第四章 もう拾ってきても飼えないっすから
「公爵様、一大事でございます!」
「今度は何かね?」
「狼の群れが、我が公爵家に向かって来ております!」
「は?」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「…ふう、どうやって入って来たんだい?」
目の前には重武装の騎士団、束ねているのは王子様。
オレ達は上を指差す。
「ああ、上かぁ、上ならどうしようもないね」
王子様は投げやりな口調で言ってくる。
アッコさん、どうせなら公爵家まで連れて行ってくれたらいいのに。
朝、目が覚めたら空に浮いてた、いやマジで。
どうやらアッコさん、オレ達を連れて帰るようネイリスさんに言われたらしい。
自分以外も浮かせることができるなんて、さすが悪魔族、チートですね。
だが、途中で魔力が尽きて不時着した。王都の広場のど真ん中に。
まあ、そこまではいい。門を通らなかったことによる不正はまあ、公爵家の力でごり押しできるだろう。
問題は…あそこにいた狼連中も一緒に連れて来たことだ…すっ飛んで来たよ衛兵さん。モンスターの襲撃だーって大騒ぎになって。
「フェン介、コレは一体なんの冗談なんだい?君は一体何をしようとしているのかな?」
「別に、今から公爵家に戻るだけだが?」
「…そうか、ならば何も言わない。周りに害が出ないようにだけ気をつけたまえ」
オレは気絶してるアッコさんを担ぐ、なんなんだろうね、生まれたばかりだから加減が分からないのだろうかね?
狼達もおとなしくフェン介の後を付いて来る。
「良いのですか王子」
「藪をつついて蛇が出てきたら困るだろ?公爵家のことは公爵家でなんとかしてもらおう」
最近の王子は随分楽天家になって来た気がする。肩の力が抜けたような感じ。
さてこれをどう説明したものか。とりあえず、
「犬拾って来ました、飼ってもよろしいでしょうか」
と言ってみた。門の前で仁王立ちになっていたティア様に。
「そんなことはどうでもいいですわ。それよりメスは増えてないでしょうね?」
そう聞いて来る。
「メス?えーと4匹ぐらいいるけど…」
オレは狼達を見ながらそう答える。
「人間のメスは?」
「えっ、居ないよ?」
「ならいいですわ」
「良くないにゃ!こいつらダーリンに発情してるにゃ!」
発情って…確かに結構懐いて来たが。
どうやらこのブサメン顔、モンスターにとってはイケメンに見えるらしい。
「あたいらは本来子供を作るようにはできてないが…お前の子なら生んでやってもいい!」
「俺らを癒してくれた力、そして人間にしておくには惜しいほどの見た目!ダイテッ!」
だが、モンスターにモテても仕方がない。
「相手は動物でしょう、さほど気にすることでもないのでは?」
「あっ、そんなこと言ってもいいのにゃ?ダーリンだって本体は猫にゃ!ようし」『イリュージョンコネクト!』
女神猫が狼達に魔法を掛ける、するとそこには…一糸纏わぬ美女軍団が!(男は見ない)
「こ、これは…体が人間に?これならあなたとの子供も作り放題だ!」
「おっ、やる気ですかい。俺らを孕ませ易くしやしたね」
裸の女性にぐんずほぐれつ。ここは天国か!
