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吾輩はねこである。えっ、マジで!?  作者: ぬこぬっくぬこ
第二部 えっ、マジで!?はねこになった事に対してとは言っていない(人それを屁理屈と言う)
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第一章 お嬢様は犬系女子?

「公爵様!一大事でございます!」

「どうした?」

「ティアラース様の向かったダンジョンにて…正体不明のモンスターが多数発生したとのことです」


 なんだと!確か、今日は試験の日であったか。


「ティアの班は王子の剣帝がついておるのだろう。さほど慌てることは…」

「…王子と王子の剣帝は先ほど、満身創痍の状態で救出された模様。ティアラース様は…未だ、ダンジョン内に取り残されて居るようなのです」

「なん…だと…」


 王子の剣帝が満身創痍だと?あのダンジョンは初級も初級、子供でも到達できる難易度のはず。


「お前達!すぐさまティアの救出に向かうのだ!」


 私は腹心の部下に命令する。


「お待ちください、公爵様の護衛をはずす訳には…」

「今は私のことはどうでもいい!ティアを!」

「その話の信憑性は怪しすぎます!もしかすれば、公爵様のお命を狙う罠かもしれません!?」


 そ、そうか。一時的に護衛を薄くし、私の身を狙う罠かもしれんのか。うむ、冷静にならねば。

 それに、突然正体不明のモンスターなど、どう考えてもおかしすぎる。


「ティアお嬢にはネイリスがついております。剣帝には及びませんでしょうが、お嬢の命を守るぐらいはできましょう」

「しかし、若干16歳程度の小娘が…」

「あいつは俺達3人のしごきをうけてぴんぴんしてんですよ?なーに、大丈夫ですって」


 セイジョウ達がそこまで言うなら大丈夫なのか?


「…俺は心配だな。確かにティアお嬢様はネイリスが命に代えて守るだろう。だが、そのネイリス本人は…無茶をしなければいいが」

「……公爵様。公爵様の身、このセイジョウが必ずお守り申します。ゼイガンを向かわせてもらっても構わないでしょうか?」

「分かった。私はお前達を信じている。好きなようにするがいい」



◇◆◇◆◇◆◇◆


 本日は迷宮探索の試験日、ドリームチームたる王子様の班だが、その歩みは遅々たるものであった。

 その理由は、


「ジョフィ、ちょっとここを怪我してしまった。回復してくれないだろうか?」


 そう言って腕を突き出してくるネイリスさん。

 そこには、これ汚れじゃね?ってくらいのちょびっとだけついた傷が。


 なんだろう、周りの視線が限りなく生暖かいんだが。


「なんて言うか、とてもいじらしいね。見ていてほっこりするよ?」

「でもいいのかな、全部ネイリス1人が殺ってるよ?そこんとこどうなの先生?」

「まあいいんじゃないんでしょうかね。どうせ王子の班はやってもやらなくても満点ですし」


 それでいいのか先生?


「この顔ぶれで、他に抜ける班があるとでも?」


 いや、そりゃそうなんだが…

 今回の班構成、王子、魔術と剣術の天才君達、ティア嬢、ネイリス、クルーカの6名構成。皆、学院トップクラスのレベルの持ち主だ。

 これで得点が低いはずが無い。


 後、御付は、王子の剣帝、オレ、フェン介の従者組。

 で、先生はオレの神聖魔法を知っている事なかれ主義のお方だ。


「敵が居ましたわよ」

「あっ、またネイリスが突っ込んだ」

「そしてジョフィのとこいって手を握ってもらってる」

「…まるでおねだりしてる犬のようですわね」


 そうなのだ。このネイリスさん、戦闘の度にちょろっとダメージ食らって、わざわざオレのとこ来て回復魔法をねだって来るのだ。

 デレたのだろうか?OKURIMONO一個で落ちるネイリスさん、ちょろすぎですよ?


「お嬢さ」


 ―――バッ!


 だが、話かけようとしたりオレの方から触れようとすると、1メーター以上飛びのくのだが。ほんとにデレてるのだろうか?

 回復魔法…変な常習性があるとかないだろうな?回復してるときのネイリスさん、ヤクってるぐらいヘブンな顔をしているが…


(ちょっとネイリスさん。いくらなんでもいちゃつきすぎですわよ?)

(えっ!?いいい、いちゃつくなんてとんでもない!ちょっと回復して貰っているだけであります!)

(回復?ラブチャージでもして貰ってるのですか?ちっ、リア充が!)


