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吾輩はねこである。えっ、マジで!?  作者: ぬこぬっくぬこ
第一部 悪役令嬢?公爵令猫?なにそれおいしいの?
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第三章 気づいたらぽこぽこ増えてるんですよね

「それではまず、この中で魔法を使ったことのない方はいらっしゃいますか?」


 オレ達3人が手を上げる。あれ?他の奴らはみんな使えるのか?

 先生はオレとフェン介を見て微妙な顔をする。ああ、従者はただの見学ってことになってんだったか。


「それでは復習をかねて魔法とは何かから」


 お手数おかけしてすみませんねえ。それから先生は魔法の基礎講座をしてくれる。属性がうんたらとか、魔力がうんたらとか…さっぱり分からねえ。


「ふむふむ、なるほど」


 隣のワンコロが先生の話に頷いている。


「お前、話分かってんのか?ワンコロの癖に」

「俺は犬じゃねえ、狼だってんだろがぁ」

「そんなのどっちでもいいだろ?」

「良くねえよぉ!いいか、奴らは人に飼われて牙と爪を無くした弱小動物だ!」


 ―――ゴスッ


「うるさいぞフェン介」

「ハッ、申し訳ありませぬ!」


 オレは生暖かい目をフェン介に向ける。奴は涙目で耳を伏せて「俺は犬じゃない…俺は犬じゃない…」と子声で呟いている。ちょっとは自覚があるようだ。


「おい、それでどうなんだ?魔法使えそうか?」

「は?俺が魔法使える訳ねーだろ。魔法が使えてたらこんなとこおらんわ」

「じゃあなんで頷いてたんだ?」

「お前がそうしろって言ったんだろが。分からないことがあればとりあえず頷いとけって」


 そういやそう言ったな。なんせオレ達にゃ常識がねえからな、いちいち構ってたらきりがない。


「と、理論はここまでにして、ネイリスさん」

「はいっ!」

「あなたは魔法を使ったことがないのでしたね。少しこちらに来て、この水晶に両手を掲げてもらえませんか?」

「ハッ!」


 ネイリスさんが教卓にある水晶に両手を掲げる。すると水晶は淡く輝きだし色を変える。


「魔法の才能は…あるようですね。一番強く光ったのは白ですか。これは珍しい、聖属性に恵まれていますね」


 あれで魔法の才能と得意属性を調べれんのか?


「それではこれをどうぞ」


 先生がネイリスにお札のようなものを渡す。


「これは?」

「これはですね、スクロールと言って魔法を覚えさす魔法がかかっているのですよ」


 おおっ出たな、がちゃアイテム!

 ゲームの中では、覚えたい系統の魔法を何度も使い熟練度を上げると、あらたな魔法を使えるようになっていた。サンダーボルトを覚えたければ、サンダーを数千回撃つとかね。


 ただし、そこはネトゲの世界、その熟練度を無視して次の魔法を覚えるアイテムが!一回2千円と、かなり高額なガチャの中に稀に入ってた。いやほんとあれには助けられました。ガチャ無料!最強だな。

 ん?覚えたい魔法の下位魔法が無い場合はどうすればいいかだって?そんなの初期魔法は一通り覚えてる状態からスタートだったから知らないですよ?


「これが使えるのはほんの初期の初期の魔法ですが、一度魔法が使えるようになれば、後はその応用ですから。それでは、今から私が言う呪文を唱えてください」


 ネイリスさんが先生に言われた呪文を唱え終わると、お札に火がともり一瞬で燃え尽きる。


「無事に魔法が覚えれたようですね。才能が無ければ反応いたしませんし」

「これは!?頭の中に呪文が浮かび上がって…」『スモールライト!』


 ネイリスさんが魔法を唱える。すると、その前に小さな輝く玉のようなものが!

 おおっ、これが魔法か!リアルで見ると…以外としょぼいな。いやいや、これは人類に対しては小さな一歩かもしれないが、オレ達に対しては大きな一歩なのだ!


