手料理
「んー...」
まだ寝ていたいという我儘を蹴飛ばして、重たく感じる体を起こす。
「くぅ...!はぁ...」
上半身だけを起こした状態で伸びをする。
このとき背中から聞こえたバキバキッという音は聞こえなかったことにしよう。
伸びをした後、隣に椅子が倒れていることに気づいた。
何で椅子が...てか何で床で寝てるんだ?
まだ起きていない頭をグルグルと動かし、昨日のことを思い出そうとする。
確か、部屋で仕事を...あ
「仕事してる間に寝落ちたのか」
開いた手にぽんっと閉じた手を乗せた。
「でも、それなら何で毛布が...」
下半身にかかっているいる毛布にちらっと目線をおくる。
この家には僕しかいないはずだし、自分でかけたのか?
いやありえない。
あ、そうか...
「今は一人じゃないのか」
カズキがいる。
昨日、自分を殺そうとしていた相手のことを忘れるなんて、なんておめでたい頭だよ。
「ふっ...」
思わす鼻で笑ってしまった。
自分のおめでたい頭とカズキが毛布をかけてくれたのではないかという疑問に呆れたのか。
「さて、そろそろ下に降りるか」
部屋はまだ暗いままだが、もう昼に近いんじゃないかな。
立ち上がり、床に落ちた毛布をベットに放り投げ、あの子が待っているであろう1階へと脚を踏み出した。
今日はどんな1日になるだろうか。
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1階に降り、ドアを開けるとカズキがソファーに座っていた。
「...おはよう。カズキ」
まだ、下がる瞼を開き、微笑む。
「...おはよう」
無表情で返された...まあ殺気がないだけましか。
「そういえば、よく眠れた?」
そう聞くと「ああ...」と返される。
「お腹すいてないか?」
やはり僕は結構寝ていたようで、時間はもう11時になりそうだ。
「はらへった...」
「そうか、なら今から何か...あ」
そうだ、昨日はコンビニでその日の分のご飯しか買ってなかった。
一応、食材はあるんだけど...
作ったら食べてくれるだろうか。
昨日会ったばかりの奴のご飯なんて。
「あのさ、ご飯...僕が作るようになるけど。大丈夫?」
少し視線を横にむけながら聞いてみる。
なんか、顔合わせづらい
少しの間沈黙が流れる。
「やっぱ、コンビニとかで買って...」
「いいよ」
「...っえ?」
「だから早く作って...」
「...わかった」
少し放心状態になってしまった。
すぐさまキッチンへ向かい、冷蔵庫を開く。
味噌と卵、あとは常備野菜とかはあるみたいだからとりあえず味噌汁と目玉焼きかな...」
テキパキと頭の中で次にやることを整理しながら、ご飯を作っていく。
簡単なものだけだったので、そんなに時間はかからず、机上には料理が並ぶ。
「できたから一緒に食べよう?」
そう聞くとこくんと首を縦にふってくれた。
僕たちが椅子につくと、カズキは飛びつくように料理に手をつけようとした。
そんなカズキを口で止める。
「食べる前に手を合わせて、いただきますって言うんだ。食べ終わったらごちそうさま。
ご飯は残しても、文句言ってくれてもいいから...これだけはやってくれないかな?とっても重要なことなんだ。」
そう言うとカズキはそっと手を合わせて「...いただきます」と言って食べ始めた。
箸に慣れてないのか、持っている手を震わせながら必死に掴んで食べようとしていた。
後で箸の使い方を教えよう。
味噌汁は少し味が濃く、しょっぱい。目玉焼きだって少し焦げて苦い。それなのにカズキは何も言わずにもくもくと食べている。
そんなところに優しさを感じた。