 今、ティア嬢がすごい顔を。その舌打ちは悪役令嬢らしかったですよ?


「皆もジョフィに回復してもらうといい。とてもいい気持ちになれるぞ」


 ネイリスさんが笑顔でそう答える。


「「「「「「チッ!」」」」」」


 フェン介とクルーカ以外の全員が舌打ちをする。先生、あんたもですか。


「………………」


 しかし、クルーカはほんとしゃべんないな。ゲームの中では常にヒロインの傍に付いて居るという設定。その為の無言キャラなのかと思ったが、現実でも一言もしゃべらない。

 だが、その視線は誰よりも暖かい。そんな目で見ないで下さい。


「まあしかし、このままだと試験にならないのも事実だね。ネイリス、君は暫く後方待機ね」

「え…」


 王子様に後方待機を命じられたネイリスさんが絶望的な顔をする。


「ジョ、ジョフィに回復してもらえなくなる…」


 泣きそうな目でこっちをちら見してくる。

 ほんとに大丈夫だろうかこの回復魔法。暫く封印した方が良いのではなかろうか。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「ん、どうしたのだろう、皆集まって。今回の試験は2階層に行く前に集合でもあったか?」


 地下2階へ降りる階段まで辿り着いた所で、今回の受験生達が集合していた。


「どうしたのですか?集合予定はなかったはずですが」


 王子達の先生が先に到達していたメンバーの先生に話しかける。


「それがですね。2階層への階段、見えない壁があるかのように先に進めないのです」

「見えない壁だって?」


 王子が階段に向かって歩いていく。


「む、確かにここから進めない。壁…と言うより空気の膜のような物か」


 まるでゲームの進入禁止エリアみたいな止まり方だな。そんなイベントあったっけ?

 オレも王子の隣まで行きその空気の膜に触れてみる。と、突然ガラスが砕けるような音が!


 その瞬間、通路が膨らんだかと思うと、辺りが一変した。


「こっ!これはっ!」

「なんなんだ、この景色は!」


 今までは赤茶けた普通の洞窟だったのが、今じゃぶよぶよとまるで生命のような壁。

 地面は硬い大理石のような石が敷き詰められていた。


 そして…壁のいたるとこから小さな穴が開き、そこから瘴気が…


 これやべぇ…もしかして先にボス部屋の穴塞いだから通路に漏れ出したとか?えっ、これ、オレのせい!?

 とにかく、瘴気が充満する前に!


「先生!早く生徒達を退避させて下さい!」

「ハッ、そうだ。あっけにとられている場合ではない!皆さん、すぐにダンジョンから脱出してください!」


 オレは近場の瘴気の穴に回復魔法を試みる。穴は簡単に塞がる、が…数が多い、これはきりがないぞ。

 そのとき、2階へ向かう階段があった辺りの地面が膨らんだかと思うと、轟音とともに一体のモンスターが現れた!


「で、でかい…」


 そこには、ライオンの顔、5本の山羊足をした、ブエルという悪魔モンスターが。しかしでかいな、こないだのバフォメットの倍近くあるなあれ。

 つーかこいつ、確かラストダンジョンの中ボスじゃなかったっけ?なぜこんなとこに。


「王子、至急退避を!ネイリスさん、リン、牽制をお願いします!先生、ビッツ、私とともにバインド系の魔法を!足止めします。クルーカは王子の護衛を!」


 ティア嬢が次々と指示を飛ばす。


「フェン介!」

「おうよ!どうせこいつも張りぼてなんだろぉ!――あべしっ!」


 ブエルに向かって突っ込んで行ったフェン介が、敵の一発で吹き飛ばされて戻って来る。


「なんでお前は突っ込んだんだ?無理に決まってるだろ?」

「あの状況であのセリフは、突っ込めとしか聞こえんかったわ!」


 うん、そのつもりで言ったよ?まじで突っ込むとは思わなかったが。


「しかし今回のはかなりの強敵みたいだな。お前が触れることすらできないとはな。とにかく、お嬢様を頼むぞ」

「なんか腑に落ちねえが…任せとけ!」


「ぐはっ!」

「ビーン!」


 後ろで王子の剣帝のうめき声が?後方にも現れたのか!?

 振り返ったそこには…


「申し訳ありませんが…神徒の方はここでいなくなってもらいます」


 そこには、頭から2本の太い角が生えた妖艶なお姉さんが居た。

 って、手!王子の剣帝の片手がなくなっている!