「…そちらの従者の方も試してみますか?」


 先生がネイリスさんの魔法を食い入るように見つめてるオレ達に言ってくる。


「えっマジで!ぜひお願いします!」

「いや、俺は…どうせ才能がねえのは死ぬほど知ってっし」


 オレは嬉々として水晶に手を掲げる、が、


「まったく反応しませんですわね」

「…マジですカー」


 どうやらオレには才能がなかったようだ。


「おかしいですわね。人間なら誰しもが大なり小なり魔力を持っているはずですが…反応無しなど初めて見ましたわ」


 まあオレ、人間じゃねえし。


「うーん、今年は魔法が使えない方はほとんど向こう行ってるようですし…お札、使ってみますか?」

「えっマジで!ぜひお願いします!」


 オレはお札を貰って先生に言われた呪文を唱える、が、やはり反応しません。


 オレはがっくりと膝を付き、


「おお、神よ!我を見捨てたもうたか!!」


 天に向かって慟哭する。と、その瞬間お札が燃え尽きる。


「「えっ!」」


 オレと先生が同時に声を上げる。


「呪文も無しに?いえ、時間差かしら…」

「………………」


 オレは頭に浮かんだその魔法を唱える。


『スモールヒール…』


 先生が驚愕の表情でオレを見てくる。ほんの少しだけ先生の肩こりが取れたようだった。


「「神聖魔法…」」


◇◆◇◆◇◆◇◆


 神聖魔法…まあ、一般的なゲームでは、回復魔法と呼ばれる類のものだが、この世界では基本存在しないことになっている。唯一つの例外を除いて。

 それは…


「神徒…」


 神の声を聞き、神の意思を伝える者、俗に神の信徒と言われる者達だ。ちなみにこの国ではそういった存在は居ない、今はな。あと数ヶ月後、夏の終わりに現れることになる。そう、このゲームの主人公…ヒロイン役としてな!

 このゲームの導入部分のストーリー、実は異世界召喚物だ。

 ごく普通の高校生の女の子が、とある事故により命を失う。その魂がこの世界の主神の一人の元に辿り着き、もう一度命を授ける変わりに世界を救ってほしいと頼まれるとこから始まる。


 そこでこの世界に降り立つときに貰うチートの一つが、全魔法習得可能スキルだ。もちろん、神聖魔法もその中に入っている。

 神聖魔法が使える人間が現れた、だが、記憶喪失だったという設定でこの学院に入る経緯となるのだった。


 さてここで問題です。そのヒロインより先に神聖魔法が使えるようになったオレはどうなるのでせう。


「あーこほん、従者の方は魔法の才能が無いということで」


 あ、この先生見なかったことにしやがった。まあ、今のやりとりで知ったのはオレと先生だけだしな。


「あ、そうだフェン介、ほらお前も試してみろよ」

「嫌だって言ってんだろぉ。おりゃあもう惨めな思いすんのはこりごりなんだよぉ」


 こいつ、でかい図体していながらほんと臆病なんだよなあ。狼だったら狼らしくもっと野生的に生きろよな。


 ―――ゴスッ


「フェン介、せっかくの先生のご好意だぞ。ありがたく頂戴せんか」

「ハッ、了解いたしたであります」


 ネイリスさんもそんな一々暴力に訴えなくても…そんなだから未だに友達の一人もできないんだと思うよ?

 しかし、フェン介もしっかり調教されてまあ。


「はぁ…」


 ため息をつきながら貰ったお札の呪文を唱える。と、その場でお札が燃え尽きた。


「えっ!」


 フェン介が驚愕の声を上げる。


『ス、ス、ス、スモールファイアー…』


 震える指先から少量の炎が立ち上がる。


「う」


 う?


