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追い込み

 前回、前書きはあらすじを書くところなの? という話を書きました。それをヒーに尋ねたところ、「確かにそうかもしれません。前書きにあらすじを書いておけば、読者はわざわざ本文まで読んで後悔する事はありません。気遣いとして、毎回変化する物語の内容を説明しておけば、不快な思いをする読者を減らすことが出来ます。ですが、ケシゴムの場合、すでに雑談を書いている為、急にそれを変えると、今まで読んでいた読者に混乱を招く恐れがあります。ですので、下手に弄る事は避けた方が良いかと思います」とのことですので、後書きも変える事はしませんので、ご了承下さい。

 リリア達を家へ連れてきて、早速次話を書き始めた俺だったが、いつものようにスラスラ書けない。

「リーパー。私はこれを読んで、もう少し情景描写というものを増やした方が良いと思いました。それに、ジャンルがエッセイになっているのが気になりました」

「リーパー。このルーター可愛いですね? どこで買ったんですか?」

 ヒーは俺の横でお構いなしに打合せ。リリアは久しぶりに入った俺の部屋に興味津々。落ち着かない。締切り間近の作家はこんな気分だろう。

「え? あぁそうだな……」

 返事をするのさえやっとで、注意散漫で文法はおかしくないか、誤字脱字は無いかなどには全く気が回らない。それなのに、この二人のマイペース振りは半端ない。

「あ、リーパー。ミイアはどこに行きました?」

 ミイアとは、家の飼い猫の名前だ。すでに暇を持て余したリリアは、ミイアと遊びたいらしい。

「え? 呼べば?」

「じゃあ、私はミイアと打合せしてきます」

「え? あぁ……」

 これで一殺。邪魔が一人消えた。後は担当のヒーだけだ。

「リーパーはこの物語のジャンルを、何故エッセイだと思ったのですか?」

「え? あぁ……」

「……」

 ヒーには悪いが、せめてもう少しだけ待ってもらいたい。だってまだ、三行しか出来てないんだもん!

 手を止めず、空返事をして態度で忙しいをアピールする俺だが、視界の端で微動だにしないヒーは、一定の間を開けては同じような質問をしてくる。

「エッセイとは主に、ノンフィクションだと私は認識しています。しかし、確かにこの物語は、ノンフィクションの要素も取り入れていますね?」

 ヒーがしつこい訳ではなく、きちんと返答をしない俺が悪いのは分かっているが、俺を器用だと思っているヒーには、わざとに無視しているように感じているのかもしれない。そこで、誤解を解くためと、休憩がてらに手を止めた。まだ四行しか行ってないけど。

「あぁ、悪い。ちょっと集中してた。ごめんな、ちゃんと返事しなくて」

「いえ。私はリーパーほど視野が広いなら、この程度は問題無いと勝手に解釈していました。すみません」

「いやいいよ。俺も悪かったから」

 ヒーは軽く会釈し、申し訳なさそうに謝る。罪悪感が半端ないんですけど~。

「やはり小説を書くというのは、多大な労力を必要とするようですね? リーパーは毎日、仕事が終わってから、よくあれだけのものが作れますね?」

 このタイミングで褒められても、余計に罪悪感が増すだけなんですけど。

「そ、そうか? ありがとう」

「いえ」

 目線は外さず、首を軽く傾け、再び会釈するヒーには困る。隣の部屋でミイアの尻尾との攻防を続けるリリアの声を聞いて、ヒーはもう少し失礼を覚えた方が良い気がする。 

「で、エッセイがなんだって?」

 やっと聞きたい事が聞けると思ったヒーは、耳が僅かに広がるほど目を丸くして、俺だから分かる程度の嬉しそうな表情を見せた。

「何故リーパーはこの物語を、エッセイにしたんですか?」

 待ってました! となると元気が良くなるリリアと同じで、ヒーの声音が一気に上がった。こういうところは本当にそっくりだ。

「いや、別にエッセイだとは思ってないよ? ただ、なろうで用意したジャンルセレクトの中に、ピッタリくるの無かったからそうしただけで、ヒューマンドラマとかあったけど、この話じゃそんな固いのも変かな~、って思ってそうしただけ?」

