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2巡目

【空間内のぬいぐるみにウイルスの発生を確認――数、2体】

【駆除してください、駆除してください】


 滅すべきウイルスはMMⅡ型、特徴は群体にして統一意思を有する。それは個体間で特殊な意志伝達手段を持つから。

 連携しながら30分に一度、正常なデータを攻撃するという。


 続く解説にぎくり、と身が強張った。

 何かとてつもなく嫌な予感がする。

 どこかで聞いたような話だけど、ちょっと違うから別のことかもしれない。


【プロテクト作動!駆除が完了するまで、空間をロックします】

【駆除システムのエネルギーチャージは30分です】


 破壊されたクマ妖精がまるで悲鳴を上げるように危険だと叫ぶ。

 ここからは逃げられない、このままだとウイルスに破壊されてしまうのだと。

 その前に駆除をしなくてはいけない。

 愛しいデータを、大切な日々の記録を。壊される前に壊してしまえ。

 覚醒せよ、ぬいぐるみたち。


【取得データ内から、ぬいぐるみ5体のウイルスチェッカー機能を起動しました。

回路からウイルスの有無をチェックできます。回路はぬいぐるみ頭部に搭載。駆除後に確認可能となります】

【取得データ内から、ぬいぐるみ1体のアンチウイルス機能『毒りんご』を起動しました。

ウイルスからアクセスがあった際、毒りんごを送り込み、道連れとします】


 捻じ切れたようなクマ妖精は、一方的に呪い染みた遺言を吐き出す。

 タフネス。まだ喋ることができるのは、その身体がまやかしで本体がデータなせいだろうか。

 余計なことを考えそうになる頭を振るう。――実際は身体を振ってる。

 言葉の羅列を必死に頭に叩き込む。先程の比じゃない。聞き逃しては駄目だと強く思う。


【駆除し……さ、い。駆、除し――】


 途切れ途切れに駆除を促す声は錆びついているかのようにノイズ混じりとなる。

 やがて崩れていくようにホログラムは消え失せて、そうして何にもなくなった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 なに。なに、これは……?

『あ、ぁ……』

 まるで逆だった。

 私たちが聞いたのとは逆だった。

 クマ妖精は、私とマンモス以外の全員がウイルスだって言っていたのに。

 クマ妖精は、私とマンモスがウイルスだと言っている。

『落ち着け。あいつはウイルス感染源なんだろ?バイキンにとっちゃ、消毒液は毒薬みたいなもんだ!』

 思わず呻く私の声は、いつの間にかテレパシーに乗ってマンモスへと届いていた。無意識に助けてほしかったのかもしれない。

 逆も然り。それはそうだ。でも、じゃあ、正しいのはどちら?

 はっきりとわかることは、目に見える何かを仕掛けたのはこちらからだった。

『でも、もしちがったとしたら……私たちの方がウイ、』

『オオカミさん!』

 鋭い静止に、私は言葉を止める。

『どちらにしろ、俺たちふたりとそれ以外って構図には変わんないんだ。もしも破裂した方が正しかったら?こっちが間違ってたとして、俺たちは向こうの言い分に従えるのか?』

 大人しく駆除されてやるのか?

 私は何も言えなかった。

『何も死ぬってわけじゃあない』

 駆除っていうのは、さっきのあのクマ妖精みたいなこと?それとも、マンモスの言っていた精神の方にダメージを与える方法なのだろうか。

 わからないことが恐怖を煽る。

 いやだと思った。それは避けたかった。それが私の本音だった。

『ありがと、動揺しちゃってたよ。でももう大丈夫だから!このまま、続けよう』

 たとえ、私たちこそがウイルスであったとしても。

『あぁ、どちらが正しいのかなんて、終わってみなければ分からないんだ』

 結果、利己的だって言われたとしてもかまわない。平然とそう振舞うための理由は与えられているのだから。

 そう考えれば、少し心が落ち着いた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「何なの、気持ち悪いよぉ」