「う…う、う、うぉぉおおおおお!!」


 突然男泣きしだすフェン介。


「おれがぁ、おれがぁああ魔法をおぉおお!」


 随分嬉しかったようだ。


「あるときは崖から飛び降り100回、あるときは滝登り100回、たとえ何をしてもそよ風ひとつ起こせなかったおれがぁあ!」

「随分苦労したんだな」


 ネイリスさんがフェン介の肩をそっと叩く。


「うぉぉおお!これも、それも、ぜんぶおじょうざまのおがけだぁあ!!」


 そう言ってネイリスさんに泣きながら抱きつくフェン介。


「フッ、私は何もしておらんよ、きっとフェン介の努力を見てくれていた神様が、お前にチャンスをくれたのだよ」

「おじょうざまああ!」


 ネイリスさんは少しもらい泣きしながら、フェン介の背中をさする。

 オレも思わすもらい泣きして拍手をしてしまう。

 すると先生も、そしてクラスの皆も立ち上がって涙を流しながら拍手をする。


「うぉおお!ありがどう、ありがどうみんなああ!!人間て暖かいよな、おれほんと人間になれてよか」


 ―――ゴスッ


「ん?どうしたフェン介、寝てしまったのか?まったく泣き疲れて寝てしまうとは大の男がだらしないぞ」


 あぶねえ、こいつ人間じゃねえことばらすとこだった。ネイリスさんの剣が近くにあって良かったよ。



◇◆◇◆◇◆◇◆


 どうやらフェン介には魔法の才能が無い訳じゃなかったようだ。ただ、属性に偏りがあり、ルーンウルフが得意とする、風・雷の魔法には才能が無く、獣が最も嫌う炎に才能があったようだ。


