第1話 登場人物紹介のようなその後のお話
えっ、みんなの紹介?なんでボクが?そんなの父ちゃんの仕事じゃじゃない?
ボクもう学校でボクの父ちゃんはニートって言いたくないよ。
えっ、ニートじゃない?ちゃんと仕事してる?神聖魔法を授ける人物の選定?
そんなの年に数人じゃない。
ティア母さんは毎日忙しそうにしてるのに。
あっ、逃げた。
ほんと父ちゃんは逃げ足だけは速いんだから。
「ぼっちゃん…また猫に話しかけてなんかして、ただでさえ猫耳としっぽが奇異に見られてるのに止めて下さいよ。御付の俺まで肩身が狭いんですから」
「だからあれがボクの父ちゃんなんだって」
「ぼっちゃん…猫からは人間は生まれてきませんから」
ボクの父ちゃんは猫である。なんて…みんな信じないんだよね。
元々は公爵家のご令嬢であるティア母さん、正式な名前はティアラースっていうんだけど、そのティア母さんの飼い猫だったらしい。
猫のときの名前はジョセフィーヌ、性別はオスなんだけどね。
その父ちゃんだけど、人間に化けることができるウィッチキャットっていう珍しい種族らしい。
男の人に化けてるときはジョフィ、女の人に化けてるときはフィーネって名乗っている。
どちらも世間的にはかなり有名になっている。なんか神様と間違われているって。
ときたま神聖魔法を授かりたいって人に神聖魔法を授けている。その所為かな?
神聖魔法っていうのは、人を癒したり、傷を治したりする魔法で、神様のご加護がなければ使えない非常に珍しい魔法だって。
世界中でも十数人しかいないといわれている。その大半は父ちゃんが授けたらしい。
「にゃ、なんかダーリンが走って行ったけど何かあったのかにゃ?」
そこへ黒猫が現れた。この黒猫はボクの母ちゃんで、なんか女神の生まれ変わりとか。
名前も愛の女神であるアフローティアっていう神様の名前をつけてもらっている。
父ちゃんはニート、母ちゃんは厨二病…ボクがまともに成長できたのはきっとネイ母さんのおかげだと思う。
ネイ母さんというのは、ネイリスって名前で、父ちゃんの3人居る嫁さんの一人なんだ。
いつも忙しそうにしてるティア母さんの護衛をしている。
家族の中で唯一厳しく叱ってくれる人。
ボクが道を間違えそうなときはいつも正してくれるんだ。
ティア母さんはボクが何をやってもニコニコとして、むしろ後押ししてくれる。
物を壊したり、学校をサボったりしても、壊れるほうが悪いとか、学校など廃校にしましょうかとか言い出す始末。
ちょっと愛が重いというか…
厨二病の母ちゃんは母ちゃんで、自分達は神様なんだから何をしてもいいのにゃって。
ほんと…ネイ母さんが居てくれてよかったよ。
「猫はしゃべらない、猫は人間の言葉をしゃべらない…」
ボクの従者のカリスが視線を宙に彷徨わせながら、母さんのセリフを聞いて小声で呟いている。
ほんとカリスは頭が硬いんだから。この子はボクの一つ年下で、ボクの護衛やら身の回りの世話をしてくれている。
本人はあまり気乗りじゃないみたいだけど、父ちゃんの護衛のクルーカさんクロエさんの二人にものすごくしごかれている。
見ていてかわいそうに思えるほど…
クルーカさんは煌剣の称号を持つ凄腕の剣士で、今じゃ世界で一番の剣士じゃないかと噂されている。
ボクとしては世界一はネイ母さんだと思ってるけどね。
そしてその性格は質実剛健、カリスへのしごk・こほん、訓練も熱が入ったものに。
いつも、訓練後のカリスはぼろ雑巾のような感じ。
クロエさんはクノイチで、護衛はもちろん、諜報活動などの情報収集も行っている。
カリスへの特訓も、様々な勉強から始まり、各地の情報、知識を詰め込まれている。
最近は房中術まで…カリス男の子なんだけど?あと、その房中術使う相手ってボクじゃないよね?