「そうでしたか。私は何か、リーパーが深い意味を込めてそうしたのではないかと思っていました」

 なろうでは投稿するとき、ジャンルを選択する事が義務付けられている。確かにこの機能があれば、読者側はジャンルで検索しやすく、タイトルで内容が分かりづらい作品でも種類が分かり易い。作者側としても、狙う読者層を捉え易くなり有難い。しかし、俺に限ってはこれが問題だ。何せこの連載は、俺自身が何のジャンルなのか理解出来ていない。

 リリア達の会話をそのまま利用しているため、会話文が多く、ジェニファー達の容姿を突っ込まれないために描写の類は極力抑えている。そのため、ライトノベルのようであり、ギャグのような気もする。さらに情報発信という目的も入っているため、ノンフィクションに近く、エッセイのような気もする。

「別に深い意味はないよ。じゃあさ、ヒーはどのジャンルだと思う?」

 やはりこういうときはヒーに聞くしかない。前にジャンルは重要だとは言われたが、俺ではいまだにその重要性の理解に乏しい。べつに俺が悪い訳じゃないけど。

「実は、私もこれには悩んでいました」

 マジで!? あのヒーが、まさかの理解不能!? 俺はとんでもない物を作っているのかもしれない。

「そうなの? じゃあどうする?」

「まぁ、この場合は、特に気にしなくて良いかもしれませんよ?」

 この場合は、特に気にしなくて良い!? お手上げなの? 俺の創作力はヒーの理外なの?

「でもこの間は、ジャンルは大事だって言ってなかったっけ?」

「はい。確かにジャンル選択は重要です。しかし、今作のように、ノンフィクションにフィクションを混ぜ、現実と想像が半々で入り混じっている作品は、私はほとんど知りません」

 現実と想像が半々? 

「ですから、強いて言うなら、”カオス“、というジャンルなのかもしれません」

 カオス!? 俺はとんでもなく禍々しい物を作っている! この作品は、即刻火山の火口に放り込まなくてはならない!

「ヤ、ヤバくない? 俺不幸になんない?」

「大丈夫ですよ。カオス、と言っても、悪い意味ではありませんよ? 私からすれば、読んでいる人に”まさか“と思わせる可能性がある、新しいものだと思っています」

 新しいもの? 俺はクリエイトしたの? 禍々しいジャンルの、カオスというものをクリエイトしたの?

「そ、そうかな? ……ありがとう……」

 これ以上ヒーの話を聞くと、今夜から不安爆発で寝れなくなる! そう感じ、自然な流れを装い、アクセス解析を開き、読者はいないかを確認するフリをした。しかし、ここであるミスに気付いた。

 あまりに動揺していた為か、上書き保存をしないでページを飛ばした為、折角書いた四行が消えてしまった。完全に俺の失態だ! なろうでも、保存はこまめに行ってください。と親切に赤文字で書いてあるにも関わらず、俺はやってしまった。

「あ! やば!」

 ※ 皆さん。保存はこまめに行いましょう。

 折角書いたのに! 俺の不注意なのは確かだが、そりゃないよ! 暗黒魔剣士ロビンソンは、何故こういう時役に立たないんだ!

「リーパー。保存はこまめに行いましょう」

 ガッテム! これを言ったのが、リリアでない事が唯一の救いだ。

それでも、今まで書いた内容は覚えていた為、しょうがないと諦め、気分転換に新たな読者は来ていないかを確認する事にした。その画面を見てヒーが訊く。

「アクセス解析はこういう感じなんですね? 詳しく知りたいので、説明を見せて貰えますか?」

「あぁ良いよ」

 ヒーには一応説明してあるが、俺自身完全に理解しているわけではないので、ヒーとしては物足りなかったようだ。

 しばらくヒーは、うんうんと無言で頷き、納得するようにアクセス解析の計算説明を読んでいた。会話の無くなった部屋は静かで、隣の部屋でミイアと遊んでいるリリアの声が聞こえない事に気付き、不審に思い耳を澄ますと、「……ですね……そうですか……」とすでに遊び疲れて、まったりミイアと会話している声が聞こえた。通じてるの?

