第三章 式後のフォローはしっかりと
「さすがですわアフローティア様!愛の女神の冠は伊達ではありませんわね」
「そうでにゃろう、そうでにゃろう」
なにがそうでにゃろうだよ。大変なことになった。どうしよう、ちょっとこいつ血祭りにあげてもいいかな?
「ネイリス、胸を張りなさい!わたくし達はこれから、神と呼ばれる男に嫁ぐ事になるのですよ。無様な様はみせられませんわ」
「はっ!」
いったいティア嬢の瞳にはどんな未来が映っているのだろうか。いやなんとなく予想はできるけどさあ。
これが全世界に…もはやちょっと変わった魔法ですよぉ、で済むレベルじゃないだろうし。
「うん、こないだティアの夢で実況中継したときに、あちきはその才能に目覚めたのニャ!」
まさかこれもティア嬢の演出の一部?まさかな…
なにかをやり遂げたようなお顔をされているが、さすがにそんなことは…ないと信じたい。
それからは怒涛の進行である。
まずはオレが皇帝から爵位を受ける。
その後、魔法によって更に豪華になったドレスを着た花嫁達に連れられて誓いを行う。
王子が便乗して自分達の式も今ここで行いたと言うので、急遽セッティングすることに。
その後、ティア嬢の父上が息子の存在をカミングアウト。
王子達とティア嬢の弟君、オレを皇帝が呼びつけ、この帝国には2柱の公爵家の存在を大きくとりあげる。
一つはオーム公爵家。代々皇帝を支える宰相の家系。
もう一つは新しくできたアフローティア公爵家。神術を扱う帝国の懐刀となる。らしい。
あとこっそり、オレに子供が出来た時は、王子の子供と結婚させることを約束させられたりもした。
「ここぞとばかりに自慢しまくってるなあ、皇帝閣下」
「おいビッツ、どっか俺に相応しい相手はいないか!?俺もここで式を挙げたいぞ!」
「リン…まずはお相手を探してね」
「くそっ、リア充どもめ爆発しろ!」
若干嫉妬が爆発しているお方もいたが。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「王様、共和国より使者が参っております」
「暫く留守にしていると伝え、帰ってもらえ」
どうせこないだの帝国の神魔法についてであろう。
大方、反帝国同盟でも作ろうという話に違いない。
共和国は大層焦っておるだろう。こういった場合血筋を武器とできない国は打つ手が少なくなる。
あそこは正義は我にあり、だから回りは我らに従うのだという論調なので、今回ばかりは分が悪かろう。
何せ相手は…
「それで、ロフィマスからの返事は?」
「姫様は相変わらずらしいですわ…あの起きてるのか寝てるのか分からないような目で日がな一日ばりぼりと」
あやつも私と妻の血を引いているのだ。本当の見た目は悪くないはず。あのようなブ・ごほん、ふくよかな体型でさえなければ。
「姫様に期待なさるのは間違いでございましょう。王子の一人を留学させ、妹君であるフィーネ様を狙ったほうがよいと」
「帝国は更なる留学は受け付けないと言ってきておる」
「ならばロフィマスの補佐として従者ということにしてねじ込めばよろしいでしょう」
「ふうむ、なるほどな…」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「おいクルーカ、さん。こりゃあいったい何事だよ?」
「なにがだ?」
「いやいや、おかしくね?なんかやけにお三方の距離が近くね?」
式も終わり公爵邸に戻ったところクロエが帰ってきていた。
夏休みの忍術研修が終わったので戻ってきたようだ。
どうやら研修期間中、部屋に篭っていたらしくオレ達が結婚した事実を知らないらしい。
食事中ネイリスさん達がかいがいしくオレの口へごはんを運んでくるのを見て仰天している。
うん、なんか強制肥育されてるガチョウになった気分だ。
やめろ!喉の奥にフォークが刺さってるだろが!
その都度ティア嬢が回復魔法を掛けてくれる。
「妻として当然のことにゃ!」
最初は注意してたのだが、もうどうにもならないので諦めた。人生、諦めが肝心だと悟った瞬間であった。まあ、そのうち飽きるだろ。
「しかしクロエ、これでお前の仕事が一つ減ったぞ」
「なんだと!?」
「今や殿は奥方が居る状況。夜伽の相手は必要ではなくなったからな」
「なにぃい!」
クロエは両手両膝を地面についてうな垂れている。
「くっ、せっかく殿の役に立てるよう、あんなことやこんなことを覚えて来たというのに!」
「忍術の修行だったのだよな?」
「ああ、忍術(自称)の修行だったぞ」
そうか、自称か、自称なら仕方がないかな。
だがこのクロエ、転んでも只ではおきない性格であった。
「…クロエ、もしかしているか?」
「ハッ、ここに」
「…ここ男子トイレの中なんだけどぉ?」
「御構い無く」
お前は女版クルーカか?
