第三章 旅立ち…?
ティア嬢が説得してくれたおかげで猫に戻ることができたのだが、
「ダーリン!ダーリンの世話は、今後あちきが行うにゃ!」
なんか変なことを言い出した。
しかして朝食時。
「あーんにゃダーリン!」
キャットフードをオレの口に押し込もうとする猫耳娘。
「モガッ!ゴボッ!」
詰まる!詰まっちゃう!
そのときオレは確かに見た、川の向こうで手をふっているばっちゃを。異世界までご苦労様です。
しかして登校時。
「ダーリンはあちきが担いでいくにゃ!」
そう言ってオレを担ぎ上げる猫耳娘。
「あっ!」
ふらふらしてると思ったら躓いて、
「ゲフゥッ!」
大方、ど根性な例の奴になるとこだった。
しかして入浴時。
「ダーリンの背中はあちきが流すにゃ!」
そう言ってオレを浴場にぶち込む猫耳娘。
「ガボッ、ゲボッ、アボボボ」
イキガッ!イキガァア!
「ばっちゃん、オレ頑張ったんだ…異世界にまで行って」
「ほうかほうか、よう頑張ったのぉ」
ハッ!?あれ?今川のふちでばっちゃと話してたような気が…
隣には猫の姿に戻って気絶している女神猫が横たわっていた。
もしかしてコイツ…蘇生魔法…
なんでこんななんでもないとこで3度目の臨死体験をせにゃならんのだ!
あかん!このままでは命がいくらあっても足りやしない!
オレはその日、一つの書置きを残すこととなった。「旅に出ます、捜さないで下さい」と。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ん、どうしたんだフェン介そんなとこで座り込んで」
「ああ、ちょっとな…」
いざ家出しようと門に向かったところ庭の隅っこでフェン介が座り込んで居るのを見つけた。
「つーか、何お前、なんでそんなにぼろぼろなの?」
「いや、なんか、こないだ来たお嬢さんがな、やけに俺にくっついて来んだよ。で、うちのかみさんの機嫌がな」
そこに居たフェン介は…裾が破れてたり、足にあちこち噛み付かれた跡があった。
どうやら話を聞く限り、こないだやって来た、あの元包帯少女だった女の子がべたべたとくっついて来るもんで、犬嫁の嫉妬が爆発して追い回されたらしい。
「お前も大変だなー」
「…そういうジョフィは何してんだ。首に風呂敷巻きつけて」
「ああ、オレは今から旅に出る!」
「はあ?なんでだよ?」
オレは暫く旅に出て変身魔法を極めてくる。
このままアホ猫の好き放題だと、絶対いつか死ぬ。
女神の呪いで今も人間になれるのは例のブサメンだけだ。
せめてフィーネかジョフィに自由に化けれるようにまではならないとな。
「ということで後は頼んだ!」
「なにが、ということなんだか…なあ、俺も付いて行っていいか?せめてあのお嬢さんが帰るまで」
疲れたような声でそう言ってくる。随分参ってんだな。
「じゃあ、一緒に行くか」
「おう」
「何処に行こうと言うのですか?」
そこへオレをひょいっと持ち上げるお方が。
「ん、アッコじゃねえか。どうしたんだこんな夜中に」
「今、クルーカさんがお客様の護衛に入っていますので、代わりに私がフィーネ様の『監視』に入っています」
おい、今『監視』とか言わなかったかコイツ?