「これは……どういうことでしょうか?」

「やだあ!退出できない!」

 その場は騒然となる。半分は困惑の色も濃く、私もまたそのひとりだった。

「オヌシら、落ち着くんじゃ」

 どっしりと構えたコンドルが声を上げた。さすがおじいちゃんキャラ。カメより歳いってる方がすごいっていうもんね。ざわめきが鳴りを潜めた。

「ちょっとワシに状況説明を頼む。半分聞いておらなんだでな」

 違った。ボケてる方のジジイだった。

「確かに、現状把握はしたいところだよね」

「これはモニターの一環、イベントなのか不測の事態なのかで話は違ってくるけど、ともかく妖精さんの話をまとめてみましょう。ただ駆除エネルギーが溜まるまで、という制限時間がありますからそこは気にしていかないと」

 カメとクジラが纏めだす。

 やっぱりおじいちゃんよりカメの方がすごいんだ。もちろんクジラも。私は認識を改めた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『駆除エネルギーとワクチンのできるタイミングってほぼ一緒みたいだね』

『確かに、じゃあ駆除されるぬいぐるみと違うやつにワクチンを打たなきゃいけないよな』

『駆除されたぬいぐるみは、どうなるんだろ』

 私は気になっていたことを伝える。

『多分、どちらにしたって一緒だと思う。たぶんだけど』

『そっか……』

 つまり、壊されるってことだ。

 二重の会話は頭が疲れる、なんてことは言ってられない。がんばらなきゃ。

『脱線してごめんね、駆除と重ならないようにワクチン先決めなきゃいけないけど、それは落ち着いてからにしよう。私、普通の会話の方で手一杯みたい』

『そうだな、毒りんごをうっかり齧らないようにしないと』

 私たちはそこで一旦会話を止めてみんなの会話の方へと戻っていった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「要はウイルス2体を駆除しろってことだろ?チェッカー5のアンチウイルスが1、ここのぬいぐるみの数にぴったりだ」

 素知らぬ風にマンモスがそこに混ざっていく。それなら私も加わらなきゃね。でもなんてコメントしよう。

「そのウイルスの特定方法ってよくわからないよね。まずは解放してもらった機能について考えてみない?」

 とりあえず、わからないことは正直に言っておこう。

 意味ありげに知ってるぜ、なんて気取ってるやつは大抵ミスリード役で最初に容疑者にされて酷い目にあったりすることがある。それか出し抜こうとして間抜けに殺されちゃうんだ。

 不測の事態かイベントか、そのことについては触れなかった。まだみんなには楽観視していてもらいたい。油断していてもらって、本気で考えるのは手遅れになってからにしてほしい。時間稼ぎの一環だ。

「新たに解放された機能――チェッカーとアンチウイルスについては、今のところは使いようのない機能ですよね。もちろん、明日からの運用については考えるべきだと思いますが」

 クジラはうーん、と何事か考えている。

「駆除にかけたぬいぐるみの回路に、ウイルス感染があるかどうかを調べられるのがチェッカーだね。だからチェッカーは回路でアンチウイルスかどうかは見分けられないんじゃないかなと思うよ。アンチウイルスについては襲ってきたウイルスに反撃できるということらしいけど……。すでにウイルスに感染している2体はどうして無事なのかが気になるところ」

「ウイルス側の事情は一旦横置きじゃないっすかねぇ。とりあえずは目前のこと、駆除をどうするかじゃないっすか?」

 脱線しかけたカメをタヌキが元に戻そうとする。

「最初の駆除を視野に入れつつ、能力運用について考えるってところじゃな」

 いいところでまとめが入ったけれど、残念、声の主はコンドルだった。

「面倒くさいから、全員駆除ってのはどうかのう……?」

「アタシはいや!」

「そんなのできたら苦労しないでしょ。駆除っていうのなんだか響き怖いもん!無事でいられる保証あるわけ??それならコンドルさんが人柱してよね!」

 静かだったWウサギが元気に反対意見を述べる。当たり前だ。

「楽観的というか、現実的ではないよね」

 私もこっそり呟いた。

「まあ、その駆除エネルギーの定員がどれほどのもんだかわからん以上、ひとりに定めた方がいいかもしれんのぉ」

「少しでも気になることは口にしてください。穴を潰したり他の可能性を見つけたりすることができるかもしれないです。でも、時間は限られているのでそこは意識していきましょうね」

