第五章 攻略!王子編!?
ちゃっちゃらー、中間試験の結果発表!
1位ティアラース、2位ネイリス、3位王子様…どうしてこうなった?
「ハハハ、今回は自信あったんだけどな…」
王子様の歯の光かたが鈍い。
「王子、確か帝都の最高レベルの家庭教師を何人も雇ったって言ってなかったっけ?」
「それで3位じゃ浮かばれねえな」
「君達は私の傷に塩を塗りたいのかね?」
家庭教師は一人に絞った方がいいぞ。方向性がバラバラだと身につくものも身につかないと思うが。
「ティア様1位です!おめでとうございます!」
「あなたも2連続で王子に勝るなど十分な快挙ですわね」
君達、あんま大声で自慢してると王子様がすねちゃいますよ?世の中には接待プレイと言う物もあるのですよ?
「また新しい勉強方法でも始めたのかね?」
「いえ、勉強方法は前回と同じですが?」
「と、いうことは今回は完全に実力で負けたと」
そこの剣の天才君も言い方には気をつけよう。
「もし何か秘訣などあれば教えてもらいたいものだね」
「ああ、それはジョフィが―モゴッ」
「シッ、ネイリスさん、ジョフィのことはできる限り秘密にしておいた方がよろしいですわよ」
ティア嬢がネイリスさんの口を押さえながらそう言う。
それを見て王子の目の奥が光る。
「あー、ネイリス嬢、実はだな、ここに王家の秘宝である聖騎士の篭手がある。どうだね、これを貸し出ししようと思うんだが、ざっと50年ほど」
この王子、買収に掛かりやがった。そういやゲーム中でも、ヒロインにさんざん王家の秘宝を貢いでたか。
「王子、それは卑怯ですわよ!」
「ティア嬢、私と君の仲ではないか、そんなことを言わずにぜひ!」
この王子、手段を問わず攻めに掛かってるな。
「うっ、それは、そのぉ」
ティア嬢はちらちらとオレに眼差しを向けてくる。
「あっ、そうだ王子。今日のお昼一緒に食事しませんかね?」
オレがそう王子に問いかける。
「ふむ、食事に秘訣があるのかね?」
ないですよ?
「いや、今日弁当作って来てんだよ、皆で一緒にどうかなって」
「ちょっ、ちょっとジョフィ!」
ティア嬢が慌てたようにオレの手を引く。ん?その為にいっぱい作ったんじゃないの?
「ち、違います!あれは、そのう、ちょっと料理が楽しくなりすぎて…作りすぎただけです!」
そう言って唇を尖らすティア嬢。そのギャップに萌えるわ。
「ハハハ、わざわざ弁当とはね。ここは、超一流のシェフに超一流の素材を用いた食堂なのだよ。仕方ない、今後は従者の人も食べられるよう口添えしておこうか?」
「あっ、そんなこと言っていいんですかね?後で後悔しても知らないっすよ?そこの天才君二人はどうする?」
「そうだね、偶にはいいかもね」
「おう、俺はどっちでもいいぜ」
ティア嬢の弁当をバカにする奴には天罰が下る。いや下す。
「ハハハ、いや仕方ない。皆がそう言うなら私も付き合おうではないか」
―しかして昼食時。
「な!なんだこれは!う、ううう、うまいぞぉおおお!」
王子の人格が変わっていた。
ゲームの中には料理魔法と言う物があった。それで、セバスチャンにそういう物がないか聞いたところ、そんなものは存在しないと言われた。
ちなみにゲームの中では、料理の素材を集め料理魔法を用いると料理ができるという仕様だった。ので、
「ちょっとティア様、ここに料理の素材があります。これを魔法で完成品になるよう念じてください」
って言ってみた。
そうしたら、なんと、ティア嬢はオレの言う通りに魔法で完成品にしてしまった。
「へえ、料理ってこんな風にしてできるのですね」
って言ってた。無知とは恐ろしいものですなあ。セバスチャンの飛び出しそうな目玉が印象的でした。
最初はティア嬢の知っている料理を、そして徐々にオレの世界の料理を身振り手振りを合わせながら作ったところ、カラアゲ・ハンバーグ・グラタン・ホットケーキ・プリン等、様々な料理が完成した。ヒロインはこれをもって攻略対象の胃の攻略に向かってたっけ。
「どうして弁当なのにあったかいの?うわーなにこれサクサクホクホクほっぺが落ちそう」
カラアゲを食いながら笑顔を振りまく魔術の天才君。
「これ豚か!えっ、あの醜い動物がこうなるのか!うそだろおい…」
トンカツにかぶりついて絶句している剣の天才君。貴族は基本豚なんて食わないんだっけ?