―――パキッ
ん、なんか凍気が…ヒッ、ティア嬢の足元が凍ってらっしゃる。
「おいっ、そこのメスども。わたくしの持ち物に手をだそうなど、どうなるか…お・わ・か・り?」
まるで空気が凍っているかの感触。あっ、吐く息が白いや。
美女軍団は抱き合ってぶるぶる震えている。その震えは、寒さか、恐怖か。
◇◆◇◆◇◆◇◆
とりあえず、モンスターにはブサメンがイケメンに見えるらしいことを説明。
女神猫にジョフィの顔に戻してもらった。
そしたら狼女達は寄って来なくなった。
なんだろう、果てしなく理不尽を感じる。
狼達は暫く中庭で番犬をさせる予定だとか。
もうこれで公爵家の守りはばっちりだな。後は…
「ダーリン、もう一年が過ぎたにゃ、そろそろあっち片付けないと不味いにゃ」
「とはいえ、もうダンジョンの最深部まで行って来たが、何も起こらなかったぞ」
例のダンジョンだが、8階層まで広がっていた。
だが、8階層をくまなく調べても下に降りる階段が見つからない。
女神猫を連れて行ったが、やはり8階層で打ち止めらしい。
そのかわり、攻略済みの階層にときたま穴が開きそこから瘴気が発生する。
今のルーチンワークは、ダンジョンを巡り、瘴気の穴が空いてたら塞ぐと言う作業と化している。
「どっか他の場所でまたぞろ瘴気を溜めてんじゃないのか?」
「あちきもそう思って調べているんにゃが…やっぱりあそこしか反応が無いのにゃ」
「どこまであてになるんだか…」
「にゃ!あちきを信用してないにゃ!あちきの女神パワーはまだまだ健在にゃ!」
語尾ににゃがつく神様ほど信用ならないものはない。
「分かったにゃ…そこまで言うなら最終決戦の場を用意してやるにゃ!」
「なんだそれ?」
「あちきたち神の座に付く者がどうしても争わなければならなくなったとき、強制的に相手を呼び出し決着をつけることがあるにゃ」
神々の戦争かね。そっちで勝手に勝負できるんなら勝手にしてくれりゃいいのに。
「その名も『ハルマゲドン』世界を終わらす最終戦争だにゃ」
「えっ、お前ら二人で勝手にやってくれんじゃないの?」
「神の戦いはその信者の戦いにゃ、生きとし生きるものは全てどちらかについて戦うことになるのにゃ」
そんな危険なものは止めて下さい。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「それでは今から、皆さんに必殺技を授けます」
とりあえずハルマゲドンはムリでも、女神空間を繋げることにより、邪心の元に直接向かうことはできるとか。
ただまあ、それをやると一騎打ち、へたすりゃ全滅となりえない。
そこで、戦力の強化を測ろうかと。
ゲーム中では魔法以外に必殺技と言う設定があった。
それらの必殺技は女神猫の空想上の産物ではあるが、実際に実現できない物ではないとのこと。
「必殺技はロマンなのにゃ!」
…そのほとんどはロマン技で、無意味に派手だったり、これ現実じゃ隙だらけじゃねって感じのがほとんどであったが、中には実用的なものもあった。
「それでは先生、お願い致します」
「うむ、まかしておくと良いのにゃ!」
そこで、その発想元である女神様にご教授願おうと。
「それではまず、クルーカ。そちには『無限乱舞』を・あががが、頭が割れるニャー!」
「実用的なのって言ったろ?」
『無限乱舞』、ようは無数の剣戟を前方に浴びせる技だが、その間動けない上に一回切ったら敵は死ぬのに乱舞の意味はない。現実じゃ役にたたなそうなのナンバーワンだろが。
「クルーカにはあれだ『閃太刀』がいいんじゃないか」
「にゃ!あれはとっても地味なのにゃ!単に抜刀時に瞬間移動するだけにゃ!」
「だから使えんだろが、お前今回の趣旨理解してっか?こっちゃ命が掛かってんだぞ?」
「なあ、俺は別に必殺技とかいいから魔法の練習して来ていいか?」
オレと女神猫が指導の方法を議論しているところにフェン介がそう言ってくる。
「フェン介…お前は間違っている。確かに魔法は上達した、今後も上達するだろう。だがフェン介、その上達した魔法を何に使う?フレア?インフェルノ?まさかそんな魔法使わないよな?」
