第七章 必殺技は人に向けて撃っちゃいけません
それからは大変だった。
どこで知ったか知らないが、中央から豪勢な服を来た連中が飛んできた。なんでも俺を引き取りたいと。
そこで俺はこの町の有力者達がやってることをぶちまけてやった。
そしたら翌日には町中に有力者どもの悪事が知れ渡り、そいつらは街に居られなくなった。
中央から来た連中は言う、我々ときたら孤児院に多額の寄付をしよう。そうだ、誓約の魔術を取り交わそうではないか。と。
機嫌の良かった俺は一も二もなく飛びついた、それが奴隷契約に用いられるような魔法だとは知らずに。
確かに孤児院は潤った。豪勢な建物に変わり、毎月の仕送りもかなりの額だ。
兄弟達も大喜びだった。だが、代わりに俺の自由は失われた。
俺が交わしたものは単純なものだ、孤児院を救うかわりに国のためになることをする。国のためになることがどういうものかも知らずに…
「魔力がないと言ったな。ならばどうやって回復魔法を唱えたのだ」
「そんなの知らねえよ。だが奴の魔法に魔力は感じられなかった。てめえも魔術師だろが、そんなのも分からなかったのかよ」
「ふむ、どうだったか…しかし、君の言葉遣いは良くない。『それは国のためにならない』」
「ぐっ」
その瞬間体に激痛が走る。こいつが『それは国のためにならない』と思ったことは契約違反になる。
「確かに彼女の扱いは別格に見えました」
「どういう風にだね」
「彼女が危機に陥ったとたん、残りの二人の取り乱しよう、勝ちが見えてる勝負にあれだけ慌てる物ではありますまい」
「ふうむ…捕獲できるかな」
女神かもしれないと言っておきながら捕獲?こいつらはいったいどんな頭の中身をしてんだ?神を恐れないにも程がある。
「何を驚いておる、使えるものは全て使う、それが私の考え方だよ」
こいつは狂ってる。民衆から選らばれた自分は正しいのだと、自分の考えこそが民衆の大意であると、そう思っている。
「よし、公爵家を襲おう。となると神剣は使えぬな。特殊潜行部隊を呼べ、全部だ」
全部って、たしか100人以上は居たよな?そんなの隠密行動できないぞ。戦争でも仕掛ける気か?
「女神さえ確保できれば戦争となっても問題ない。むしろ帝国をつぶす絶好の機会であるな」
俺は異を唱えようと口を開く。だがそれは激痛によって遮られる。
これも…国にとってためになることなのか?戦争を始めることが!?
◇◆◇◆◇◆◇◆
「皇帝陛下!大変でございます!」
「何事だ?」
「オーム侯爵家が襲撃を受けているとの報告が」
「ほう?バカな連中だ。どこのどいつだ?」
「どうやら共和国の…100名以上が進入したと監視していたものが」
「おう天剣、どっちが勝つか掛けるか?」
「掛けになりまへんなあ」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ちょっ、ちょっとジョフィーなんか真っ二つに!」
「あわわわ、なに必殺技撃ってんですか!」
「木刀だよ?ほら木刀なら切れないじゃ?」
「お嬢様の必殺技は特別ですから!」
『閃太刀・乱舞』
「うぉい!手加減しろよクルーカ!」
剣士がまるで分身するがごとく一瞬で次々と兵士を切り伏せていく。
「よぉ、あんたも敵か?」
い、いつのまに後ろに。
「ち、違う、私は暴走した奴を止めに来たのだ」
そう、少し前、腹から血を流しながら少女が、
「神剣様、お願いします、あいつらを、あいつらを止めて下さい」
と言って駆け込んできた
なんでも共和国の外交官が部隊を連れて帝国の神徒を攫おうと画策しているとか。
そんなバカなと一蹴しようとしたが、少女が自分の腹に魔法を掛ける。
すると傷は跡形もなく…そして傷のなくなった腹には誓約の紋章が。
聞けば自分は共和国の神徒であると、誓約の術式により国に隷属させられていると。
このままでは戦争が起こってしまう。そうなれば自分のような孤児がさらに増えると。
治った腹を再度傷つけながらそう言う。
「分かったすぐに向かう!お前はそこで待っていろ」
「いえ、俺も向かいます!回復魔法が必要になるはずです!」
そうして向かった公爵邸。そこにはたった数人に蹂躙される我が国の精鋭が。
「な、なんだこいつら!なんでこんなとこにモンスターが!」
「しかもこいつら普通の狼じゃねえ、ルーンウルフだ!魔法を使ってきやがる!」
奥の庭では番犬に組み伏せられた兵が大量に転がっている。
圧倒的だ…昼間戦ったあの娘、本当に手加減していたのか。
目の前にいた数人が、鎧ごと輪切りにされている。
「やばい、コレヤバイヨ!死んだんじゃね!?」『ヒールエクステント!』
少女は兵士に駆け寄り回復魔法を唱えている。敵なのになぜだ?
