伍 想像外の転校生
精衛が来て、一週間があっという間に過ぎた。
「これでよし。」
祈が精衛に薬を交換して、服を直した。
「ありがとう。毎回は迷惑かけたな。」
祈が毎日世話にされて、感謝の気持ちに情けないのもある。
「そんなこと気にしなくていい。ところで、具合はどう?良くなってきたか?」
祈は話題を変えて、精衛に負い目の考えをさせないようにした。
「うん、祈さんのお陰で。」
精衛は素直に祈に気持ちを伝えた、
「幸い、最近も平和だったんだね。」
この一週間は何の事件でも起こらなかった
「たぶん、相手も傷を治している何じゃないの?」
精衛の話から聞いたのだが、あの男も結構ひどい怪我をしたようだ。
「そうだけど、あの男より早く治しなくちゃ。」
精衛は一刻も早く治したい。万が一怪我がまだ治ってない時攻めて来たら、やばいことになると精衛は思う。
「焦るのは禁物。精衛さんの気持ちは分かるが、焦っても仕方ないだろう。安静で怪我を治すのに専念しよう。」
祈は精衛にこう言う。
「あっ、もうこんな時間。明日はまた月曜日だ。早く寝よう。」
祈は時間に気づいて、精衛にも言った。
「人間ってやっぱり大変だな…。天界もそうだけど。」
精衛は感慨深げに言う。
「大変でも、人間であることが好き。だって、能力が大きいほど、責任が重大てことから、人間っていいなと思うよ。」
祈は自分の感想を精衛に伝えた。
「やっぱり祈さんは面白いと思っちゃうんだ。そうね、天界の者は、不老不死の身になって、何も楽しい事もできない。様々な任務に回されて。唯一は女媧様が母のように私を慰めるだけだ。」
精衛も自分の心境を祈に伝えた。
「精衛は怪我を治して、敵を倒したら、天界に戻るの?」
精衛がこう言った。いずれは戻ると思って、寂しさが溢れて来た。
「そうだと言ったら、寂しくなるの?」
精衛も今回の事件があったから、祈と出会って、仲良くなったと思って、帰ったらまた寂しくなると思う。
「さあ。」
祈はやっぱり自分の弱さを女の子に見せたくない。
「そう。祈さんは強いね、私みたいじゃなくて。私はやっぱりまだ弱いな。」
精衛は肯定的な答えが貰えないことに落ち込んだ。
「違ぇよ、バカ。」
祈は口に出さずに思った。
翌朝、薫はいつものように、祈と登校の誘いに来た。
「ごめん、今日は一緒に学校に行けないんだ。先に行っていいよ。」
精衛は申し訳ないと合掌して、一緒に登校するのを断った。
「そうなのか。分かった。」
祈はちょっと食わない気持ちで薫と学校に行った。
「精衛ちゃんと何がありました?」
薫は様子を見て、祈に訪ねた。
「い、いや、何でもない。」
精衛が帰ることに寂しく感じたことは薫には言えない。
一方、家にいる精衛は姿見の前で、満足そうに笑顔になった。
一限目の授業が終わって、担任の先生、王植偉が教室に入った。
「は~い、みんな静かに。」
生徒たちが一旦静かになって、王先生は、
「諸君、今日は新しいクラスメートが来た。姜衛佳という女の子で、みんなで歓迎しよう。」
王先生の声に従って、祈がよく知っている面影が目の前に現れた。
「ああ、美少女だ。」
「何でうちのクラスに?」
「夢じゃないよな。」
など、美少女が落ちこぼれのクラスに転入するなんて、御伽噺でもそうそうない話だ。
「ウソだろう!?」
祈も目が丸くなるほど驚いた。
何故なら、その美少女はまさに今まで自分の家に住んでいる精衛なのだ。
学校の制服姿をしている『姜衛佳』は礼儀正しくお辞儀をして、
「姜衛佳です。みんなよろしくね。」
と祈にウインクをした。
祈は固まっていた。
「な、なんじゃこりゃ~!」
「で、これどういうことで説明して。」
昼休みの屋上で、祈は精衛に説明を求めている。
「説明って、普通に転校生になったわけだよ。」
精衛は涼しげな顔で答えた。
「いやいやいや、普通って。そもそも君はどういうつもり?ていうか、どうやって学校に書類を提出したのか?身分証明などはないんだろう。」
問題が多過ぎて、どこからツッコむか祈は分からなくなった。
「いや、身分証明はそこまで難しいことじゃないよ。祈さんのパソコンを使って、戸籍のデータを細工しただけだよ。」
「おい、それが立派な犯罪だろう。」
「別にいいって、バレなきゃ。」
精衛は言って変顔をした。
「ていうか、よくできるよな。一晩でパソコンをそこまで使えるなんて。」
