エピローグ
そこには私だけが立っていた。
ああ、無事生き残ったんだ。
周囲に散乱するぬいぐるみの部位に、また新しい色が増えていた。ここまでくると、ただの裁縫中の家庭科室のようにも見えてくるから不思議だった。ちっとも怖くない。
それは私が重圧から解放されたからなのかもしれない。私はあんな風にはならないと、分かっているからなのかもしれない。
今、無性に安堵のため息っていうのを吐きたい。そう思う。
でもそれは生身に戻ってからでいいや。
ところで出口はどこだろう。
周囲を見るための小回りの途中で、切り株が光り始めたことに気付いた。
あそこから帰るのかな。
私は切り株へと近寄って向き合うと、その縁に触れた。
「みんなさよなら」
色とりどりのぬいぐるみの欠片たち。私は振り返りはしなかった。だってこのぬいぐるみ体じゃ振り返れないんだもん。心情はともかく、実現は不可能だったから。
きっともう会うこともないんだろう。
私はもうここには来ない。通常とは異なる状況だったとは言え、体験してみてもういいやと思ったんだ。だから電脳世界に足を踏み入れることはない。
みんなだってそう。このぬいぐるみの登録は一度きりだ。ウイルス感染なんて運営の不手際なんだから、そこはおまけしてほしいと頼めば何らかの補填があるんじゃないかな。
それになくたって生きていける。私は実際持っていないし、今日まで一切触れてこなかったしね。
…………。
あれ?何も起こらないな。もしかして何かしなきゃいけないのかな。
そういえばメニューの立ち上げ方がわかんないんだった。さっきまでの諸々の操作だって、勝手に出てきたものを選択する、みたいな能動的なものだった。
わざわざ光ってくれるなら、せめてアナウンスも一緒にほしかったところだ。
もしかして、切り株の上に乗った方がよかったりする?
【退出しますか? はい いいえ】
オンザ切り株に迷っていたら、ようやっと選択肢が現れた。
おぉ、焦った。ちょっとだめかも、なんて弱気な私が頭の中に現れるところだった。
【本人認証に、しっぱいしました】
【不正なアクセスを確認しました】
現れた文字を目で追っていると、しゅっと音無き音がした気がする。
気付くと何本かの根っこが私の身体を貫いていた。
◆この村の情報
編 成 ダ霊霊霊霊霊毒|狼狼
投 票 無記名
自殺票 なし
襲 撃 意図的襲撃なしは不可
赤 窓 あり
★勝敗 陣営由来ではなく個人由来
【死んだら、そこで終わり】
◆毒りんごの立ち回りについての解説
1自分が毒りんごであることをばれないように立ち回りたい。
初日に正体を露呈させなかったのは、ウイルスからのアクセスと初回の駆除は回避できても、以降の駆除を免れない可能性があるのではないかと考えたため。
(ウイルス2人組にウイルス疑惑をかけられてしまったら、ウイルスの立ち位置次第で負けてしまう可能性がある)
それにとくにヘマをしていなかったと自認していたから。
2チェッカーの結果なしに毒りんごが初回の駆除対象の正体を判別できた理由は下記の通り。
前提:自分以外の全員が結果を知っている
もしも初回駆除者がウイルス判定だったなら対立軸のぬいぐるみ(以下、A)の非ウイルスが強くなるので、そこのチェッカーを露出させれば灰が狭まる。
特にAには短絡的で自己意識(言い換えるなら自分視点)が強いという性質があった。駆除者が黒ならだれから見ても自分は白だと、それを確定要素だと思うはず。そしてそのまま口にするだろう。これで自分は駆除されない、と。マイナス点を考えずに。
もちろん、Aのチェッカーの露呈により毒りんご避けのウイルスアクセスを受ける可能性があったが、初日の投票理由の稚拙さからAの思考はそこまでいかないだろう。
そこまで思考の到達があって黙っていたとしても、次の瞬間には『それならもうひとりは誰だろう?』という思考に辿り着く。そして初日の投票希望で次の駆除で確実にウイルスを滅することができることに気付く。⇒安全だと思ってチェッカーカミングアウトへ。
さすがにクマ妖精が引きちぎられるのを目の当たりにした直後に仲間切りなんてできないので、対立軸のふたりが仲間の線は初めから切っていた。
だからチェッカーの反応を伺うようなことしてました。
(見に行くタイミング、Aをどうする?発言)