「ジョフィ君。ぜひこれを作ったシェフを紹介してくれ。言い値で雇い入れよう!」
王子様がそう言って来る。
「いやー残念だけどそれは無理じゃないかな。なにせこれを作ったのは…ここにいる、ティアラース様なのだから!」
「「「な、なんだってぇえ!」」」
3人が驚愕の表情でティア嬢を見つめる。いでで、ティア様つねらないで下さい。
ティア嬢は真っ赤な顔でうつむいている。
「貴族が料理など、はしたないでしょうか?」
「い、いや、これだけのことができるのだ。もうそのような次元ではないであろう。いやほんと、后に欲しいくらいだ」
王子様のその言葉にさらに顔を赤くするティア嬢。良かったですねえ。後はヒロインが王子様ルートに入らなければハッピーエンド。
「まあでも、王子は弁当より食堂の方がいいんでしたよね?オレ達は明日からもティア嬢の手料理ですが」
「ハハハ、ジョフィ君は冗談が上手いねえ」
目が笑ってません王子様。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ティアねえ、おなかすいたーごはんまだー?」
「はいはい、もうすぐできますよ」
「…なあフェン介」
「なんだよ?」
「お前の種族って生まれてから成長するまでどんくらいなんだ?」
フェン介の子供達が生まれてから2ヶ月が経った。誰もなんも突っ込まないからオレも放置していたのだが…
「おれはネイねえのごはんがいいー」
「むう、シュルクはわがままなのぉ」
「わがまま言う子にはごはんぬきですよぉ?」
「やだー、ごめんなさいティアねえ」
上目遣いで見てくる子供を、デレデレな顔をしてそっと抱きしめるティア嬢。
「ほら二人とも食堂に行きましょうね」
その二人を良く見てみる。あれもう、小学生ぐらいと変わらねえんじゃね?
フェン介によると、そもそもルーンウルフはモンスターだから、成獣の状態で自然発生するので子作りは行わないそうな。ルーンウルフ同士ではな。
一部例外が、モンスターと通常の動物とでできることが稀にあるとか。こっちはセバスチャン情報だ。
で、ついでにセバスチャンに、もし、そういった場合、子供の成長とか寿命はと聞いたところ、大人になるまでは動物と同じだが、大人になってからはモンスターと同じだけ生きるとか。
それにしても2ヶ月って、犬でも2歳相当のはず?
