第5話 アッコさんと夜空のデート
「どうされましたか若、こんな真夜中に」
ボクが夜中に屋根の上で考え事していると、アッコさんがフワリと飛んできた。
「最近ね、剣術の訓練始めたんだけどね…なんていうか、補助魔法ありきな感じになっちゃって。それだと結局カリスとか他の人に補助魔法を掛けてもらわないと駄目な訳で…」
それだとボクが強くなったっていえるのだろうか?
結局誰かが近くにいなければボクは戦闘できない事になってしまう。
「それは何かまずい事なのでしょうか?」
「えっ、だって、もしボク一人で戦わないといけない場合とか困るじゃ?」
「そうならないようにすればいいだけじゃありませんか」
えっ、そうならないようにって…
「剣士だって戦闘時に剣がなければ只の人ですよ?ですから剣士はそうならないように剣を常に肌身離さず持っている。それと同じ事でしょう?」
剣士の剣が…ボクにとってその剣にあたるのがカリスってこと?
「カリスだけではありませんよ。私だって、ここにいる皆だって、すべてが若の剣なのです」
「皆がボクの剣…」
「若にとって剣とは人、人とは剣、それをどう使いどう戦いに役立てるか。それを考えるのが若の役割ではないですか」
ボクの役割…そういえばソルさんも言ってた。
目の前の物全てが武器だ。人もまた然り、どう勝つか、が欲しいのなら俺から教える事はない、どうやって勝つか、俺が教えれるのはそれだけだ。
そうか、ボクが剣を振って勝てないなら、剣を振って勝てる人を用意すればいいのか。
「少し、夜空の散歩をいたしましょうか」
そう言ってボクを抱きあげたアッコさんは宙に浮く。
そしてゆっくりと帝都に向けて移動していく。
暫くするとあちこちに灯りのともった帝都の上空に辿り着く。
「私の力をもってすれば、ここにいる全ての人を根絶やしに出来ます。若の一言で、それがなしえるのですよ」
「ええっ!」
そんなこと命令しないよ!
びっくりしたボクにアッコさんは妖艶と微笑みかけてくる。
「今の若にはそれだけの力をお持ちだということをお忘れなく」
えっ、なんだか怖くなってきたよ?
アッコさんは単に元気付けてくれようとしてるんだろうけど…
やっぱりボクは一人で強くなれるよう頑張ったほうがいいんじゃないだろうか?
6歳児に剣を振って勝てる人っていって、クルーカさんを連れていったら、呆れられるにも程があるよね?
◇◆◇◆◇◆◇◆
「はあはあ、アッコにそう言われたと。まあ、どういうつもりで言ったかは兎も角、あながち間違いではないぞ」
父ちゃんに剣とは人、人とは剣ってどういうことって聞いたらそう答えが返ってきた。
「あそこにでっかいお城が建ってるだろ?そこには王様がいると、しかしながら王様一人では戦争はできないよな。そういった場合、兵士が必要となる」
「うん」
「その兵士が王様にとっての剣だ。王様はその兵士という名の剣をどう使って戦争に勝つか、それが戦術だ」
ということはアッコさんはボクに戦術を学べって言いたかったのかな?
「いや、アッコはそこまで考えてないだろ。どうせハグウィックの気に入らない奴がいれば、自分が始末しますよってことが言いたかったんじゃね」
ええっ、それはそれで怖いよ!
ここで気に入らない人の名前とか言ったらアブない事になりそうだ。
「ハグウィックはあれだな、迂闊に敵を作らない方がいい。お前に敵認識された時点でそいつの人生は終わるな」
ええっ、そんな気軽に言わないでよ!
敵を作らないって言ってもどうしたらいいのよ!
◇◆◇◆◇◆◇◆
「くっ、どこいったのよアイツ!」
真っ赤な髪を逆立てた女の子がキョロキョロと辺りを見回している。
その隣ではおとなしそうな子がその子の服を引っ張っている。
「大丈夫よヒメちゃん!私がアイツの魔の手から救い出してあげる!」
おとなしそうな子はフルフルと首を振っているが、赤髪の子は気にも掛けていない。
ほんと父ちゃんも無茶言うよなあ。
「なんかあったら逃げろ、そして隠れろ。波風立てないのはそれが一番だ」
って、父ちゃんじゃないんだから…
「いいか、世の中にはな『戦わずして勝つ』って諺があってだな。問題が起こりそうなときはその問題を事前に解決するのが一番なのだ」
とは言ってもさあ…すでに起こっている問題はどうしたらいいの?
そもそも発端は父ちゃんの所為なんだけど。
なんでもあの子は、ボクの婚約者であるヒメちゃん大好きっこで、ボクのような軟弱者が婚約者であることが許せないらしい。
じゃあ婚約解消しようよって言ったらそれはそれで、あんたはこのかわいいヒメちゃんのどこが不満なのよって。いったいボクにどうしろと?
ヒメちゃんは泣き出すしさあ。
あっ、あそこにいるのってアッコさんなんじゃあ…えっ、手に魔力を溜めて何しようと?
アッコさんの視線の先にいるのは…
「おおぅっとぉ!キャルリー、こんなとこに居たのか、捜したよ!いやあーボク達仲良しだよね!」
ボクは赤髪の子、キャルリーの腕をとって引き寄せる、なるべくボクに密着させるように。
「ちょっ、ちょっとなによ急に!」
キャルリーはその顔を髪と同じぐらい真っ赤にさせて抗議してくる。
だがボクはその手を離さない、だって離すと…キャルリーの命が危ない。
ボクは必死で仲いいアピールを続ける。
遠くにいるアッコさんは少し首を傾げながら手を降ろすと去っていった。
ふう、ほんと迂闊なことはできないよね。
◇◆◇◆◇◆◇◆
うっ、なんなのよぉこいつ。急に私に引っ付いてきちゃって!
ちょっと離れなさいよ!もうピコピコ耳を動かせて…はっ、私はそんな見た目なんかに騙されないんだからねっ!
ん、どうしたのヒメちゃんそんなに頬を膨らませて。
はっ、もしかして私とコイツが引っ付いているので嫉妬してるとか!
うわー、いじけてるヒメちゃんかわいいー。
「ごめんねキャルリー、急に腕なんか組んじゃって」
ふと、ハグウィックがそう言ってくる。
「ほんとよ!」
「いや、そのね、ボクはキャルリーとも仲良くしたいと思っているんだ」
なっ、なによ急に!私は別にハグウィックとなんか…
「キャルリーに言われたとおり、ボクは皆に甘えてた、それを気づかせてくれたキャルリーにはほんと感謝してるんだよ」
ま、まあそこまでいうなら、少しくらいは仲良くしてあげもいいわよ。
と、ヒメちゃんがハグウィックの裾をひっぱっている。
「うん、勿論ヒメちゃんとも仲良くしたい。婚約なんてまだまだ先の話しだし、それにそれは父ちゃん達が勝手に決めたこと」
ヒメちゃんがふと悲しげな顔をする。
「だからね、ボク達はボク達でボク達なりの関係を築いていきたいと思うんだ」
そういうとハグウィックは私達の手をとってくる。
「ほら、キャルリーとヒメちゃんも手を繋いで」
「う、うん」
そうして3人で手を繋ぎ一つの輪をつくる。
「ここから始めよう、僕たちの関係を、まずはお友達から、かな?」
「仕方ないわねー、ヒメちゃんもいいの?」
ヒメちゃんはブンブンと嬉しそうに頷いている。
こんな嬉しそうなヒメちゃんは始めて見た。
なんだか私も嬉しくなってきた。偶にはいいことするじゃないコイツ。