「おおっ神剣殿来てくれたのか!早く奴らをやってくれまいか!」
「やられるのはあなたです外交官。これは反逆でございますぞ」
「何を言う。私は国のためを思って」
「あなたのやったことは…100人を死に追いやろうとしただけです」
外交官は青ざめた顔で周りを見回す。
すでに兵士達でまともに立ち上がれるものは居ない。
「は、ハハハ、女神だ!これが女神の力に違いない!私は正しかったのだ!そう女神をこの手にすることが正しいのだ!」
そう言って、兵士を回復している少女に向かって駆け出す。
その瞬間、そこにいた全てのものが少女の前に立ち塞がった。
「あなたが首謀者ですか?わたくしのフィーネを傷つけようとするなど、おろかにも程がありますね」
「な、なんだ足がうごかな・・凍っている!?」
一瞬にして外交官の足が地面と一緒に氷付けにされている。
『グランドキュアフレーション!』
と、人垣の向こうの少女の方から魔法を唱える声が聞こえた。
すると…瀕死の重傷を負っていた兵士達の傷が…癒えていく…このような奇跡、あの少女は本当に女神だったのか!
◇◆◇◆◇◆◇◆
「騒がしいのニャ、なんなのにゃこのすぷらったな現状」
「今までどこ行ってたんだよ?」
「寝てたに決まってるニャ!」
良く寝れんなこの騒がしいとこで。
「ところで、咄嗟に回復魔法掛けたけど良かったのかニャ?」
「ああ、助かったよ。大方、殺人の前歴もちになるとこだった」
オレ達は手分けして伸びてる襲撃者どもをお縄にしていく。
しかし多いな、100人以上居んじゃね?よく防衛できたもんだ。…余裕どころかオーバーキル気味だったが。
「皆さん良くやってくれましたね。ネイリスさん、この子達に豪勢な食事を」
ティア嬢はルーンウルフ達をなでながらそう言う。
みんなブンブン嬉しそうに尻尾を振っておられる。すっかり飼い犬になっちゃってまあ。
ん、門の外にまだ腹から血を流してる少女が居るな。
オレはそいつの元に駆け寄る。
「大丈夫ですか、すぐに回復を」
「ダメだ!コレを回復したらまた誓約の術式に囚われる」
「しかし、そのままでは…」
隣にいた男性が心配そうに声を掛ける。
「俺は…こう見えても共和国の神徒。子供の頃から英才教育で魔術を教え込まれている。誓約に囚われれば何をしでかすか…」
「なんとか解除する方法はないの?」
少女はフルフルを首を振る。
「こいつはSクラスの誓約…神剣様、もし俺になにかあったら、モーブ村のレクウッド孤児院を…」
「そうか…分かった任せとけ」
誓約の術式の解除か、ゲームにはそもそも誓約の術式自体がなかったしなあ。そうだ、女神猫なら何か知ってるかも。
「ちょっとそこの猫耳娘、こっちこい」
「なんにゃ」
「この誓約の術式解除できるか?」
「にゃ?余裕だニャ、と言っても今はえむぺーがゼロだからできないニャが」
そこは根性でなんとかしてくれ。
「むちゃ言うニャ」
「もし解除してくれたらオレのゲージもぐっと大上昇するぞ」
「それはほんとかニャ!」
たぶん。
「じゃあ傷の回復はダーリンがするにゃ。それにあわせて術式も解除するニャ。たぶん気絶するニャからちゃんとベットまでお姫様抱っこニャ!」
「分かった分かった」
オレは少女のお腹に手を当てる。
「あっ、ダメっ」
そしてもう片方の手を少女の頭に乗せる。
「私を信じなさい。神徒の力は信じる力、あなたの信じるものを思い浮かべなさい」
「俺の信じるもの…?」
そうして気を逸らしてるうちにヒールを掛ける。すると隣の猫耳娘がポンと猫に戻る。どうやら気絶したようだ。
「終わりましたよ」
「えっ…なっ、無い!刻印が消えてる!?」
少女は服を捲り上げてお腹をまじまじと見つめる。
そんなに捲り上げると大事なとこまで見えちゃいますよ?