「リーパー。リーパーはユニークアクセスを、今までこの物語を読んだ読者の総数と言っていましたね?」

「あぁ」

 ユニークアクセスは、今までのトータル人数で、一人一回だけのカウントだと思っていた。しかし、ヒーの訊き方では、どうやら違うらしい。

「しかしここには、ユニークアクセスは一日一回とあります。そのため、今現在の百二、とある人数は重複した人数です」

 そうなの? 俺は勘違いしてたの? でも、それでも百超えてるから別にいいや。

「そうなんだ。わりぃ、嘘教えて」

「いえ。ただ、説明書きはしっかり読むようにしましょう。リーパーの作品は、誰かを傷つけてしまう可能性があるんですよ? 今後は注意して下さい」

「……はい」

 確かに嘘を教えたことは俺の非だ。しかし、今後この約束が守られるかは、約束出来ない。

「それにしても、このユニークアクセス数がいくら二日遅れだと言っても、現状のままでは喜んでもいられませんね?」

「どういう事? 確かに一日一回って言っても、もう百超えてんだぞ? これだけアクセスあれば、そのうち一気に増えるかもしれないだろ?」

 ここまで七話を投稿していたが、連載を重ねる度にアクセス数は伸びていた。

「それは無いとは言えません。今日は日曜日ですし、午後を回れば過去最高を記録するかもしれません。ですが、アベレージとしては問題があるのかもしれません。少なくとも、文法かストーリーに重点を置くスタイルに変えた方が良いかもしれません」

 アベレージ? ヒーはアクセス解析を見て、読者からの無言の評価に気付いたらしい。分かるもんなの?

「そうなの? 何で?」

「はい。今現在リーパーは七話投稿しています。そして、ユニークアクセスは二日遅れの為、五話現在で百です。つまり、一話に付き二十人が増えているとして計算して、現在は百四十となります」

「うん。それで?」

「そうすると、単純計算で二十人が毎回読んでくれているという事になります。ですが、PVアクセスを見ると三百二十一とあるので、毎回読んでくれている人引く、トータルアクセス数で計算すると、およそ百八十となります」

 ん? 俺は計算が苦手だ。なんかとても聞きたくない話だ。

「ヒー。ちょっと難しいから、もっと分かり易く言って」

「はい。分かりました。では簡潔に説明します。毎回読んでくれている、ファンと呼ばれる人が二十人いるとします」

「うん」

「そして、一度だけ読み、面白くない! と、もう読まなくなる人がいるとします」

「うん」

「リーパーの場合、二十人は面白い! と毎回楽しみにしてくれてる人がいるのに対し、およそ百八十人が面白くない! と言って、読むのを止めています。私が言いたいのは、そういう事です」

「なるほど……マジで!?」

 驚愕の事実! 俺はこの勢いだと、一か月もしないうちに、なろうでもトップクラスの人気作品になれるのではと思っていたのに、まさかの不評! だが、それでも二十人はいる! まだ大丈夫だ!

「はい。それに、今私が言った、二十人というのも単純計算の為、あてにはなりません」

 勘弁してよ~。もう膝が震えてるんですけど…… 

「プロスポーツの世界には、三割の壁というものがあるそうです。この三割を超えられるかどうかで、その選手の格というものが決まってくるそうです。それをふまえて、仮にこの作品が一級品だとして、三割のファン獲得率を持っていたとします。そうすると、二十人の三割で、六人という事になります。つまり、リーパーと私達で考えたこの作品は、多くても六人のファンを獲得したという事になります」

 たった六人! いや六人も! なのか? それでも少ない気がする。あれ? ちょっと待って?

「ただ、二百人の内、百八十人は読む価値は無いと判断しているので、私の考えでは、この作品にいるファンは、いても三人だと思います。さらに言えば、そのうちの二人は私とリリアなので、純粋なファンは、一人だと思います」

 ド畜生! この一週間寝る間も惜しんで書いたのに、たった一人! 人間なんて大嫌いだ! あ、でも、たった一人の人は大好きだ!

「くそ! こんだけ頑張ってもたった一人かよ! そりゃ誰も感想くれないわけだよ!」

「リーパー。それでも悪い事だけではありませんよ」

 もう慰めなんて結構だ! 今日の投稿でダークネスブレイカー発動だよ!

