしれっと座った。

「では、説明します」

 各自にジュースを配り終えると、ヒーは改まって説明を始めた。リリアと違い、上品というかおっとりしてるというか、ジュースよりまず先に説明じゃね?

「私がリーパーに宣伝してはいけないと言った第一の理由は、リーパーが目的を忘れ、欲に目が眩むのを防止するためです」

 あ、ヒーってホントヤバいわ。まさに図星なんですけど。

「リーパーの事ですから、読者が増え、作品が人気を得れば、当然目的を忘れると思いました」

 当然!? それは言い過ぎじゃないの? 確かにちゃんととは言ったけど、そこは隠そう?

「リーパーが初めから、俺はなろうで小説家を目指すと言えば、私はこの作品を薦める事はありませんでした」

「そうなの? 何でだよ?」

「はい。この作品は、他者を巻き込む力があると思ったからです」

「他者を巻き込む力? それは確かにあるかもしれないけど……」

 というか、すでに二名のブックマーク登録者と、なろうの運営を巻き込んでいる。このまま行けば、今日現れた新たな登録者も巻き込みかねない。

「リーパーは、私が思った以上に現実を描写し、上手に読者を引き込んでいます。ですので、これで例えプロと呼ばれる存在になっても、それはリーパーの為にはなりません。この作品は正直、私は卑怯な作品だと思っています」

 卑怯! …………卑怯‼

「ええええ‼ 今さらそれ言うの! 最初からそれ言ってくれれば、俺だってこんなの書かないよ!」

「すみません……」

 別にヒーが悪い訳じゃない……いや、ヒーが悪い!

「どういう事! 何で最初から分かってて、俺にこれ書かせたの! マジでビビるわ!」

「そ、それは……確かにそうかもしれません。ですが、リーパーは当初、なろうでアドバイスが欲しくて、どやったらそれが貰えるか相談しましたよね?」

「そうだけど……」

「ですから、私はリーパーは、あくまでなろうは修行の場で…………そ、その……すみません」

 純粋すぎるがゆえ言い訳をしたくないヒーは、自分の非を認めただ謝った。それを知っている俺も、それ以上ヒーを責められなかった。

 ヒーは純粋に俺の力になりたくて知恵を絞り、陰で色々調べてくれていたのだろう。それを分かっている俺は、とても悔しくなった。俺がヒーを巻き込んだ。

 お互いがお互いを責められない状態に、部屋にはしばしの沈黙が訪れた。

「まぁいいじゃないですか?」

 こういう重々しい空気を嫌うリリアが、なんとかして空気を換えようとでも思たのか、口を開いた。

「何がだよ。何が良いんだよ! どうすんだよこれ!」

 リリアは所詮自分の作品ではないとでも思っているのか、適当な事を言い始めた。

「だってリーパーは、小説家ではないんですよ? それなに、何故そこまで卑怯という言葉に怒るのですか?」

「はぁ?」

 プロとか素人とか、卑怯な事にそんなものは関係ない。

「リーパーは純粋に、読者を楽しませようとしていたのですよね?」

「あぁそうだけど」

「だったら、それでいいじゃないですか? 別にリーパーはそれで金儲けしているわけでも、名を上げて何かしようとは考えていないんですよね?」

 それは今でもそうだ。もし仮に企業から書籍化の話が来ても、この作品はなろうに寄贈するつもりだった。俺も確かに何となく汚いなとは感じていた。それに、もしこの作品で金を儲ければ、今まで応援してくれた読者や、寛大な措置をくれたなろう、そして、不快を感じていたにも関わらず、何も苦情も言わず見逃してくれていた読者の親切さを独り占めするようで、その想いを金に替えるような生き方はしたくなかった。

「あぁ」

「ですよね? 卑怯というのは、姑息な手を使い、何かを得る事を云うんですよ? リーパーはなろうで何かを得たいわけではなく、自分の非力さを知りたいんですよね?」

「……そうだ」

「非力な者がそれを知るため努力するのは、卑怯ではありませんよ。リーパーとヒーが、今ある自分の力を最大限発揮し、何とかしてアドバイスを貰おうとあの手この手を使っているのは、弱い者が使う、生き残るための死力と同じじゃないんですか?」

