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3・仕組まれた婚約破棄?

 私が怒っていないので(どうしてこの事で私がアンドレーに対して怒ったりするだろう? 全ては私の責任なのに?)、アンドレーは少しだけほっとした様子で部屋に入って来て、私たちはテーブルを挟んで座った。

 彼の目はまだ湿っている。そんなに泣く程私を想ってくれているのは嬉しいけれど、そんなに悲しむのはもう既に取り返しのつかない事になっていると彼が認めてしまっているからでもあるという気もする。


「アンドレーはもう……諦めてしまったの? 本当に私はただの過労なのよ。もう二度と無茶な真似はしない。そう約束して、陛下に分かって頂く事は難しいの?」

「シーマは強いね。でも、僕だって勿論黙っていた訳じゃないよ。あらゆる言葉で父上を説得しようとした。だけど、父上はまるで人が変わってしまったみたいに、聞く耳を持って下さらない」


 ようやくアンドレーも冷静になってくれたようだった。あんなに隠れる程私の怒りを恐れていたなんて何だか傷ついたけれど、そんな事を言ってる場合じゃない。


「どうしてなの……こんなのおかしいでしょ。私の負担が大きければ、誰かが……例えば王弟妃のアイラが王妃の仕事を手伝ってくれればいいだけの話じゃない。婚約破棄の正当な理由にならないわ。それにこんなに急に何もかも決まってしまうなんて。なんだかまるで私が倒れるのを誰かが待っていたみたい……」


 今まで考えてもみなかったけれど、何となく口にしてみると、そう言えばそうだ、という気がして来た。

 陛下は人の心が解らない方じゃない。私とアイラの事も可愛がって下さっていたし、それぞれの言い分ひとつ聞かずに人生を変えてしまうような決定を下す程事態が緊迫していた訳でもない筈。誰かに騙されていらっしゃっているのでは?

 私はその考えを口にしてみたけれど、アンドレーは首を横に振った。


「いったい誰がそんな簡単に父上を騙せると言うんだい? それに何の為に?」

「人の心を操る魔道があると聞いた事があるわ」

「王を言いなりにさせる魔道なんて存在していれば、国は成り立たなくなるよ。そんな魔道があるとしても、父上はいつも護られているのだし、怪しい者が近づける訳がない」

「決めつけちゃ駄目よ! 色んな可能性を考えなきゃ!」


 私が思わずテーブルを叩いたので、アンドレーはびくっとする。


「お……怒らないって言ったじゃないか」

「怒ってはいないわよ。でも、あらゆる角度から物事を見て解決策を考えましょう?」


 もう……本当は強い癖に、私にだけは弱くなっちゃうんだから。そこが可愛いのだけれど! それに本当は頼りになるのだ……たぶん。だっていつもみんなを助けて尊敬されているもの。

 ん? でも、私、アンドレーに助けて貰った事ってあったっけ? いつも私が姉のように世話をしている気も……って、そんな事に気を散らしちゃダメ!


「私が王妃になるのを阻止する事で得をする者っているかしら?」

「うーん……それは、他人はこう思うかもね。きみの代わりに王妃の座を射止めたアイラ、と」

「アイラはそんな事全く望んでないわよ!!」

「ひえっ、わ、わかってるよ、それ位。だから『他人は』って言ったじゃない」

「ねえ、貴男は……アイラと結婚できるの? 私は嫌よ、セドリックみたいな軽薄な……いえ、勿論貴男以外の誰とだって嫌だけれど」

「できない……けど、するしかないだろう。生涯独身でいる訳にはいかないし」

「だから、何で諦めてるの?!」


 煮え切らないアンドレーに苛立つ私に、アンドレーも子どものように口を曲げて言い返した。


「だってどうするんだよ! きみが寝てる間に僕が努力しなかったって言うの? みんなに聞いてみなよ、みんな、僕に同情的だった。でもセドリックは大して協力してくれないものだから、『やっぱり容姿が同じならばそれで我慢すべきかしら』なんて言う輩もいて!」

「やっぱりセドリックはそんな風だったのね……」

「あいつが何考えてるのかよくわからない。でもとにかく、僕らがただの王子と令嬢なら、僕は来世で結ばれる事に賭けて二人で死にたい、とまで父上に言ったんだ。だけど、父上は、僕にはそんな事が出来ないのは判ってる。だって、聖女のきみに自害は許されないから」


 『来世で一緒になる為に』。そこまでアンドレーは私の為に言ってくれたのか。ようやく一途な想いを確認できる言葉に、私は不謹慎だけれども嬉しくなった。

 

「聖女が望まれない死を遂げれば、国は不吉に襲われるのよね……」


 流石に、民に苦難を与えてしまうのは聖女となったからには私にも出来かねる。


「それにしてもシーマ、元気だよね。過労で何日も起き上がれなかった人には見えないよ」


 何気ないアンドレーの言葉に私ははっとした。

 私は本当に過労だったのだろうか? あの晩神殿に入る時、私は特別疲れを感じてはいなかった。でも、祈りに入る前に出されたお茶を飲んでから、妙に眠たくなったのを覚えている。

 もしかして……私は何日も眠ってしまうような薬を盛られた? 私を王妃にしない為に? 婚約を……入れ替える為に?

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