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第12話 エピローグ

「どうしたフィリス、膝なんか抱え込んで。ん、寝れないのか?」


 そう言うと母様は私を後ろから抱きかかえてきます。


「少し反省をしているのです」


 そう、今回ここまで追い詰められたのは全て私の責任なのです。

 私たちは最初、十分フェンリルを押していました。

 戦闘が長引いていたのは、フェンリルの体のどこかにお父様が封印されていたので、迂闊に攻撃出来なかったのが原因です。


 そしてその場所もある程度特定でき、いよいよ反撃に移ろうとしたとき、これで終わりですねって私が油断して…

 ふと気が緩んだ隙をついてフェンリルがこれまでにない速度で私を襲ってきました。

 それを庇った母様は…


「まあ確かに、今回は油断があった。私たちは個々の能力が高いが上に過信をして戦術を疎かにしたのが悪手だったな」


 それでも母様は私を責めてきません。


「確かに戦術を疎かにしてたのは事実ですが…私が油断しなければ十分…きゃっ」

「フィリスぅ、お前はあったかいなー」


 母様がその豊満な胸に私をぎゅっと抱きかかえてハフハフしてきます。

 ネイリス母様は私と二人っきりだとその、なんていうか、とても子供っぽくなってしまいます。

 私が赤子の時なんて、周りに皆がいないかきょろきょろして何をするのかと思ったら、


「ほうらママでしゅよー、フィリスたんかわいいでしゅねー」


 って、思わず吹き出しちゃいました。


「お前が無事でよかった、皆が無事でよかった。いいじゃないかそれで」

「…………っ、はい」


 私もそんな母様にぎゅっとしがみつきます。

 私ももう幾千万もの年なんですが、普段キリッとしている母様がこんなに甘えてくるのにつられて、なんか、私も子供みたいに甘えてしまいます。

 人間に転生して以来、人の性質である感情という物に翻弄されてばかりです。


 神であった頃は人などただの物としか捉えていませんでしたが、今では…母様は私のかけがえのない宝物です。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「もっと父様はネイリス母様を大切にするべきだと思いますの!」


 なんじゃ急に?


「何を言うか。ティア母上こそ父上は労うべきではないのか!」


 エイテイシアまで?

 本日は、こないだのフェンリル戦の反省会をするのではなかったのか?


「アルフィーラは何か言うことありませんの?」

「ん、母親についてか?吾輩の母はアレじゃからのぉ」


 吾輩は窓の外で蝶々を追いかけて遊んでいる黒猫を見やる。


「まあ、アレじゃあねえ」

「アレではなぁ」

「にゃ!なんかあちきがでぃすられてる気がするのニャ!」


 立ち止まってキョロキョロしている黒猫。

 あれでも女神だから悪口には敏感であるな。


「そんなことよりも、今回のフェンリル戦、フィリス、全てはお主の油断が元での苦戦じゃぞ」

「うっ、分かっております!私も少々、世の中というものを舐めていましたわ」

「うむ、今回、あやつに殺意がなかったから良かったものの、あれが殺す気であったなら我々は全滅しておったところだ」


 フェンリルにはもう翻意はないであろうが、まだこの世界には神が1柱残っておる。

 そいつが今後、手をだしてこないとも限らない。


「こちらから打って出ますか?」

「物騒じゃな、寝た子を起こすこともあるまい」

「しかし、母様にもしものことがあったら…私は全てを壊してしまいかねません」


 お前まで邪神になるつもりか?


「何やってんだお前ら、こんなとこで」


 そこに人間の男性に化けた父が通りかかる。


「ふむふむ、残りの1柱の神様に襲撃を仕掛ける?やる前にやろうと?あー、却下、却下。そんなことしたら話し合いすらできなくなるぞ」


 よっこらせっと言って吾輩たちの間に座り込む。


「怯えてるのか?命をなすく可能性に、大事なものを失う可能性に。どんなものであろうともいつかは無くなる。そうだろエイテイシア」

「その通りだ。俺様は2度ほど愛するものを失っている。一度目はアンデットにまでした。しかし、結局は…誰も永遠など求めるものはいやしない」


 それを聞いてフィリスは唇をかみ締めておる。

 変われば変わるものよのう、あの全てに興味がなかった深淵の神が。

 いや、興味がなかったからこそか。

 吾輩やエイテイシアのように、人をずっと見続けておったものはそれを当然と受け止めることが出来る。

 じゃが、始めてみる人を、初めてなる人を、その在り方に戸惑いを持つことは当然かもしれまい。


「フィリス、母さんのことは好きか?」

「はいっ!」

「オレも大好きだ。だけど、その大好きで居られる時間は限られている、だから、もっともっと好きになるんだ。もっともっと好きになれるんだ」

「っ、はいっ!」


 時間が限られているからこそ、大好きになれる…か。


「そうですよね。限られているからこそ、大切に思えるものもあるのですよね。父様」

「なんだ?」

「その限られた時間、もっとネイリス母様に割いてください!」

「そうだ!時間は限られておる!ティア母上にもっと労いを掛けるべきだ!」

「えっ、なに?なんでそんなに話が飛ぶの?」


 別に飛んでおらんぞ。最初はその話じゃったからな。


「そもそも父様はネイリス母様をないがしろにしすぎです!」

「うむ、いつも遊んでばっかりで、母上に仕事をおしつけすぎだ!」

「あっ、オレ王様にお呼び出しがあったんだった。それじゃこれで!」


 そうは問屋がおろしまい。

 我ら3柱の神から逃げれるとお思いか。

 吾輩はがっしりと父の袖を掴む。


「…楽しそうだなアルフィーラ」


◇◆◇◆◇◆◇◆


「ちょっと!召集したのは昨日でしょ!なんで来なかったのよ!」


 いやなんか、昨日は父ちゃんが姉ちゃんたちに捕まってたらしくてさあ。


「おっ、ヒメちゃん。ちょっと重くなったな、成長しているんだな。あだ、あだだ」


 父ちゃんに抱きかかえられてるヒメちゃんが、頬を膨らませてぽこぽこ殴っている。

 小さくでもレディだよ。重いはないんじゃないかな?


「そ、それでも、手紙くらい寄越せるでしょ!」

「ごめん、色々片付けとかも忙しかったら。キャルリーには心配かけちゃったかな?」

「べ、べべべ、別にあんたのことなんてこれっぽっちも!心配なんてしてないんだから!」

「見事なツンデレだなあ…」


 父ちゃんがキャルリーを見ながらそう言っている、ツンデレってなに?


「やっと来たかジョフィ。あいかわらずうちのお姫様はジョフィがお気に入りだな」


 そう言いながら皇帝様が中庭に降りてくる。


「うちの家系の女性はどうも、人付き合いが苦手な性格が多くてね。それでもジョフィだけは気兼ねなく接することが出来るようで、来てくれると大変助かるよ」


 王家のお姫様はストレスが多いのかな?

 スフィア様はコミュ障だし、ヒメちゃんは人前で言葉が話せないし。


「まあそれよりも、一体あの丘の上では何があったのかね?使者の話では屋敷が崩壊していたとか」

「ああ、なんか獣神フェンリルってのが襲ってきたのよ」

「ほう、なんだか凄そうな名前だな。そいつはどうしたんだい?」


 皇帝様はまあソレぐらいは予想の範囲とばかりにそう続けてくる。


「ああ、なんかネイリスさんがペットとして飼うらしい」

「…………大丈夫か?」


 さすがにこっちは予想の範囲を外れていたようだ。

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