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ヘブン-Heaven  作者: 中野八郎
ルミナスヘブン
6/12

陸 最初の戦闘(精衛編)

 深夜の校舎には誰もいない。

 普通は巡視する警備員はいるはずだが、何故か今夜は一回も来なかった。

 静かな廊下は水が垂れる音だけが響いている。仰いだと、天井の方から何本かの鉄の(くさり)が闇の底に伸びている。その鏈の下を探ると、一箇所に集中して、服がボロボロになっている少女が縛られている。傷口から血が止まらず、地面へ落ちこぼれて、血溜まりまで出てきた。

「クハハハハハ、こんな日がようやく来たな!その日の恥がやっと晴れられた!」

 少女へ向かって、笠被っている男が狂喜を隠さずに大笑いしていた。

「卑怯者め、これで勝てると思ってるのか!?」

 少女は不服な態度で男に怒りをぶちまけた。その少女は精衛だった。

「この小娘!負け犬は何の口で言うのか!?」

 男は手にした刺付いてる鞭で精衛を叩いた。精衛はその痛みに耐えられず、絶叫をあげた。

「実に心地よい声だ!もっと叫べ!もっとその可愛らしい声で俺を楽しめろ!」

 また一回の叩きに応じて、精衛は声をあげた。

「ごめんね、祈さん。もう…。」

 精衛は心の中でそう思って、涙が一粒落ちていった。



 7時間前に遡って、放課後の教室。

 精衛ともう一人の男子は日直当番のはずだが、その男子生徒がどう待っても来なかったのだ。

 結局、精衛一人で掃除を終えて、帰ろうとする時、やがて不自然に感じた。

 精衛は校内を回ると、生徒だけでなく、全校ではみんなが蒸発したように誰もいなくなっていることに気づいた。放課後と言っても、この時間だと、部活をしている生徒や先生たちはまだ学校に残っているはずだが、誰もいないことはやはり怪しく感じる。

 精衛は3週間掛けて、怪我はほぼ治したが、今の状態はまだ戦う最適なところではないので、とりあえず、戦いを避ける選択をした精衛は、校舎を出ようとした。

 しかし、階段はいくら降りても、一階には着けず、所謂、学校の七不思議でよくある噂のようなことだ。

「笑止、こんな術で私を閉じ込められると思うのか?」

 精衛の両手には2本の短刀が、右手は順手持ち、左手は逆手持ちで現れた、火の神刀『業火鳳凰』は、女媧が補天石を採掘するために冶った、硬さと鋭さがかなり有名な金属で、精衛への贈り物として作られた武器である。切れ味はもちろん劣るものではないのだ。

「何者だ!こそこそしないで、出て来なさい!」

 一瞬で霊装姿になって、戦いに備えて、武器を手にした精衛は敵に挑み始めた。

「さすが新鋭と期待されている精衛様だな。」

 精衛の背中の方向から、男の声がした。

「お前か!」

 その男は正にこの前祈が撃退した笠を被っている男だ。精衛は容赦なく男へ斬り掛かった。

「やる気満々じゃん。」

 男は不気味に笑いながら、精衛の攻撃を避けた。

「問答無用だ!」

 攻撃を避けられた精衛は勢いを返して再び男に斬り出し、男は狩猟銃を取り出し、その攻撃を受け止めた。

「ハハハ、いい勢いだ!」

 男は挑発のように2回連続攻撃を解消した事で精衛のことを嘲笑(あざわら)った。

「貴様!」

 精衛は挑発を受けて、無我夢中、全身全霊で男と戦い始めた。

「いいねいいね。こうでなくちゃつまらないんだよな!」

 男はずいぶん余裕がある様子で精衛を挑発しながら戦うのだ。

「このぉ!絶対お前を倒す!」

 精衛は完全に冷静さを失っている。

「この猪突猛進の素直さ、何と愛しい。益々お前を可愛がってなりたくなるぞ。」

 精衛はもはや男のペースに嵌まり込んだ。

「さっきからブツブツ言ってて、うるさいんだ!」

 精衛はまた一発の攻撃を男に止められた。それで精衛はもう攻撃することしか考えなくなった。

「いいこと教えてあげよう。」

 そんな時男は精衛に言い出した、

「実は俺は3日前からもう、お前を始末することを考えていた。ただ、あの小僧はお前とずっと一緒にいるのは厄介だから、なかなか隙間がないな。どうすればお前を、絶望と悔しさを味わせるかはな。そこで、やっぱりこういう空間でしかないと思いついたな。」

