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ヘブン-Heaven  作者: 中野八郎
ルミナスヘブン
7/12

漆 最初の戦闘(林祈編)

「いや、祈さん、助けて!」

 夢の中で笠を被っている男に鞭撻されていた精衛は苦しみに耐えず覚めてきた。

 彼女は温かい布団の中にいる。目を開くと、見たのはもう住み慣れた祈の部屋だった。

「これが夢?それともさっきのは夢?」

 精衛は思っている。あの男にあんまり傷つけられたから、もうまたこの安堵を感じられる場所に戻れるのを信じがたくなった。

「どうしたの?悪夢でも見たか?」

 祈は精衛の声で覚めた。

「ここは夢じゃないの?」

 精衛は現実を感じられない。

「バ~カ、僕は君が思ってるように動いてるのか?」

 祈は優しく精衛の頭を撫でながら言う。

「いいえ。恥ずかしいから、もうやめて。」

 精衛は子供に扱われるのは嫌いではないが、流石に恥ずかしくなる。

「あっ、ごめん。」

 祈もそれで照れてしまった。

「でも良かった。祈さんも生きてて、私も助けられて。」

「一体何があったの?昨日精衛さんは夜になっても帰って来なくて、心配して学校へ行ったが、その後の記憶はまたなくて、気づいたら精衛が僕の腕の中にいた。」

 祈はやはり肝心な戦闘についての記憶が全くないのだ。

「実は私はあの男に捕まって、殺されたところだったの。意識がぼやけたけど、祈さんが助けてくれたことは少し覚えてる。」

「えっ、僕が?」

 祈はやはり信じにならない、

「でもどうして僕は何も覚えないのか。」

「それはまだ調べてるの。でも祈さんの中に眠っている力の持ち主はたぶん敵じゃないと思う。」

 精衛はもう一人の祈の人格に理由もなく信頼をしている。



 話を昨夜に戻す。

 祈は家に着いて、ポストで不気味な封筒を見つけた。慎重に封筒を開いて、中身を取り出すと、

「あの小娘は我が手にいる。救いたければ、一人で学校に来い!然もないと、この娘の命はない。それにこの娘は今は裸同然よ。寒いから、早く来ないと凍死されるかもよ。」

 という内容が書いてある。

「ヤロウ!」

 祈は読んだ後、瞳が赤い光になって、怒りが抑えきれなく、手紙を封筒ごと灰になるまで燃やし尽くした。

 そして家にも入らず再び学校へ向かっていく。


 祈が学校に着いたら、直ぐに異様な感じた。

「結界が張られてるか。」

 そう言いつつ、3人の男が祈を囲んだ。

「小僧!今日ここは貴様の死ぬ場所だ。」

 その中の一人が祈に暴言を吐き出す。

「おほお、よく口に出すな。」

 祈は薄笑いして、目には3人ともいない。

「こいつ、喰らえ!」

 挑発を受けて、もう一人の男は最初に祈に攻撃をかけて来た。

 祈はそれを余裕に避けた。そして、一瞬でその男の背後に回って、その男を蹴り飛ばした。

「何なんだこいつ、親分が話したと違う!」

 この景色を見て、3人の男は祈が親分の男が話した「ただの凡人のガキ」という情報とかなりかけ離れていることに驚いた。

「どうしたの?さっきの威勢は?」

 今の祈は3人の男に見られるのは鬼しかいない。

「許してくれ!」

「命だけは!」

 3人の男は四散して逃げようとしたが、祈は容赦なく『草木皆兵』で3人を殺した。その3人の死体は獣の形に化して、枯れ果てた。


「他愛ないざっこだったな。」

 祈は無愛想に言った。そして振り向いて、

「そっちにいるのは誰?出て来ないと、容赦はしないよ。」

 祈は時計塔の天辺に立っていた少年に向けて、脅かした。

「いや、怖い怖い。僕は()らないよ、敵じゃないから。」

 その声は正に李なのだ。彼は大人しく地面に降りて、祈の目の前に立った。

「お前は昼間の…」

 祈の裏人格は普段隠しているが、外の様子はいちいちはっきり見えている。

「君こそ、昼間と全然違う雰囲気してるね。」

 李はこう言う。

「ちょうどだ。前から聞きたかったんだ。お前は何者?人間の魂を持ってるにも関わらず、肉体は人間のものではない。再生されたものか。」

 祈はやはり李のことを見透かしている。

「流石大先輩。でも今は僕のことを内密にしてほしい。」

 李はあっさりと祈の言うことを認めた、

「今は身分を隠す必要があるから。」

「でも俺だけじゃなくて、あいつもお前の変装を一目で見破れたのよ。」

 祈は精衛のことを言った。

「それは僕より修行が高いからだ。一応自分より修行が高い者を騙す能力もあるが、その必要はない。戦っても勝ち目はないから、いっそう体力を保って逃げるのが上策なんだ。」

