第11話 こんなに長くなるとは思わなかったス
「じゃあ何か?あいつ、オレ達が世界に影響を及ぼすからといって封印しにきたと」
「そうなのー、なんかそんなこと言ってたのー」
「はい、それで最初にネイリスさんがやられちゃって…」
フェン介によって助け出されたシュルクとミーシアに詳しい話を聞いてみたら、どうやらあちらさん、この世界の神の1柱で獣神だとか。
それで神様やら異世界人やら、世界に重大な影響を及ばせないようにとオレ達を襲ってきたらしい。
「つーかあいつに生えてるあの水晶はなんなのよ?」
「それはじゃな」
アルフィーラの話では、邪神の瘴気大発生計画の対応において、万が一アフローティが失敗したら、代わりに邪神を封印しようとして作り出したとか。
「それってさぁ…もしかして、せっかく作った封印水晶が無駄になったから腹いせにやってきたんじゃね」
「ギャン!」
おっ、アッコさんのクリティカルがフェンリルに入ったな。
…今、動揺しなかったかあいつ。
「ふむ、そう言われれば…吾輩達は今やただの猫、または半猫、世界に与える影響などそうそうありはせんであろう」
「ギャン!」
おっ、フェン介の必殺技がまともに入ったな。
…動揺しすぎだろあいつ。
「か、可能性があると言う事だけでも重大な事なのじゃ!」
可能性ねえ。
「おいフェン介、寄り道してねえで、いい加減クルーカを頼むわ」
「そうは言われてもな。クルーカの水晶なかなか触れずらい場所にあるんだわ」
なるほどな、危険度が高い奴は手の届きににくい場所に生えていると。
つーことはあれか。オレは一番危険度が低いと思われたと。まあ、その通りだけどさ。
と、フェン介が雷を受けたな。
『ヒールエクステント!』
アッコさんが、風の攻撃を受けて肩から血しぶきがあがる。
『ヒールエクステント!』
すかさずハグウィックが回復魔法を唱える。
「そろそろいけるか」
「はいっ!」
「はいなのっ!」
「フェン介、アッコ、交代だ。シュルクとミーシアはあんま無理しなくていいぞ、フェン介達の体力回復の時間を稼いでくれ」
そうやって何度も交代させながらフェンリルを追い詰めていく。
向こうもバカじゃないようで、回復基地であるこっちを頻繁に狙ってはきているのだが、分厚い水の壁により、雷は受け流され、風の魔法は威力を弱める。
たとえ切り裂かれても水だしな、すぐに元通り。壊れることもない。
「くっ、小癪な異世界人めっ、お前こそ手の届きにくい場所にしておくのだった」
今更遅いです。
とうとうフィリスとエイテイシアも封印が解かれる。
「ネイリス母様…申し訳ありません。私が至らぬばかりに」
「やってくれたな獣神!母上を帰してもらうぞ!」
「こらこら、お前達は回復役な、オレ達も疲れてきたから」
さてと、これで攻撃力は倍、回復力も倍、そろそろかね?
「もはや封印などと生ぬるい事を言ってる場合ではないか…異世界人、お主だけは生きては返さん!」
返さんってあんた。ここはオレのホームっすよ?こっちから出かけたわけでもないのになー。
フェンリルは風を纏いながら水の壁に突っ込んでくる。
「今だアルフィーラ!」
「了解じゃ!」
水の壁は瞬時に姿を変え、フェンリルを包み込む。
「降参するなら今のうちだぞ」
「なにを馬鹿なことを」
「そうか、フェン介、魔法だ、フレイムでいいぞ」
「ああ?そんなのでいいのか?」『フレイム!』
フェン介の魔法がフェンリルを捕らえている水に届く。と、急に天を劈くほどの炎が水から立ち上る。
「な、なんだこれは!」
「燃える水ってしらねえか?ガソリンっていうんだよ」
フェンリルを捕らえた時にアルフィーラの力によってその性質を変化させたのだ。
まあ、爆発しないように調整はしてるがな。
「お、おい、中のお嬢様たちは大丈夫なのか!」
「ああ、水晶ってのは融点が高、って分からねーか、まあ、熱には強いんだよ」
とはいえ熱を通しやすくはあるんだがな。
まあ、封印されている状態なら体には影響がないとアルフィーラが言ってたから大丈夫だろ。
むしろ体に刺さっている分、あのフェンリルには大層熱く感じられていることだろうな。
フェンリルは暴れまわってあちこちに体を打ち付けている。
危ないんでオレ達は遠くへ避難だ。
山の木々に炎がうつり、まさにそこは地獄絵図が広がっている。
獣は炎が苦手ってことは、その親玉であるフェンリルとて例外ではない。
徐々に勢いをなくしていくフェンリル。
「フェン介!」
「おおよ!」
オレのリジェネイトの魔法を受けた、フェン介がその炎の中に飛び込んでいく。
そして遂に…
「クルーカ、例のでかい奴頼むわ」
「…よくもっ、殿の前で恥をかかせてくれたな!許さん!」
『神罰・仁王剣!』
その瞬間、クルーカの体がフェンリルの数倍もの大きさに膨れ上がる。
あっけにとられたフェンリルは固まって見上げたままプルプル震えておられる。やはり獣、自分より大きなものは恐ろしいかね。
そして、そこから剣を振り下ろすのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「さて、このワンコロどうしてくれましょうかね」
ティア嬢が瓦礫となった我が家に足を組んで腰を下ろし、小さくなったフェンリルを見下ろしている。
フェンリルは我が家の女神たちが束になって作った首輪によって、現在子犬サイズに縮小されている。
「首を落としましょう、いえ、首を落としても神だから別の者に生まれ変わるだけですね。でしたらこうしましょう。その燃える水?とやらに生涯漬かっていてもらいましょう」
ホルマリン漬けかよ。
クルーカもクロエも自分がいたというのにオレが封印されたということで大層ご立腹であらせられる。
動物に当たっちゃダメだぞ。
「まあまあ、よろしいではありませんか。こんなに震えて可哀想ですぞ」
犬好きのネイリスさんは小さくなったフェンリルさんをかばっておいでだ。
「別に命をとられたという訳ではありますまい。ほら、世の中には『終わりよければ全てヨシ!』という言葉もあることですし。家なら、また、建てればよろしいでしょう」
「その費用は誰が出すのですかね?」
「あー、なんだ、」
ネイリスさんはフェンリルを見やる。
「どうだ、芸でもしてみるか?」
ブルブルと首を左右に振りまくるフェンリルさん。
フェンリルの芸なら大層大入りになるかもっすね。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ハッハッハッ!主、御代わりを頼む!」
「いいぞ、どんどん食え」
あれからどうしたかって?
なんだかしらないがすっかりネイリスさんの下僕と化しているでござる。
ルーンウルフ達の活躍に大層気をよくしたネイリスさん。
それはもう、これ地獄の釜じゃねってぐらいの豪勢な手料理を奮発した。
お前も食べるか、とフェンリルに進めたときは、やっぱり怒ってて、こっそり止めをさしに来てるのかなと思ったもんだが…
それを食したフェンリルさん、すかっりネイリスさんの料理の虜に。
そういやフェンリルもモンスターの一種だったか…