「しかしまあ、このスピードで成長するってことは、大人になったときどうするかも考えとかないと駄目だなあ」
「そうでありますなあ。幽閉…というのはあまりしたくありませんしなあ」
「うむ。そう言えばセバスチャン、魔族の村だとどうなのだ?シュルクとミーシアのような存在はおらぬか?」
ネイリスさんがそう聞いてくる。
「さすがに居ませんなあ…とはいえ、魔族は外見が変わった者はそこそこおります。まあ、多少の問題はありましょうが…」
「いずれどっか、魔族の辺境にでも住まわせるしかないか…」
「じいさん、どっか親戚とか預けれそうなとこない?」
「私は今や裏切り者呼ばわりされておりますしなあ…」
セバスチャンっていったいどんな背景があるの?知りたいような…知りたくないような…
「そうだ、ティア様に聞いてみるか。公爵家ならそこそこの魔族に知り合いがいるかも知れんしな」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「えっ、何言ってるの?あの子達は絶対に手放さないわよ?」
「ええっ!?」
ティア嬢に、どっか信頼の置ける魔族にあの子達を預けられないか聞いたところ、そういう回答が帰ってきた。
「いえ、しかし、このままずっと家の中にこもっりきりにさせるのもまずいですし」
「そうね…そろそろお披露目もいいかもしれませんわね…」
なんか今不穏なセリフが…
「見世物じみた結果にならないかな?」
「貴族の中には、希少な魔族を従者としている方も結構いますわよ?ネイリスさんもそうでしょ?」
なるほど、希少な魔族として発表するってことか。どうせ人間達にゃ魔族の種類なんて分からないだろうしな。
「それはいい案ですね!」
「問題はお父様とお母様を納得させないといけないことですわね…」
「えっ?我が家の従者としてじゃないのですか?」
ネイリスさんが不思議そうにティア嬢へ聞く。
「えっ、先ほど言いましたでしょ?あの子達は絶対に手放さない、と。もしかしてネイリスさん、私の従者としてじゃご不満ですか?」
「いえいえ、滅相もない。公爵家の従者などあの子達も願ってもないことでしょう!」
身元不明なのに公爵家の従者なんてできるのかなあ?
とそこへ、子供達が恐る恐る入ってくる。
「ティアねえ、わたしたち捨てられるの?」
「おれもっといい子になるから捨てないでよ!」
そう言ってティア嬢にしがみつく。
「あらあら、どうしてそう思ったのかしら?」
「なんか遠くへ預けるとか聞こえたから…」
さすが獣人耳がいい。ヒッ、ティア嬢が氷の瞳でオレ達を見据えてくる。
「大丈夫よ、おねえちゃんがどこにも行かせないから」
「ほんと、ティアねえ大好き!」
「さてと、そうと決まれば…おい、そこのゴミども、至急馬車を用意しなさい」
「ハッ、わたくしゴミであります!至急用意いたします!」
ネイリスさんがガクブルで答える。
いやー、さすがは悪役令嬢キャラ、怒ると怖い…ちびりそうだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「その者達がおまえの剣心か?」
ティア嬢に連れられて豪華な公爵家の一室に案内されたオレ達。
そこへ、ティア嬢の父上、すなわちこの国の公爵閣下が入って来てオレ達を見てそう言う。何?剣心って何?るろったりするの?
「その答えはまだ早いですわお父様…でも、そうですわね…」
ティア嬢がなにやら考え込んでいる。
「お嬢様、剣心ってなんのことです?」
「さあ、私も聞いたことないな」
「あれじゃね、健康診断でもすんじゃね」
「なるほど、違うと思うな」
フェン介はバカなんだろうか。ああバカだった。
「…ティア、剣心を見つけたから外泊しておったのではないのか?まさか護衛もつけず?」
「あ、はい!この者が剣心です!」
「そうか、ふむ、少し力量を試させてもらっても良いか?」
ふむ、…この公爵令嬢、さては外泊許可の為にいらんストーリーを作ってるな。
と、そのとき、部屋に居た公爵家の護衛の1人がティア嬢に切りかかる!
