第二章 学園始まります
「うむ、きちっとすればそこそこ男前ではないか。顔がぼこぼこでなければな」
そのぼこぼこにしたのはあんただろ?
「良いか、今まではどうだか知らんが、これからは人前では必ず服を着るのだ」
「なんでこんなの着なきゃなんねえんだよぉ」
おい、今のネイリスさんに反抗的な…
―――ゴスッ
「ん、何か言ったか?」
「いえ、なんでもございません…」
涙目で頭を押さえる元ワンコロ。しかし、ネイリスさんは暴力的ですなあ。
―――ゴスッ
「いでええぇ」
「ん、何か思ったか?」
「いえ、めっそうもございません…」
涙目で頭を押さえるオレ。さすが騎士爵家、教育方法が肉体言語だ。
「ふむ、一人多くなったが…そろそろ飯が炊ける頃だ。まあ多めに作ったから大丈夫だろ」
あ、やっぱそのイベントあるのね。
ネイリスさんが一旦部屋を出る。
「おいお前、腹は丈夫な方か?」
「ああん、なんだよ突然?自慢じゃねえが腐ったねずみでもなんでもいけるぜ。なんせつまはじき者だったからな。飯はいつも群れの残飯だ」
「お前、大変だったんだな…」
まあそれなら、いざとなったらこいつの口の中に流し込むか。
そうこうしてる内にネイリスさんから食堂に来るように言われる。
その食堂にあったのは…なんかスープが真っ赤でぼこぼこいってるんですが。肉に野菜が刺さっておる。どんなアート?
「これ食べ物なのか?」
「オレに聞くなよ。あ、いや食べ物だよ。さあめしあがれ」
冥福を祈る。
元ワンコロが恐る恐る食事に口をつける。おいそれ、肉をつかんだ手、蒸気が出てるぞ。
「お!ぐぉ!おおおおぉお!」
元ワンコロが悶絶…
「うめえぇええ!」
「えっ!?」
そして猛然と食事をたいらげ始める。
もしかして見た目はあれだが、味は…ってやつなのか?
オレも恐る恐るスープをすくって…うぉっ!からっ!だが…以外とおいしいじゃないか!あの味が有るのか無いのか分からないキャットフードに比べたら天と地の差があるべ!
「おいっ、これすげえな。普通に食っても吐きそうにならねえぞ!」
「お前は今までどんな食事をしてきたんだ?」
オレ達は猛然と食事をかきこむ。
「そ、そうか、おいしいか!そうか!いやこんなに私の料理を喜んでくれたのはお前達が始めてだ!」
ネイリスさんは感動してちょっと涙目だ。
「よし、私の分も食べるか?おお、そうだこれもどうだ?」
そう言って丸い木箱に入った物を見せる。
こっ、これは!米じゃないか!
「これは私の故郷の特産品でな。まあ普通の人はあまり食しないが、私の好物なのだ」
「くっ、下さい。ぜひそれを!」
うぉおお、こめぇえ、うめぇええ!
「米は近所に持って行っても、変な顔をされて嫌がられていたからここらじゃ食べないのかと思ってな」
「何言ってるんですが、米は神様の食事ですよ!米を食さずして何を食すのか!」
「そうかそうか!うむ、お前達とはうまくやって行けそうだ!」
オレもうここの子になる!
「そう言えばそっちの名前を聞いてなかったな。なんと言うのだ?」
「もふもぶ?名前?もぶもふ、俺らは固体名はねえよ?」
「名前がない?そういうのもあるのか?」
まあこいつ、モンスターだしな。特に狼は群生体だし、個より全ってとこなんだろ。
「名前がないと不便だな。よし、私がつけてやろう。何が良いか?」
「確かお前、ルーンウルフだったよな」
「おうとも!フェンリルが眷属、誇り高き狼の一族よ!」
「ルーンウルフ?変わった集落名だな。ふむフェンリルか…よし、フェン介とかどうだろうか」
すげえネーミングだな。
「なんか変じゃね?」
お前でも気づくか。
「フェンリルのフェンをとってフェン介だ。どうだ、いい名だろ?」
「おお、フェンリルのフェンか!いいな、それ!」
いや、いいならいいけどさぁ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「それではお二人は今日よりこの屋敷で働いてもらいます」
翌日、オレ達は執事のセバスチャンに仕事の内容を聞くことになった。
「昨日の飯を食わしてくれんならなんだってするぜ。囮でも毒見でもどんとこいだ!」
こいつ群れでそんなことばかりさせられてたのかなあ。
「い、いや、食事は基本わたくしめが…」
「ふむ、毎日3食は忙しくて無理だが、夕食ぐらいは私が作ろうではないか」
「おお、なんだって言ってくれ!」
おじいさんはかなーり引きつった顔をしておられる。そんなにまずいかなあれ?