「えっ、確かに、あんなの外で使えるもんじゃねえな…」
「そこでオレが魔法の新しい可能性を見せてやろう『火炎操舵』…先生、お願いします」
女神猫が前に出る。両拳を前に突き出す、そしてぐっと脇を締める、と、拳に炎が灯る。それから無数のパンチを繰り出す。
「おおっ!炎の拳か!」
「そうだ、お前の類稀な身体能力。それを生かした魔法の次なるステップ、魔術だ」
「魔術か!先生、是非俺に!ご教授をお願いします!」
単純な奴だ、実はその炎、飾りにしかなってないんだがな。
燃えた手で殴ったからって何?ちょっと熱いぐらいだろ。まあ、相手をびびらせるにはよさそうだが。
「ジョフィ、私にもその必殺技とやらを教えてもらえないだろうか」
「お嬢様は確か聖属性に適正が高いんでしたよね。聖属性ならオレでも教えられないこともないか…」
えーとまずはライトの魔法で。
「持ってる剣をライトの魔法で光らせて」
「こ、こうか?」
「それで剣を振る」
「うむ!」
ライトセイバーの出来上がりでござる。
「あとは剣に水滴を纏わせて」
「ふむ、こうか?」
キラキラエフェクト付である。
「ダーリン…」
「あ…いや、まあ…その…必殺技ってロマンだよな!」
「じゃあ、あちきの好きなようにしていいにゃ?」
「…お任せ致します」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「くらえっ、炎狼牙!」
真っ赤な炎の狼を纏ったフェン介がモンスターに一撃を加える。
くらった敵はふっとんで煙と化す。
「すげえなこの魔術」
…まあ、本人が喜んでいるのだからよしとしよう。
うん、やはりフェン介の『打撃』ダメージはなかなかのものだ。
『瞬影乱舞!』
クルーカが一瞬消える、そして敵の目の前に現れ一閃、さらに後方から一閃、それを一瞬で数回繰り返す。
…敵、最初の一閃で消えてるけどな。
「よし、私も…『無映剣・一の太刀』」
ネイリスさんが剣を振るう、何も無い目の前に向かって。
と、1秒後、直線状に居た数匹のモンスターが音も無く煙と化した。
なにがおこったかさっぱりです。
「見事に見た目重視だなあ」
「にゃ!ネイリスのは実用性もかねてるにゃ!」
ほかのは?コイツに任せといてほんと大丈夫だろうか?
しかし、ネイリスさんのは危険じゃね?ゲームでも見たことない技だが。
「あちきの考えた新技にゃ!ネイリスはゲーム中登場しなかったから新たに考えたにゃ!」
「ほう…で、何が起こってんだ?」
「あまり種明かしはしたくにゃいが…ダーリンにだけこっそりと」
女神猫が耳打ちしてくる。
ふむふむ、何?空間をずらした?
剣を振った形に合わせて、数メートルの距離を少しだけ空間をずらす。するとずらされた左右の接点がなくなり、スパッと分かれる。
その後、元に戻したら、まるで切断したような感じに。
その性質上、防御力を一切無視できる。どんな大鎧も、どんな硬い敵も、すっぱすぱである。
「こえーな…そんなことまでできるのか?」
「ネイリスにも神徒の加護を与えたにゃ。聖と神聖の両方の属性があれば可能だにゃ」
複合魔法か。神聖しか使えないオレにはムリだなあ。
「ん、それって武器が剣である必要はあるのか?」
「しー、剣じゃないとかっこがつかないにゃ」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ジョフィ…」
「うぉっ、…今日はまた一段とえらいことになってんな。ほら『ヒール』」
本日のフェン介は服はぼろぼろ、歯形どころかあちこちから血も流れている。
「また奥さんか?」
「ああ、こないだのお嬢ちゃんだけじゃなく、群れのメス達も相手してるだろ、それでさ…」
フェン介は狼連中の飼育係だ。
よって群れのメスとも接触する機会が多い。
奥さんと居る時間より、群れのメスどもと居る時間が多いとか。
そして休憩時間は例のお嬢さんがべったり。
もちろん奥さんも一緒に居るが、二人っきりの時間が作れないと。
「お前、ちゃんと家族サービスしてっか?」
「なんだそりゃ?」
何、家族サービスを知らないとな?