とりあえず見えない位置に。
「そんなに隠さずとも殿の物は立派でございますよ?」
「…もしかして見えてる?」
「はっ、こないだ女神様に視界を飛ばす魔法を教わりまして」
あのアホ猫めっ!どうせならその魔法オレに教えてくれよ!
とりあえず先にこいつをどうにかしないとな。
オレはクロエの襟首を掴み持ち上げる。
そしてトイレの外のクルーカに引き渡した。
「クルーカ、こいつを頼む」
「はっ」
「とっ、殿!トイレ中はもっとも無防備になる瞬間なのです!ですから見張りが必要なのです!」
その見張りは敵に対してだろ?オレを見張っていないか?
「クロエ、お前ならそもそもトイレに間者を近づけないだろう」
「ハッ、その通りでございます!」
「なら中まで入ってくる必要はないだろ?」
「えっ、あっ、それは…」
「お前もしかして痴女という奴じゃないのか」
はっきり言うなあ。
だがクルーカ、お前が言えた義理でもないんだぞ?
「なっ、俺は単に、殿の全てを、おはようからおやすみまで、その全てをこの目に焼き付けようとしてるだけだ!」
人はそれをストーカーと言うんだぞ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「さあ、ちゃきちゃき子作りを始めるのニャ!」
「それですが一つ提案があります」
「にゃ?」
只今、結婚式当日深夜、いわゆる初夜という事態であります。
「子作りは学院を卒業してからにしませんか?」
「にゃ?」
学生妊娠は避けたいし、まだ邪神の件も片付いていない。
お腹が大きくなったところを狙われたらたまったもんではない。
もう暫く様子を見てからの方がいいかと。
あとー、まだそのー、心の準備というものがそのー、
「ダーリンはへたれなのにゃ」
うるさいよ!そういうのは18歳未満は禁止なの!
「良かった…俺の仕事は減っていなかった!」
「夜伽もしないからね?」
「そんなっ…!」
ほんとこの子は…
「ジョフィ、そのなんだ、女神様の言うことには私達は、その、子供が出来にくいという話ではないか。その…今日ぐらいは良いのではないか?」
そ、そんな上目遣いで言われたら…いいかな?いいのかな?ちゃんと避妊すれば大丈夫かな?
「お兄様!」
「あっ、ダメです若!」
そこへ扉を開けて子供が駆け込んで来た。
そしてオレに飛びついてくる。
「お聞きしました!僕、これから自由に外を歩けるのですよね!?」
この子はティア嬢の弟君、名前をメイクルースと言ってたかな。
「それもこれも、全部お兄様のおかげだと聞いております!」
そういって頭をぐりぐり押し付けてくる。
これまでは屋敷の奥にずっとこもりっきりだったのだ。
それが、今日の発表により今後はある程度自由に動けるようにするとのこと。
ルーンウルフから一人、腕の立つ奴を護衛につけるらしい。
「良かったな、そうだ、今度街を案内してやろうか?」
「本当ですか!ぜひ、お願いいたします!」
キラキラした目でオレを見つめてくる。
うん、無邪気な子供っていいよなぁ、先ほどまでの汚れていたオレの心が洗われるようだ。
「僕、今日初めて夢が出来ました!いつか…あの風景の中で、僕もお兄様の隣に立ちたいです!」
「ん?」
あの風景?結婚式のこと?君、男の子だよね?男の娘じゃないよね?…なぜかスカートをはいてらっしゃるが。
「お母様が万一知られても女性の振りをしていれば暗殺の可能性は低くなるとか…そう言ってこの子の持ち物はほぼ女の子の…」
そう言いながらティア嬢の瞳は揺れている。もしかしてそのお母様、着せ替え人形にして…貴族って業が深いな!
いかん、このままではこの子の将来が危ぶまれる!だれかいい教育係は居ないか!?
フェン介…は論外か。
セバスチャン…は忙しそうだし。
クルーカ…ダメだ、こいつだけはダメだ!
オレ…フィーネに変身してるとこを見てさらに悪化しそうなやかん。
オレ達の中で最も男前なのは…ネイリスさん?
