悪夢物語 ー1ー
僕はアルビノに産まれた。
もともと母がアルビノで、もしかしたらアルビノでなく、ただの遺伝なのかもしれない。
真っ白な髪、真っ白な肌、真っ赤な目、母と全部一緒。
それが嬉しくて、自分の髪や自分の目が大好きだった。
だからいつも両親に「ありがとう」と言う。そしたら二人はいつも「きれいだね」「お揃いね」と頭を撫でてくれる。
2人にとってはただ甘やかしていただけなのかもしれないが、僕にとっては日課であって、何よりも重要な事だった。
3歳になって、幼稚園の入園式の数日前に事が起こった。
その日は両親と一緒に、陽の光がまだ弱いうちに散歩へ行く事にした。どうやら僕が入園する前に、外の世界を見せたかったそうだ。
アルビノは肌が極端に弱く、視力の関係で陽の光を眩しいと感じやすい。
だから母と僕はつばの大きい帽子に肌を隠す服、日焼け止め、そしてサングラスをかけていた。
ここまでするとただの変人2人と成人男性の異様な団体のようだがしょうがない。
サングラスは大人用しかなく、まだ小さかった僕には大きすぎ、少し動くだけでずり落ちていく。
初めて靴を履き
そして初めて世界を見た。
ガラス越しから眺めていた景色の変わらない世界は、僕にとって一つの風景画のようだった。
しかし、今は移り変わる景色を前に僕は初めて「感動」覚えた。
家の中では聞こえなかった外の音、花瓶ではなく地に生える草花。
その何もかもが僕にはキラキラして見えて、僕を挟むように立つ両親は僕に笑いかける。
フローリングのようにつるつるしていなくて、すこしぼこぼこしている。その感覚が堪らなく、その場で意味もなく足踏みをしてしまう。
しばらく歩いているうちに公園へ着き、父に「好きなように遊んでおいで」と言われ駆け出す。
人工的に造られたカラフルな遊具には目もくれず思う存分走り回った。
こんなにも走ったのは初めてだ。
息を切らし空を見上げる。
サングラスを通して青い空と白い雲が見えた。
「お父さん!お母さん!みてみ....て」
後ろを振り向くと父と母の姿は見当たらない。走るのに夢中になっているうちに公園を出てしまったようだ。
急いで引き返そうと走り出した時、何かにぶつかった。
その衝撃で帽子はとれ、サングラスは地面へ落ちる。
顔を上げると見知らぬ男の人、目に光が無い。
普段なら「ごめんなさい」と出る言葉が恐怖で喉元でとまる。
「どうしたの?迷子かな?お父さんとお母さんは?」
優しい声色なのに目は優しくない。
「おじさんがお父さんのところまで連れていってあげるよ」
不気味な笑みを浮かべながら僕に近づいてくる。
やだ、来ないで...怖い、来ないで、助けて。
心でそう思っていても、言葉にならない。
言葉の代わりに涙が出てきて視界が滲む。
逃げようとするが恐怖で足がもつれ、後ろに尻餅をつく。
少し上を見上げると、男の人が申し訳なさそうに「ごめんね」と言いながら僕の口に布をあてた。
そこから僕の記憶はない。