すると突然少女は大声を上げて泣き始めた。きっと溜まっていたものが決壊したのだろう。
オレはそっと少女の頭を抱え込む。するとガシッとしがみ付いてお母さんとか言ってくる。
オレはどっちかというとお父さんなんだがなあ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「それでは、あなたがたは皆知っていたと!?」
外交官および護衛の兵士達は全員帝国の牢獄に繋がれている。
そこで私一人が共和国に戻り事の顛末を報告したのだが。
神徒を奴隷契約で縛っていた。そのことに触れるとほぼ全員がそれがどうしたと言う。
「これは民意である。特別な力を持つものは、その力を余すことなく使わねばならぬ」
なにが民意だ!少女を奴隷として使役するのが民意なら、そんな民は滅んでしまえばいい!
「我々は各地域の選挙で選ばれたものだ。その我々が決めたことは民主的に添っておる」
「そうだ神剣殿、神徒はどうされたのか?神剣殿の泊まっている宿にはいないようだが」
…私の宿を家捜ししたのか。今の我々に民主主義は早すぎたのかもしれない。モラルの無い人間が多くいる世界で、多数決を取ればモラルなど崩壊するか。
「とにかく報告は終わった、失礼させてもらう」
私が踵を返し講堂を出ようとした所で兵士達が行く手を塞ぐ。
「これはなんのマネだ」
「いや何ね、神剣様に我が国の神徒の方に伝言を頼みたくてですね」
「ほう?」
どうせ言うことは分かっている。孤児院のことであろう。それならば…
「お待たせしました、先ほど孤児達と先生方は保護いたしました」
「なっ、何者だ!一体どこから!?」
そこには魔族の女性が空中に浮いていた。
世界は広い、このような女性が存在するとは。
ここに来るまでに実力の程を見せてもらった。これは…本気を出しても勝てるかどうか。
いや、一対一の制限無い状況ならあっという間に負けてしまうだろう。ハハ、私も天狗になっていたものだ。
「主がお待ちです、さっさと帰りましょう」
そう言って私の隣に降りてくる。
「ええーい!であえぇえ!であえぇええ!」
無数の魔法やら剣戟やらが飛んでくる。
しかしまるで空気の壁があるかのように遮られている。
「うざいですね。やっちゃっていいですか?」
「主に止められているのだろう?」
「はぁ、死ななきゃいいですよね?」
私に合意を求められても困る。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「キィー!何ザマスかコレは!帝国の神徒を奪取または抹殺する為の精鋭100名でしょう!それが揃いも揃って返り討ちとは!」
「精鋭100名?アレはダメですなあ、1000人いても無理じゃないかねえ…はっきり言って迷宮の大ボスクラスでしょう」
「まったく効いておりませんでしたな…しかもたった一発の魔法でこのざまとは…」
大穴が開いた講堂には、そこを埋めつくしていた兵士が満身創痍で蠢いている。
「これが神の力か…?」
「神などばかばかしい、そんなのいる筈ないザマス!」
「まあ、神であるかどうかはともかく、少なくともあんなのが何人もいる事実。その対策はどうされますかな?」
これはバチが当たったのかもしれん。
我々は民が指導者を選べると言うのを宣伝に各国から人を集めて来た。
本当は一度権力を持ったものは持たざるものに負けることは少ないと言うのに。
そして極めつけは神徒を騙し、奴隷契約させたこと、神を恐れぬ行為にも程がある。
神の怒りにより、我が国はこのままでは滅ぼされてしまうのではないだろうか。
「対策も何も無い、謝罪と賠償を申し入れるしか。今回は外交官の独断と言うことで収めてもらうしかない」
「あいつに頭を下げろと言うんザマスか!?」
「議長…それができなければあなたは議長たり得ない」
「ムッキー!覚えておくザマス!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「えーとそれじゃ俺…あ、いや私はここにいていいんですか?」
「ええ、あなたも神徒なのでしょう。むしろここ以外は危険ですわ。後、言葉遣いは普通でいいですわよ」
「学院には通わせないので?」
ティア嬢がオレを注意するような目で見てくる。
「まずはここで勉強してからですね。学力が上がるようでしたら考えましょう」
ああ、そういや孤児だったか。オレとしたことが、いきなり高等部はいけるはずがない。