いやいやそれはどうなのか?確かにネイリスさんに預ければ大丈夫そうだけど。
「そうね、ネイリスに預ければいいわね」
ティア嬢が呟く。
えっ、ちょっとまって、今心読みました?えっ、そんなことないよね?
ティア嬢がどんどん人間離れしていくような…
「ほらルース、今日はもう遅いから部屋に戻りなさい。明日からは学院も2学期が始まりますし、今度の休みにでも皆でどっか出かけましょう」
「はいっ!楽しみにしています!」
そう言って弟君は戻って行った。
「それではわたくし達も寝ることにしましょうか。クルーカ、クロエをお願いしますね」
「はっ」
「ちょっ、クルーカ、さん。なんで俺を掴むんだよ!」
クルーカがクロエの襟首を掴んで持ちあげ部屋を出て行こうとする。
「こうでもせんと部屋に入っていくだろう?」
「なっ、ちょっとくらい混ざらせてもらってもいいだろう!」
「いいわけあるかバカもの」
クロエの奴、何に混ざるつもりだ?
「ネイリス、アフローティア様、わたくし達も着替えましょうか?」
そして突然服を脱ぎ、着替え始めるティア嬢たち。
君たち!いったいどこで着替えてるの!?
「あら、わたくし達は夫婦でしょ?子作りは後にしてもコレぐらい普通でしょ?」
そう言って含み笑いをするティア嬢。
まずいぞ、このままではずるずるいきそうなやかん。
さてはティア嬢、それを狙っているな!
オレはとりあえず着替えを見ないように布団に潜り込む。
するとティア嬢達も一緒に潜り込んできた。
「それでは寝ましょうかね」
「お布団もご一緒なのでしょうか?」
「当然でしょ?」
オレの理性はどこまで持つだろうか?
3人ともすけすけなんですが…そうだ!
『イリュージョン・コネクト!』
オレはフィーネに変身する。
女性に変身していればいいのだ。
これならば誘惑に負けずに済む。
『イリュージョン・コネクト!』
ん?猫耳娘が魔法を唱える。
するとそこには…い、イケメンな男性陣が…!?
えっ、ちょっとまって、そっちが男になるの!?えっ、オレやれるほう?えっ、マジで!?
◇◆◇◆◇◆◇◆
「やあジョフィ、と、今はフィーネか、昨日はほんとうにありがとう。おかげで妻の機嫌もよくてね」
翌日、学院に付くと上機嫌な王子が校門で待っていた。本日から学院の2学期がスタートする。
ん、なんかこいつ、つやつやしてないか?
あっ、もしかして昨日の晩…
「まさか王子、一人で大人の階段を…」
「ハハハ、そういう君こそお楽しみじゃなかったのかい?」
してねーよ!ちゃんと卒業まで待つよ!ちょっと危うかったが…昨日は結局、ねこの姿に戻って回避しました。今後も乗り切れるだろうか?
「ハハハ、我慢は体に良くないよ?」
そう言って肩を叩いて去っていく王子。
ちょっと誰かあいつ爆発させて!
憤りを感じながらもオレも学院へ入っていく。
すると今度はリンとビッツが待っていた。
「ちょっと相談があるんだがいいか?」
そう言って空き教室へ誘導される。
「フィーネ、いやフィーネ様!俺も、俺もリア充になりたいです!」
そんなことを言ってくる。
「ビッツも?」
「いや僕はリンの付き添いだよ」
「何言ってんだ?お前俺がフィーネに、女の子紹介してもらうって言ったらくい気味で・ぐふぉっ!」
ビッツのストーンバレットの魔法がリンの腹を直撃する。
それを受けたリンは、ぶっ倒れて今にも死にそうな顔でピクピクしている。
「おまっ、これっ、しゃれになら…」
「大丈夫だよ?死んでさえいなければこにはフィーネが居るからね」
ビッツの笑顔がとても怖いです。
オレはがくがく震えながらリンに回復魔法を掛ける。
「そ、それではおふた方は女の子を紹介して欲しいと?」
「まあ、そういうことだ」
二人とも見た目は一級品なんだが、なぜか浮いた話を聞かない。
まあ、あれだろうな。いつも王子の傍に居てきっと隠れてしまって…ちょっと泣けてくるな。
「そういうことでしたら、ちょうどおふた方に紹介したい女の子が居るのですよ」
「マジでカ!」
「ええ、とてもかわいらしくて、その声は心まで溶かしてしまうような」
「ほんとうに!?」
「今日の放課後、またここへ来てください」
――その日の放課後…
リンとビッツの前にはかわいらしい女の子が。
二人は目の前の女の子に釘付けだ。
「こちらがみゃー子さん、で、こっちがにゃん美さ・」
「「猫じゃねーか!」」
いい突っ込みだ。
「いやー実は今朝方捨て猫を見かけまして。ほら、うちだとちょっと…興奮される方が多すぎてやばいので」
「「今日一日の期待を返してくれ!」」
「女の子、とは言ったが、人間の、とは言ってない」
二人ともはぁぁとため息をついている。
「まあ、そんなことだろうと思ったよ」
「嘘付け、今日一日上の空だ・ぐふぉっ!」
リンは学習しような。
「そうだ!君たちには、光源氏計画と言うのを教えてあげましょう」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「なるほど、小さい時から育て上げ、理想の女性を作り上げる…か」
「確かに子供の頃から大事にしていればきっと懐いてくれる筈」
そう、二人とも良く分かっていらっしゃる。
光源氏計画、それは…子供のときから唾をつけ、大きくなったら頂くと言う壮大なラブロマンス…ラブロマンスって言うのだろうか?