 寝る間を惜しみ、仕事中にイライラするほど疲れが溜まっても、それでもなお連日連載を書き続ける俺と、自分の為でなく、俺の為に頭をフル回転させ、卑怯と分かりつつも手を抜かなかったヒー。確かに俺達は無名の一般人という弱者だ。金があるわけでも高学歴でも将来が約束されているわけでもない。あるものと言えば四人の幼馴染くらいの非力な人間だ。

「その行動は卑怯ではなく、正々堂々としていると私は思います。例え誰かからはそう見えても、今はそう言わしておけばいいんです。リーパーが将来力をつけたとき、本当にそれが卑怯だと思うのであれば、その時は必ず己自身が裁きを与えます。私達はそういう生き方をしてきましたよね」

「……あぁ」

 五人の内誰かが間違いを犯せば、必ず四人がそれを正す。俺達はそうやって今まで生きて来た。だから俺達は自分で間違いだと気付かなくても、それを知る事が出来た。しかし俺達も大人になりつつあり、リリアもそれを分かっているからこそ、己自身と言ったのだろう。

「だから今は良いじゃないですか? それに、本当にこれが卑怯なやり方なら、誰も読みませんよ。リーパーだって駄目だと思うでしょう?」

 確かに。ストーリーや文法という話になれば別だが、物語としては悪くないと思う。自分でも馬鹿だと思うような作品だが、誰かと繋がっているような、そんな温かみは感じる。

「そうかもな。だけど、駄目だとは思うぞ。リリアのせいで無駄話多いし、全然話進まないし、読むだけ無駄だと思う」

「ですよね」

「だけど、悪くはないかな」

 そういうとリリアは嬉しそうに歯を見せた。

「悪いですよ。卑怯ですから」

 こいつには勝てない。やっぱりリリアは、俺の理の外の存在だ。

「だな」

 卑怯で十分。リリアのお陰で、なんか俺らしく思えて来た。

「そういうわけですので、ヒーは気にする事は無いですよ。卑怯担当はリーパーに決まりましたから」

 あれれ? 俺卑怯担当になったの? 

「じゃあリリアは、馬鹿担当な」

「ふっふっふ。私が馬鹿担当で良いんですか? もう一度聞きますよ。私が馬鹿担当で良いんですか?」

 あ、こいつは絶対ヤバい事を考えている。馬鹿のくせに余計な頭のキレはあるやつだから、やっぱりマズイ!

「あ……やっぱり止めとくわ」

「そうですか。それは残念」

 俺がリリアに負け、ため息をつくと、やっとヒーにも笑顔が戻った。

「ヒー。さっきはすまんな。卑怯だと思っているのはリリアだけみたいだから、今まで通りアドバイスくれよ?」

「はい。私で良ければ、いつでも言って下さい」

 ヒーそう言い、優しく笑った。   


  

   

 



 


 

 

 


 今話に出て来た、ジョニーとフィリアという二人を合わせた五人は、私の中で最強の五人です。この五人はそれぞれが自我を持ち、勝手に行動します。フィリアは今後登場すると思います。

 ジョニーは五人の中で一番の成長株で、生まれた当初は、私の見栄と嘘とエロという感情の塊でした。その為フィリアには「触んじゃねー! 殺すぞ!」と言われ、リリアには「お前は喋んじゃねー!」と虐められていました。しかしあるときからフィリアが可愛がるようになると、突然歴戦の勇者のように成長しました。私の中では一番ポテンシャルを秘めているキャラクターですが、無口なため、その秘めたる力を未だに把握出来てはいません。

 この二人は登場させるつもりは一切ありませんでしたが、前話でリリアをほっておいた仕返しなのでしょうか、援軍として勝手に呼び寄せました。私としては、今回のサブタイトルは新たな刺客にしたいくらいです。

 今後、この援軍のせいで私のシナリオ通り進むか分からないですが、完結までは目指すつもりです。

 応援下さる方々に感謝致します。    

                                      ケシゴム

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