「さて…この中に居るはずなのですが…」


 そう言ってオレ達を見回してくる。

 神徒を捜しているのか?

 先生、オレをガン見しないで下さい。バレちゃいます。


「魔族…か?」


 王子がそう問いかける。


「その前に『悪』と付きますよ?」

「悪魔族?」


 妖艶なお姉さんは微笑む。ってことは、こいつモンスターなのか?こんな人型ではっきり意思のあるモンスターなんて、ゲーム中では登場してないぞ。


「ハアァッ!」


 王子の剣帝が片手で切りかかる。が、その剣を素手で受け止め、


「うーん、あなたではないようですね」


 そう言って、剣ごと剣帝さんを持ち上げ放り投げた。


 こいつはレベルが違いすぎる。もう手の内を隠してるどころではない。

 オレは放り出された剣帝さんに近寄る。


「剣帝さん、回復魔法を掛けます。腕を出してください」

「えっ、いや、ラブチャージは私には必要ないですぞ」


 赤い顔をしてそう言ってくる。今は冗談言ってる場合じゃないでしょ?


『リバイブ!』


 道中で拾った、切り捨てられた腕を無理やりくっつけ再生魔法を唱える。


「なっ!?これは神聖魔法…私の腕が再生した!?」

「あら、あなたがそうでしたか」


 悪魔族のお姉さんがオレをロックオンする。


「ジョフィ!君は神徒だったのか!」

「えっ、ってことはネイリスがずっと回復魔法って言ってたのは…ほんとでしたの?」

「私は嘘は言っておりません!」


 と、フェン介が悪魔族のお姉さんに向かっていく。そしてまた即効吹っ飛ばされる。


「だからなぜお前は突っ込むんだ?」

「いやだって、弱そうだったし?」

「お前は見た目の大小で強さを測ってんじゃないだろうな?」


 そういや、向こうはどうなってんだ。お、ティア様達がバインド魔法で縛ってる。


「ネイリス、リン、クルーカ達と協力して向こうを頼みます!しかし、ジョフィが神徒ですか…そう言われればいろいろ納得も…」


 ネイリス、剣の天才君、クルーカの3人がかりで悪魔族のお姉さんに向かう。だが、その体に傷つけるには至らない。

 王子の剣帝はそれを見てオレに問いかけてくる。


「君は神徒なのだろう。ならばホーリーエンチャントはできないか?たぶん普通の武器ではあれは無理だ」

「なるほど!」


『ホーリーエンチャント!』


 オレの補助魔法を受けたネイリスさんの剣が肩口に深く突き刺さる。それを見てお姉さんは少し驚愕の表情をする。

 だがその瞬間、飛び散った血が刃物の様に襲い掛かって来た。


「お嬢様!」


 フェン介が急いでネイリスさんを抱え後方へ下がる。

 流れ出た血はネイリス達を傷つけた後、ゆっくりと一箇所に集まり―――鎌のような形へと変貌した。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「剣帝さん、これはもう、どうにかダッシュで逃げるしかないのでは?」

「できるならそうしたいところではありますな」


 仕方ない。


「フェン介」

「なんだよ?」

「オレは逃げる。足止めは任していいか?」

「最低だなお前!」


 違う違う。


「足止めするのはあっちじゃない。お嬢様達のほうだ」

「あん?そりゃどういう意味だよ」


 奴はオレが目的らしい。ということは、そのオレが逃げ出せば追ってくると見た。

 一か八か掛けてみるしかない。

 そしてオレは逃げ出す―――2階層へ向かって。


「ジョフィ!」

「フェン介!お嬢様を押さえてろよ!」

「お、おおう」


 オレはモンスターが出てきた穴に向かって飛び込む。

 そして、それに釣られてオレの後に…


「えっ、ティア様!?なぜ!」


 オレの後について飛び込んで来たのはなぜかティア嬢。


「…なぜでしょうか。わたくしは…王子をお守りしなればならないのに?思わず…」


 その後続いてネイリスさんが!