「「でも猫だよね?」」
おっとぉ、やはり種族の壁は厚いですか?しかたない。
『イリュージョン・コネクト!』
◇◆◇◆◇◆◇◆
「あれ?王子、今日はお一人なので?」
「ああ、リンとビッツがとうとうやらかしてしまってね」
「やらかしたとは?」
「昨日学院の帰り、裸の幼女を抱いていて通報されたのだよ」
…オレは悪くないよね?
◇◆◇◆◇◆◇◆
オレは急ぎ留置場へ出向き事情を説明する。
そしてリンたちの待つ牢屋へ…
「…まあなんていうか、せめて服ぐらいは着せような」
「いやだって猫だろ?」
「まあ、今は反省しているよ」
とりあえず子猫たちは猫に戻して衛兵さんに預けている。
衛兵さんの一人が2匹とも引き取ってくれるとのことだ。
「そもそも王子が動物アレルギーだから王宮じゃ飼えねえしな」
「もっと早く気づくべきだったよね」
そんなことにも気づかないくらい焦っているのかね。
そうだなあ…合コンでもすればこいつらのルックスなら一発なんだろうが。
しかし合コンかぁ…バレたら殺されそうだなぁ。
つーか合コンといえば、貴族の合コン、夜会があるんじゃない?
「ああ、夜会?俺たちゃ王子の護衛だぜ?」
もう王子に紹介してもらえよ?
「姫、合コンのセッティングならぜひ、このクロエにお任せください!」
「出来るの?」
「はっ、おまかせを!」
――その日の夜…
「俺はリン、得意なものは剣技、必殺技は十ほどあるぜ」
「僕はビッツと申します。得意なものは魔法…だと思うんだけどティアを見てると自信がないかも…」
対して、クロエが呼んできた合コンの相手、
「ごはんはまだかえ、わらちはもうお腹ぺこぺこぞよ」
ちょっと?ふくよかな王国のお姫様。
…ま、まあ、一応お姫様だし。お相手としては不足はないんじゃないかなあ?
ほら、良く見たら結構かわいい顔立ちですよ?肉に埋もれてさえいなければ…
「これが合コンザンスか…ジュルリ」
こちらのお方はどなたでしょうか?
「最初はシノを誘おうとしたんだけど、柱にしがみ付いて離れなくて。仕方ないので共和国のトップの人に来てもらった」
なんて大物!つーかお前どうやって呼んだんだよ。共和国からじゃ数日かかるだろ?
「女神様から教えていただいた「ああ、もういいや」」
どうせ忍者ってことで瞬間移動とか影移動とかだろ。
リンとビッツの瞳にハイライトが消えておられる。
それに引き換え共和国のトップのお方はイキイキとして…こいつら無事に帰れるかな?
◇◆◇◆◇◆◇◆
「おいビッツ、一人にするなよ、心細いだろ!なんだよあれ、王家の姫様に共和国の元首?どこの国家会議だよ!」
「僕達はやってしまったのかもしれない。フィーネ(神)の思う合コンとは男女の仲ではなく、国家間の仲を繋ぐ事なのかもしれない」
「何言ってんだよ?フィーネは神じゃねだろ?」
「もう、そう思わないとやってられない」
「だんだん壊れてきてるなぁ、おい、元首がご指名だぞ、早く戻れよ」
「イヤだ!あの人目がコワイんだよ!」
「まったくフィーネは何を思って…あれ、アイツいねえな、あっ、あのヤロウとんずらこきやがったな!」