「何だと!?どういう意味だ!?」

 精衛は一旦攻撃を止めて、男に話を聞く。

「この空間は敵の攻撃などの動きを全部読み切って、弱体化することができるんだ。それに、結界の作用で、外部からの侵入も不可能で、俺を倒す以外は破ることができない。」

 こう言いながら、男は手を挙げて、指で精衛に向かって横に振り切ると、紫色の光が精衛に真っ直ぐ射て向かう。精衛は業火鳳凰でその光を防いだ。

「弱くなっても、貴様のようなざっこを退治するにはもう十分だ!」

 精衛は男を睨みながら言う。

「そうなの?なら見せてもらおう!いつまでその生意気が続けられるかをな!」

 そう言って、男が消えて、紫色の光が次々と様々な方向から射して来た。

「待て!」

 精衛は男を追おうとするが、紫色の光が続々と攻撃してきたせいで、その隙を与えてくれなかった。


 日がだんだんと暮れていくのだが、紫色の光が止まる兆しが全く見えない。

「クソォ!これだとキリがねぇ!」

 精衛の体力は既に限界だ。攻撃を防ぎきれない精衛は、一束の紫色の光によって、業火鳳凰を弾き飛ばした。武器も失った精衛は体を支えられず、地面に跪いた。

「見事だな!」

 男は再び現れた、

「3時間も防ぎ切ったのは実にいい。ご褒美を与えて賜えないと。」

 男の手が振られると、天井に現れた闇の中から鏈が出てきて、もう指一本も動けない精衛を縛り上げた。

「な、何をする気だ?」

 精衛はいくら散々戦ったと言ってもやはり女の子だ。こんな為す術もなく、敵にされるがままに怖さしか覚えない。

「もちろん、こんなに頑張った子にご褒美になんだよ。」

 と言いながら鞭を高く挙げて、力が尽きるように、全力で彼女に叩きかかった。

「ガッッ!」

 叩かれて直ぐは痛くなかったが、間もなく激痛が精衛に襲いかかってきた。精衛はその痛みに耐えられず、悶絶した声を出した。当たったところも服ごと切り裂かれて、できた傷口から血が滲み出てきた。

「何だ?その可愛らしい鳴き声に耐えるつもりか?もっと鳴れ!」

 男は再び精衛を叩いた、精衛はまた声を我慢した、

「ガキのくせにいい意気だな。もう一ついいこと言おう。お前を救った小僧は今はもう俺の手下に始末されたはずだ!嬉しいだろう?仲良く2人は共に地獄に落ちるのが実にいい話だろう?否、このまま消えるのか、ハハハ!」

 これを聞いて、精衛の心はやがて折れた。話を伴う鞭の叩きの痛みに敵わず、高い悲鳴をあげた。

「何と美しい声だ!絶望と恐怖を含めた小娘の悲鳴は何度聞いても飽きない!もっと聞かせろ!」


 男は狂ったように、いいえ、もう狂っていることで精衛を叩き続けた。男は自分の憎しみ、恨み、汚い欲望をひたすら精衛に注ぎ込んだ。精衛はその絶えない激痛の中で、何度も気絶してしまっても、男は叩き続ける。精衛の服が体を遮れないほど、体も血まみれになっても、男は止めることはなかった。血が体に沿って、足先から垂れて落ちて、少しずつ貯まってきた。

「もう…誰が助けて…父上…女媧様…祈さん…。」

 精衛は心の中で助けを求めた。でもこの祈りは誰にでも届くはずもないものだった。

「祈さん…ごめんね。私のせいで巻き込まれたらごめんなさい。どうか無事にいて。」

 自分がもう助けられないと悟って、死の運命(さだめ)を受け入れようとする時でも、せめて祈の安全を期したい精衛がいた。

「もう反応さえできないのか。せっかくいいおもちゃを手に入れたと思ったのに。まあいいか。」

 男は不気味な笑みが出て、掌で精衛の顔を撫でながら、虚ろな目を見て、

「じゃ、優しい俺が君に(とど)めを刺してあげよ。」

 と言いながら、猟銃を構えて、精衛の心臓のあたりに銃口を定めて、

「さらばだ!」

 と引き金に指を掛けて、引こうとした。


 銃声が響いたが、それに伴って、猟銃が飛ばされた。

「なっ!」

男が振り返ったら、祈が猟銃を蹴り飛ばした勢いで男を蹴り倒した。

「よう間に合ったようだな。苦労したけど。」

 祈の瞳にまた赤い光が輝いている。指輪も銀色の光が輝いている。

 祈は手を上げて、指パッチンをしたら、精衛を縛っている鏈が一瞬で切れて消えていった。支えを失った精衛が落ちようとしたとき、祈はお姫抱っこで精衛を受け止めて、ゆっくりと床に横にさせた。そして上着を脱いで、精衛に被った。