―――結果からいうと、ネイリス嬢の作る飯はまずかった。いや、キャットフードと比べたら遥かにましですよ?ただ、朝・昼の食事に比べるとまあ…多くは語りまい。
「なんでお前たちは嫌がってんだ?俺はお嬢様の作る飯は天下一だと思うぜ」
こいつの味覚は…まあ、モンスターだしな。つーことは、モンスター向けの味付けなのかあ…
「嬉しいことを言ってくれるな。ほれ、もっと食え」
「それに一日3食とか贅沢すぎんだろこれ。群れに居た頃なんて、週3食あればいい方だったんだぜぇ」
泣けてくるな。まあ、街の外だとそんなもんなのかね。
「あれから一週間経ったが、仕事の方はどうだ?うまくやれているか?」
「フェン介殿はなかなか剣筋がいいですな。良い護衛となれるでしょう。力も強くいい仕事をされておりまな」
フェン介は最初の方こそ、人間の体に慣れてないこともありよくふらふらしていたが、3日もすればそれにもなれ、常人以上のスピードと体力があることが分かった。
オレ?いやーオレは…
「ジョセフィーヌ殿は…」
「そのジョセフィーヌはなんとかならんのか?大の男をつかまえてジョセフィーヌって言われてもなあ」
ですよねー。
「じゃあオレにも名前を…いや、お嬢様はいいです、はい」
オレが名前をって言ったとたん、お嬢様がいい笑顔をしたのですぐ訂正した。前歴があるからなあ。お嬢様がシュンとなる。
「ネタロウ…」
お嬢様がボソッと呟く。釘をさしておいて良かった。
「まあ確かに、仕事もせず、どこでもしょっちゅう寝ておりますからな」
そうなのだ、オレは…長かった猫生活が抜けず、昼間は基本おねむの時間なのだ。
「ふむ、それではネコスケとかどうでしょうか」
ああ、ブルータスおまえもか…しかも微妙にオレの本来の種族っぽい。
「なんか知らないかジョセフィーヌは変なのか?ジョフィとかどうだ」
ワンコロが一番まともだ。
「じゃあそうするか」
それでもまだ女性名っぽいけどな。
「それで、ジョフィの仕事はどうなのだ?」
「肉体労働は向いていませんな。かといって元スラムの者に頭脳労働は…」
「いやいや、頭脳労働向いてますよ?そこんじょそこらの猫と一緒にされちゃあ困りますよぉ?」
「いや猫と比べてもな」
なんせ元々ここよりずっと発展した世界の住人だ。それに公爵令猫をしてた頃も、ずっとご主人様と一緒だったから色々な書物を一緒に見てたし。
おかげで言葉も文字も…そういやなんでこのワンコロ、普通に人間語話せてんだ?不思議だ。
「そういやお嬢様はしょっちゅう書物とにらめっこしてるね」
「うむ、なにせもうすぐ入学式だからな。田舎出の私だ、少しでも皆に溶け込めれるよう頑張らねばな」
「ちょっと見せてもらっても?」
オレはお嬢様が持っていた書物を見せてもらう。内容的には公爵家の書物よりは易しい感じか?まあ、ゲーム中ではうちのご主人様はずっと学年3位の成績…あっ、ネイリスって名前、見覚えがあるぞ。
確か最終試験でうちのご主人様がとうとうベスト3から落ちて…その変わって3位に入っていたのが確かネイリスって名前だったような。
つーことはこのお嬢様が入る学校って、
「アルセミナ帝位高等学部か」
「ほう、それを見ただけで分かるのか?」
「あ、ああ。前のご主人様が同じような書物持ってて…確かその学校に行くとかな」
「ご主人?お前はスラムの住人ではなかったのか?」
スラムねえ…そうか、素っ裸だったからそう思われてたのか。どうごまかしたものか。
「オレは貴族のペットだったんだよ」
「はぁ?裸で?」
「裸で」
嘘は言っていない。
お嬢様とおじいさんは互いに顔を見やる。
「帝都の貴族は魑魅魍魎だとは聞いたが…」
「やはり無理をして帝都などに来ない方が良かったのではありせんですかな」
「そうだなあ…いやいやだって私は田舎の皆に誓ったのだ、いずれ立派な騎士となると!」
おじいさんはため息をつき、お嬢様を残念な子を見る目になる。
そしてオレ達にこっそり言ってくる。
「フェン介殿、ジョフィ殿、ぜひお嬢様の力になってくだされ。お嬢様はあのような振る舞いでその…ご友人が…」
ぼっちかよ。いやー確かに田舎でこんなだと孤立もしますか。暴力的だし。いでっ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「き、緊張するな。うまくやっていけるだろうか?」
「心配すんなって俺がついてるんだ!お嬢様に仇成すやつぁ、かたっぱからぶっとばしてやんよ!」
「いきなりぼっちになりそうな前振りだなあ」
本日はお嬢様の入学式。学院には従者2人まで付き添いが可となっていたので付いて来たのだが…
「ちょっとそこのあなた。後ろの二人はなんですの?」
「ん、従者だが?」
ちょっ、ちょっとお嬢様、そのお方にタメ口はまずい、まずいんですよ!
