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第9話

 一人逃がしてしもうたか。

 まあよい、今日のところはあそこにいる邪神を封印すれば上出来じゃ。

 しかし、たかが人間にこうもてこずるとはな。


 転生した3柱のうち1柱でも人間であったなら我も不味かったかも知れぬな。


「もう良いであろう、良く頑張った人よ、世の中にはあってはならぬものというものがあるのじゃ」

「ま、まだですわ…まだ、負けていませんわよ!」


 体中から血を流し、全ての力を使い尽くし、ボロボロの風体で地面に這い蹲っていながら、その目線だけは今尚我を貫こうとしている。 

 それはまるで獣のようで、こんな場面でもなければ、我の眷属としてやっても良いと思えるほどじゃ。


「我は別に御主らを滅せようとしておる訳ではない。ただ世界を、あるがままに戻そうとしておるだけじゃ」

「その世界に、ジョフィは、あの人は存在しないのでしょう!」


 当然じゃ。

 我もまた、アフローティアと同じくこの世界を愛しておる。

 アフローティアと違うのは、その愛が向いてる方向が違うだけじゃ。

 あやつは人を、我は獣を。


 だからこそ我はこの世界を守りたいと強く思う。

 神も、異世界の者も、この世界を乱そうとするならば、我はそれを防がねばならぬ。


「何を言うか!貴様は吾輩が瘴気を溜めておいても何もしてこなかったではないか」

「何もしてない訳ではない。お主が本気であったことは我は重々承知しておった。だからこそ、このように、神をも封印できる水晶を大量に作っておったのだ」


 とはいえ、このような形で使うことになろうとは思ってもみなかったがな。

 今は猫となった故にこのように簡単に封印が可能であるが、本来の邪神であれば、我とてどうなっておったか。

 正面から戦わず、あえて興味のない振りをし、隙を見て封印という形をとるつもりであった。


「あなたはわたくし達を封印していったいどうするつもり?」

「今はそなたらのような者は『早すぎる』のじゃ。いずれ、世界が成熟すれば、徐々に戻してやろう」


 ただし、神々と異世界の者は除くがな。


「アルフィーラ、あいつは信用できません。封印は二人同時には無理でしょう。その隙をついてあなたは逃げなさい」

「ハハっ、吾輩はこう見えても世界を恐怖に叩き落す邪神であるぞ!その隙で奴を犬鍋にしてくれるわ!」


 大層な口をきいておるが、邪神も逃げるだけの体力は残っておらんのだろう。

 我は封印の術式を展開する。

 水晶の欠片が人間の女を取り囲む。


「アッコ…ハグウィックを頼みましたわよ…」


◇◆◇◆◇◆◇◆


 間に合わなかった!

 暴風雨の中辿り着いた丘の上は、まるで台風の目のように、風が凪ぎ、雨も降り注いでいない。

 その中心では今まさに、ティア母さんが水晶に閉じ込められ、消えていった。

 そして次にアルフィーラ姉さんの回りを半透明な結晶が取り囲む。


「フェンおじちゃん!」

「おうよ!」


 姉さんが水晶に取り込まれる寸前、フェンおじちゃんが抱きかかえてその場を離れる。


「な、フェン介!」

「姉ちゃん!」

「ハグウィックまで!なぜ来た!アッコ、お主、ハグウィックを連れて逃げよといったであろう!」


 姉さんが慌ててアッコさんに怒鳴ってくる。


「若の御心のままに」

「ハグウィックが?この状況が分からぬものでもあるまい。今からでも遅くはないすぐに立ち去るのじゃ!」


「一人逃がしたと思っておったが、自分からやってくるとはな」


 そのとき、どこからともなく声が聞こえてくる。


「そこかっ!」


 その声がした方へフェンおじちゃんが走りこもうとする。


「ダメだよ!フェンリルは風の魔法を使う、声なんてどこにでも飛ばせる」


 声は空気の振動だ、だから風の魔法を操るフェンリルならば声の場所を操るのはたやすいこと。


「ハッハッハ、少しは頭を使う奴がおったようじゃな」


 その声は様々な場所から聞こえてくる。

 前から後ろから上からまで。


「ルーンウルフの人達、お願いします!」


 と、木々の間から一斉に風の魔法が放たれる。

 威力は弱くて構わない、ただ丘の上全域を捉えるぐらいの範囲を。

 そしてその、魔法がかき消されてる場所が、フェンリルが居る場所だ!


「アッコさん!」


 アッコさんから無数の熱戦が放たれる。風の魔法が歪んで避けている場所に向かって。


「ルーンウルフだと?貴様ら、誰に向かって攻撃しているか知っておらぬのか。我こそは獣を束ねる獣神フェンリルであるぞ!」

「そんなもの知ったこっちゃねえぜ!今の俺たちゃあんたの眷属でもなんでもねえ、俺達が仕えてんのはここにいるアフローティア公爵家の方々だ!」

「それとも何か?あんたはアレ以上の飯を食わしてくれるってのーか?ハンッ、返してもらうぜ、俺達の飯を!」

「誇り高き狼が…すっかり牙を抜かれた犬に成り下がりおって。仕方ない、少々きついお灸をすえてやらねばな」


 フェンリルから無数の雷が放たれる。しかし、


「なに!雷が吸い寄せられる!?」


 セバスチャン達が用意した避雷針に吸い込まれていく。

 セバスチャンはミスリルのロープを解き、細い糸状にして地面の各地へ投げ入れていた。

 そして、フェンリルの雷はその糸状のミスリルに引き寄せられ雷は糸を辿り消えていく。

 あとは、あの透明化している状態さえなんとかできれば…


「アッコさんいけますか?」

「雷と撃つとき一瞬ですが姿が見えます」


 アッコさんはフェンリルの雷の魔法に合わせて呪文を唱える。

 その魔法は…


『イリュージョン・コネクト・パーフェクトバースト!』


 そう変身魔法だ!


 見えない獣なら、見える獣に変身させればいいんだ!

 そうして現れた獣の神は…見上げるばかりの巨大な姿で、体のあちこちから無数の水晶が生えていた。

 そしてその水晶のいくつかに…母さん達が埋まっていた。


「ばっ、バカな!我に変身魔法だと!?いくら邪神が生み出した悪魔族とて、その程度の力で我に影響を及ぼせ得るはずがない!」


 そうだよ。だからね、


「あなた自身は無理でしょうね。しかし、あなたを取り巻く空気ならどうでしょうか」


 そう、フェンリルを取り巻く空気を薄皮一枚分、それに色をつけてやったんだ。

 今のフェンリルは、アッコさんが空気の鎧を纏わした状態と言えば解りやすいか。鎧といっても空気だから、攻撃は貫通するけどね。


「おい、おめえをあの水晶にくっつけりゃいいのか?」

「そうだ、私の力であの水晶の封印を解いてみせよう。しかし、近寄れるか?」

「はっ、俺様を誰だと思ってやがる!世界が驚く!大魔道士フェン介様だ!」


 そう言うと全身から青白い炎が立ち上がる。

 いつも思うんだけど…ただ炎を纏ってガチ殴る人は魔道士とは言えないんじゃないかなあ?そりゃ世界も驚くよ。

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