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ヘブン-Heaven  作者: 中野八郎
ルミナスヘブン
9/12

玖 裏人格との初対面

「なるほど、だからここに。」

 朝の垣を見ている祈が薄笑いた。

「この小僧もずいぶん鈍感だな…。何で今度はこんな鈍感な小僧に転生したのか。」

 と独り言する祈。


「精衛…さん?」

 薫が目覚めて、泣いてる精衛を見て、

「どうしたのですか?何で泣いてるのですか?」

 精衛は涙を振り切って、

「何でもない。薫ちゃん、具合はどう?」

「大丈夫です。私はどうしちゃったのでしょうか?覚えがぼやけてています。」

「大丈夫、祈は薫を治すために出たのよ。安静にいればいいのよ。」

 と薫を慰める精衛。

「精衛、薫の調子はどう?」

 この時窓から保健室に入った祈は精衛に状況を訊ねる。

「薫ちゃん覚めたけど、まだ力が…。」

 精衛は祈の裏人格に報告する。

「そうか。もう薫に取り憑いたやつの正体が分かった。これから俺に任せろ。」

 と薫に近づいた祈、

「薫、聞いて。お前が知っている祈は前からずっとお前のことに一筋だということは、祈の中で長年眠っている俺はよく知っている。だから、精衛のことにヤキモチするなんて全然必要ない。」

「祈くん?」

「俺と祈は違う者だ。が、お前に偽りなどを言わない。いつかお前にも説明する日が来る。」

 祈は薫の肩を触って、

「薫、今から苦しくなるかもしれないが、ちょっと耐えてくれ。」

 と祈全身が金色の光に包まれて、白い霧のような物が腕を通って、薫の体に注ぎ込む。

「くっ!」

 薫が苦しいように眉を寄せた。

「ヤキモチ…恨んだ…」

 女性の怨霊が薫の体から抜け出した。

「お前はいつまでこの世に未練を残すつもり?早く昇天せよ!」

 祈の命令に強いられて、怨霊はまた開いたブラックホールのような空間に吸い込まれた。

「嫌だ…あの世に行きたくない…」

 怨霊は未練がありつつ、やがてその中に閉じ込まれた。


「あれは、何だったんですか?」

 一旦落ち着いて、薫は祈に聞く。

「薫は祈が精衛と一緒にいるのにヤキモチして、弱まった心に怨霊に取り憑かれてしまった。」

 祈の裏人格は薫に事情を伝えた。


 これは約2千年前の事だった。


 少年は長安の豪族の御曹司で、幼い頃から決まっている結婚相手がいました。それが同じく当地の豪族の娘で、美少女で文武両道だが、気高くてわがままな令嬢でもある。少年はこの令嬢を気に食わないので、2人の仲はいいとは言えなかった。

 そんなある日、運命を変えた出来事が起こった。少年が皇帝を刺客から救ったことによって、郡主(親王の娘)と結婚することに命じられた。

 その娘は文芸に上達し、礼儀も正しく、少年とお互いに一目惚れするようになった。少年の家族は政略結婚で皇帝に対抗するつもりだったが、この件により、破談になってしまった。この結婚に最も反対するのが令嬢なのだ。少年との仲が悪いものの、惚れた方なので、第一夫人になることは夢も見たのだ。この事態はどう見ても最悪だと思われるものだった。

 結局、皇帝の権威に対抗できぬ両家はやむを得ず、郡主が少年の正室になることを受け入れて、どうしても少年と結婚したい令嬢が妾の方になってしまったのだ。

 結婚してしばらくして、少年と郡主の間に子供ができた。これを知った令嬢は妊娠した郡主を毒殺、あるいは流産を図ったのだが、少し毒を口にした郡主はすぐ体調に異変が起こして、命を取る程の量が取れなかったので、医者の調理によって、子供まで無事に生きられた。毒を盛られたこともこれでバレてしまったが、心優しい郡主がもしこの事皇帝に知られたら、令嬢のところが、その家族のみんなが皆殺しになることがあり得るのに考えて、黙る代わりに、少年が令嬢に離縁を申し出た。

 恥を感じた令嬢は自分の部屋の中で、白い絹で自らの命を絶ってしまった。令嬢の不憫を感じた少年と郡主の夫婦2人は、令嬢を家族として、厚く葬式をしたが、令嬢の怨念はそう簡単に消えず、ずっとこの世に残っている。

 時代の変遷は令嬢の自我を失わせて、怨念だけが残されている。その墓地も現代の住宅地に塗り替えられて、祈たちが通った垣根の元にあった。


「こうして、薫がヤキモチの感情が生み出された時、その怨霊に取り憑かれた。」

 祈の裏人格がこの事の全体を2人に伝えた。

「私が…ヤキモチした…?そのつもりはないはずなのに…。」

 薫はこういう自分に情けなく感じた。

「ヤキモチ焼いても恥ずかしいことではないんだぞ。祈のことをよっぽど大事に見ているからこそ、ヤキモチになるんだ。要するには、そのヤキモチに自我を失われないこと。自我を失うと、自分や他人を傷つける過ちを犯すかもしれない。」