「ティア様!」
ネイリスがさっと間に入り盾で受ける。それと同時にフェン介が後ろから殴りかかる。その護衛の人は難なく受け―――られずに膝を突く。
あいつの攻撃早いうえにトリッキーだからな、頭を攻撃すると見せかけて足を攻撃したのだろう。
オレとセバスチャン?まあ、芝居って分かってるから動かなかった。というかあのスピードにはついていけませんがな。
「ほう、そいつが膝を突くとは、中々の…なんじゃそれは?」
父上がティア嬢の状態を見てびっくりしている。なんせケモミミブラザースがティア嬢にくっついて威嚇していた。まつぼっくりみたいだな。
なにげにこの2匹が一番動くのが早かったんだよなあ。
「ほらほら大丈夫ですわよ。これは単に芝居ですからね」
そう言ってティア嬢は2匹をあやす。
「どうですかお父様?」
「もちろん合格…というか…それ本物なのかね?」
「触ってみますか?」
子供達に興味津々になった父上が恐る恐る犬耳を触ってみてる。
「この子達は…実は魔族と犬のハーフなのです」
おおっ、おしい!魔物と犬です。
「なんとっ!おおう、ふさふさじゃのう」
「わたくし、このめずらいこの子達を従者にしようと思っておりますの。そこで正式にお父様とお母様の許可を頂きたく」
「ふむ、良いのではないか。他の貴族ならともかく、この公爵家ならこのような希少な種を囲っておっても不思議に思われんだろう」
「あなた、ティアが帰って来てると聞いたのですが」
その後、合流した母上も一緒に相談し、子供達は従者見習いとしてティア嬢に雇われることになったのだった。
「ティア様、剣心とはなんなのでしょうか」
オレ達はその日、公爵家に泊り込むことになった。なんでも、母上が子供達を気に入って離さない。今日は一緒に寝るのって言うことを聞かない。ティア嬢はこの母上の血を継いでるんだなあとつくづく思いました。
「ねえネイリス、あなたわたくしに仕える気がありませんこと?」
「従者としてですか?それはもちろん喜ばしいですが…一応騎士を目指しております故」
「ええ、ですから、その騎士としてですわ」
「は?」
ネイリスさんが戸惑った声を上げる。
「剣心とは皇帝より貰った権利の一つなのです。通常騎士は国、又は皇帝に使えるものでしょう」
「はい」
「公爵家など一部の家は、自分の騎士を持つことが許されているのです」
「それを我が家では剣心と呼んでますの。決して裏切らない心を持つものとして」
横からティア嬢の母上が子供達を抱きしめたまま会話に入ってくる。
「あなた達はティアが心を許しているのが良く分かります。それだけ信に値する者なのでしょう。しかし、上位貴族家に群がるものは魑魅魍魎、信用できる者など、親兄弟ですら怪しい」
「よって、身分を隠し市井に出、本当に信に値するものを捜すという…まあ、そういったものですわ」
なるほど、その制度を利用してネイリスさんとこに泊り込んでた訳か。
「ミーもティアねえのけんしんになるう」
「おれも、おれもー」
「ええ、ぜひ大きくなったらお願いしようかしら」
子供達にそう言われてデレデレの顔でティア嬢が答える。
逆に護衛をティア嬢が命がけで守るなんてことにならなければいいが。
「私はまだ見習いですらない若輩者ですが宜しいのでしょうか?」
「わたくしにとって、あなたほど信用のできる人は…この先も現れないでしょう」
「ティア様!」
二人は手を取り合って見つめあう。いやー百合もいいものですな。
「そうだネイリスさん、あなたどこに住んでいらっしゃるの?」
「街の東側外周のあたりです」
「遠いですわね、学院に通うのも一苦労でしょう」
ティア嬢の母上がそう言って来る。
「たしか離れが空いてましたわね…いえ、いっそこの屋敷を拡張して…」
子供達を見ながらそう続ける。
「あなたここに居住を移しなさい。どう名案よね!」
「お母様…」
「あなた達ならあの子のことも打ち明けて大丈夫でしょ」
あの子?ああ、もしかしてティア嬢の弟君のことか。そういや秘密にしてたんだっけかな。
「さあ、そうと決まれば、そこのあなた達、今すぐ荷物を運んで来なさい!」
「えっ、今もう夜中ですよ?」
「善は急げですわ」
むちゃ言うなこのオバハン。