「ん?主よりクルーカさんの代わりをするように仰せつかっただけですが」
やっぱコイツから見てもあれは付きまとってるように見えるんだなあ。
だが、一応あれは護衛らしいぞ。
「そんなのアッコがすりゃ良かったんじゃねえか?」
「うーん、何でも小さくても公爵家、名のある人物でなければとか?それに私は魔族に見えるらしいですから」
まあ、クルーカは国に正式に認められた剣帝だ。今や、実力だけなら上位に入る。
学院生とはいえ、年齢的も大人だしな。
「じゃあアッコさんも来る?」
「え、私もですか?しかし…主の許可も無しに…」
「ふむ、だったら明日の朝にでもお嬢様に許可取ってくれば?アッコさんだけならビューと行ってすぐ帰って来れんじゃない?」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「は?ジョフィが家出?な、なんで?」
「なんでも女神様の横暴に耐え切れなくなったとか」
朝、目を開けるとアッコが枕元に立っていた。いや、浮いていた。
その登場は心臓に悪いので止めてもらえないだろうか。
「くれぐれも女神様には場所などを言われないようにとのことです」
「いやいやいや、ティア様に嘘はつけんぞ。そして、ティア様は女神様に嘘はつけん」
なんでも、女神様の仕打ちに耐え切れなくて暫く雲隠れするとのこと。
行き先は…フェン介の里帰りをするとか。
「それでは…現在地はぼかしてお伝えした方がよろしいでしょうか?」
「う、うむ、そうだな。ティア様にはアッコが連絡役として居るとだけ伝えておこうか…」
しかし、家出をするほど追い詰められていたとは…私もまだまだジョフィの気持ちを分かってやれていなかったのか。
「女神様には私から苦言を呈しておこう。できる限り昨日のようにはならないよう配慮する。だからなるべく早く帰って来るように言ってくれないか」
「はい、お伝えしておきます」
朝食は別々で、登校はティア様にお任せした方がいいな。
そう言えば入浴のときも悲鳴が上がっていたな。何があったのだろうか。さすがに私が一緒にだと…ま、まあ猫の姿なら一緒でも良いかもしれん。
「主、お顔が赤いですよ。熱でもあるのでは?」
「ななな、そ、そんなことはないぞ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ほら、取って来てやったぞ」
「…なあ、これ人間の食い物じゃね?」
「こんな田舎にキャットフードがある訳ねえだろ?」
旅に出るのはいいが、目的地を考えていなかった。
そこでフェン介にどっか行きたいとこがあるか聞いたところ、一度里帰りをしたいと言ってきた。
なんでも、群れの仲間に無断で出て来たので、もしかしたら心配しているかも知れないとか。
それで今はフェン介の故郷の近場の村に辿り着いたとこだった。
「ここの宿屋の肉はうめえぜ、俺も腹がすいて裏の残飯に食らい付いたんだが結構なもんだったぞ」
「モンスターの味見は当てにならない」
まあ、モンスターといえども、普通にうまいものはうまい。まずいものはまずい。らしい。ネイリスさんの食事だけが特別なようだ。
ただまあ、その特別が他にも無いとは言えないしなあ。
「ふむ、主ほどではありませんが、なかなかのものですね」
「それじゃあオレも人間に化けて…やべえ人間の服用意してなかったわ」
「お前、人に化ける魔法を強化するために旅に出たんじゃねえのか?」
化けるだけなら服はいらねえだろ?
しかし、こんなとこですっぽんぽんで飯食ってるとさすがに追い出されるような気がする。
「仕方ねえな、ほれ」
「ん、手ぬぐいなんてどうするんだ」
「腰に巻いとけ」
マジか?まあ、すっぽんぽんよりましか?
オレは手ぬぐいを受け取って店の裏手に回る。そこで例のブサメンに化けて手ぬぐいを腰に巻く。
そうして戻って来たら―――アッコの周辺に人が何名か倒れていた。
「…なにやってんのぉ?」
腕が曲がっては駄目なほうに曲がっている。あっちの人のお顔は真っ赤に膨れてる。
「私のお尻を触って来たのでちょっとお仕置きを」
「…ちょっとじゃないよね?」
「大丈夫です、主に言われたとおり、命は奪っていません」
胸を張ってそう言う。でも半殺しぐらいになってんじゃない?死ななきゃいいってもんじゃないのよ?
「おいフェン介、なんで止めないんだよ?」
「あ?なにが?」
フェン介は料理から顔を上げて周りを見る。
「なんだこりゃ?」
気づいてなかったんかい!
今のオレのパーティメンバー。元モンスターの狼男。現モンスターの悪魔族のお姉さん。あれ、このメンバーってやばくね?
「あいつら助けなくていいのか?」
「お、おいっ、目を合わせるな、あの3人やべえぞ。特にあの腰巻いっちょのにいちゃん。顔が人間じゃねえ」
誰の顔が人間じゃないって!まあ確かに人間ではないのだが…中身はこの3人では一番まともだと思うんだが。
『ヒールエクステント!』
オレはとりあえず転がってる奴らを回復していく。
「大丈夫かおっちゃん」
「う、腕が治った!?」
「あ、あんたそれ回復魔法なんか!?」
「ああ、うちのツレはちょっと気性が荒くてな、ちょっかい掛けない方がいいぞ」
倒れてた人達がガクガクと首を上下する。
こんだけ大変な目にあったんだもうちょっかいはしないだろ。
「アッコさんもやりすぎないように。できれば怪我をさせない方向でお願いします」
「加減はしたのですけどね。難しいですね、ちょっとなでた程度なのですが」
ほんとオーバーキルだよなアッコさん。おっきなリーグの養成ギブスでも付けた方がいいのではないだろうか。
「いや助かったぜあんちゃん。それにしてもなんで手ぬぐいいっちょなんだ?」
「えーと…悪い奴らに襲われて身包み剥がれた…とか?」
「あの姉ちゃんより強い奴に?」
オレはアッコさんを見やる。うん、この設定は無理があるな。
「おい、あんま言ってやるなよ。回復魔法が使えるってことは神徒なんだろ?見てみろよあの顔、きっと神様が余りにもひどい境遇に涙して…きっと不幸な身の上に違いない」
その神様がこんな顔にしたんだが。
周りに倒れていた人達はオレを同情の眼差しで見てくる。
もう、今度やられても回復してやらないぞ。
「フィーネ様のお顔は前よりぐっと良くなっていると思うのですが?」
アッコさんがフォローしてくれる。…それ本心じゃないよね?