「もういいよ。確かにこれは恩返しで、見返りなんて求めてないけど、それでも宣伝の意味も無いなら、今日で終わらせるよ」

「それは駄目です。それに、自分の作品の評価を貰うという目的は達成していますから、今後この作品でリーパーは色々な事を試し、さらに世間の価値観というものを身に付けるチャンスでもあるんですよ? 決して意味が無いわけではありませんよ」

 そう言われれば確かにそうだが、貰える評価は面白くないばかりだ。ここから色々試すより、新たな作品を作った方が確実な気がする。

「そりゃそうだけど……」

 やる気ゼロ。アクセス解析の攻撃で、俺のヒットポイントはゼロになってしまった。もうセーブの続きから始めるしかない。しかし、捨てる神あれば拾う神あり。それに気付いているヒーが、俺に力をくれる……はずだった。

「リーパー。現実とは確かに辛いものです。ですが、リーパーには一人。私達とは別のファンがいる可能性があります。日本でミリオンセラーと言われる作品でも、百二十人に一人買っているだけですよ。それに比べれば……あ! 今のは忘れて下さい」

 ヒーの会心の一撃。俺の場合、三百二十一人に一人だ。今の例えはリリアの攻撃並みに効いた。

「い、いや。気にしなくて良いよ……」

 申し訳なさそうに何度も頭を下げるヒーを見ると、本当に勘違いだったらしい。仕方ないよね。

「それでも! 今後のこの作品のストーリー展開によっては、人気作に出来る可能性はまだまだあります。話の大筋は見えていても、作者自身結末が分からない未知数を秘めているんですから、リーパーの腕でいくらでも面白く出来ますよ!」

 相当さっきの失言を気に病んだのか、ヒーは必死に俺を励ましている。本当に気の優しい子だ。

「どうしたんですか? 珍しくヒーが大きな声を出して?」

 ヒーの大きいとは言えない声を聞いて、何事かとリリアが不安そうな表情浮かべ現れた。

「いや。何でもないよ」

「いえ。実は……」


「なるほど……」

 姉には隠し事をしたくないヒーは、今までの流れをリリアに説明した。また面倒な事にならなければいいが。

「それはやり甲斐がありますねリーパー!」

 ファンが一人しかいないのを聞いていなかったのか、リリアはどこにやり甲斐を感じたのだろう。それに、ファンが一人いるかも憶測でしかないのに。

「そ、そうか?」

 何でだよ! っとツッコミを入れたいが、いるかもしれないたった一人のファンの為に、それは言葉には出さなかった。

「そうですよ! つまり、今いるその一人のファンは、私たちの才能に気付いた心眼の持ち主ですよ?」

 心眼? 俺たちのファンは神なの? まぁ、確かにファンは神様というけど……

「それに、私たちの作品が面白くないと、現時点で離れた愚民に、報復するチャンスです!」

 愚民!? 報復!? この子ヤバくない? 絶対それ言っちゃいけないセリフだよね?

「お前! マジで言ってんのか!」

「当然。 この先この話が突然面白くなって一気に人気が出れば、私達は勝ち組ですよ! その時、どうしたの君たち? 面白くないんじゃないの? って言えるじゃないですか? それを言える特権を、今私達は得ているんですよ? これほどやり甲斐のある事は、そうそうありませんよ?」

 物凄い自信。書いてるのは俺なのに。しかしリリアの言葉を聞いて、突然俺もやる気が出てきた。

 この物語は俺自身結末が見えず、やろうと思えばいくらでも修正が効く。それに、もしリリアの言う通り人気作となれば、俺だけでなく、今いるであろうファンにも恩返しできる。そうなれば、それは俺としては最高の恩返しだと思う。

  

 見てれよたった一人のファン! 「この作品は俺が育てた!」って言わしてやるよ!


「そうだな! よし! やってやるか!」

「そうですね」

「えぇ。 何と言っても私達ですよ? やって出来ないはずはありませんよ!」

 リリアのはっぱにより、俺に火が点いた。すると急に創作意欲が沸き、すぐにでも連載の続きを書きたくなった。それに気付いた二人は気を使い、突然帰ると言い出した。正直その申し出は有難かったが、何かお礼にと昼食を御馳走する事にした。

 その後食事を終えると二人を家に送り届け、その日は遅くまで書き溜めする事が出来た。

 

  

 


 


 


 


 


  

 

 次話から、やっとリリア達から主導権を取り戻した私が物語を組み立てて行きます。しかしこれはまだ予定なので確証は持てません。ですが、もしこの物語のファンという方がいましたら、今後は小説らしく、起承転結が起きてくるので楽しみにしていて下さい。出来れば私も誠に勝手ながら、ファンという方の為に恩返しをさせて頂きたく思います。応援くださる方には、誠に感謝致します。

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