「そうか。だから薫とも契約したのか?」

 祈は薫と李が契約したのも見破れた。

 祈の裏人格は薫に特別な感情はないが、何やらちょっと嫌な気持ちがした。

「流石というか、案の定だね。そうよ、契約している。」

 李は祈に白状した、

「僕は約一年前、人間界(ここ)に来たの。秘密の任務のために、潜伏させられた。そこでその娘に協力して貰えた。この契約もあの娘を守るためにあるものだ。安心して、手出す訳じゃないから。」

 李は祈に弁明する。

「いや、言わなくていい、あの娘とは何にもないんだ。手出すかどうか俺と関係ない。」

 裏人格は表人格と全く違うのだ。

「いやいや、流石にもう一人の林くんは可哀想だから手は出さないよ。」

 李も自分があくまでも任務にいることに自覚している。

「その話はどうでもいい。ここに張っている結界は感じたのか?」

 祈が一番心配なのは精衛だ。

「もう放課後からずっと張られたが、なかなか入られない。」

 この結界が外から入らないことを祈に伝えた。

「外から入らないタイプだな…。」

 と祈は情報から分析した結果。

「林…くん?っていいんだよね?」

 李は裏人格の祈への呼び方に戸惑った。

「うむ、いつも通り呼んでもいいよ。同時に出ている訳でもないから。」

 祈は2つの人格が同時に出ることがないと示した。

「林くんは何か考えがあるの?この結界を破る方法。」

「この結界自体は強くないが、複雑な組み方でややこしいものだ。例えたら、蜘蛛の糸とかみたいに弾力があって、粘性もあるのが、結界の中へ侵入を阻止しているの。」

「流石大先輩。直ぐ分かったね。僕も薄く感じたが、構造がさっぱりだった。」

 李は祈の凄さに感心した。

「安いものだ。知っていても破れないなら意味がない。」

「そうだね。糸口が知れれば良かったのにね。」

 李はにこにこしながら、祈に言う。

「俺に試してるの?」

 祈は李に冷たく聞く。

「あれ?バレちゃった?」

 李は表情を変えず、テヘペロをした。

「お前は何故そこにいたと思われないと思うのか?」

 祈は最初から李がそんなバレやすい場所にいた理由が直ぐ分かった。

「やっぱり大先輩の前で隠しきれないね。」

 李は祈に報告すると、

「そうよ、この結界はとても弱いのよ。そこから何とかできるかと思ったけど。」

「無理だったか?」

「少なくとも僕は無理だった。大先輩なら、できるかもよ。」

「善は急げだ。」

 祈はこう言いつつ、直ぐ様時計塔の天辺に飛び上がった。

「なるほど。」

 祈は直ぐ解く方法を知って、それを試み始めた。


 一方、精衛は笠を被っている男に蹂躪されている。精衛はもう何度目か分からなくまた気絶してしまった。

「ん?何者が俺の結界に侵入しようとしてる?バカめ、この結界はあの大方が作った術式でできたものだぞ。そう簡単に入らないぞ!」

 男は自慢に言って、気絶した精衛の顔を撫でながら、

「そんなに必死にお前を助けようとしてる者がいるのよ、感動。でも無駄だぞ、ここは俺たち2人だけの世界なんだぞ。お前を死ぬまで俺に弄ばれ続けるぞ。本はお前を一生俺の奴隷にしたいんだが、大人しくないお前が悪いんだぞ。だからお前が死ぬまでお仕置きをするぞ!」

 言いながら、また鞭で意識を失った精衛を叩き続ける。


 結界の外で、祈は両手の手首を合わせて、右手は人差し指と中指を合わせて上へ向かせ、左手は親指で中指を押さえて、残った3本の指が下へ向かせた形で、結界を破るための術式を展開する。

「草木花葉、我が伝承、世間万物、其れ生かせ!」

 祈の足元に術陣が呪文と共に展開された。

「すごい。」

 李は祈の強さに感服した。

 祈は左手にある指輪に、

「契約の元より、向こうに召喚せよ!」

 指輪が光って、目を閉じた瞬間で祈が李の前に消えた。

「入った!?」

 李は祈の成功に驚きを感じた。

「僕はまだまだ頑張る必要があるね。」

 と手首の腕時計を撫でた。


 …



「でももう大丈夫だよな。」

 祈は男を倒した記憶がないため、まだ心配している。

「大丈夫だよ。あの男の気配は完全に感じられないの。」

 精衛は祈が余計な心配をさせないと話した。

「ホントなのかな…。」

「私の話信じてくれないの?」

「そうじゃなくて、死ななければ、また精衛さんに害を及ぼすんだよ。」

「ありがとう。でもほんとにもういないから。」

「じゃあ、精衛さんはこれからはどうするの?帰るつもりなの?」

 祈は少し寂しげに精衛に聞く。

「いいえ、私の任務はここからだから、よろしくね、祈さん。」

 精衛は笑顔で祈へ手を伸ばした。

「うん!」

 これから精衛といられると思い、祈の気持ちも晴れて、その手を握った。

 この瞬間はちょうど薫に見られた。


 遠くない電柱の影に、李もその場面を目撃した。

「これからは楽しそう、大先輩。」

 とにやりする李。

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