灰
「ほら、この車だよ。乗って」
そう言って男は微笑む。
私は言われるがままに車に乗り込んだ。
ワインレッドのミニバン車。
ナンバーは品川。
このあたりじゃ滅多に見ないナンバーだ。
母はどうやってこの男と知り合ったのだろうか。
「シートベルト、締めてね」
彼にそう言われて、時間が迫っていることに気付く。
ああ、もうすぐこの町から出るんだ。
ここは、町だ。
「まち」は「街」じゃなくて「町」。
小さい町だから、人口なんて5万人もいない。
なのに、関わった人だって少ないのに、濃くて。
「出発するよー」
車が動き出す。
よくありがちな、車用の芳香剤。臭い。
「窓、開けていいですか」
「ああ、暑かった?エアコン入れようか」
「いえ、窓開けるだけでいいんです」
「そう」
窓を開けると、いつものあの匂い。
土の匂いがする。湿ってて、たまにかすめる花の香り。
「この辺り、本当に山だねえ」
見れば分かる。
それほど田舎だったのだ、この町は。
「車がないと、不便だろうに」
辺り一面が木だ。
緑、緑、緑。
そして土。茶色い。木の幹。
風が髪を掻き乱す。
「道悪いなぁ、ここらは」
ガタガタと揺れながら走る車。
窓の外から顔を出し、走ってきた道を見る。
ぼこぼこの地面。
「危ないよー」
「あ、ごめんなさい」
私は座りなおした。
車は止まらない。
でも景色は変わらない。
「いつまで山なんだろう」
男の言葉に頷くように、私は顔を伏せた。