ばっかお前、家族サービスしない夫は家族から爪弾きにされるんだぞ。
妻からは冷たい目で「あんたまた家でごろごろしてるの?」と邪険にされ。
娘からは「誰この人?」って認識すらされなくなる。
その内、食卓が段ボール箱となり、部屋の隅で一人飯。家族の暖かい団欒を横目に一人冷めたご飯を食べることとなる。
「お、恐ろしいな…まずいぞ、俺の夕飯、実は俺だけ家族とメニューが違うんだ」
そりゃネイリスさんの飯を食えるのはお前だけだからだ。
奥さんは普通の犬なので、ネイリスさんの食事は口に合わないようだ。
子供達もティア嬢のご飯大好きと調教されておる。
「ど、どうすれば…ジョフィ、俺に家族サービスとやらを教えてくれ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ほらジョフィ遅れているぞ」
「ぜえぜえ…あんなこと言うんじゃなかった」
アレから一週間後、本日はピクニックに出かけることになった。
フェン介達だけでは危険だとティア嬢が言い出し、結局オレとティア嬢、そしてネイリスさんと女神猫がついていくことになったのだが、
「奥さんはしゃぎすぎじゃね?」
フェン介の奥さんが久しぶりの遠出と言うことで随分嬉しそうに駆け回っておられる。
自然、奥さんのペースにあわせて移動することになるのだが、ペースが速い早い。
「ダーリンは軟弱なのにゃ!」
そりゃお前は猫の姿でティア嬢に抱かれているだけだからだろが。オレは荷物まで持ってんだぞ。
この世界の人間、逞しくできているようで、ティア嬢ですら息が乱れていない。
ティア嬢はフェン介たちの子供達に手を引かれて随分ご機嫌な様だ。片手で女神猫を抱き、もう片方の手を子供達に引かれる。そのペースが駆け足並でなければ微笑ましいのだが。
ティア嬢はあれだよな、毎日猫を抱いていて、以外と体力も鍛えられているのではなかろうか。
「これからは毎週こういうのもいいですわね」
毎週は勘弁してください。せめて月1で。
「仕方ない、もう少し私が持とう」
そう言ってオレの荷物を持ってくれるネイリスさん。惚れそうです。
「もうすぐ目的地だ頑張れ」
そして補助魔法まで掛けてくれる。なんて男前なお人だ。
きっと将来はいいお嫁さんになるに違いない。
「まったくダーリンは情けないのにゃ」
「そこまで言うならお前も人間になって荷物もてや」
どうにか目的地まで着く。
ちょうど太陽は頂点に達した頃。
「素晴らしいわね。来て良かったですわ」
そこは小高いお山の山頂。ちょうど帝都が一望できる場所であった。
ここは公爵家の私有地。なんでも戦略上の理由から一般開放してないんだと。
人の出入りも無く、自然な花が咲き乱れている。
フェン介の奥さんと子供達は大層駆け回って、花や虫達と戯れている。
アホ猫も人間に変身して、まっぱだかでちょうちょを追い掛け回している。服着ろよ。
「そろそろお昼ごはんにしますか?」
ネイリスさんがティア嬢に問いかける。
「そうですね…ジョフィもばてばてのようですし、先に食事をすませますか」
ティア嬢がオレを見ながら言ってくる。助かります!
フェン介達を呼び寄せてティア嬢が作ったお弁当を広げる。
「ティアねえ、このウサギさんのお野菜おいしいね」
本日はピクニックということもあり、見た目にもこだわったようだ。
「ねえ、後でおれと遊んでよ。ほらこないだの円盤飛ばすやつとか」
「いいですわよ。ここなら多少遠くへ飛ばしても大丈夫ですしね」
「やったあ!」
おいフェン介、これもうお前の家族サービスじゃねえんじゃね。
「ん?まあ喜んでんならなんでもいいだろ」
まあ、そうだな。
「ジョフィ、ほらお前も食べるといい。やはりティア様の料理は素晴らしいな。私ももっと頑張らなくては」
そう言って料理をお箸に挟んで差し出してくる。
オレはそれをありがたく頂戴する。あれ、これって間接キスじゃね。ネイリスさんは気にした風もなく、その箸で料理を食べる。ときたまオレに差し出しながら。
「むむむ、なんだかダーリンの好感度ゲージがあがってるにゃ」
「なんのお話で?」
「ぴくにっくが始まってから、なんだかダーリンの脳筋娘に対する好感度がうなぎのぼりなのにゃ」
ん、ティア嬢がなんかオレをじっと見つめてくる。
「そ、そうですか…ジョフィ、そ、その、これはわたくしの自慢の一品ですの」
そう言ってフォークにお肉を突き刺して差し出してくる。真っ赤な顔でそっぽを向きながら。
「あっ、ずるいにゃ!あちきもやるにゃ!ダーリンこれも!」
「ゴフゥッ!」
刺さってる!刺さってるから!フォークが頬に!