そこに立っていたのは…オレの元ご主人様、そうゲームの中の悪役令嬢であり、この国の公爵家の一人娘、ティアラース・オーム・デュークハルトその人であった。
「こ、これはこれは、公爵家のティア様じゃありませんかぁ。いや申し訳ありません、うちのお嬢は田舎から出て来たばかりで…」
「な!公爵…申し訳ありませんでした!」
オレはもみ手をしながらへこへこと頭を下げる。許してくれないかな?許してくれないよなあ。
しかし、ティア嬢はオレの予想に反して、ため息を一つつき、
「…これからは気をつけなさい」
と言っただけだった。
おかしいな。いつものティア嬢だったらここで切腹を命じてきても不思議じゃないんだが。
そういえばなんだがやつれてるような。お腹でも壊してんのか?
「それよりも今従者と言われましたが、学院に従者を連れて来られたのですか?」
「は、はい。確か2人までと書かれておりましたので…」
「確かに規則にはそうありますが…今時…」
ああ、あれか。マニュアルにはあるが、一般常識としてやらないってやつか。
「良いではないか。私も従者同伴であるぞ」
「ヘリデリック王子…」
お、でたな攻略対象。リアルで見るとほんとイケメン度がパネエな。
ん?しかしどうしてティア嬢と一緒に?まだ入学当時は仲が良かったのか?
1年目の夏休み明けがゲーム開始時期なんだが、そのときにはこの王子様は随分ティア嬢を避けていた。
少なからずティア嬢はこの王子に好意を抱いていることもあり、避けられる度に周りに当たり散らかしてたっけ。
「はぁ、田舎から出て来られたなら覚えておきなさい。学院に従者を連れて来るということ、それは保護者同伴で登校していると見られても仕方のないことです」
「ハハハ、ティアは手厳しいな」
「もちろん王子は別ですわ。王子に万が一があっては困りますからね。護衛は必要なのです」
そう言うと後ろをみやる。そこには筋骨隆々な青年が立っていた。いかすハンサムマンだが、攻略対象ではなかったはず。その後のアプデではどうなったかは知らないが。
「父上も大げさなんですよ、わざわざ剣帝をつけるなど」
「そんなことはありませんわ。王子はこの国の希望ですから!」
ティア嬢がいい笑顔で答える。
くっ、この王子いずれこのティア嬢を捨てるんだよな。
ふっ、オレが爆裂魔法を覚えた際にはまっさきに犠牲になってもらおう。
「申し訳ありません。実はこの者達にも教養を身につけさせようと思っておったのです。それはまずいのでしょうか?」
「従者も一緒に授業を受けさすってことですか?」
「はい」
ティア嬢は複雑な顔をする。まあ、一人分の学費で3人の授業を受けさそうってんだからそりゃいい気はしないよな。
もちろん発案者はオレだ。この学院には魔法学習がある。そう魔法だ!魔法使いたい!
「ハハハ、それはいい案だな!別にルール上は問題ないだろう」
「貴族らしからぬ発想ですね…あなたのような方が学院の評判を落とすことにならなければ良いですが」
「黙って聞いてりゃ…」
―――ゴスッ
「お前は黙っておけ」
「なんでだよぉ」
ネイリスさんにどつかれて、涙目で抗議するワンコロ。
「そ、それより早いとこ教室に行かないと!ほら、皆もう入ってるぜ」
これ以上ここでぐたぐたしてて、やっぱり従者は無しとかなったら困る。ちゃんと王子の言質もとったしな。今の内にさっさと混ざりこんでおけば大丈夫。
しかし、暫く見ないうちに随分しおらしくなった悪役令嬢さんである。
いつもならもっとこう、刃傷沙汰になりそうなぐらい興奮してそうなんだが。
今もまた、胸の辺りに手をやってスカスカしている。大丈夫、貧乳はステータスですよ?