 祈の裏人格が薫に語る。

「でも、その話が本当だとしたら、その令嬢、その魂はどうなるのですか?」

 薫は令嬢の哀れな運命に同情した。

「まず自殺した魂は天界に昇れない。それ以上、転生なども不可能のことなんだ。」

 祈は答えた、

「何の理由があろうと、自殺した魂自体は重みがあって、例え天界に昇ったとしても、いられない。そして、天界の者も自害することができない、考えることもできない。だから、天界の者はみんな一生懸命楽しく過ごさなければならない。」

「では、さっきのは?」

「あれは人間界で所謂『地獄』という場所への扉。自殺した者は業が深いから、そこで苦し続けなければならない。」

「そんな…あんまりです。」

「そう思っても、それが本人が選んだ道だから仕方ない。生きてる人間は冥福を祈って言っても、自分の心を慰めるだけなんだ。実はそれが救われない魂だと、誰でも知ってるはずことだ。」

 これを聞いて、薫は手で顔を覆った。

「やっぱりお前は変わらず感傷しやすい奴だ。」

 背いた祈はこう言った。

「君はいったい…。」

 精衛はこの神秘な裏人格に益々謎を感じた。

「前言った通り、今は言う時ではない。では、これからお前ら3人の時間だ。またの機会で会おう。」

 と言いつつ、祈の元の人格が戻ってきた、

「あれ?まただ。って薫は?」

 と薫に顔を向けた。

「まあ、大変だったけど、祈さんの裏人格が助けてもらった。」

 精衛は涼しい顔で祈に言った。

「何か精衛さん、目冷たい。」

 祈が訳分かるはずもない、

「あっ、薫、本当にもう大丈夫なの?」

 祈が一番心配するのはやはり薫なのだ。

「うん。心配かけてしまってすみません。」

 薫は確実に祈の裏人格が言ったことに実感をした。涙を振り切って、祈に笑顔を向けた。

「何が面白いのよ。まあ、いいか。」

 祈も連動で笑顔が出た。

 窓辺に佇んでいる精衛はやがて顔が浮かれない。

「もし…が他の女の子と仲良くして、その娘は「ただの友達」と言ったら…。」

 と、祈の裏人格が言った話が精衛の頭から離れない。

「何故、その名前を知ってるんだ。」

 精衛は歯をくいしばった。

 いつの間にか、李も枝から姿が消えた。



 とある広い古典的な宮殿式の部屋。部屋には

「申し上げます、猟犬13号が討ち取られました。」

 鎧を身に付けている兵士が報告する。

「何じゃと!?」

 報告を受けた者はとても衝撃を受けた、

「バカな!あいつは精鋭なのじゃぞ!どいつにやられたのか!?」

 その人が兵士に問いかけた。

「に、人間の童でございます。」

 兵士は戦慄しながら報告した。

「は!?人間の童じゃと?」

「はい、しかも猟犬13号の結界に、とんでもない技を使って、まるで…。」

 兵士は恐れ恐れに言い切れない。

「まるで何じゃ?」

 その人も気になってきた。

「まるであの時の…でございます!」

 兵士がその名前を言い出す時、その人も恐怖に堪らず、

「まさか、あいつはもう、死んだはずじゃ!いったいどういうこと何じゃ!」

 その人はやがて、腰が抜けて、地面に座り込んだ。



「本当にごめん!」

 手を合わせて、薫に謝る祈。

 事情を聞いたら、どうしても薫を奢るって言う祈は薫をファミレスに連れて来た。

「もういいですよ。私こそ謝らなければならないです。私が勝手に変なことを考えたから、この事が起きてしまいました。ごめんなさい。」

 薫もまた祈に謝る。

「でも、本当にいいですか?精衛さんを一人家に置いて。」

 薫はやはり優しい子だ。

「2人で行っていいって言ったんだけど。」

 祈は精衛が誘いを断ったことを薫に話した。

「やはり精衛ちゃんも今回の件で傷つけられたと思います。」

 薫はこう直感している。

「そうだな。でも何で?僕何した?」

 祈はこの件の記憶が不完全なため、心当たりがないことは無理もない。薫もまた昏睡状態の時間も長かったため、精衛と祈の裏人格の間で起こったことを知る由もない。

「やはり、後2人で精衛ちゃんに会いに行きましょう。」

 と提案する薫。

「そうしよう。」

 祈も了承した。



 祈の部屋は暗くしている。

 部屋の中、精衛は椅子の上に自分を抱えて座り込んでいる。

 やはり過去の悲しい記憶が思い出されたのだ。今までずっと現実逃避のように忘れていた記憶が祈の裏人格により、少しずつ、蘇ってきた。

 ぽろり、またぽろりと、涙がこぼれてきた。

「何で一人で泣いてるの?バカみたい。」

 精衛は涙を振り切りながら、自分のことをツッコんだ。

「精衛ちゃん、こんばんは。来ちゃいました。」

 この時、薫と祈が部屋に入った。

「落ち込んでるのが分かるけど、いつまでもこんな状態でいられないんだよ。」

 祈は電気を付けて、精衛に話を掛けた。

「うん、ありがとう、祈さん。」

 精衛は話を聞いて、気を締め上げた。


 あるランプだけがつけている一室に、李はヘッドフォンをつけて、

「はい、そうなんです。了解しました、対象を監視し続けます。」

 とヘッドフォンを外して、口から笑みが隠しきれない、

「面白くなってきたな。」

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