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灰色
私はこの町で生まれたわけではないらしい。
私の生まれは東京だ。5歳までは東京に暮らしていた。はっきりと覚えている。
人が多い、縦に長い建物、いつも聞こえるクラクション、走り続ける電車。
私は大人たちを、よく見ていた。
私は街の真ん中で一人、いつも母を待っていた。
母は夜逃げの天才だった。
同じ区内でもあちこちを転々とした。
区内に住み続けるという、その神経が信じられないが。
そんな母が東京から出るきっかけになったのは、母の父、つまり私のおじいちゃんの家が母のものになったからだ。
私はおじいちゃんにも、おばあちゃんにも、会ったことがなかった。
いつも困窮していた母は、家賃を払わなくても済むと、その話に飛びついた。
私が5歳になって少しした冬、私たちは引っ越した。
あの日は雪が降っていた。
東京の雪とは違って、決して簡単には溶けてやらない、そう決意してきたかのような、雪だった。
私はその時初めて溶けない雪を見た。
その雪は、強かった。
空は灰色だった。