「ハァ、ジョセフィーヌ…いったいどこへ…」
なんか呟いておられる。
オレはそっと手をティア嬢の額にあてる。
「な!?急になにを!無礼者!」
「い、いえ、なんか元気が無いようでしたので、大丈夫かなと思いまして…」
ティア嬢はキッとオレを睨んで来る。
「あなたごときが触れていいものではありませんことよ!」
「ただしイケメンに限るって奴ですか?王子のような」
「ななな、何を急に!」
ティア嬢は王子の方を見て顔を赤くさせてオロオロする。
「ほら王子、ここは空気を読んで」
「ハハハ、お、ティア結構熱いじゃないか。大丈夫かね?」
王子に額を触られてさらに上昇するティア嬢の体温。
「二人とも分かってしてらっしゃるでしょう!?」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ハハハ、君は随分いい性格をしているようだ」
本日の授業が終わり、王子様がオレに話しかけてくる。ハハハって言いながら歯をキラッとさせる。なんかイラッとくんなあ。
「ティアがあれほど感情豊富な顔をするとは初めて知ったよ」
そうなのだ、あれからも何かとつっかかって来るんでついついからかい過ぎてしまった。
「怖いもの知らずにしても程があるよ」
「よくもまあ、あの令嬢をあそこまで怒らせといて首がつながってるもんだ」
これまた攻略対象の2人がオレに話しかけてくる。一人は魔術の天才、もう一人は剣の天才って設定だったか。天災多いなこの学院。おっと字が。
「そういえば、王子はティア嬢が苦手なんでなかったでしたっけ?今日は随分にこやかにお話されてましたけど」
「ん?なぜそう思ったんだい?」
「そういや王子は今まで、ティア嬢が近寄れば避けてたじゃねえか?」
オレもその理由は知りたいな。これからまたこじれるにしたって理由が分かっていれば対処の仕方もあるかもしれないし。
「ああ、私が避けてたのはティアじゃないよ。ティアが抱いてた猫なんだよ」
な、なんだってぇえ!オレがいったい何したよ?
「実は私は猫アレルギーでね。猫の毛を吸うとくしゃみが止まらないのだよ」
「今明かされる衝撃の事実!?」
つーことはあれか、オレの存在自体がティア嬢と王子様との間をこじらせてたのか。なんたる悲劇。
あれ?ってことは、今は障害がないと、これゲームのストーリーどうなんだ?
「王子はティア嬢のことはどう思ってらっしゃるので?」
ここはちゃんと確認しとかないとな。
「こないだまでは距離を置いていたので良く知らなかったが、今日のティアを見るかぎり、随分好感のもてる子だと思ったよ」
「ほう、それは良かったじゃねえか。一応王妃候補の一人なんだろ?」
王妃候補?そういつぁ初耳だな。つーかいっぱいいるのか候補?やっぱ爆ぜろ。
「ハハハ、そう言うのはもっと先だね。まずは学院を精一杯楽しまないとね」
何?候補以外でも学院で、ぱふぱふしまくる気かね?
「魔法の授業はいつから始まるのかねえ。早く爆裂魔法を覚えないと」
「君は魔法が使えるのかい?」
「えっ?魔法の授業って魔法の使い方を教えてくれるのじゃないので?」
「いやまあ、そうなんだけど…そんな一から始まる訳じゃないしね。それに言いずらいんだけど、君はあくまで従者、授業を見ることはできても参加することは…」
「王子様、オレ魔法使いたいです。なんとかなりませんか!?」
王子様は苦笑いを浮かべる。
「君はあれだねえ、ほんといい性格してるよ。そこはネイリスに頼み込めばどうかな?彼女が師範に一から教えてくださいって言えば一緒に見ることができるよ」
「なるほど」
「まあ彼女が魔法の授業を受ければの話だけどね」
ん?魔法の授業を受けないってこともあるの?