「ん、ぼっちゃんなんで後ずさるので?」
カリスが顔を近づけてくる、くっ、なんかカリスってどことなく女の子っぽい顔立ちをしてるんだよなぁ。くっ、負けないぞ。
「ハグウィック!またあやつらが吾輩をいじめるのじゃ!」
その時、遠くから一匹の猫が走ってくる。と、ボクの目の前まで来たと同時、ポンと裸の女の子に変身して飛びついてきた。
「またなの?ダメだよ二人ともお姉ちゃんいじめちゃ。めっ」
ボクはその猫をおいかけていた二人の猫耳少女を注意する。
追いかけられていた猫はボクのお姉ちゃんで、名前はアルフィーラ。
追いかけている女の子二人は妹で、それぞれフィリス、エイテイシアという。
フィリスが父ちゃんとネイ母さんの子供で、エイテイシアがティア母さんの子供だ。
ボクの姉妹は、ボクも含めてみんな猫耳としっぽが生えている。まあ、父ちゃんが猫だから仕方がないよね。
その中でもお姉ちゃんは血が濃いのか、本当の姿は猫である。
そして、厨二母ちゃんの影響も強いのか、自分の事を邪神だと言っている。
たまに腹話術なんかもして、これはイヤリングがしゃべっておるのだというんだ。
厨二病ってどうやったら治るのかなぁ…
◇◆◇◆◇◆◇◆
くっ、こやつら毎回毎回、吾輩をいじめよって!くっ、吾輩に邪神としての力がもう少し残っておれば…
こやつらも、ちょっと半分人間の血が入っていて吾輩より力が上だからと調子にのりおって!
だから人間は嫌いなのじゃ!
神の力も、吾輩のように猫ともなれば弱まるが、猫と人のハーフならばそこそこ残っている。
くそっ、今に見ておれ!人間など駆逐して…猫の王国を作り上げてみせる!
「もう二人とも、いい年して動物いじめちゃダメでしょ」
「だってお兄様、最近構ってくれませんもの」
「そうじゃ、もっと俺様を構うのだ」
「お主らにハグウィックはやらぬぞ!」
こやつら、始めて出来た兄妹だからか、やけにハグウィックに執着しておる。
そのうちハグウィックを攫って監禁しかねん。
やらぬぞ!こいつは我が王国の王となってもらうのだ!
「なにが、やらぬぞ、ですか。お兄様はあなたのものではありませぬよ」
「そうじゃそうじゃ、いずれ兄上は俺様が作る王国の王となってもらうのだからな」
「アハハハ、お兄様は私と一緒に深遠にいきますのよ」
「なんじゃと!?」
二人がにらみ合っておる、よし、今のうちじゃ。
『アビスゲート!』
◇◆◇◆◇◆◇◆
あれ、ここは…家の玄関?
「くっ、今の吾輩だとこの距離を飛ぶので精一杯か」
「おいたわしや邪神様、この私が不甲斐ないばかりに」
また腹話術でイヤリングと会話をしている。
ちなみに、イヤリングには魔人が宿っているという設定らしい。
しかし、お姉ちゃんも妹達も、魔法の才能だけはずば抜けているんだよね。
魔力がまったくないボクとはエライ違いだ。
ボクも魔法を使ってみたいなぁ。
「おう、どうしたこんなとこに座り込んで」
「あっ、フェンおじちゃん」
ほんとフェンおじちゃんは神出鬼没だ。
気配も何も無く、すっと現れる。
館を護衛している、森の中に居る人間に変身できる狼、ルーンウルフ達のまとめ役をしている人だ。
「ほらほら、汚れますよ?」
そしてひょいってボクを担ぎ上げる女性が。
その女性はアッコさんという。
頭から2本の太い角が生えている、悪魔族という種族の女性で…ボクの魔法の師匠でもある。
まあ、師匠といっても一般的な魔法を教わってる訳じゃないけど…
ボクは父ちゃんと一緒で、魔力がまったくない体質なので、普通の魔法は使えない。
しょげ返っていたボクにOMAJINAIという魔法を教えてくれた人だ。
OMAJINAIとは、魔力がなくても、魔法の才能がなくても、誰にでも使える魔法。
その真髄は願う事。想う事。そうなりたい、そうなって欲しいと。
それは普通の魔法のようにはっきりとした形となって結果は出ない。
だけど、何かが変わる、何かが変わっていく、そんな気がするような不思議な魔法。
そしてそんなOMAJINAIを続けていたある日、ボクが神聖魔法が使えるようになりました。
その後も、ボクの神聖魔法を鍛えるため、態々自分自身に傷を付けてはボクの元にきてくれたり、他の神聖魔法の使い手の所に連れて行ってくれたりして、ボクの神聖魔法の上達はアッコさんのおかげといっても差し支えない。
―――ピンポンパン
『間もなくゴンドラが駅に到着いたします。ご注意ください』
ふとアナウンスが辺りに流れる。
どうやらティア母さん達が帰って来たようだ。
ボク達が住んでいる場所だけど、小高い丘のようになっている。
なので、毎回山登りが必要なんだけど、ティア母さんが作り出したこのロープウェイというもので、山頂から麓、そして、帝都までずっとロープを張ってゴンドラで移動できるようにしてる。
「キャー!ハグウィックじゃない!お迎えなのー!?」
到着したゴンドラから犬耳のお姉さんがすっ飛んできた。
もがっ!ちょっとミーシア姉さん、息がっ、息ができないよ!