とりあえずオレも食事に。ん、
「フェン介、オレの分は?」
「ああ?俺はとってないぞ」
「店主、大変おいしかった、おかわりを」
…アッコさん、結構大飯食らいなのね。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「フィーネ様…私はもう…ダメなのでしょうか」
「ある意味ダメだな」
お腹を抱えて横たわるアッコさん。その表情には苦悶の色が伺える。
「フィーネ様、回復魔法を」
「さっき掛けただろ?」
「そんな…回復魔法でも治らないなんて…」
「まあ、食べすぎは怪我じゃないからな」
どうやら外食は始めてらしく、ネイリスさんが居ないこともあって羽目を外しておかわりしまくったようだ。
オレが一皿食う間に10皿ぐらい食ってたんじゃね?
よく食うなあと思ってたら突然泡を吹いて倒れた。
倒れるまで食べるとは…まあ、腹いっぱい食べたのも初めてなのかもしれない。
「うっ、苦しい…こんな苦しみは初めてです…」
人間でも頑張れば悪魔族をたおせるかも知れない。OMOTENASHIで。
「はぁ…『ヒール』」
とりあえず気休めにヒールを掛ける。
「全然楽になりません…もし、私が死んだら、主の料理の一部としてくれませんか」
その料理誰が食うのぉ?オレやだよ?
フェン介もブンブンと首を左右に振る。
「まあ、心配しなくても食べすぎで死ぬ奴は…たぶん居ない」
「こんなに苦しいのに?」
目に涙を浮かべてオレの手にすがり付いて来る。
「…よし、オレの新作魔法を披露してやろう」
「ほんとですか!」
オレはアッコさんのお腹をさすり、
「いたいのいたいの飛んでケー」
って手を空に振る。そうOMAJINAIである。
「あっ、なんかちょっと楽になりました」
「えっ、マジで?」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「これは一体どうゆうことなのにゃ!」
女神様がジョフィの書置きを握り締めて震えている。うむ、どう説明したものか。
私はティア様を見やる。
「アフローティア様、猫という動物は余り構いすぎると離れて行ってしまうものなのです。なのでもう少し自由にさせて上げるのが宜しいのではないでしょうか」
「にゃ!ティアがそれを言うのかにゃ?」
ティア様も動物には構いすぎるたちが…
フェン介の子供達とも未だに一緒にお風呂に入っているようだし。
「女神様、昨日のはさすがにやりすぎだと思います。おもてなしはした方が満足するのではなく、された方が喜ぶ結果をもたらせなければなりません」
「むむ、そこまで言うならネイリスのおもてなしを見せてみるにゃ!」
えっ、私のおもてなしですか?
「料理とか?」
「「それはモンスターにしか効かない」」
うっ、二人ともひどい!ジョフィだって最初はおいしいって言ってくれたんだぞ!
「とにかく、今すぐにでも探し出して連れ戻すにゃ!」
「そんなに慌てなくても、明日の朝にはアッコから報告が」
「そうですわ。フェン介とアッコが付いていれば万が一もありませんでしょうし」
「分かってない!二人とも分かっていないにゃ!」
女神様は机の上に立ち、仁王立ちになって力説してくる。
「ダーリンはちょっとでも目を離すと、すぐにメスを増やしてくるにゃ!現にたったこの1年で…」
そう言って私達を交互に見やる。
うっ、まあその…ジョフィは尽くしてくれるというかなんというか、惹き付けられたのは立場的なものとか?