 クジラが優しくコンドルを諭す。諭しながらも、それはみんなへの言葉にもなっていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『このクジラさん、さりげなくだけどいいところでフォロー入れてくれてるっていうか場を動かしてる印象がある。あと小学校の先生みたいな感じ』

『俺も気になっていた。みんなの意思が統一されるのってあんまりいいことじゃないよな。俺たちの優位なところのひとつはこうやって連携が取れることだ』

 マンモスは同意してくれたけど、最後にちょっとだけ懸念を付け加える。

『こいつを狙おう。――ただ、アンチウイルスっぽい挙動がないかだけ確認しておいた方が良い』

 確かにその通りだ。

 そういうのってどうやって探せばいいのかな。私がアンチウイルスなら噛まれようってするかもしれない。だったら駆除されない位置にいたいって考えるのが普通。でもそれって相対的なものだから、個人の意志が入り込む余地なんてあんまりないような気がしてくる。

『あとは、俺たちが今回駆除対象に選ばれないことも大事だ』

『わかった、がんばるよ!』


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「それじゃ、俺からひとつ。妖精さんがあんなことになったけど、そのときウイルスらしい振る舞いしてるやつはいなかったか?たとえば角が出てたりとか、変な動きしてたとか」

 マンモスが奇想天外な方向に誘導を始めた!

 ワクチンを打ち込むのに、角が出たり変な動きはしない。それで私たちの正体が露呈するなんてことはない。ナイスだ、マンモス!

 でもここで私が変な動きしてたらどうするつもりだったんだろう……。

 あと本当に角生えてたらどうす、ううん!私たちがやってるのはワクチン接種。むしろ純白の天使とかそういう方向のはずなんだ。きっと羽根が舞っている。

「そのあとの衝撃が強すぎてふっとんじゃってるっすよ~」

「私も覚えてないっていうか、まじまじと見てないかもしれない」

「僕はコンドルさんとお話ししてましたけど、ふつうでしたよ」

 私たちはアリバイを語り合う。


 おかげで話はちっとも前に進まない。いい感じだ。

 時間は徐々に迫っていった。



***



「は?そうやって無理に決め付けるのやめてくんないかなあ!?」

 水色ウサギの険しい声に私たちはそちらへと身体を向ける。

 そこではWウサギが絡まるように縺れていた。一見じゃれているように見えるけど、これは喧嘩だ!

 見た目は可愛らしいのに、醸し出す空気の剣呑さというちぐはぐな状況に私たちは戸惑うしかない。

 そういえばふたりとも会話に参加してなかったなぁ。

「あんたらなにやってんだ」

 鼻をふりまわしながらマンモスが突撃していく。私の相方はすっかり力仕事担当だ。なんて頼もしい。

「一体何があったんすか!?」

「落ち着いてください、まずはそれからです」

「子どもは風の子、元気がいちばんじゃあ」

「大丈夫?けがとかないかな」

 みんな口々に心配しているというような言葉を吐いている。

 それはちょっと過剰で、これがこのコミュニケーションツール特有の空気なんだとしたら私には合わないな、と思った。


「ウサギさんがボクに駆除されろって言うんだ!ヒドイ。ひどいよお」

 水色ウサギは泣き声を上げる。腹黒さを押し隠しているように見えてならない。

「そんなこと言ったんですか!?どうして……」

「最初に色々あったんだ。ほら、種類は別でも同じウサギ」

 猫を被ったウサギにすっかり引っかかったクジラに、カメが説明を入れた。

 結構ふたりとも我が強いんだ、と小さな声で捕捉を入れている。

 そこにタヌキとコンドルも身体を突っ込んでほおなるほど(っす)とか頷いてる。ばっちり聞こえていた。

「アタシそこまで言ってないしぃ。っていうかそっちが突っかかって来たんじゃん、ハメようとすんのやめてくんない!?」

 きゃぴウサギも負けてなるものかと言い返した。でも具体性に欠けていて、それじゃあわかんないよ。

ぶわりと険悪さが広がっては染め上げる。

「こうなったらどうしようもないんじゃないか。お互い以外に、他に聞いてたやつなんていない」

 呆れたようにマンモスが言った。


 それでもウサギファイトは止まらない。

「ここに最初に来た時、けんか腰にいろいろ理由言って留まろうとしてたのとかあやしーんだけど!きっとそのときから計画してたんだよ!」

「はぁあ!?感染確認ってなったのはさっきだろ!だからそれは成立しないんですぅ!そんなの勝手な妄想だもんね!――ねっ、みんな聞いた!?ボクを無理に駆除しようとしてるのってなんか怪しくない?ボクはコイツこそがウイルスだと思うな~」


 そのあとも、ウサギたちの言い争いは続く。

 一方的にきゃぴウサギが難癖をつけて、腹黒水色がちがうもんって言ってるだけだったけど。

 その繰り返しに疲れてきた頃、タヌキが動いた――!

