次世代ぬいぐるみ
『世界にたった一匹!あなただけのすてきなパートナーをお迎えしませんか――?』
そんなありきたりなキャッチフレーズでありながら流行中の高機能玩具は、その名も『次世代ぬいぐるみ』と何のひねりもない商品名だ。
だからこそ分かりやすく、小さなお子様からオトナまでターゲットにしていた。
ぬいぐるみという、とっつきやすさもよかったのだろう。
発売から1年あまりでじわじわと認知度を上げていったそれは、今となっては生産が追いつかず、希望者の半数がやっと手に入れられるという状況だった。
このぬいぐるみの特徴は、いろいろとあった。
サイズ感は成人女性が両手で胴体を掴んで余りあるくらい。男性なら包み込んでしまうくらいの、いっしょにおでかけして楽しくなるサイズだ。
けれど、まず導入として語るのだったなら数百種類の動物と様々な生地をオーダーできるというところから説明するのがいいかもしれないな。
犬や猫、なんて大雑把な分類じゃない。ちゃんとチャウチャウだとかマンチカンといった品種まで選ぶことができるのだ。
でも、それだけなら話題にならなかった。そのくらいの特徴だったなら、よくあるただのオーダーメイド商品だ。
このぬいぐるみが次世代といわれている所以は、さらなる特殊機能が搭載されているというところにある。
使用頻度に比例して上がっていく、電脳変換数値と感応機能――。
つまり、このぬいぐるみはコミュニケーションツールだ。
ぬいぐるみ本体が電脳空間へダイブするためのデバイスを兼ねている。
そして電脳空間においては、自分のぬいぐるみがアバターとなるのだ。
次世代ぬいぐるみは、ペットの代替のように可愛がるというよりは、自らの分身として可愛がるというイメージに近いのかもしれない。
設定されている『好感度』が一定以上上がると、接続時間制限や様々なコンテンツのロックが解除されていく。
コンテンツというのは、他のぬいぐるみたちとの交流のためのツールだったり、立ち入ることのできる空間の種類だったりした。
やり込んだひとほど多くのことを楽しめるようになっている。
そうなると時間がないひとが損になる、ズルいなんてことを言いだすひともいるかもしれない。
けれど考えてみてほしい。意識を電脳世界にダイブさせるということは現実世界に無防備に身体を置いてくるということだ。時間をかけて慣らさないことには脳の負担が大きいし、現実で何かあったときにシステム抜きで上手く離脱ができないといけないんだからね。
だからそれは言いっこなし、ということで……。
初めて知ったひとも、名前だけは知っていたひとも、これで『次世代ぬいぐるみ』のことを分かっていただけただろうか?
この記事を読んでほしいと思ってくれたならうれしい。いつかきみと電脳空間で会えることを楽しみにしている。
あぁ、先程も言ったような諸々から、購入申し込みは早い内に、いや今スグにをおすすめするよ。
――――第666回識者インタビュー
逆下氏、次世代ぬいぐるみについて大いに語る。
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こんなにすてきな商品が品薄……となれば複数買いや転売対策が気になるって?
大丈夫、そんな心配はご無用よ。
われわれ社会には、市民番号っていう便利な仕組みがあるでしょう?ぬいぐるみを申し込む際にはそれと各種個人情報、血液が必要なの。
番号と情報、血液反応の三重入力で騙りはお断り。そもそもがおんなじナンバーの人間からは申し込めなくなっているから複数購入もできない仕様よ。
ぬいぐるみ起動時にだって『パートナー』を市民番号を結びつける必要があるんだからね。これで完璧でしょう?
弊社は違反購入者をぜったいに、ゆるさない。
ひとりにつき一体、一生に一体のとくべつな存在。
限られた人間にリピートしてもらうことより、いずれ市民の皆様が必ず持っている――そんなぬいぐるみにしたいと思っているの。うーん、たとえるならお財布みたいにね。わたし、おかねだーいすき。
そのためにもうちの子たちがぜったい必要になるって、みんながそう思うそんな世の中になりますように。
いやだ、宗教じゃないわよ?ただの、ユメ。企業理念に似たものよ。
そういうわけだから、こちらをご覧のみなさん!あなたからのご購入申し込み、まってるわね!
――――(公式ブログ)××月××日掲載分