祈の特長であるパソコンはまさか精衛が一晩でベテランレベルに達したのに悔しく感じた。
「神通力も使ったからできたのよ。普通の手段で改竄するなんて、流石に簡単にできないわ。」
精衛は説明した、
「それに学校に来るのも、一応怪我はだいぶ治してるし、あいつも治ってるかもと考えると、やっぱり学校に来て、一緒に行動するのが上策だと思う。」
精衛は続いて説明して、
「それにこの戦いは長期化になりそうで感じたから、こっちの生活を早く慣れないと支障も出ると私が考えた。」
「要は分かった。」
精衛は怪我が治してもしばらく帰らないことを知ると安堵感を得た祈は、
「精衛さんはこっちのルールとか多分知らないと思うから、一応僕が言うことを聞いてくれよ。」
「はい、よろしくね、祈さん。後、学校では一応『姜衛佳』の名前で呼んで貰うわ。」
「分かった、佳ちゃん。」
「何でアイツが美少女の姉妹とイチャイチャできるのかよ!」
「羨ましい、俺もそうしたい!」
祈の両手は姜衛薫と姜衛佳、2人の美少女に掴まれている。
廊下で一緒に行動する3人がめっちゃ注目され、特に祈は男子たちから怨みの視線が注ぎ来るのが、不快を感じた。
「流石にやばいんだよ。」
「美少女2人に寄り添うのが不満?」
薫が祈をからかって言う。
「そうよ、めっちゃハーレムじゃない?しかも、し・ま・い・ど・んって言うことかな?こういうことはあの男子たちが夢でも見たいことだよ。不満って言わないよね。」
精衛もノリノリに言った。
「いや、不満というか。痛いよ、視線が。殺されそう。」
祈は自分の気持ちを正直に言った。
「無視すればいいじゃん。別に祈さんは女たらしじゃないし。」
精衛が言う。
「いや、どう見てもそうだろうが。」
祈は反論する。
「気にしない気にしない。」
薫もそう言う。
こうして、祈はほぼ全学校中の男子の敵だと見られてしまった。
「よ、林くん。」
放課後、李は祈を呼び止めた、
「これが噂の今日から来た転校生なの?」
「そうだけど、好きなタイプなの?」
李との仲がいいと言っても、精衛が他の男子に目をつけられたのは無闇に嫌な気持ちが湧き出した。
「いえいえ、そんな。ただ気になるだけなの。」
李は微妙な視線で精衛を見つめる、
「知り合いに似てるなと思って、似てると感じた。もしかして、先日嗅いた女の匂いはこの子なのかな?」
李は興味深く祈に聞いた。
「冗談は止せ。流石に初対面の女子には失礼だろう。」
祈は李の異常さを感じた。
「ごめんごめん。林くんも知ってるだろう?私が『見える』って。」
祈は李が『見える』体質だということを知っている。李はこれを強調した。
祈は脅威を感じた。もしかしたら、精衛が人間でないことは李の『見える』体質でバレてしまう。と、
「知ってるけど、何言ってるんだ?この子が何か言いたい訳か。」
「いいえ、別に。匂いのことも『見える』だけの話。」
李は理由を言った。
「そうか。じゃあ、またあした。」
祈は逃げるように、早く精衛をその場から連れ去りたい。
「またあした。」
李も普通に返事した。
帰り道で3人が歩いている。
「あの人が祈さんの友達?ずいぶん関係が良さそうだけど。」
精衛は祈に李のことを言い出す。
「あいつは李宅。腐れ縁って感じかな。」
祈は精衛に説明する、
「何かした?気持ち良くない?」
「いや、何というか。祈さんとの付き合いが長いなの?」
精衛は祈に聞く。
「いや、入学してから知り合いになったけど。どうしたの?」
「李さんは、人間じゃない。少なくとも、普通の人間じゃない。あるいは、取り憑かれてる可能性もあるのよ。」
精衛は自分の感想を言った。
「ええ!?」
祈は精衛の発言に驚いた、
「あいつは?どういうこと?」
「私たち天界の者は、人間の目で見えないモノが見える。李さんは偽装、あるいは取り憑かれて、とにかく祈さんが見えるのは、彼の本来の姿ではないのよ。」
精衛は祈に真実を伝えた。
「そうだとしたら、やばいじゃないか?」
「多分そこまで心配しなくていいと思うけど、一応敵意は感じてない。でも少しも注意した方がいい。」
精衛は祈に言う。
「分かった。とりあえず、今まで通り接して、余計な言葉は話しないということだな。」
「とりあえずそうするね。」
遠くない場所にある電柱の上に立っている李の目は赤い光が妖しく輝いている。