「自分の一票あげたっていいっすよ。た・だ・し!」

 タヌキは葉っぱを水色にしてから赤色に変えた。不吉なカラーリングをチョイスしたものだ。

「もしもロップイヤーさんがウイルスじゃなかった場合、ウサギさんはどうするんすか?」

 次の駆除は自分が出る気概はあるのか?そう問うているのだろうけど、その聞き方はいじわるで、ちょっと過激だった。

 Wウサギは痛いところを突かれたとばかりに口を噤む。結局は互いが気に入らないだけなんだ。それもみんなだってわかっている。

「タヌキさんは極論に過ぎるのう……」

「もう時間がないんす!仕方ないっしょ」

「困ったもんじゃなあ。1体処理したところでウイルスに感染しとるやつはもう1体おるんだ。ここまで溝が深いと復旧はむりじゃろ。引き続き掻き回されても困る、どちらかは処理せねばならんとワシは思うぞ」

「ちょっとそれっておかしくないかな。目的は駆除することで、不仲の原因を排除することじゃないんだよ?そんなことしてる余裕なんて、あるの?っていうかタヌキさんは余計掻き回そうとしてるよね?それってちょっとだめだよ」

 私は苦言を呈す。常識人アピだ。ついでにタヌキは常識ないよねアピも並行させてみる。

「確かにね、僕たちは冷静に判断していく必要があると思うよ」

 カメが同意してくれた。さぁんきゅ!

 今日どちらかのウサギが駆除されるなら、それは私たちにとっては都合のいいことだった。けど、こうやって無理なく手を差し伸べる感じがウイルスじゃないように見えないかな。黙って様子を伺ってるのも怪しいし。

 一応、こういう意図があるんだよってことをマンモスに伝えた。そこは自己判断で構わない、とだけ返ってきた。

「俺はどちらの言い分も分かるな。ここまで対立してるんならふたりがふたりともウイルスってことはないだろう。でもそれはイコールでどちらかがウイルスってわけじゃない」

 マンモスが語り始めた。さりげなく私のフォローをしてくれるのかもしれない。

「そこ以外の6人の内、1人から2人がウイルスだ。そう考えればふたりのことは一旦横に置いといて、6人――実際は自分以外の5人に目を向けるべきじゃないか?」

 マンモスが決め口上みたいなこと言い切った――!きゃーマンモス~すてきっ!鼻振ってぇ!

『俺も便乗しようとしたけど、自分たちの首を絞めただけかもしれない……』

 ……おぉう。そうだね、俺たちを見ろ!!て言ってるようなものだもんね。

『見られて困ることなんて、私たちにはないからだいじょうぶだよ!』

 私たちこそが、正義なんだ。


「お待たせしました。計算が終わりました」

 そこでしばらく黙っていたクジラが声を発した。

「私たちには最大3回、駆除のチャンスがあります。これはアンチウイルスの発動問わず、です」

「ウイルス2体に対して3回!?それって少ないなあ」

 それにカメが驚きの声を上げる。カメは理知的に見えて結構そうでもないんだということが段々とわかってきた。

「でもその分、……言い方は悪いけど、残ってるぬいぐるみは減るんじゃないすかね」

「プレッシャーは減らないから、そういう気休めにならないことは言わないでほしい」

 少しとげとげしくしてしまった。私はたぶん、このタヌキがきらいなんだと思った。



 まもなく時間切れだった。

 少しの検討時間を挟んで、私たちはこれまでの様子からだれが一番ウイルスらしいぬいぐるみなのかを理由込みで発表していくこととなった。


「僕は【タヌキさん】かな。煽ったり引っ掻き回したりしてたのが印象よくなかったかな。混沌に陥れてやるぞ、みたいなね。駆除のチャンスが少ないなら尚更そう思うよ」

 トップバッターはカメ。入室順が一番わかりやすいと、そういうことだった。

「アタシは【ロップイヤーさん】よ。しょうがないし、アタシからは一番それっぽく見えた、それが理由よ!それにいちいちアタシを悪いやつみたいに言ってくるし、冤罪みたいな感じがする!他にもっと有力ななにかってあった?じゅーぶんでしょっ」

