第4話 闘技大会◆補助魔法編
「大旦那!ひどい!ひどいんすよっー!」
ある日、血相を変えてハグウィックの護衛をしているカリスがオレの部屋に飛び込んできた。
「どうしたそんなに慌てて」
「ぼっちゃんが鍛錬してるのは知ってますよね」
なんでも、鍛錬を始めてハグウィックの隠れた才能が見つかったとか。
魔力を用いない者同士の戦いであれば、普通の人より優れたスピードを持ち、咄嗟の判断や、回りに対する探知力がとても優れているとか。そりゃ半分は猫だからな。
普通の身体能力なら、常人を凌いでいてもおかしくはない。
これで普通に魔力があればよかったのだが…という話になったときに、妹のフィリスが「そんなの私がずっとついて補助魔法かけていればよい事ですわ」という提案があり、
「俺以外にもう一人、補助魔法使いを護衛に付けるっていうんすよー!」
いや、別にいいんじゃないか?
「イヤです!ぼっちゃんは俺だけがいればいいんです!俺だけがぼっちゃんの護衛なんですっ!ぼっちゃんの全てを知るのは俺だけでいいんです!」
…いやー、こいつも両親の血を濃く引いてますなぁ。
「それで誰がその補助魔法使いになるんだ?」
「なんでも闘技大会、補助魔法編なるものを」
「また禄でもないことを…」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「いよいよ始まりました!闘技大会、補助魔法編!トップバッターはこのお方!世界の魔法の頂点を極めし者!ティアラース・アフローティア・デュークハルトォオオ!」
闘技場に大歓声が響く。
なんでティアが参加してんのぉ?ダメだろ、母親が護衛とか。むしろその母親に護衛がいるじゃないか!
「それでは審判員のジョフィ・アフローティア・デュークハルト様に事前の評価をお聞きしたいと思います」
「あー、ティア失格ね。これ護衛決める戦いだから」
「ええっ、そんなっ!」
「おおっとぉ!いきなり失格宣言!厳しい!とても厳しい!この審判員の目にかかる人物は果たして現れるのか!」
ノリノリだなクロエ。お前、意外と向いてるんじゃないか?
「なんか楽しそうな事してるにゃ」
「楽しそうか…確かに楽しそうではある。当事者でなければな」
黒猫がオレの隣に座り込む。
「お次はこのお方!体力は有余っているがおつむは残念!ミーシア!」
「ちょっと誰のおつむが残念なのー!」
ミーシアがハグウィックに補助魔法を掛ける。そしてモンスターの檻が開く。
今回の判定方法は補助魔法を掛けたハグウィックがどれだけモンスターと戦えるかを競うらしい。
「ああっとぉ、なんとっ、ハグウィックが戦う前にミーシアがのしてしまいましたー!」
「失格にゃ」
「だって、あんなの危ないよ!」
まあなあ、誰だよS級モンスター連れて来たの?
普通に無理だろ?
その後もなんだかんだと問題を起こしながら大会は進行していく。
そしていよいよ…
「いよいよ、真打登場と相成ります!前世が神と言っているこの3人!まずは、言いだしっぺのこのお方!フィリス・アフローティア・デュークハルト!」
「フフフ、いい歓声ですわ。常闇に鳴り響く鐘のよう。これに勝って…お兄様は頂きますわ!」
フィリスが手を高く掲げる。
「お兄様だけ、とケチな事は言いません。ここにいる全ての人に補助をお掛けいたしましょう!」
そのフィリスの手から行く筋もの光の光線が溢れ出す。
オレは思わず机の下に隠れた。
「おおっとぉお!光を受けた人々が次々と立ち上がります!何やら力を持て余してる模様!あちこちで乱闘が始まっております!」
クロエも器用にかわしながら中継をしている。
どうやら、全てのパラメーターを上昇させる補助魔法を掛けた模様。
そのパラメーターの中には興奮度やら、暴力度などのパラメーターもあるとみた。
なんでも上げればいいってもんじゃねえんだぞ?
「まったくフィリスは人というものを学んでない。それに引き換えこの俺、エイテイシア様はもはや3度目の転生!見よ!これが世界最凶の補助魔法だあ!」
強の字が間違ってないか?
エイテイシアが補助魔法を発動する。
すると観客達の体が見る見る膨れ上がって…あっ、やばいなこれ。
「おい、ちょっとそこの邪神、そいつら止めてくれね?」
オレはハグウィックを魔法で守っている、最後の姉妹、アルフィーラに問いかける。
「止めたいのはやまやまじゃが…ハグウィックを守るので精一杯じゃ」
「俺が、俺が止めます!ぼっちゃん、俺がぼっちゃんに補助魔法を掛けます!」
そこでカリスがハグウィックに補助魔法を掛ける。
「ぼっちゃん一緒に戦いましょう」
「カリス…うん!ありがとう!やっぱりボクの護衛はカリスだけだよ!」
「ぼっちゃん!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「大旦那、これ請求書でございます」
「…もう今後、闘技大会は禁止ね」
あの後、カリスとハグウィックがフィリスとエイテイシアの隙をついて収めたのはいいが、観客達は大被害を被っていた。
なんせ体が倍以上に膨れ上がってたからな、服が破れてみんなすっぽんぽんだ。
大急ぎで服を調達し、皆に配り、それ以外にも損害賠償とか盛りだくさんだ。
興奮された観客さんが座席やら設備やらをボコボコに。
怪我をされたお客様には回復魔法を掛けてひたすら謝った。
いやな予感はしたんだよなあ。
「それで補助魔法使いは誰にしますの?」
「お前ら、まだそんなこと言ってるのか?」
少なくともお前達は無理だぞ。
お前達には先に、協調性というものを学んでもらわないと。
ただ強力な補助魔法を掛ければいいってもんじゃないんだからな。
パーティプレイというものをもう少し勉強しような。




