初めての対話
懐かしい夢をみた。それも悪夢。
自分ではかなり永く夢を見ていた気がするが、実際には10分くらいしか経っていなかった。
現実ではこうも時間の流れがゆっくりなのに、僕の夢は少々せっかちなようだ。
ソファーを見るとまだ男の子は眠っているようだ。
そうだ、お湯...
お湯を沸していたことに気づき、急いで火を止めにいく。
危ない危ない、起きるのが遅かったらどうなっていたことか。
用意していた湯たんぽの容器に少しずつお湯を入れ男の子の元へ持っていく。
湯たんぽを男の子とブランケットの間に入れようとしたそのとき
男の子と目が合った。
男の子は僕をすぐさま押しのけ、距離を開ける。前髪から覗く琥珀色目で僕を睨んで威嚇している。まるで人間慣れしていない猫のようだった。
「...」
ただただ無言でこちらを睨み続けて、冷や汗のようなものを垂らしている。
このまま近づいても、話は聞いてくれないだろう 。
そう考え、僕は男の子から距離を置き床に座る。
距離としては2メートルほどか。
「...僕はここに座っているよ。君に危害は加えない。落ち着くまで話しかけたりもしない...何もしないから、ゆっくりでいいから落ち着いて」
そう言うと男の子はぽかんと口を開けてからすぐ目を強ばらせてこちらを見る。
お互いに目を合わせ、長い沈黙が続く。
どうやら雨はやんでしまったらしい。
僕が待つことに退屈を覚え、瞼が落ちかけたその時
「なんで俺をここに連れてきた。」
と少年特有の高く、かと言って女の子のような可愛らしいものでもない声が聞こえた。
一人称が俺ってたくましいな。
「...分からない」
目をそらしてそう答えた。
僕は何故この子を家に連れてきたのだろう。
あの時はただ
「...君が助けてって言ってる見たいだったからかな」
そう言って目を合わせる。
そう言うと強ばらせていた目は普通に戻り、少し意外そうに
「...あんたも、同じことを言うんだな。」
そう言って少しこちらへ近づいてきた。
「僕は雪月、冬に降る雪に空にある月と書いてゆきづきって読むんだ。...君の名前は?」
幼い子に尋ねるようになるべく優しい声色で言った。
まあ、実際幼いんだけれども。
「カズキ...」
そう言ってくれた。
「カズキか、君はなんであんな所にいたんだい?」
答えはなかった。ただ「聞かないでくれ」と目で訴えてるようだった。
「...それじゃあ、帰るところはある?」
カズキは少し悲しそうな顔をして首を横に振った。
「...それなら、帰る場所ができるまでここにいるといいよ。」
そう言うと驚いたように目を丸くさせた。
顔がころころ変わって面白い...
少し鼻で笑うと、不機嫌そうな顔をした。
「これからよろしくね。」
僕と君との距離が縮まった瞬間だった。