「あとあなたの兄弟達ですが、従者またはメイド見習いとして訓練させてもらいますがいいですね」
「え、ああそりゃ、願ったり適ったりだけど、な、みんな」
「ねえちゃん、おれらのせいで…」
「ああ、そりゃもういいんだよ。俺だってなんだかんだ言って神様なんて信じてなかったんだし。こんな力くれたのにほんと都合のいいときの神頼みだったんだ。バチが当たって当然さ」
孤児院の子供達と先生達は公爵家で雇うことになったらしい。
なんでも例の元包帯娘とその妹もこっちに留学することになったそうで、使用人を捜していたとこだとか。
「なあ、俺は何したらいい?たった数年だけど、魔法の英才教育は受けた。…暗殺の技術もしこまれた、護衛役ぐらいはできると思う。…あんたらに必要かどうかはともかく」
「…共和国は民の人気の高い理想の国と聞いていたのですけどね。まあ、やってることは結局同じと言うことですか」
暗殺とか。いったいなにやらせるつもりだったんだが。
「しばらくはフィーネ預かりにしておきますか」
「えっ、女神様のお傍においてくれるので!」
「女神…まあ、その話は後でしましょうか」
「俺、誠心誠意仕えます!もうバチが当たらないよう心を入れ替えて女神様の下僕となります!」
そう言って恍惚な表情を向けてくる。大丈夫かコイツ?なんかその表情クルーカに似てる気が…
◇◆◇◆◇◆◇◆
「…そろそろ寝ようかと思うんだけど」
「ハイッ!就寝中の護衛はお任せください!」
あれからぴったりくっついて離れない。
まあ、今はフィーネの姿だから問題ないけど、そろそろジョフィの姿に戻りたいのだが。
最近のオレは基本、公爵家だと猫かジョフィの姿、学院のみフィーネで通っている。
「一つ誤解を解いておきましょう。本当は私は女神ではありません」
「はい、そのことはティアラース様よりお伺いしました」
その割には未だに信じてないような気がするが。
「そういう設定なのですよね」
「…どうしてそう思うので?」
「だって…魔力がまったくない体…フィーネ様は人間ではありませんよね?」
魔力が見えてんのか?
「まあ確かに、私は人間ではないですが…魔力が無いのは理由があるのですよ。クルーカ説明をお願いします」
そう言って猫の姿に戻る。
「これが姫の御身、本当の姿だ。女神より遣わされた神猫である」
なに言っちゃってんのぉ?いや、間違いではないのか?
「えっ、ねこ?えっ、本当に!?」
そしてオレはジョフィの姿をとる。
「キャッ!」
おっと、服、服と。
少女はキャッとか言いながら指の隙間からガン見である。
「ま、このように人間に化けてる訳だよ。なんで、オレを特に敬う必要はないから」
「そ、そんなことない!あ、いやないです。俺…私はフィーネ様に救われました、たとえあなたが女神でなくても、俺の恩人には違いないんです!」
ええ子やぁ、神様に選ばれるだけはあるよなぁ…どっかの神様と違ってちゃんと見て選んでいるのかもしれない。
「なんかあちきがでぃすられてる気がするニャ」
「そうだな、護衛って言うならこっちの猫耳娘の方に」
「ニャ!またあちきになすりつけようとしてるニャ!」
「それに護衛ならすでにクルーカがいるしな」
交互に見張られると落ち着かないでござる。
少女はクルーカを見つめる。クルーカはどことなく誇らしそうな顔をしている。
「で、でも一人じゃなにかと不便じゃ…身の回りの世話とかも」
「問題ない。某が一人で世話も護衛もできる」
「ムッ」
だんだん少女のクルーカを見る表情が険しくなってくる。こんなとこで喧嘩は止めて下さいよ?
「クルーカ、さんでしたっけ?お前、あ、いや、あなたは間違っています。一人で身の回りの世話ができる?ハンッ、そんな訳ねえだろ!」
「なんだと、貴様、某の献身にケチをつける気か?」
少女は勝ち誇ったような顔で続ける。
「あんたにはどうやってもできないことがある!」
「なにぃ!?」
ビシッとオレを指差して言う。
「夜伽の相手はできないであろう!」
「なんとっ!」
…………何突然爆弾発言してんのぉ?
クルーカは両手両膝を地面についてうな垂れている。
「くっ、認めるしかないのか…!?」
認めないでよ!
◇◆◇◆◇◆◇◆
翌朝目が覚めると隣に素っ裸の少女がくっついていた。
えっ、マジで!?なぜ?なんで!?
落ち着けオレ。確かベッドシーンはゲームじゃ…無いよな?ゲームでも無いよ!18禁になるじゃないか!