「二人以外でも…」
「えっ、私達以外でも居るのですか!?」
いったいいつの間に…これは帰ったら問い詰めないと。
「まあ、今はあの見た目、これ以上増えることはないかと思われますが」
「ダーリンはいけめんになってその味をしめたにゃ。きっと変身魔法を強化しようとやっきになってること間違いないにゃ!」
「む、そう言えば、人に化ける魔法を強化するとか言ってたな…」
「「「………………」」」
ヒッ、ティア様から凍気が発せられる。
「ネイリス、明日、アッコが帰って来たら首に縄をつけてでも連れ帰るよう伝えてくれますか?」
「ハッ、了解したであります!」
「アフローティア様も、ちゃんと相手の気持ちを考えて行動してくださいね」
女神様もティア様の氷の微笑にたじたじである。
「わ、分かったにゃ。うん、がんばるにゃ!」
大丈夫だろうか…あんまり分かっていないような気もするが…なぜかジョフィの身に不幸が降りかかる予感しかしない。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「おい、フェン介!あいつらなんで襲ってくんだよ!仲間だったんじゃないのか?」
「お、おい、俺だよ俺、ほらいつも群れの端っこで居た」
「貴様など知らん!我らの隠れ家を知った者は、生かして返さん!」
フェン介が群れの隠れ家まで案内してくれたんだが、入ったとたん風の魔法があちこちから飛んで来た。
どうやら忘れ去られていたらしい。
そして、忘れ去られていたフェン介は、今や不法侵入の不審者である。オレも含めて。
「お前が大丈夫って言ったんだろ、何とかしろよ!」
「そんなバカな…狼の群れは家族どころか一つの生き物だ…忘れ去られるはずが…」
「お前、最初から群れの一員だと思われてなか・あ…いや、うん、きっとその姿が悪いんだ、狼に戻そうか?」
思われてなか・の辺りで滂沱の涙を流すフェン介。急いでフォローするが心に負った傷は深そうだ。
「俺たちに姿はかんけえねえ、ハハハ、なんだ俺は実はルーンウルフですらなかったのかも知れない」
「そんなことねーって、ほら神様も保障してくれたじゃねえか」
オレはフェン介の肩の上で慰める。
「はあ、いいかげんうざいですね。一掃しても宜しいでしょうか?」
狼達の魔法を受け止めているアッコさんが言ってくる。
「どうする?」
「あ、いや、いくら向こうがそう思ってなくても、なあ…」
優しい狼だ。フェン介はもっと野生的になった方がいいと思うなオレ。
「向こうはお前が狼だって分かってんだよな?ならば…いっちょ、どでかい魔法をぶちかましてやれ!」
そうすれば魔法が使える狼、ルーンウルフってことが分かるだろ。
「なるほど!よしっ!」『インフェルノ!』
「うぉいいい!」
とたん周囲一面に地獄の業火が溢れ出す。
何やってんのぉ!それ上位火炎魔法だろ!こんなとこで使ったら山火事になるだろ!
「な、なんだこりゃ!?」
「お前それやりすぎだろ!普通に群れが滅びるぞ!」
「えっ、だって公爵邸じゃちょろっと火が出るだけで…」
そりゃ魔法禁止エリアだからだろ!つーか禁止エリアで火が出たんかい!
そういやコイツ、オレがいくら打撃攻撃の練習しろって言っても、ひたすら魔法の練習してたんだっけ。
この一年、オレの言うとおり、ひたすら魔力が尽きるまで魔法を唱えていたしなあ。
ゲーム中、期間は1年なんだが、ヒロインは魔法を極めていた。まあ、才能があるって言うのもあるだろうが…
コイツも炎だけならかなりの才能とか女神猫が言ってたなぁ。
「アッコさん消化を!火を消して下さい!」
「分かりました」『だいだろすう・「うぉいいい!」
とっさにアッコさんの口を塞ぐ。
が、間に合わず、アッコさんの前からドバッと水が…大量に…TUNAMIのように…
なんでこいつらは上位魔法を使おうとするんだ?