「ボクは【ウサギさん】だって思うよ!ちゃんとした理由なくボクを駆除しようとしてるところ、スケープゴート目当てに見えるよね?ね??」

 水色ウサギが割り込んだ。……決めた、私は水色ウサギに一票入れよう。

 重要な選択のうちの半分は、割と些細なことが決め手になるもの。そういうことだよね、お母さん。

 正直なところ、お互い様だなとは思う。どちらも理由なく疑ってる。根本はウサギ的なプライドの話なんだ。

「私は【ロップイヤーさん】に、」

「ど、どーして!?」

 この水色、割り込んだばかりか私の話を遮ったな。今から言うところなのに!

「被害者になりきろうとしてるところ。疑われたことを利用して疑惑を掛けてるように見えたの。確かにウサギさんの言い分は強引だったけど、それがそのままロップイヤーさんがウイルスじゃないって証拠にはならないよ」

 私は一息置いた。ここからが決め台詞だ!

「それにちゃんとした理由なく糾弾してるっていうならそれこそ悪目立ちじゃない?ウサギさんがウイルスだったなら理由の不充分さは自覚できてるはずで、そんな状況で怪しいなんて声高らかに言わないと思う!」

 ウサギさんの弁護は完璧だった。まあ、ウサギさんは仲間じゃないんだけどね。

「確かにそうだな。それにロップイヤーさんは最初の頃自分の言葉でしっかり言い返したりしていただろ?みんなの注目を集めて、味方に引き入れようなんて方法をとるのは初期のロップイヤーさん像に当てはまらないな」

 途中で、スタンスが変わってしまっている。

 マンモスはそう締め括った。頼もしい私の相方の援護射撃もそれはそれは完璧なものだ。


 私たちふたりの発言で、この場は決定したも同然だった。ふ、支配してやったぜ。

 次々に追従の声が上がる。……みんな、駆除なんてされたくないんだ。

 カメは黙っている。変更はしないみたいだった。でもそれが懸命だ、下手に目立つのって良くない。タヌキの恨みを買うかもかもしれないけど。



 切り株が光を集める。それは時間がまもなく来ることの合図だった。

 私たちはその変化に身体ごと切り株へと向かう。

 そこにはもう回るクマ妖精はいなかったけれど。

 代わりに視界全体を使って文字が浮かぶ。まるくてかわいい、だからこそ不気味な書体だ。


【駆除システム起動。切り株に手を置いてください】

【視界に浮かんだパネルから駆除対象を選択ください。未選択の場合は無効票となります】


 60、59……。

 そうして視界の端でカウントダウンがはじまった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『今回は私が打つよ』

『んお?』

 驚いた反応が返ってくる。

『だって、最初にクジラさんを指名したのは私だし。それに毒りんごじゃないってところ詰めてないなら尚更私が担当しなきゃ』

『まあそれ言われると俺もさっぱりだったんだけどな……わかった。じゃあ、その次は俺がする』


 ワクチンの準備はオッケー、私はクジラに向けてアクセスを開始した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 いやだいやだと喚く水色ウサギに、私たちは困惑している。

 投票はしたけど、実際の結果は出ていないんだからまだ決まったわけじゃないよなんて、そんな気休めは言えない。そもそも出てたら聞くことだってできない。

 タヌキときゃぴウサギが一票ずつ集めた他は、全部水色ウサギに入っていた。結果は見えている。私たちに追従したみんなが他を選ぶとも思えなかった。


 カウントが0になった瞬間、地面を突き破るようにして木の根のようなものが何本も現れた。これは切り株のものかな?

 それが勢いよくうねって、水色ウサギへと襲い掛かる。

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