序章
『おはよー!』
『同じクラスになれたね!よろしく!』
そんな賑やかな会話が飛び交う、高校の教室。
きっとこんな光景はどこにでもあるんだろうな。
くだらない。この教室もクラスメイトも飛び交う会話も。この世界は本当にくだらない。
杉並コウ。高2年生に進級した4月。
くだらない会話には一切参加せず、自分の席に着き、ただじっと外を眺めていた。
『ねぇ、何あいつ。キモいんだけど。』
『私1年の頃も同じクラスだった。関わらない方がいいよ。あいつ他人の事見下してるし。』
丸聞こえだぞ、お前らの声。
だけど何を言われても、何も気にしない。
本当にどうでもいいんだ。
『おっはよー!コウ!今年は同じクラスだな!よろしくぅ!!!』
大声でそう叫ぶと、俺の前の席に荒々しく座り、俺の机の上に鞄を置いた。
『てか、今日数学の小テストじゃん!どこ出るか教えろコウ!』なんて、いきなりたかってくる。
俺は小さな溜息を一つつくと、そいつの前に数学のノートを差し出した。
こいつの望む物が、このノートの中にはあるからだ。
『サンキュ!』
そう言って、ペラペラとノートをめくる。
『さすがだよなぁ、コウは。ほら、俺と一緒でノート真っ白!予習も何もしてねぇ!』
豪快に笑いながら、太陽のように眩しい笑顔を向けてくる。
鈴本ケンタ。小学校からの幼馴染で学校の中で人気者。分け隔てなく人と接するからか、いつもいろんな奴らに囲まれている。
『あのさぁ、ケンタ。毎回の事だけど俺と関わると、お前まで嫌われるぞ。』
『はぁ!?なんだよそれ、俺はそんな事どうでもいい。』
ケンタはいつもそうだ。腐れ縁の俺をほっとけなくて、何かと気にかけている。
俺のノートを机の上に置くと『あとでな』といい、自分の席に戻っていった。
『なんで鈴本君があんな奴と…?』
そんなやっかみの声が密かに聞こえたくる。
ケンタは今はいい。だけどもし、俺と関わっている事で、そのうち俺みたいになったら…?
それだけは駄目だ。だから毎回毎回関わらない方がいいと言っているのに、ケンタは聞く耳も持たない。
まぁそこがケンタの良いところでもあるんだけど。
ふただび教室の外に目を向ける。目の前で満開に咲いている桜が、静かに散り始めている。
『お前らはいいよなぁ…。』
出来ることなら俺だって、桜の花のように散っていきたいよ。
この窮屈で退屈な世界から逃れたいと、もうどれくらい長い間願い続けているのだろうか。