犬耳のお姉さんはボクの顔を、その豊満な胸に抱きしめてグイグイと締め付けてくる。
「こらミーシア、みっともないぞ」
「そんなこと言って、シュルクだって抱きしめたくてウズウズしてるじゃない、ほらしっぽ」
「うっ、そそそ、そんなことはないぞ」
そう言って、ブンブンしている尻尾を押さえつけるシュルク兄さん。
この二人はフェンおじちゃんの子供で、犬と人間のハーフなんだって。
二人とも子供の時からしょっちゅう抱きついてくるんだ。
姉さんと妹達は抱きつかせないから、そりゃもうボクにばっかり。
「ティアねえ、ハグウィックがお迎えに来てるよー」
「あらあら、珍しいわね、わたくしにも抱かせもらえるかしら?」
「はいっ!」
ミーシア姉さんがティア母さんにボクを差し出す。
軽々と差し出すけど、この細腕にどこにそんな力があるのだろうか?
シュルク兄さんとあわせてこの二人、身体能力がずば抜けているんだよなぁ。
ボクにもそれぐらいの力があればいいのに。
「ただいまですわ、ハグウィック」
「おかえりなさい」
ボクを胸に抱きしめたティア母さんは頭をなでなでしてくる。
うん、なんかティア母さんに抱かれていると気持がいいんだよなあ。
「いつまでも甘えていると、強い男になれないぞ」
鎧に包まれた女性が、そんなボクの頭を横からグシグシ撫でてそう言ってくる。
この人がネイ母さん。優しい中にも芯のあるボクの尊敬する人だ。
「セバスチャン、ハツキ、荷物を頼む」
「了解しました」
初老の男性と、黒装束に包まれた女性が荷物を担いでいく。
セバスチャンは元々はネイ母さんの従者をしていた人だけど、今じゃ我が家の侍従長だ。
ハツキさんはその娘さんで、クノイチを束ねている。
ちなみに奥さんはメイド長をやっている。
セバスチャン一家なくては、この館が立ちゆかないんじゃないかな?
「ちょっと、お兄様がどこ行ったか調べてくださいまし!」
「そうじゃ!早くするのじゃ!」
「あだだだ、オレお前達の父親!父親だよ!?もっと敬ってよ」
そこへ妹達が猫父ちゃんを二人で引っ張り合いしながら出てきた。
「おぬしら、仮にも生みの親で、家長じゃぞ。扱いがぞんざいではないか?」
「あっ、ここにおったのか!」
「ちょっと、お兄様をどこにやったので!?監禁するのは私の役目ですわよ!」
監禁とカー。
「別に監禁などしとらんわ!おぬしらの目の色がやばかったのでちょっと遠ざけただけじゃ」
「ハグウィックならここにいますわよ」
ティア母さんがボクを抱いたまま妹達に応える。
「おお、母上、お帰りでしたか。本日も御身麗しゅうございます」
「エイテイシア、あなたはもう少し女性らしい話し方が出来ませんの?」
「なにぶん以前の転生がどちらも男性でして…なるべく外では気をつけてはおるのですが」
エイテイシアの設定は昔男性に転生していたらしい。なので男言葉だとか。
「そうですわ!私いいこと思いつきました!」
「なにをじゃ?」
「好感度ゲージですわ!お兄様の好感度ゲージ、18歳になったとき最も好感度ゲージの高いものがお兄様をゲットするということに致しません?」
「なるほど、それはよい考えだな!」
うっ、ブルブルブル、なんか寒気が…!?
「お前も大変だなー、まあ頑張れ」