「おおい、フェン介ぇ」

「いやだって、俺がお嬢様に逆らえないの知ってっだろ?」

「ここはお前、それでも体張って止めろよ!」


 その後はやっと悪魔族のお姉さん。


「フェン介!王子をお守りしろ!みなを地上まで脱出させるのだ!」

「え、いや、しかし」

「無事に脱出できたなら、最高級の手料理を振舞おう!」

「がってんでさ!」


 おいこらフェン介…しょせんはワンコロか。

 しかし、まずいな。オレだけならたぶんボス部屋まで行けばなんとかなると思ったんだが。

 本日はヒロインが降って来る日。で、ヒロインが出てくる前に開いた穴に飛び込んで、女神様にどっか安全な場所に光臨場所を移してもらおうかと。


「お嬢様、奴はオレを狙って来ます。だからオレが惹き付けてる隙にティア様と共に脱出を!」

「何を言っている!お前を置いて行ける訳がないだろう!」

「お嬢様はティア様の剣心でしょう。ならば…やることは分かっておいでです」


 ネイリスが泣きそうな顔を向けてくる。


「そうですわ。ネイリス、あなたはわたくしの剣心でしょう。ですからわたくしを守る為に―――戦いなさい!」

「ティア様!」


 いやいや、無理なんですって。なんとかこのお方達を静める方法は無いだろうか。

 しかしあのお姉さんも、律儀にこっちの話が済むまで待ってくれて居るなあ。


「ネイリスさん少し時間を稼げますか?」

「ハッ、お任せを!」


 そう言って大盾を構えるネイリスさん。ティア嬢は呪文の詠唱に入った。

 それを見て、向こうのお姉さんは血の鎌を丸い円盤のように変化させる。あれを飛ばす気かな?

 ネイリスさんはいつでも迎撃できるよう、ティア嬢の前に陣取る。


『ヒートレイル!』


 ティア嬢の頭上から一筋の熱線が放出される。なるほど、一点突破の貫通魔法か、これならあいつも。

 しかし、お姉さんは慌てず円盤と化した血の塊でそれを受ける。そのとき!


「ティア様、危ない!」


 オレはとっさにティア嬢をつき飛ばず。

 円盤に受け止められた熱線は、そのまま反射してこっちに向かって来たのだ。


 その熱線はネイリスさんの盾と体を貫き、ティア嬢の心臓へ向かう。

 間一髪のとこで、ティア嬢に当たる前に突き飛ばせたが…その熱線はオレの体も貫いた。


「ジョフィ!ネイリス!」


『ヒール!』『ヒール!』―――


 オレはネイリスさんに這いより回復魔法を掛ける。クソッ、よそ見せずにもっとヒールのランクを上げとくべきだった!


「わ、私は大丈夫だ、それよりジョフィ、自分にも」


 ふとオレ達に影がかぶさる。そして目の前には…鎌を振り上げたお姉さんが…



◇◆◇◆◇◆◇◆


 わたくしはただ、唖然として見ているしかできなかった。ジョフィの首がその鎌によって刎ねられるのを。

 わたくしはただ、呆然として見ているしかできなかった。首を刎ねられたジョフィが消えていくのを。

 わたくしはただ、見送るしかできなかった。満足げに微笑んだ悪魔族の女が去っていくのを。

 わたくしはただ…


「ジョフィィイイ!」


 ネイリスの慟哭が響き渡る。その手には…首を掻き切られた猫の死体を抱いていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆



「ネイリスさん…入って宜しいですか?」


 あの後、お父様の剣心の方が来られ、わたくし達は無事にダンジョンを出ることができました。

 ネイリスさんも帰って来るまでは気丈に振舞っていたのですが。

 わたくしは返事を待たずネイリスさんの部屋に入ります。


「て、ティア様…」


 案の定そこには、泣きはらしたネイリスさんが。

 わたくしはそっとネイリスを抱きしめ、頭をなでます。


「やっぱり、ジョフィはジョセフィーヌでしたのね…あの子、人間になってまでわたくしを…」


 わたくしの双眸からも涙が溢れ…


「ティア様…ジョフィは…ジョフィは帰って来ますよね?なんせ神徒なのでしょう?人でも猫でもいい、もう一度会えますよね」

「ええ、きっと帰って来るわ。あの子がわたくし達を悲しませる訳がないでしょう」


 あの後、ジョセフィーヌの体は迷宮に溶け込むように消えてしまった。


「ティア様。私、ジョフィが帰って来たら伝えたいことがあるのです。この胸の思い、たとえジョフィがどのような姿であろうと変わらないこの想いを!」

「応援するわネイリス。あなたとジョフィなら良い夫婦になるでしょうね」

「ふ、夫婦など!?」


 ネイリスはまるでトマトのように真っ赤に。

 わたくし達はその晩、朝が訪れるまで布団の中で手を握り締め、ずっとジョフィのことを語り明かしました。

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