「俺もう人間でいい!このままがいい!もうワンコロなんかに戻ってたまるか!」

「狼じゃなかったのかよ?」

「そんなのどっちでも一緒だろ?」


 …さいですか。


 そしてあれ以来、ネイリスさんへのなつきっぷりが半端ない。


「お嬢様鎧磨いておきました!」

「うむ、ごくろう」


「お嬢様食事お持ちしました!」

「うむ、ごくろう」


「お嬢様パンツ洗っておきました」


 ―――ゴスッ


「おい、フェン介。ちゃんと魔法の練習しろよ。使えば使った分だけ伸びるからな」

「そうなのか?魔法の授業では魔力量の配分が大事だとか言ってたが?」

「ああ、あれ間違ってるわ。確かに実践ではその通りだが、練習すんなら魔力がある限り使い切った方がいい。なにせ回数こなせばランクアップすっからな」

「ジョフィの言うことなら間違いないだろう、私も魔力はなるべく使い切るようにしている」

「ハッ、仰せのままに!」


 しかしオレの魔法、回復魔法なんだよなあ。怪我しないと使えない。もちろん最低レベルなんで直せるのはせいぜいかすり傷程度。なかなかドナーがいない。

 えっ、自分に傷つけて回復しろだって?やだよ、そんな痛そうなの。


「なあフェン介」

「なんだよ?」

「ちょっと傷ついてみないか?」

「………………」


 ああ、言い方が悪かったな。


「いやほらオレの魔法、回復魔法なんだよな。怪我した人居ないと使えないんだわ」

「変な言い方すんなよ、またなんか悪い知らせでもあるのかと思ったぜ。つってなんで俺がお前の実験台になんなきゃなんねえんだよ?」

「夕食、オレの分をおまえにやろう」

「のった!」


 こいつよくあの食事に人生掛けられんなあ。

 最近フェン介が褒めまくるもんだからネイリス嬢の手料理がさらに爆弾じみてきた。あれだよな、褒めて伸ばすのは方向性が間違ってないときに用いるべきだ。

 と思っていたら、フェン介がさらなる爆弾を持ち込んで来るのだった。


「お嬢様!このフェン介、一生一度のお頼みでございます!なにとぞ、なにとぞ、うちの奥さんと子供をここにおいてくだされ!」



◇◆◇◆◇◆◇◆


 その日、夕飯ができているのになかなかフェン介が帰って来なかった。オレとセバスチャンはとても心配した表情で食卓を見つめている。


「どっちがいきますかな?」

「あ、いやほら、オレは自分の分は別に作ってっし」

「あの半分は元々はジョフィ殿のものでしたな」


 くっ、どこ行ったんだフェン介の奴。このままだとオレは明日腹痛で動けなくなる。

 と、遠くからドアの開く音がしたかと思うとドタドタドタと走る音が。


「フェン介の奴か?騒がしいぞ」


 そしてドアを開けて食堂に入って来たフェン介は、いきなり土下座をかまし、


「お嬢様!このフェン介、一生一度のお頼みでございます!なにとぞ、なにとぞ、うちの奥さんと子供をここにおいてくだされ!」


 と言うのだった。


「お、お前、妻帯者だったのか」


 暫く硬直してたオレ達だったが、かじろうてネイリスさんが口を開く。


「実は今、屋敷の前に…」

「つ、連れて来ているのか、うむ、とりあえず事情を聞こうか」


 そして暫くして戻って来たフェン介は―――大きなお腹をした『犬』を抱えていた。

 ああ、やらかしたかぁ。そういや犬の去勢っていつぐらいから必要だったんだっけかなあ…


「それはお前のペットか。ん?早く奥方を連れて来ないのか?」


 犬をそっと降ろしたフェン介は、そのまま正座をする。


「妻です」

「は?ど、どこに?」


 ネイリスさんはなるべく犬を見ないように視線をさまよわせてる。


「これが妻です」


 そう言ってお腹の大きな犬を見せつけようとする。


 ―――ガシッ、ドタドタドタ


 オレはお嬢様に捉まれて部屋の外に連れ出される。


「どどど、どうしよう。フェン介がおかしくなった。ちょっと頭をどつきすぎたのだろうか?」


 いやー正常運転じゃないかなあれ。


「ハッハッハ、あれはフェン介殿の新手のギャグでございましょう。大方、倒れてた犬を見て、どうしても面倒見て欲しくてあのような芝居をしておるのでしょう」

「そ、そうだよな。う、うむ。私も犬は嫌いではないぞ、そんなことしなくても普通に頼めばいいのにな」

「まあ、フェン介殿は従者としての心構えができておりますからな。お嬢様に頼みずらかったのでしょう」


 ナイスフォローだじいさん。これで暫くは―――ごまかせなかった。

 あの後突然産気づいた犬にみんな慌てだしたのだが、オレは冷静に、動物の出産は部屋を暗くしてあまり近寄らずストレスを感じさせないようにすると助言した。


 オレの助言に従って客間のベッドに連れて行き、そっと布団をかぶせて部屋の外から様子を見てたのだが…暫くすると赤ん坊の泣き声が!

 えっ、この世界の犬って生まれたときに泣くの?というかどう聞いても人間の赤ん坊の泣き声なんですが…


「おい、おまえ見て来い」

「えっ、やだよ。地雷としか思えない」


 そういう訳にもいかず、恐る恐る部屋に入るオレ達。そこには双子の赤ん坊が。人間の…


「ああ、私は今見てはいけないものを見てしまった…」

「いやいや人間じゃなさそうですよ?ほら犬耳としっぽが」

「おお、なんと罪深い…」


 この世界に初めて獣人が誕生した瞬間であった。もうオレもキれていいよね?


「おい、お前、なんで犬とやってんだよぉ!人間になって喜んでただろ!?」

「ちっ、ちげーし。オレが人間になる前にすでにできてたようなんだよ」

「はぁ?お前、遺伝子まで人間化したのか?」

「それにこいつはよぉ、群れからはぐれてもうどうしようもなかった俺を助けてくれた奴なんだよぉ。暫く前からお腹が大きくなりすぎて、動けなくてずっとえさを運んでたんだが…」


 まあ、人間になる前にできてたならしょうがないか?


「そそそ、そんなことより、これからどうしたら…一応母犬のお乳を飲んではいるようだが、大丈夫なのか?」

「参りましたな。この姿外には知られたらまずいですな。私の故郷に連れて行けばまだ大丈夫でしょうが…人間の世界では亜人差別がありますからなあ」

「そそそ、そうか、魔族の里ならなんとか…」


 その魔族の里までどうやって連れてくの?ううむう。


「一人だけなんとかしてくれそうな心当たりがある」

「そそそ、それはほんとか!」


 ああ、実は動物好きで、オレの育ての親でもあり、この国の権力者…公爵家の一人娘だ。



◇◆◇◆◇◆◇◆


 公爵家の一人娘は人を信用しない。それもそのはず、使用人はほぼ他家のスパイ、食事に毒などざらにある。

 オレが転生したばかりの頃なんてほんとひどかった。あれじゃあ性格がひねくれるのも頷ける。


 そんな一人娘であるご主人様は、オレの世話をほとんど一人でしてくれていた。なんせ侍女にでも預けようものなら、どこでどうなるか分からない。

 ご飯のときも、寝るときも、お風呂のときも(眼福でした)ずっと一緒だ。

 ご主人様は確かに性格は捻くれてたが、動物には優しかった。オレが体調を崩したときは寝ずに看病をしてくれた。


 動物好きに悪い人は居ない。きっと環境さえ変わってくれれば…だが、猫のオレにできることはとても少なかった。

 だがまあできることは全てやった。それに今は、憧れの王子様に袖にされていない。環境は…少しは変わっているはずだ。

 誰かに信用してもらえて、初めて誰かを信用できるようになるかもしれない。もしかしたらオレは、ご主人様のそんな誰かになりたかったのかも知れない。

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