あふれ出た洪水は木々をへし倒し、狼ごと流して行く。
全てが終わった後は…戦争でもあったかのような悲惨な状態であった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「…うん、ここには何も無かった、うん、そういうことにしておこう」
「お前神徒だろ?神様がこの惨状をほっといたらダメだろ?」
神徒は神様じゃねえよ。
フェン介は急いで狼達を救出に向かった。
オレもブサメンに変身して救助に向かう。
「アッコさん、とりあえず狼達を連れて来てください。回復しますんで」
「分かりました」
二人がせっせと気絶している狼達を連れてくる。さすがルーンウルフ、なかなか頑丈にできている。
それほど大怪我を負っているのは居なさそうだ。
「くっ、俺様がこの群れのボスだ。俺の首をくれてやる、だから…群れの奴らは見逃してくれ」
回復している内にぽつぽつと意識を取り戻してくる。その内の一匹がそう言ってきた。
「別にオレ達は争いに来た訳じゃねえよ。なあ、ほんとにこいつに見覚えはないか?」
オレはフェン介の顔をボスだと言っている狼に突きつける。
「無いな」
またもや滂沱の涙。うん、今度からはもっと優しくしてやろう。
「フェン介、泣くな、お前にはオレ達が、お嬢様が居るだろ?」
「くっ、そうだったな…俺はもう人間だ!お嬢様を守るナイトとして生涯を過ごすことに決めたんだ!」
「あっ、あたい知ってるよ。そいついつも群れにくっついて残飯を漁っていたワンコロだよ」
…オレはそっとフェン介から目を逸らす。もはや慰めの言葉は思いつかない。
現実って残酷だよな。どうしよう、オレが旅に出るとか言わなければこんなことにもならなかったのに。
オレは黙々と狼達を回復して回る、フェン介の顔を見ることができない。
あっ、走って行った。そして遠くで遠吠えが。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「思い出した、思い出したぞ、うむ、俺様の群れの中で一際輝く異彩がいたのを」
「あ、あたいはさあ、ほら口が悪くてさあ、なんだ…その…気にスンナよ」
「………………」
フェン介がオレをジトッと見つめてくる。
帰って来るまでに狼達に説明して、仲間だってことにしといて欲しいと頼み込んだ。
彼らにとってオレは命の恩人、快く引き受けてくれたのはいいが、大根役者だった。
「そうだ!君達に面白い話を聞かせてあげよう。題は…『みにくいキャットの子』だ」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「小さい頃から、デブだ、ノロマだと言われていた子猫は実は…百獣の王ライオンだったのだ!」
「「おお!」」
「いじめられ、群れから追い出された彼だったが、兄弟達が熊に襲われているの見掛け、熊と一騎打ち、見事討ち取った彼は英雄となるのだった!」
「「おおお!」」
ちょっとアレンジした例の奴を語って聞かせた。
狼さんたちは全員のりのりで話を聞いておられる。
こいつら狩に出かけなくていいのかな?
そいやアジトが流されてんだっけか。…まあ、野生のお方なら大丈夫。だと思いたい。
「ハッ、もしや…そこな…フェンなんとか…もしかしてフェンリル!?」
群れの一匹がフェン介を見ながら聞いて来る。
「うむ、何を隠そう、このフェン介!炎狼フェンリル!フェンリルの中でも炎に特化した、大変めずらしい種なのだ!」
「えっ、マジで!?」
お前が驚いてどうする。冗談に決まってるだろ?
だが、狼達は冗談が通じなかったらしく、
「フェン介様!今までのご無礼、平に!平に!」
「あたいは分かっていたよ。このお方は実はとても偉いお方だと!」
そう言って平伏してくる。
「おいジョフィ、どうすんだコレ」
「…今から冗談ですって、いや、まあ別にフェンリルだと思われていても問題はないんじゃね」
「有りまくりだろが!」
フェン介が言うにはフェンリルは風と雷を自由に操る伝説上の獣なんだと。
いくら炎狼と言ったとこで、まったく使えないのはムリがあるとのこと。
「風と雷か…起こせるぞ」
「えっ、マジで!?」
「魔法を解除する魔法『ディスペル』は知ってるな?」
まずはフレアを被害が出ない上空に撃たせる。そして爆発の瞬間、ディスペルでフレアを無効にする。と、
「うぉおおおお!何だコレ!俺が風の魔法を!」
「あじい!熱いわこの風!」『ヒール!』『ヒール!』
風の魔法じゃなくて単なる爆風なんだけどね。
「おお、凄まじい風圧だ!さすが幻獣フェンリル様!」
「しかも炎狼に相応しい熱風だ!」
以外と威力があった。そうだよな、基本爆発ブツって、爆発の中心時のエネルギーよりその後のエネルギーの方がダメージあるんだよな。
「次に雷だ、これはちっと難しいが…水の魔法は使えたな?」
「ああ、つってもほんのちょびっとだが」
むしろちょびっとがいい。
「まずはフレイムで火炎放射を、空気が熱したら一旦停止、霧状のウォーターを散布、そこへもう一度フレイムだ!」
それで雷を纏った火炎放射が完成。まあ雷はまったく役に立ってないがな。
「おおっ、素晴らしい!」
「フェン介様!ぜひ我らを配下に!」
「おお!配下にだろうがなんにでもしてやる!今の俺に敵は居ない!」
随分調子に乗ってんなあ。
両方とも威力はまったく上がってない。どころか、弱くなったり、手間が掛かるだけだったりなんだが。