「よく頑張ったな。君をそこまでさせた自分が情けなく感じた。この仇は俺が執る。」

 祈は精衛の乱れた前髪を直して、優しく話しかけたが、精衛は既に気を失っている。


「この青二才が!」

 男は鼻血を拭きながら、祈に立ち向かった。

「草木皆兵!」

 と祈の周りから草の葉がいっぱい現れて、一斉に矢のように男に射て行った。

「ガッッ!」

 ただこの一撃、男は満身創痍になった。

「この前、お前の命を許した俺はやっぱり甘かったから、精衛をこんな目に合わせた。だから、精衛にこんなことをした以上、お前を生かせることはもうできない。地獄で自分がしたことに後悔をすればいい。」

 祈の目には無情しかない。

「くっ、お前!調子乗んなよ!ここは普通の場所に見えるが、俺が張った結界何だぞ!」

 男は負けを認めず、再び攻撃を企んだ。

「結界?笑わせるな。こんな結界は俺に何ができる?精衛がこの坊主と契約したおかげで、容易く入り込んだんじゃない?」

 祈は指輪を示しながら言う。今度は男が嘲笑われた番になった。

「この小僧、俺のことナメるな!」

 男は鞭で祈へ攻撃を打ち出した。

 祈は避けるつもりもなく、

「翦草除根!」

 祈は鞭を振り来た男の右腕を、目で見えない速さで斬り落とした。

「ああああああ!」

 男は絶叫した。それだけでなく、同時に両足も太ももから斬り落とされた。男は慣性でそのまま突っ飛ばして、祈の足元に伏し倒した。

 祈の周りにはたった一枚の血が付いている葉っぱだけだった。

「おのれぇ!」

 男は残された一本の左手を差し出し、また抵抗しようとしたが、その腕も無惨に斬り落とされた。

「精衛に与えた苦痛はちゃんと味わないといけないな。」

 祈は冷たい目で倒れている男を見下ろして、

「煎草煮葉!」

 すると、男の体は蒸気に包まれて、

「あああああ!熱い!熱い!」

 精衛は男をそこに置いたまま。精衛のところに行くと、術式が発する金色の光が精衛を包んで、精衛の体に付けられた傷を次々と治していく。

 祈は温かい目差しで眠っている精衛を見つめながら、優しく頬を撫でた。

「小僧めぇ!この俺様をこんな目に!」

 男はまだ抗おうとしている。

「そろそろだ。」

 祈は無表情で男のところに戻った。この時手には投矢が現れた。これも世界が誕生した時に生まれた僅かにある金属で作られた武器である。それは『森斬剣(しんざんけん)』という飛び道具に分類される武器なのだが、手にする時は斬ることもできる遠近両用の武器である。この『森斬剣』は持ち主の祈の意思で自由に操られる。

「貴様、何をする気だ?」

 今度は男が恐怖を感じる立場だった。

「何を?それは…、」

 祈は『森斬剣』を振って、男の首に斬りかかった、

「もちろん止めをな!」

 言葉と同時に、男の首が地面に転がって、返り血は祈の正面を真っ赤に染めた。

「こいつも死んだから、この結界もいずれ崩れるだろう。」

 祈が独り言で言う。

 こう言いながら、精衛を抱き上げて、結界から抜け出して、返り血も消えて、精衛も制服姿に戻った。

「一緒に帰ろうか…」

 そう言いつつ、祈は再び前と同じようにいつもの意識に戻った。

「あれ?どうしてこんな時間で学校に?」

 祈は仰いたら、学校の時計塔に今が深夜11時頃だと分かった、そして両腕に重さを感じ、俯いて見たら、

「ええ!?何で精衛さんを抱えてるの?何があったの?」

 と混乱している祈。


 時計塔の天辺にこれを見ている李がいる。

「面白いもの見せてくれたな。」

 と不敵な笑顔が出た。

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