よく思い出せ、昨日は確か…
「ふっ、俺はこう見えても夜伽の技術はその筋のプロから教わった…実践はまだだが」
「ぐふっ!」
ほんとあの国はこの子に何をさせようとしてたんだか。
「それに俺なら、フィーネ様バージョンのときも風呂なりトイレなり、お前が入れないとこまでついて行ける!」
「ぐふっ!」
ええっ、どこまでついてくる気なのぉ?
「どうだ、これでも一人で大丈夫だと言うのか!」
「くっ、某が間違っておった。あい分かった、姫の主命、半分はお前に託そう」
ダレの主命だって?オレ、命令なんてしてないよね?
「しかし、そうとなればその貧弱な体、守ると言うならそれなりの訓練に励んでもらわねばならぬ」
「それは願ってもないことだ!」
「今すぐ特訓に入るぞ」
「おう!」
なんか二人の世界に入り込んでしまったでござる。
「そろそろめんどくさくなってきたのであちきは寝るニャ」
「オレも寝るカー」
そんで布団に入ったんだが…
「あ、お目覚めですか姫」
お前まで姫って言うの?
「おっと、今は殿でした」
そんなのどっちでもいいよ。
「なんで裸なの?なんでくっついてんの?」
「その筋のプロの方は言っていました、まずは添い寝サービスから、と!」
そんなサービスは要りません!
◇◆◇◆◇◆◇◆
「えっ、神徒だけの特別教室を作って欲しい?」
「う、うん、そうなんです。ほら、なんて言うか今のクラスはね、ちょっと苦手な人種が多くてね」
苦手な人種?なに、教会の癖に人種差別があるの?
「申し訳ありません。実はシノ様は男性が苦手でして」
えっ、男性?それ人種じゃなくて性別だろ?
従者の方が説明してくれる。
なんでも女神アフローティアを信仰する大本山では、女人禁制ならぬ男子禁制なんだとか。
で、そんなとこで育ったシノさん、すっかり男性恐怖症に。
「私達の神は愛の女神です。特に婚姻を規制している訳では無いのですが…何世代か前の教皇が…」
「おばあ様は素晴らしいのだ!愛の形は様々なものがある!そう、なにも愛とは男女間にだけ生まれるものではないと!」
「…………もしかして女人禁制のお山もあるとか?」
従者の方は気まずそうに目を逸らした。
うん、愛の女神教には近づかないようにしよう。
「どうだろかフィーネ嬢、あなたも私と新しい愛の形を育んで見ないか!」
そう言って手を取ってくる。
背筋にぞっと来たオレは思わずジョフィに化けた。
「ん?ひっ、ヒィイイイイ!」
とたんシノさんは奇声を上げながら部屋の墨まで後ずさっていった。
「ちょっ、ちょっとフィーネ」
「あ、やべ」
すぐにフィーネに戻ったが…
「い、今のは…」
「オトコ…オトコノテ、サワッ…ガタガタガタ…」
シノさんは部屋の隅で震えている。悪いことしちゃったかな?
「はぁ、あなた方も大体予測がついていると思いますが…ここにいるフィーネは人間ではありません」
「なんと…やはり!?」
「詳しいことは申し上げられませんが…私達は今、邪神との戦闘の真っ最中なのです」
「は?…はぁあ!?」
この機会にティア嬢は邪神の話を持ち出し、うまいこと協力させようと画策しているようだ。
邪神に逃げられないよう、話をここだけの物としているとか。
自分達の力が他より優れているのは、すべて女神が邪神との決戦に備わせてるとか。
フィーネはその為の架け橋的存在として遣わされたとか。
あることないこと、さすが公爵家令嬢、駆け引き的お話をさせたら右に出るものはおりませんね。
「そ、それでは、あなた達は人知れず…世界の命運を掛けた戦いを…!?」
「なんと、オトコにも女にもなれる…だと!?なんと言うことだ」
従者の方はティア嬢の話しに感動して熱い眼差しを向けてくる。
それに引き換え、神徒の方は…別の理由で熱い眼差しを向けてきているような。
「はいっ!私達ももちろん協力させて頂きます!ですよねシノ様」
「そ、そうか!あの部分だけ男にしてもらえれば…それなら子供だって!大丈夫だ…私だって頑張ればデキる子だ!」
「…シノ様?もしかして話を聞いてませんでした?」
「もちろん聞いていたとも!喜べ、待望の私の子が生まれるかもしれ・あだだだだ」
神徒の人は従者の方につねられている。なんと言うかちょっと残念なお人かもしれない。