「実技の授業は選択式だよ。魔法か剣かどちらかになる。まあ両方を交互にって子もいるけど、基本はどっちかに絞るのがベストだね」
それは困った、きっとネイリスさんのことだ、剣一本だろうなあ。そうだ、
「そこの魔術の天才君、従者はいらんかね?」
「ぷっ、君はほんとに従者なのかね。こんなにやる気のない従者は始めて見たよ」
「大丈夫、魔法の授業の間だけのレンタルで」
「フフフ、君がそれほど価値のある従者であるなら成立するかもね。どうだい、僕の従者と手合わせしてみるかい?」
「残念、オレは頭脳派なので」
3人が噴出す。なんだよう、ほんとに頭脳派なんだぞう。ちゃんとネイリスさんの勉強を教えてんだぞう。
◇◆◇◆◇◆◇◆
しかして学力確認の初テスト、思いもよらない結果が、なんと!うちのネイリスさんが学年トップに!
…いいのかなあこの大番狂わせ。確か王子様はずっと学年トップを走っていて、途中でヒロインに抜かされることになったのがきっかけでルートに入るんだったよなあ。
ネイリスさん、嬉しいのは分かるんだけど、そんなにぶんぶんしたらオレの肩がぬけちゃう。
「ほんとジョフィのおかげだ!最初に見るだけ読むだけじゃ駄目だって言われたときは、こいつ張り倒そうかと思ったが、まさかこんな結果になろうとは」
オレもうちょっとで張り倒されるとこだったの?
「ハハハ、まさかこの私が負けるとはね…」
「…3番、王子はともかく、こんな田舎貴族に…」
2番は王子様、3番手はティア嬢だ。
後、王子のセリフ、ルートに入って始めに聞く内容なんだが、まさかネイリス×王子とかないよね?
ティア嬢はふと顔を上げると、ネイリスの前に立ち、
「ネイリスさん、あなた何か小さな紙の塊を試験前に見てましたわね?もしやカンニング?」
などと言いやがる。
「おっと、いくらティア様と言えどもそりゃーひどいんじゃないですかね。お嬢様が持ってるのは単語帳って奴で」
「これはティアラース様、私は誓ってカンニングはしておりませぬ。これは単語帳といって、このジョフィが考え出した勉強方なのです」
そう言ってティア嬢達に単語帳を見せる。いや、オレが考え出したんじゃないぞ。
「ほう、表に問題、裏に回答か、これは良さそうだな」
「そうですわね、これなら間違って覚えることもなさそうですし」
「コンパクトな為、どこにでも持ち運べ、いつでも勉強ができるのです」
ネイリスさんが得意そうにそう答える。これぐらい誰でも思いつきそうなもんだが、ありそうでなかったものって感じなのかね。
「それにノートのとり方、覚えるもののインデックス等…」
ちょっとネイリスさん、あんま全部開けかすと次の試験でってまあ、別に一番じゃなくてもいいか。順位が大切なんじゃない、覚える内容が大切なんだし、周りのレベルが上がれば自然と自分のレベルも上がるさ。
「ふうむ、これを全部あの従者が考えたのか?人は見かけによらないな」
おいコラ、そりゃどういう意味だよ?
「ネイリスさんのもう一人の従者も、王子様の剣帝に勝ったんですってね。さすが堂々と学院に連れて来られるだけありますわね」
遠くで女生徒が話している。
えっ、あいついつの間にそんな勝負してたんだ?つーか勝ったんかあれに?
「うちの剣帝殿が動き出す前に目にも止まらぬ速さで一本だよ。あの体つきでありえんとは言ってたけどねぇ」
「ごほん、ごほん」
うわさの剣帝さんが気まずそうにしてる。
まあ、油断してたからかね。あいつは獣だし、そこんとこは見逃さんだろうな。
「どうだ、結構優秀そうな従者だぞ、レンタルするか?」
「アハハハ」
王子が魔術の天才君にそう投げかける。
「いや、その話はいいよ。なんでもうちのお嬢様、魔術系を受講するらしいんですよ」
なんでも、女では剣術に限界があるとか。できれば魔術を織り込んだ攻撃方法を模索したいらしい。
田舎で父親とさんざんやりあって悟ったみたいだ。
まあ正直なとこネイリスさんなら、今の剣術コース行ってもやることないだろうしね。なんせ、ネイリスさんのお父君、剣帝の中でも5指に入る強さだとか。
そして夜間においてはその父君と同等の強さを誇る執事に鍛えられてる。
「ふむ、ネイリスは魔法はどの程度まで?」
「えっ?魔法の授業って魔法の使い方を教えてくれるのじゃないのですか?」
「…君たちは似たもの主従だなあ」